ランス短編・中編集   作:OTZ

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戦国ランスの話です


戦場と天ぷら

「グワッハハハハ! この程度の手勢で儂を止めようなど百年早いわ!!」

 

 馬場彰炎率いるてばさき部隊が並みいる織田軍の部隊を次々と蹴散らしていた。足軽をまるで塵や埃でも払うかの如く次々と突き飛ばし、ランスの守る本陣へ攻めかからんとしている。

 

「土屋の部隊は右翼の弓隊に向かい、小幡は陰陽を潰せ! 支援を潰さなければ本陣にはたどりつけんぞ!!」

 

 同じくてばさき部隊を率いるは、山県昌景。直情型の馬場を統御するように的確な指示を出し、精兵の武田軍を比類なきものにしていた。武田をなんとか足止めしようとしている飛び道具の部隊も、武田の高い組織力を持った軍隊と、何よりもてばさきの機動力の前にはその威力が削がれていった。

 

―本陣―

 

「申し上げます! 柴田勝家殿の部隊が突破され、馬場率いるてばさき部隊が迫ってきております!」

 

 母衣をつけた使い番が、ランスへ切羽詰まった様子で報告した。

 

「ちっ……。あのロリコンでも無理だったか。役立たずめ」

 

 ランスは勝家の陣の方向を睨み、そう吐き捨てる。

 

「ランスさん。ここはもう退くべきです。てばさき部隊自体の力もさることながら、予想以上の速度で浸透が進んでおり、このままでは総崩れになる懸念があります」

 

 ゼスから援軍に来たウルザは眼を伏しながら言う。

 

「こんな所で下がれるか! ようやく国境から叩き出せそうだってのに、台無しになっちまう」

 

 武田と戦端を開いてから1ヶ月、劈頭の四将突撃を防ぎきれなかったことから武田優位の情勢が続き、一時は尾張まで危機に陥っていた。

 その後、毛利に備えて西側に配備していた軍を東方に配備するなど、態勢を整えたことで反撃を開始し、ようやくまむし油田から武田の勢力を駆逐できそうな所まで進んでいた。

 

「ちょびっと深入りしすぎたでござるな。別働隊も退き辛い地形に釣り出されて武田の飛び道具部隊に、蜂の巣状態でチクチク潰されてるでござる」

 

 前線に偵察に出ていた鈴女も、少しだけまずそうな顔をして報告した。

 

「全く、信玄が出てきているのを良いことに、功を焦るから……」

 

 家老の3Gもやれやれと、一斉にため息をついた。

 

「さっさと大将首落とせば戦は終わるって俺が言った時、反対しなかったじゃないか」

「軽挙は慎むようにとは、申し上げたと思うのですが……」

 

 ウルザが感情を抑えたような声で言う。

 

「うっ……。と、とにかく、こうなったら俺一人でもここは動かんぞ、こうなりゃ意地だ!」

「ランス様、少しは皆さんの言葉にも耳を貸されたほうが……ひぃん!」

 

 シィルの言葉に、ランスは軽くシィルの頭を叩いた。そうしていると、陣幕が薄紙のように蹴破られ、二体の大きなてばさきが躍り出た。

 陣を守っていた兵を一人、また一人と槍で難なく薙ぎ払い、ランスに視線を定めた。

 

「貴様だな、織田の異人というのは!」

「なんだてっぺんハゲ! こんなところまで乗り込みやがって、死ぬ覚悟はできてんだろーな!」

 

 ランスが返答すると、てばさきが消えたようにいなくなり、そして、次の瞬間にランスの横腹を狙って槍が鋭く突き出される。

 

「ぐっ! な、なんだ、このバカ力……!!」

 

 ランスはカオスをとっさに構え、槍を防いだ。しかし、その力は極めて強く、カオスの刀身すら削りそうな嫌な音がギリギリと、ランスの耳に響く。

 

「むぐう……! なんちゅー力だ。心の友には分が悪いぞ、これは」

「うるせえ、死んでも防げ、馬鹿剣が!!」

 

 そんなやりとりを聞きながら、男は意外そうに眼を丸めた。

 

「ほう。儂の必殺の一撃を防ぐとは、大したものだ」

 

 男は、槍を引きてばさきも一歩引かせて、ランスたちに対峙した。

 

「馬場様! ご無事ですか!」

 

 彼に従う、同じくてばさきに乗った赤備えの兵が、彰炎に声をかけた。

 

「おう。今は仕合中じゃ、邪魔をするでないぞ!!」

 

 彰炎は槍を高くあげて、その声に応じる。

 

「馬場……。ということは、これが噂の風林火山のうち、火を体現した、馬場彰炎じゃということか」

「おお、なんという巨躯じゃ」

 

 3Gが口々にてばさきに乗る彰炎を評した。

 そうしていると、(ボルト)が一気に三本ほど、彰炎を狙って放たれる。

 

「むっ!?」

 

 しかしその矢は彰炎に届く前に全て槍の切っ先で、的確に叩き折られた。

 

「くっ……。なんて手強い」

 

 放った主であるウルザは、精密射撃をこうも難なく封じられてこれは敵わないと、悟った表情をした。

 

「ぐわっはっはっは! それが大陸の()()()()とやらか。なるほど、女子(おなご)が放ったにしては中々に力強い威力じゃわい」

 

 彰炎は大きく笑って巨体を揺らす。なるほど、槍の切っ先は少しだけ凹みができてしまっている。

 

「ランスさん。引きましょう。たとえここで倒したとしても、その間に本陣を囲まれてしまえば全てがご破算です」

 

 ウルザは再度ボウガンに慣れた手つきで矢を装填しながら、力量差を理解して、より強くランスに進言する。

 

「なんだウルザちゃん。攻撃が防がれて弱気になったのか?」

「違います」

 

 ランスの軽口に対し、ウルザはあくまでも、作戦として進言していると言わんばかりの強い目でランスに促した。

 

「ぐぎぎ……、だ、だが、俺様はここで」

「儂を倒すだと? 面白い、この彰炎様を前にしてそのような事を叩ける、意気や良し! まとめて冥土に送ってくれようぞ!」

 

 そう言いながら彰炎は大きく槍を振るって、ランスたちに襲いかかろうとする。

 その刹那、死角よりもう一本の槍が彰炎のてばさきに突き刺さった。てばさきは突然覚えた痛みのあまり飛び上がり、彰炎を振り落とした。

 

「むごぉ!?」

 

 突如てばさきを失った彰炎はもんどりうって地面に叩きつけられた。

 

「なっ……、だ、誰だ!?」

 

 ランスは突然の援護に周囲を見渡した。すると、数匹のたぬーが目に入った。

 

「良かった。なんとか間に合いましたぞ、ランス殿!」

「お、お前は……」

「おおおお!! よくぞ来てくださいましたな、徳川殿!」

 

 眼の前に現れたのは、三河を領す戦国大名、たぬー種族の徳川家康であった。今は織田家の支配下に入っている。3Gは心の底から援軍を喜んだ。

 

「………(やったぜ)」

 

 てばさきに槍を突き刺した張本人、家康配下の本多忠勝はぐっと拳を握りしめてランスの前でそれを誇示した。

 

「へ……、お前ら、どうして」

「戦の準備段階で、援軍を頼んでおいたのです。三河も武田に脅かされる中、間に合うかどうか読みきれなかったので、ランスさんには伝えていなかったのですが」

 

 ウルザは安堵した表情を家康に向けた。家康の本領である三河も武田領に隣接しており、武田軍の侵攻を受けている。

 

「なんのなんの。ランス殿の為ならば火の中水の中。武田なぞ我らが全力で跳ね返しましょうぞ!!」

 

 家康は大きく笑いながら、さも当然であるとばかりに自身の胸を叩く。

 

「ありがとう……。ありがとうございます! 家康さん」

 

 シィルは頭を下げて家康の加勢を喜ぶ。

 

「いえいえ。あのシィル殿の天ぷらの為ならば、たとえ黄泉比良坂からでもかけつけますぞ!」

「は、はい! またいっぱい作りますね!」

「あぁ……そーいうことか」

 

 ランスはようやく合点がいって、やれやれとばかりに頭を上げた。家康含めたぬーたちはシィルの作った天ぷら一つで恭順するほど、ある種チョロい妖怪である。

 

「現金な奴らでござる」

 

 鈴女は小さな声で軽口をランスに叩いた。

 

「まあいい。そんなことで肉壁になってくれるなら好都合だ。お前ら、しっかり働けよ! 天ぷらなら勝ったらシィルに死ぬほど作らせてやる!!」

 

 その言葉で、家康らたぬーたち率いる徳川軍は一気に沸き立った。

 

「くっ……狸風情が調子づきおって」

 

 落馬してしばらく昏倒していた彰炎は、頭をおさえながらゆっくりと立ち上がった。そして、槍を構えて、再びランスのもとへ駆け出した。

 

「!」

 

 しかし、それを忠勝の槍が防ぐ。家康ほどではないが、それなりの大きさを持つ体と、膂力を以てしっかりと彰炎の攻撃に対応し、逆に弾き返して、それを退けた。

 

「ムゥッ! お主も中々やるではないか! だが、いつまで続くか、のっ!」

 

 そう言って、彰炎は素早く2,3度、傍目には槍が複数突き出たように見えるような一閃を忠勝に放つ。

 しかし、それも難なく忠勝は捌き切り、彰炎に槍を繰り出す。それを彰炎が防ぎ、そのような一進一退の攻防がしばらく続いた。

 

「おー……、あの怪物相手によく持つな、あいつ」

 

 ランスは忠勝のその姿に、珍しくいたく感心していた。

 

「そうでしょうそうでしょう。忠勝は、我が家中随一の使い手、これまでの戦でも一度もかすり傷一つ負ったことのない豪傑ですぞ」

 

 家康はすり寄るように手をもみながら、忠勝を持ち上げている。

 

「ランスさん。今のうちです、陣を後方へ引き、態勢を立て直しましょう。徳川殿の援軍は8000名程で、これならばなんとか持ち直せると思います」

 

 ウルザは希望を持ち直し、自信を持ってそう説明した。家康も特に返さずに頷いたため、予想通りの数を連れてきたようである。

 

「うむ。そうだな、後は頼んだぞ! しっかり時間を稼げよお前ら!」

 

 ランスは即断して、すっくと座っていた床几より立ち上がった。

 

「待てぃ! 逃がすか」

 

 忠勝を押しのけて、彰炎はあくまでもランスを追いかけようとするが、

 

「…………(行きたければ、俺の屍を越えてゆけ)」

 

 と、忠勝は槍を彰炎の前に突き出して、進行を妨害した。

 

「ちぃっ。邪魔ばかりしおって」

 

 彰炎はそれからも、忠勝とやり合う他なかった。

 

――

 

 その後もしばらく槍の応酬がつづき、両者は一歩も譲らなかった。

 

「…………(やるな、お前)」

「グワッハッハ! お主も相当じゃぞ、武田にもそうそう、お主ほどの使い手はおらんわ!」

 

 その間にも、三合、四合と槍の刃先が混じり合った。火花が散り、砂埃が舞い、何よりもその速度は常人の領域を大きく超えていた。

 

「だが、そろそろ、狸鍋になってもらおうかの!」

 

 そう言って彰炎は槍を構え直し、忠勝へ向かおうとしたが、別の声が耳に入る。

 

「やめぬか彰炎!」

「おお兄者! 邪魔をするな、珍しくやり甲斐のある使い手と……」

「時間切れだ。狸どもが加勢して、逆に囲まれだしている。透琳の話だと、このまま建て直さなければ流れがひっくり返されかねん」

 

 昌景はてばさきの上より、苦い顔をして彰炎に言った。

 

「なんじゃと! だ、だが儂はこやつと決着を」

「一旦引け。狸なぞいつでも殺せるだろう」

 

 昌景はあくまで彰炎に撤退を命じる。

 

「…………(逃げるのか?)」

 

 忠勝は槍の穂先を彰炎に構え、挑発する。

 

「誰が! 儂はあくまでもお主と」

 

 再度、彰炎は槍を構えたが、むんずと背中を持ち上げられる。

 

「いいから退くぞ。お前を倒されては洒落にならん!」

「いーやーじゃー! 戦わせろー!」

 

 彰炎は周りのてばさき兵と共に、引きずられるようにして忠勝の前から消えていく。

 

「土屋と小幡の部隊を戦端が開いたときの線まで戻し、失った穴埋めに、後詰にいる小山田と内藤の部隊を前線に出せ! 狸どもに遅れをとっては、武田の恥と心得よ!」

 

 昌景の指示が耳に入りながらも、忠勝は追おうとはせず、黙って見送る。

 

「……(勝った)」

 

 見えなくなった後、彼はギュッと拳を作り、小さくガッツポーズをした。

 

 それから、徳川の援軍で態勢を立て直し、織田軍は武田を撤退に追い込むことには成功した。

 勝利は勝利だったが、緒戦での馬場率いるてばさき部隊の進撃と、山県の的確な指揮による反撃で、織田側も何人か侍大将クラスを失い、被害は大きかった。

 

―織田城下 ランス屋敷―

 

 数日後、戦勝祝いで狸たちを招いて天ぷらパーティーが開催された。

 

「はい、かき揚げとさつまいも、なすやししとうの天ぷらです! 召し上がってください」

 

 そう言ってシィルはテーブルに天ぷらの入った大皿を置く、これで四度目である。

 

「……で、なんで俺様の屋敷でやらなきゃならんのだ」

 

 ランスはもぐもぐと相伴にあずかりながら、納得のいかない表情をしている。

 

「仕方ないですよぅ。お城のお部屋全部埋まっていたんですから」

 

 シィルはエプロンをつけながらせっせと天ぷらを作っている。

 既にパーティーは開始されており、シィルの作った大量のてんぷらが次々と狸たちに食べられていく。

 

「いやぁシィル殿、いつもの通り素晴らしい天ぷらですぞ。このイカの天ぷらなどは実にサクサクとしていて、頬がとろけるようです」

 

 家康は相変わらず満面の笑みで、シィルの天ぷらを激賞していた。

 

「このニンジンの天ぷらも最高でちゅー。お酒がぐびぐび進むでちゅ」

 

 同じく家康に仕える酒井忠次が浴びるようにどぶろくを飲みながら、天ぷらを食べまくっていた。

 

「ぐうぐう……」

 

 榊原康政も寝ながら天ぷらをもりもりと食べていた。

 

「すごいなあいつ……。寝ながら正確に位置を把握してやがる」

 

 ランスはそのさまを見て半分呆れながら言う。

 

「セスナさんもですけど、眠りがちの人って、案外抜け目ないところありますよね」

 

 シィルは台所に戻りながらふとそんなことを呟いた。

 

「しかしまあ、なんでこんな美味そうに目を輝かせながら食ってんだ? 普通の天ぷらだろ」

 

 ランスは次にさつまいもの天ぷらを食べながら言う。

 

「そうですよね……。私も普通に作っているつもりなんですけど」

「ふふふ、だからシィル殿は天才なのですよ。意図せずしてこれほど素晴らしいものを作り上げられるのですからな」

 

 家康は鯛の天ぷらを一気に4つ食べながら言った。シィルはそれに対して軽く笑みを浮かべていた。

 

「ふう、しかし、少し疲れましたね……、明け方からずっと仕込んでましたから」

「天ぷらさえやっておけばあいつらは従順だから、今日はぶっ倒れるまで作れ」

「は、はい……」

 

 そんな会話をしていると、ちょいちょいとシィルの背中がつつかれた。シィルが振り返ると、そこには忠勝がいた。

 

「…………(マッサージなら、俺に任せろ)」

 

 鳥の天ぷらを食べながら、忠勝は親指を立てた。

 

「やめておけ忠勝! お前の力でそんなことしたらシィル殿の骨が砕けてしまうわ!」

「…………(大丈夫、あれからもっと修業した)」

 

 忠勝は片足を一歩踏み出して、自信を強調する。

 

「いや……、修業してもお前の馬鹿力はどうにもならんし」

「…………(加減するから)」

 

 忠勝は半ば懇願するかのようにシィルを見た。

 

「う……うーん。じゃ、じゃあ少しだけ」

 

 シィルは根負けして少しだけやってもらおうとしたが、ランスが横槍を入れる。

 

「駄目だ! なんで俺の奴隷の体を、狸如きに触らせなきゃならんのだ!」

「というわけだ、残念だが諦めろ忠勝」

「……(しょぼん)」

 

 ランスの一喝と、家康の諭しに、忠勝は肩を落として、ランスたちに背を向け、ストックしてあった別の天ぷらを食べる。

 それからもしばらく、天ぷらパーティーは続き、徳川家中はより深いランスへの忠誠を誓った。

 

―終―

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