ランス短編・中編集   作:OTZ

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時系列はランス10の直前です


リセット、父を捜す旅

 第二次魔人戦争がはじまる少し前。

 リセットはランス城に遊びに来ていた。

 

「むぅ……」

 

 リセットは不機嫌であった。来てみたはいいが父親のランスがいないのである。

 ランスはどこかに旅に出たらしいことはビスケッタから聞いていた。

 

「全くランスはどこに行ったんだか……、いつものことではあるけど」

 

 分裂魔法により小さくなった志津香は、ナギと共に、ランス城で時を過ごしていた。

 

「聞いた話ですが、ヘルマンにまで足を伸ばしたということは確かみたいです」

 

 祭祀のためにランス城に立ち寄っていたクルックーはいつも通りの平坦な声色で言う。

 

「ヘルマンに……?」

「詳細は分かりませんが、聖女モンスターと会いたいようなことは、以前口にしてましたから、その関連かと」

「ああ、なるほど」

 

 志津香はそれを聞いて全て腑に落ちたようである。

 

「せいじょモンスター?」

 

 ナギがクルックーに興味津々な様子で尋ねた。

 

「世界に数体しかいないとされる、モンスターを生み出す役目を持つ種族です」

「おとーさんはそれに会いに行ってるってこと?」

「そうです。そう簡単に見つかるようなシロモノじゃないですし、それで時間がかかっているのかと」

 

 そう言ってクルックーはビスケッタより出された紅茶を口にした。

 

「よーし。じゃあ探しにいく!」

 

 リセットはすっくと立ち上がってそう決意した。

 

「探しに行くって、あまりにも情報が少ないわよ? ヘルマンはただでさえ広いのに……」

 

 志津香はやや心配そうな声色で言う。

 

「それに、寒そうな国ですよ。風邪ひいちゃいますって」

 

 クルックーの護衛を務めるサチコが続いてリセットを止めた。

 

「そーそー。まだちっちゃい子には危なそうだし、やめといたほうがいいって」

 

 同じく、アルカネーゼがお茶請けのせんべいをかじりながら言った。

 

「だってもうしばらく帰ってないんでしょ? ビスケッタさん」

 

 リセットは側で給仕をしていたビスケッタに視線を合わせる。

 

「ご主人様が城を留守にされるというのは珍しい話ではありませんが、それにしても長い事は事実ですね」

 

 ビスケッタはメガネのフレームを上げながら言う。

 

「大丈夫よ。バカだけど悪運だけは強いから、そのうち帰ってくるわよ」

「でも……。私はおとーさんに会いたいの! ここ1年くらい会えてないし」

 

 リセットは切実な表情をうかべている。

 

「リセットは乗り気みたいだし、私もランスにひさしぶりにあいたいな」

 

 ナギもリセットに同調したが、うずうずと体を動かしている。

 

「あんたはどっちかっていうとただ冒険したいだけでしょ……」

「もー。お姉様違うってば。私はただリセットが心配なだけ」

 

 しかし、ナギの泳いだ眼と上ずった声は明らかに志津香に真意を見透かされたうえでの、取りつくろったものであった。

 

「私としてはリセットよりもナギのほうがずっと心配なんだけど……」

「ねー、ビスケッタさんいいでしょー。ちょっとヘルマンまでいってくるだけだからさー」

 

 志津香の言葉をよそに、ナギはランス不在時の責任者であるビスケッタにねだる。

 

「お気持ちはわかりますが……、何かあったら私が御主人様からお叱りを受けますので。それにヘルマンはちょっとではありません」

 

 ビスケッタはメガネを光らせながら、冷静に言葉を返した。

 

「だったら、私が引率者として行く形でも良いですよ」

 

 クルックーは出された紅茶を飲みながらビスケッタに提案する。

 

「宜しいのですか?」

「はい。少し……気にかかることもありますから」

 

 クルックーは少しだけビスケッタから視線を逸らして言う。

 そういうことなら。ということで、リセットたちはランス城を出てヘルマンへと旅立っていった。

 

―ヘルマン南部 スードリ13―

 

 リセットたちはとりあえずランスが向かったというスードリ13という街を目指して進み、森やダンジョンを抜けてようやくたどり着いた。

 

「おー。ここがヘルマンのまちかー!」

 

 ナギは着いて早々、額に手をあてて興味深げに街を見渡した。ヘルマンの街をこうしてじっくり眺めるのは彼女にとって初めてのことである。

 

「相変わらず、寒々しいところね……」

 

 志津香は口を手に当て、息を吐きながら言う。彼女にとっては昨年のヘルマン革命で散々見知ったところである。季節は夏だというのに、ヘルマンは今日も少し肌寒かった。

 

「でも、みんなどこかたのしそう! カンカンって音もいっぱいするし」

「革命が終わってから、ヘルマンもようやく落ち着いて新しい施設や、家々をたてるのにどこの街も忙しいみたいです」

 

 クルックーは軽く説明した。ヘルマン革命以後、シーラ大統領のもとに救民・インフラ整備が急速に推進されており、このような光景が国中で繰り広げられていた。

 リセットはリズムよく聞こえる工事の音を面白がって、リズムに合わせて体を動かしている。

 

「さて、途中で聞いた話を総合すると、ランスたちはまずはここにたどり着いたようです。もう少し材料がほしいところですね」

「じょーほーしゅーしゅーだね! とりあえずいろいろな人に聞いてみる!」

 

 クルックーの言葉に、リセットが答えて飛び出そうとしたが、志津香が左腕をつかんで止めた。

 

「待ちなさい。情報収集はいいけど、何を聞けばいいかわかってる?」

「んとね、みどりの服をきて、白いマントをつけているお兄さんを見かけなかったかをきけばいーんだよね……?」

 

 リセットは志津香に恐る恐る答えた。

 

「特徴を言うのは悪くないですが、それだけだと特定が難しいですね。似顔絵でもあればいいんですが」

「似顔絵なら私が持ってるぞ」

 

 ナギはそう言いながらポーチから自信満々に一枚の紙を取り出した。

 

「なんでそんなもん持ち歩いてるのよ……、それに、これじゃあ誰か分からないわよ」

 

 ナギの差し出した似顔絵は色とりどりのクレヨンで彩られていたが、デッサンもパースも狂っており人であることがようやく認識出来る程度の、年相応なクオリティであった。

 

「いえ、でも特徴は掴めていると思いますよ。とりあえず歯はギザギザですし」

「いや、そんなところだけ分かっても意味ないだろ……」

 

 アルカネーゼは冷静に突っ込んだ。

 

「私もとりあえずかいてみたよー」

 

 と、リセットは即席で描いたメモ帳にランスの似顔絵を見せた。

 

「うーん……。これでもちょっと難しいんじゃないかしら」

 

 志津香は遠慮がちにそう言った。リセットによる似顔絵もナギと大差はなかった。

 

「ぶー。なんだよじゃあお姉様が描いてよ」

「嫌よ。なんであいつの絵なんか」

 

 妹の頼みであっても、志津香は頑として応じない態度である。

 

「お二人はどうですか?」

 

 クルックーはアルカネーゼとサチコに顔を向けて尋ねた。

 

「うーん……。すみません、ランスさんに会ったのだいぶ前だからちょっと自信が」

「アタイはちょっと絵は苦手で」

 

 ふたりとも芳しくない返事である。

 

「そうですか。仕方がありませんね」

 

 そういってクルックーはバッグからメモ帳を取り出し、サラサラと書き物をした。

 

「これは、ランスの特徴です。とりあえず一人にならないよう行動しながら、これを基に聞いて回ってください。シィルさんも一緒でしょうからその情報も忘れずに」

「ありがとークルックーさん!」

 

 リセットはにっこりと笑ってクルックーから紙を受け取った。

 

「それと、これはランスの写真です、ちょっとボケていますが捜す分には問題ないでしょう」

 

 と、クルックーは追加でリセットにランスの写真を手渡した。どこかで盗み撮りでもしたのか、顔が少しぼやけている。

 

「あるなら最初から出せよ!」

「それもそうですね」

 

 アルカネーゼのツッコミを流しつつ、志津香を目付け役に据えて、ナギとリセットの三人は聞き込みをはじめた。落ち合う場所と時刻も決める。

 

「はぁ……。相変わらずエネルギッシュですねぇ、リセットちゃんとナギちゃんは」

 

 喜び勇んで走り出した方角をみながら、サチコはふと呟いた。

 

「サチコだって、子どものころはあれくらいはしゃいでたろ?」

「そんなそんな。どちらかといえばおままごととか、なわとびとかして大人しめに過ごしてましたよ」

 

 サチコは恐縮したような態度で、そう答えた。

 

「さてと……、私達もいきましょうか」

 

 そう言ってクルックーはリセットたちとは反対の方向にスタスタと歩き出した。

 

「え、おいそっちは街からでていく方だぞ」

「いいのです」

 

 アルカネーゼの言葉を流しながら、クルックーはあくまで進んでいく。

 

「全く相変わらず、突飛なことするんだから……。行こう、サチコ」

「うう……。少しはお茶したかったのに」

 

 サチコはうつむきながら仕方なしとばかりにクルックーの後を追った。

 

――

 

「こんにちはー!」

「おおなんだい、お嬢ちゃん」

 

 20代の冒険者風の男は話しかけてきたリセットにそう応じた。

 

「おとーさんを捜しているんですけど、こういう顔をしていて、口が大きくて、緑のこーとを上にきている、お供にピンク色のモコモコした髪をした女の人をつれた人、みませんでしたか?」

 

 リセットはクルックーのメモをチラチラ見ながらたどたどしい様子で伝える。

 

「もしかして……ランスって男かい?」

 

 男は朗らかな様子から、あからさまに嫌な顔になった。

 

「は、はいそうで」

「あの男にはあったまきてるんだよ! 急に因縁かけてきて、挙げ句に俺のツレまであんなことを……」

「ご、ごめんなさい、おとーさんが迷惑をかけてしまって……」

 

 どうやらランスにひどい目にあわされたようで、男は怒りをあらわにした。これがはじめてではなく、わずか2時間の聞き込みで既に三度目の悪事の発覚である。

 

「はぁ……。シィルちゃんが戻って少しは大人しくなったと思いきや、相変わらずなんだから」

 

 志津香は肩を落としながら、ため息をつく。

 

「でもお姉様、それなりにじょーほーはあつまったよ。もっと北にいったみたい」

 

 ナギは志津香にそう報告する。良くも悪くも顔が売れているのか、ランスの情報はすぐに集まり、およそ二ヶ月近く前により北方の場所へ向かったという。

 

「結果、娘にああやって頭を下げさせてるんじゃね……。不憫でならないわ」

「ふびん?」

「……。ナギにかけさせたくないことよ」

 

 そんな事を話していると、男はヒートアップして、リセットに掴みかからんとしていた。

 

「ねえ……、ちょーっとまずくない?」

 

 ナギは男から危険な気配を感じ取ったのか、志津香に心配そうな声で言う。

 

「そうね」

 

 そう言いながら志津香は注視を続け、魔力を密かに集中しはじめていた。

 

「だいたいなあ! いくら謝られても、ツレの貞操も、折られた俺のプライドは直らねえんだよ! 分かってんのか!?」

「ごめんなさい! で、でもおとーさんはきっと」

「うるせえ! いくらちっこい娘でもなあ、そんな庇い立てばっかされたらイラツクんだよっ!」

 

 そういって男は遂に手のひらを上にあげ、リセットの頬を叩こうとしていた。リセットは反撃しようとはせず、じっとこらえる構えを見せる。

 

「ぷち炎の矢!」

 

 男は意図していなかった方向から来た突然の燃え盛る矢に驚き、そしてそのまま手に軽いやけどを負った。

 

「アチチチチチ!!」

 

 男はリセットを叩こうとした手をおさえ、その場にしゃがみこんだ。

 

「いくらランスに非があるとはいえ、その子に罪はないでしょ」

 

 矢を放った主である志津香が、諭すように言った。

 

「な。なんだとこのガキャ。俺の気も知らないで!」

 

 男はひこうとせず、今度は志津香に矛先を向けようとした。

 

「炎の矢」

 

 ナギは静かに男の近くにやや大きめの炎の矢を放ち、威嚇を行う。

 

「お姉様に手を出すなら、私が許さないから」

 

 ナギは冷たく、男の首筋に指先を突きつける。まだ続ける気ならば、今度は命を取るといわんばかりの凄みである。

 

「ぐっ……!!」

 

 この魔力を見て、さすがに観念したのか、男はそれ以上の抗戦を諦め、手を下ろした。

 

「二人とも、ありがとう」

 

 リセットは内心少し怖かったのか、先程までよりややテンションの下がった声で二人に礼を言った。そして、カバンから包帯などを取り出し、やけどを負った男に手当を施しはじめる。

 

「いいのよ。私はお目付けなんだから、当たり前の事しただけ」

 

 志津香は照れ隠しに帽子を目深に被りながらそう返した。

 

「それよりリセット、そこまでしてやること、ないんじゃないか?」

「そ、そうだガキに同情されるなんざ、いらんわ!」

 

 ナギはぷち氷の矢を出して患部の温度を下げるなど、あくまで手当を続けるリセットに声をかけ、男もそれに反発した。成り行きもあるとはいえ、愛する姉に手をあげようとしたことがよほど許せないのだろう。

 

「んーん。この人も、きっとそれだけの事情とか、思いがあったと思うの。それに、おとーさんが迷惑かけちゃったんだもん。私に出来ることなら、代わりにしてあげたくて」

「……」

 

 男はそんなリセットを見て、思わず顔をそらした。

 

「はぁ……全くリセットはお人好しなんだから」

 

 ナギは納得しきれない部分もありながらも、それでもリセットの意思を尊重して、それ以上は言うまいと息をつく。

 その後、治療の礼と謝罪を兼ねて、更にランスの行き先の情報を三人は得た。

 

―夜 宿屋 客室―

 

 情報収集を終え、リセットたちはクルックーらと合流を果たし、今日はそのままスードリ13の宿屋に宿泊することにした。

 

「なるほど。ランスたちは新しく大きな剣を持った女の子モンスターを連れて、さらに北へ向かったと」

 

 クルックーはリセットから得た情報をノートにまとめていた。

 

「うん。リセットたちが聞いて回った感じだと、だいたいこんなとこ」

「分かりました……。おそらくですが、話を聞いた限りだと、その女の子モンスターは、聖女モンスターのベゼルアイかもしれません」

 

 クルックーは自分で淹れたお茶を飲みながら話す。

 

「魔導書で見たことがあるわ。確か、力を司るモンスターとか。うろ覚えだったから言わなかったけど、やっぱりそうなのね……」

 

 志津香は記憶を引っ張り出しながら言う。

 

「さすがランス! もう聖女モンスターをみつけたのかー」

 

 ナギは歯をのぞかせ、大層嬉しそうに反応した。

 

「そう簡単に見つかるものとは思えないから、話半分に聞いておいたほうがいいと思うけど」

「そうですね。それに、四体いますから、仮に一体見つけられた所で帰るとも思えませんし」

 

 クルックーは相変わらず平坦な声色で推測した。

 

「まだおとーさんはかえりそうにないって事かぁ……」

 

 リセットはしょんぼりと下を向いてしまった。

 

「クルックーさんたちはどうなの?」

 

 リセットにかわって志津香がクルックーたちに尋ねる。

 

「え。えっと……」

 

 サチコは返答に窮し、アルカネーゼも視線をそらした、志津香が不審に思って次の言葉を言おうとすると、

 

「だいたい、リセットさんたちと同じ情報しか得られませんでした」

 

 と、さらりと返した。

 

「そ、そう……」

 

 志津香は腑に落ちないような表情をしながらも、ひとまずこれ以上尋ねるのはやめにした。

 

「とにかく、ランスたちは北に向かったと。ここより道なりに北にいって情報が得られそうな都市はポーンや、マイクログラード……、氷雪地帯に近くなりますがパス、イコマあたりも候補でしょうか」

 

 クルックーはカバンより地図を取り出して簡単に場所をペンで指し示した。

 

「あの万年雪が降りまくってるところか……あそこは寒かったなあ」

 

 アルカネーゼはヘルマン革命の時に氷雪地帯へ立ち寄ったことを思い出しながら、わざとらしく震えてみせた。

 

「いっそ首都にいくのも一つの考えじゃないかしら。あそこなら情報もたくさん集まるだろうし」

 

 志津香は首都のラング・バウを指差して提案した。

 

「ラング・バウかぁ。シーラさんたちもいるし、それもいいかも」

 

 ナギは志津香の提案に同調する。

 

「なるほど……。ここはヘルマンの南端に近いので時間はかかりますが、急がば回れでそうしたほうがいいかもしれませんね」

 

 そういうわけで、一行の次の目的地はラング・バウに決した。

 

――

 

「そうですか……帰っていないんですね。ランス様は」

 

 ラングバウに着いた一行はそのまま大統領府(旧・ヘルマン共和国宮廷)へ向かい、シーラに会った。

 ここまでの経緯を話すと、シーラは眉根を寄せて少しだけ心配そうな表情を浮かべる。

 

「どーせどこかで道草食いまくってるだけでしょ。そこまで気に掛けることないって」

 

 大統領付きのメイドであるペルエレは、人数分のお茶を出しながら、シーラにあけすけな声色で言う。

 

「やっぱり、ここに立ち寄ったんですね?」

 

 クルックーがシーラに尋ねる。

 

「は、はい。なんでも、セラクロラスという聖女モンスターに会いに行くんだーっておっしゃってました」

「どこに向かったかとかの話は?」

 

 リセットが食い入るような目つきで、シーラに尋ねた。

 

「確か、氷雪地帯の巨大戦艦遺跡に向かうと」

「ああ……。そんなところに」

 

 クルックーは流石に予想外だったのか、少しだけ間をおいて反応した。

 

「よーし! 聞いたからにはさっそく」

 

 ナギが即応して部屋から出ていこうとしたが、志津香に腕を掴まれた。

 

「待ちなさいっての。もっと話を聞かないと」

「そうですね。あそこはかなり危険なところにありますし、準備もしっかり行わないと」

 

 シーラは真剣な眼をして言う。

 

「クルックーの持ってた地図にあった気がするけど、あんなとこ本当にいけんのか……?」

 

 アルカネーゼは流石に不安そうな顔を浮かべる。巨大戦艦遺跡は氷雪地帯の奥深いところにあり、常人では到達不可能な場所にある。

 

「そうねえ、そんな舐めた装備でいったら凍え死んじゃうかもねー」

 

 ペルエレはニヤつきながら、そんな心ない軽口を叩く。

 

「うわぁ、やっぱこんな肌丸出しの鎧じゃだめかあ。あん時だって結構ギリギリだったしなあ」

 

 アルカネーゼは自分の格好を見直しながらそう嘆息をついた。

 

「もう、ペルエレったら。脅かさないの……。防寒装備なら、こちらが用意しますよ」

「宜しいんですか」

 

 クルックーが応える。

 

「ええ。ランス様の大事な方々ですし、こちらでできる限りの事は」

 

 シーラはにこやかに笑顔を浮かべて、それが当然であるかのように言う。

 

「しかし大統領……。氷雪地帯へのまともな入口はイコマで、あの付近は確か最近魔物の出没がとみに増えてきていると、第二軍から報告があがっていますが」

 

 近くにひかえてきた参謀長のクリームが懸念を呈した。クルックーは少しだけ眉をしかめる。

 

「そうでしたね……。じゃあ、軍から何人か護衛を」

「いえ。そこまでしてもらわなくても。大人数だとかえって目立ちますし」

 

 クルックーは冷静な声で、シーラの提案を拒否した。

 

「そーそー。私たちはこれでも強いんだから! ちょっとやそっとなにかあったところでビクともしないよ!」

 

 ナギは自信満々に答えた。一見ピクニックにしか見えないようなメンツでも、法王に加え、世界有数クラスの魔力や、戦闘力を持つ面々であることには違いなかった。

 

「それもそうでしたね……」

 

 クリームは出過ぎた真似をしたかとばかりに、頭を下げた。

 それからもしばらく情報交換を行い、リセットたちは今日は客人ということで大統領府内の客室に宿泊する。

 

―客室―

 

「どーよサチコ、このコート」

 

 アルカネーゼはシーラから支給された厚手のコートや、ズボンの一式を着込んでいた。リセットたち三人の子ども組とは部屋は別れている。

 

「わあ……。やっぱりアルカネーゼさんは何着てもよく似合いますね。サマになってます」

「へへへ。サチコも結構似合ってんじゃん」

 

 サチコも同じく試着している。

 

「いやあ。やっぱりどうもなんか野暮ったくなっちゃって。それに暑すぎてもうムレムレです」

 

 サチコの評価は芳しくなかった。

 

「氷雪地帯はこの季節でも零下30度から40度という酷寒の場所ですからね。これくらいでないとあっというまに凍傷になってしまうのでしょう」

「ひええ……。噂には聞いていたんですが、シャレにならないですね」

 

 サチコは聞いたこともない過酷な環境に目を回していた。そんなサチコをよそに、クルックーはノートにこれまでの事をまとめている。

 

「クルックー……。言わなくていいのか、お前が探っていること」

「まだ確信が持てませんし……、余計なことをいって怖がらせるのもよくないですから」

 

 アルカネーゼの言葉にも、クルックーは動きを見せずに書き物を続けている。

 

「でも、それが本当だったら」

「そうですよ。ここであんまりのんびりしている場合じゃないような」

 

 クルックーはそれでも二人の顔を見ようともしない。彼女は、以前より配下にある教会の報告から魔物たちによる襲撃や被害が増えてきている事を感じ取っており、自身の目で情報収集を行っていた。

 

「……、とにかく、もう少し情報を集めましょう。話はそれからです」

「クルックーさん」

 

 サチコはそう言ったクルックーの横顔が、少しだけだが暗くなっていることを察知した。

 そんな少しだけ張り詰めた空気の中、客室のドアが勢いよく開かれる。

 

「サチコー!! あそぼー!!」

 

 ドアをあけたのはナギなど子ども組であった。サチコは少しだけ驚いたような顔をした後。

 

「いいよ! 何して遊ぼっか?」

「大ふごー!」

 

 リセットはトランプを見せながら提案した。サチコは快く引き受けて備え付けのテーブルに向かい、カードを切り始めた。アルカネーゼも加わって、席についてリセットたちをあやしている。

 

「ごめんなさいね。疲れているでしょうに、ナギたちがどうしてもって」

 

 付き添いでやってきていた志津香が、申し訳無さそうにクルックーへ言った。

 

「いえ……。ちょうど一息入れたいと思っていたところですから」

 

 クルックーはいそいそと書き物をやめ、ノートをカバンにしまった。そしてその時、偶然に志津香は少しだけ内容を読んでしまった。

 

「あっ……」

「見ましたか」

 

 クルックーは観念したかのような声色で、志津香に尋ねる。

 

「う……うん。ちらっとだけど。もしかして、引率を引き受けたのってそういう」

 

 クルックーはこうなっては仕方がないと、諦念にも似た眼を浮かべる。

 

「子どもたちには、言わないでください」

「分かってるわ……。杞憂に終わればいいんだけど」

 

 志津香は心の底からそうであることを祈るような、そんな表情をする。

 

「ねー! お姉様たちもやろーよー! 四人じゃつまんないぞ!」

「はいはいわかったわかった……」

 

 ナギの誘いに、志津香は思考を切り替えて、テーブルへ向かった。クルックーも後に続き、一行はしばらく大富豪を楽しんだ。

 

――

 

 翌朝から一行はシーラたちに見送られてラング・バウを発ち、入口にあたるイコマを目指して旅を進めていた。

 しかし、魔人領との境に近づくにつれ。死体や、破壊されたうし車、焼かれた森などの痕跡が目につくようになっている。

 

「なんだか……、嫌な感じ」

 

 ナギは不穏な気配を感じ取り、そのようなことを口にした。

 

「クリームさんの言っていた通り、魔物による襲撃が目立つみたいね」

 

 志津香は少しだけ辛そうな声で言う。そうして歩き続けていると、何人かの着の身着のままの人々とすれ違った。

 

「あ、あの! すみません、何かあったんですか?」 

 

 以前から気にかかっていたリセットは勇気を出して、その中のひとりに声をかけた。

 

「魔軍……、あれは魔軍が攻めて来たんじゃよ」

「な、なんですって」

 

 老人の言葉に、志津香は動揺を隠せずに居た。

 

「すみません、その話、詳しく聞かせていただけますか」

 

 クルックーは老人たちに近づき、話を聞き出す。

 どうやら、百体規模の魔物たちが村を襲い、村の戦力ではとてもかなわないので逃げてきたのだと言う。クルックーは情報を聞き出した後、お礼に食料をいくらか分けて、彼らと別れた。

 

「ひどい……、ひどすぎる」

 

 リセットは珍しく、怒りをたたえた声で襲撃に対する感情をあらわにした。

 

「やっつけよーよ! どうせそろそろ宿とらないといけないんだし」

 

 ナギも怒りに眼を燃やして、そう提案する。

 

「でも、いくらなんでも、百体規模の魔物兵よ? 危険じゃないかしら……」

「まだ村で戦ってる人もいるみたいだし、だまって見てることなんて、私にはできないよ」

 

 リセットは強い意思を以て、そう断言した。

 

「分かりました。そういうことならば、村に行きましょう」

「待てよクルックー。マジでやる気なのかよ」

 

 アルカネーゼが懸念を示すような声で言う。

 

「この旅の提案者は彼女です。それに、色々とこの眼で調べないといけないことがあるみたいですし」

「うわ……、ちゃっかり自分の目的に使うつもりだよ」

「うう。こんなことになるなんてぇ」

 

 サチコはいくらクルックーの護衛が職務とはいえ、今回ばかりはハズレを引いたと言わんばかりの表情を浮かべる。

 こうして、一行は襲撃されている村へと急行した。

 

――

 

 村の状況は悲惨そのものであった。家々は焼かれ、次々と略奪や人間を児戯の如く殺戮していく酷い有様である。

 リセットたちは生き残っている村の人々と協力して戦闘を開始し、一方的だった情勢を覆しはじめた。

 

「ちっ……。人間風情が、俺達の楽しい時間を……、そんなこと許されるわけねえんだよ!」

 

 魔物兵はそう言いながら複数体同時にリセットたちに襲いかかった。

 

「えいっ!」

 

 リセットは遠距離から次々と矢を放って魔物兵たちを確実に始末していく。

 

「ふぇぇ。やっぱりすごいなあ、カラーのお姫様って」

 

 サチコは少し離れた場所でガードをしながら、リセットの勇姿に惚れ惚れとしている。

 

「サチコ、ボサッとしてるとやられるよ! ちゃんと盾を持って!」

「う、うん」

 

 アルカネーゼの警告に、サチコは身を入れ直して高く構え直した。

 しかし、魔軍側から飛来する矢に気を配りすぎて、下から盾の空いた隙間を狙ってやってくる刺突には対処できなかった。

 

「いっ……!!」

「テメェ! サチコに何をしやがる!!」

 

 そういってアルカネーゼは、大斧を奮って、サチコに攻撃した魔物兵を鎧ごと一刀両断にした。

 その後も何度か斧を力いっぱい魔物兵に見舞い、おそれをなして、一時的に引いていく。村の兵たちもサチコの受傷を見て前に出始め、一時的に危機が緩和される。

 

「大丈夫か、サチコ」

「ううっ……。油断、しちゃったのかな」

 

 足を突かれたサチコはたまらず、その場に座り込んだ。

 足の傷は思いの外深く、脛当ての周囲も本体も赤く染まっている。回復の聖刻も簡単に間に合いそうにない深手だった。

 

「だ、大丈夫、この程度の傷、大したことないよ、すぐ手当してやっから」

 

 そう言ってアルカネーゼは持参していた消毒薬と、傷に当てるための布を用意した。

 

「だ、駄目ですよアルカネーゼさん。私なんかに構わないで、もっと前にでてみんなを鼓舞しないと」

「んなこと言ってる場合じゃないだろ。サチコの怪我を治すほうが先だ」

 

 そう言ってアルカネーゼは脛当てを外し、刺し傷を確認する。思った以上の深さに一瞬顔を歪めたが、それでもサチコには見せまいと、傷の手当を続けた。

 しかし、そうしていると、兵の壁を突破した一体の魔物兵が、アルカネーゼの背中を狙って斧を振り下ろそうとしている。

 

「ファイヤーレーザー!」

 

 一瞬早く、志津香のファイヤーレーザーによって魔物兵は身を貫かれ、そのまま倒された。

 

「おおっ……。ありがとう志津香。助かったよ」

「サチコさんはどうなの」

 

 アルカネーゼの感謝には答えず、志津香は深刻そうな彼女を気にかけた。

 

「た、大したことないって。この程度の怪我、少し手当すればなんとかなる」

 

 志津香はアルカネーゼの手元を見る。そうしている間にもどくどくと血が流れていき、深刻なのは明らかである。

 

「……。そうね。でも、万一を考えてとりあえずは後方に移送したほうがいいわ。今、村の人たちよんでくる」

 

 もちろんそんな怪我でないことは志津香にも分かっていたが、アルカネーゼの気持ちを汲んでか静かにそう言った。

 

「そんな、大丈夫ですよ志津香さ……あいたたたた」

 

 無理にサチコは動こうとした為、より深い痛みにさいなまれた。結局、彼女は戦線を離脱し、療養することになる。

 その後も戦いは続いたが、なんとかリセットたちの介入のおかげで、撃退することに成功した。

 

――

 

 夜になって、とりあえず一息ついた一行は村を救ってくれたと歓迎を受けて、村長の家に泊まることになった。

 夕食を食べ、そのまま客室へ6人は通される。

 

「よかったー。なんとか屋根のあるところで今夜はすごせて」

 

 ナギは客室に落ち着いて早々、そんなことを口にした。ラングバウを出てからの数日は野宿であったため、一行はひとまずそれに安堵している。

 

「う、うん。そうだね……」

 

 しかしそう答えたリセットの表情は浮かばれない。自身の決めたことのせいで、サチコが怪我をしてしまったと自責の念に駆られているような表情をしている。

 

「サチコのことなら、リセットはなんも悪くないよ。むしろ正しいことをしたんだから、そんなにしょげた顔しないで」

 

 アルカネーゼはリセットの左肩に手を置いて、そう励ました。

 

「そう……、そーかもしれないけど。私が……」

「そーだよリセット。悪いのはまもので、私たちはあたりまえのことをしただけ! なんにもリセットがしょげることなんてないんだよ!」

 

 ナギも同じく、今度は右肩に手をおいてリセットに声をかけた。

 

「ナギの言うとおりよ。偶然とは言え、あそこで魔物たちを見逃していたら、もっと他の村が襲われたり、下手をすれば私達が道中でもっとひどい目にあったかもしれない。リセットは最善を尽くしたのよ」

 

 志津香は心の底からの言葉で、リセットに声をかける。

 

「うん。ありがとー、みんな」

 

 リセットは顔をあげて三人に礼を言った。少しは心が晴れたようだが、やはりサチコの事がきにかかって以前ほどの活発さはなくなっていた。

 

「ふう……」

 

 同じ部屋のベッドに寝かせているサチコを、ずっとヒーリングや薬草で手当していたクルックーがようやくリセットたちのところへ戻ってきた。

 

「お疲れクルックー。それでサチコは……どうなんだ」

 

 アルカネーゼは真剣な表情をしてクルックーに尋ねた。

 

「命には別状ありません。ただ、傷が思いの外深く、骨にまで一部達しているかもしれません」

「そう……やっぱり軽いケガではないみたいね」

 

 志津香は唇を噛み締めている。

 

「サチコおねーちゃんは、こんご大丈夫なの?」

 

 リセットは正座で向き直って、クルックーに尋ねている。言うまでもなく足のことであった。

 

「幸い、重要な神経などにはさしたる損傷はないので、ヒーリングでカバーして以前のように戦う水準まで回復するのは十分可能です。ただ、それでも今日明日というわけには……」

 

 クルックーは少しだけリセットから視線を逸らす。

 

「そっか……」

 

 リセットはその言葉を聞いて大きく声のトーンを落とした。

 

「それってつまり……、もう旅は続けられないってこと?」

 

 ナギはクルックーの眼を見据えて、核心を突く発言をした。

 

「私は彼女を診続けるので、アルカネーゼさんを今後も付き添う形でなら、続行は可能です。こうなることも見越してか、ビスケッタさんからは、私達のうちいずれか一人でも良いという形で承諾をもらっているので」

「おう。アタイは構わねーぜ。アニキに会いたいのはリセットたちと一緒だからな」

 

 アルカネーゼは胸を叩いてリセットに言った。

 リセットは父に会いたいという気持ちと、眼の前の現実との間でしばらく葛藤を続け、数分ほど間を開けてようやく口を開いた。

 

「帰ろう……みんなで」

 

 その言葉はようやく絞り出したかのような、か細いものであった。

 

「本当にそれで良いのか、リセット」

 

 ナギはリセットの手を取り、念押しするかのように、真面目な眼差しで問う。

 

「おとーさんには会いたいよ。会いたいけど……、そこまでわたしがわがままを言ってまでやることじゃないもの」

「わがままじゃないわよ。リセットは子どもとして、あたりまえのことをいってるだけよ」

 

 志津香はそう返したが、ぶんぶんと横に首を振った。リセットの決意は堅い。

 

「みんなはかばってくれてるけど……、今回のようなことがまた起きたら、おとーさんの大事な人をもっと傷つけるかもしれない。それは、おとーさんに会えないことよりも、もっとイヤなの」

「リセット……」

 

 志津香はリセットの様子を見て、それ以上彼女の決意をゆるがそうとするのはやめにした。ナギも同様に、丁寧にリセットの手を放した。

 

「実を言えば、それが最善だと思います。今回は追い払えましたが、今回の魔軍の襲撃はいつもの遊び半分のものではなく、威力偵察の意図があると思われます。ああやって派手に暴れて、ヘルマン軍を誘い出すのが目的だったのでしょう」

 

 クルックーはこれまでの情報を総合してそう結論を下した。これまでの間に村長や村の人々から聞き取りも行っており、魔軍が組織立って人類圏へ侵食を試みようとしていると確信を持ったのである。

 

「そんなことしてどうするんだよ。まさか、人類を滅ぼしにいこーっていうのか?」

 

 アルカネーゼは軽口を叩いたが、クルックーは襟を正した。

 

「軽はずみなことは言いたくありませんが……、その可能性も十分あり得ると、私は考えています。軍を動かさせて、どれほどのものになっているかを調査しているのでしょう」

 

 クルックーの言葉に、その場にいる全員が水を打ったかのように静まり返った。

 

「実を言えばゼス国境でも同じような動きがAL教会から上がっていましてね……。あちらは軍がより機能していますから被害はヘルマンほどではないようですけど、ここ一ヶ月の間に魔人領から人類圏への軍事行動が活発になっています。そこでリセットさんの話があって、便乗させてもらったわけです」

 

 クルックーはそう言うと、リセットが淹れたお茶を飲んだ。

 

「そ……、そうだったんですか」

 

 リセットもただごとではないと思ったのか、クルックーに改まった口調でそう返した。

 

「まだ侵入している規模は小さいものですし、今日明日踏み込むということはないとは思いますが、十二分に警戒すべきであると私は確信を持ちました。よって、私としては速やかに戻って、できる限りの準備を進めたいと思っていたところです」

「そうね……。それほどの事なら、戻ったほうがいいわね」

 

 志津香はクルックーの言葉に同意した。

 

「あーあ。たのしかったのにもう終わりかぁ……ざんねん」

 

 ナギは仕方ないと分かっていながらも、天井を見上げながら残念そうに漏らす。

 

「ごめん、ごめんね、ナギちゃん……。でも、おとーさんはきっと帰ってくるから。そういうことが起きるなら、『俺様の世界を魔物どもにくれてやるもんか!』ってちょーとっきゅーで帰るにきまってるもん」

 

 リセットはナギの頭を撫で、にっこりとランスの口真似をしながら、確信を持った声色で語る。父の思いは手に取るようにわかるようである。

 

「そう……そーだね! さすがはリセットよくわかっているじゃないか、がははー」

「がははははー」

 

 ナギとリセットはランスの口真似をしながら笑いあう。

 

「全く下品だからやめろっていつも言ってるのに……」

「まあ、今日くらいはいいんじゃないですか」

 

 志津香の呆れながらの言葉に、クルックーは諭すように言った。志津香はそれに黙ってうなずき、表立って注意するのは控えるのであった。

 

 それから一行はランス探索を止め、リセットは女王の娘としてペンシルカウへ、クルックーたちはAL教本部のあるカイズに向かい各々の準備を進めた。ランス城へは志津香とナギだけが戻った。

 

――

 

―数カ月後 氷雪地帯 巨大戦艦入口―

 

「がはははは! 外だーっ!」

 

 ランスたちは数ヶ月にわたる巨大戦艦での冒険を終え、ようやく外に出てきた。

 

「すーはーすーはー。うーん、外の空気がおいしいですね、ランス様!」

「いや、そんなの通り越してむしろ寒いぞ。凍死しちまう前に、どこぞの街にでも」

 

 シィルの言葉を流しつつ、そんなことを言っていると、ランスの前に数十名のAL教に属するテンプルナイツがたちはだかった。「お待ちしておりました」と、彼らはランスに一斉に声をかける。

 

「なんだお前ら、宗教の勧誘なら間に合っているぞ」

「違いますよ、ランス」

 

 聞き覚えのある静かな声に、ランスは顔を向けた。すると、並みいる鎧をかき分けて、クルックーが進み出る。

 

「クルックー? なんでお前がこんなところに」

「私達はずっとランスを捜していました。あなたの娘たちともしばらく前まで一緒に。この遺跡に入ったのが春頃ときいて心配していましたが、ようやく出てきてくれましたね」

 

 クルックーは傍目にはわからないが、心底安心したような声をあげる。サチコも足が治りきらない中無理して同行していたが、兜をかぶっているため、ランスにはわからなかった。

 

「リセットが? あいつら、わざわざこんな寒いとこに来てたのか。がはは、俺様に会いたくて仕方がなかったようだな。じゃあどこぞのホテルにでも」

 

 調子づくランスだったが、クルックーの次の言葉が遮った。

 

「もしかして……。今の世界の現状を知らないのですか?」

「あ?」

「――戦争です。膨大な数の魔軍が、攻めてきたのです」

 

 第二次魔人戦争が、はじまった。

 

―終―

 

 




最後はランス10の冒頭へつなげてみました
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