ランス短編・中編集   作:OTZ

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クリアC 人類滅亡(下)

―ランス城 ランスの部屋―

 

「なあ。ビスケッタさんよお」

 

 朝食を食べ終わったランスがビスケッタの眼を見て言う。

 

「なんでございましょうか」

「なんかおかずの品最近二品くらい減ってねーか?」

「はい。城内の食糧も逼迫しております故」

 

 魔軍がCITYの周辺に現れてから一ヶ月。

 城内では既に食糧不安が発生していた。メナドとチルディによる救援のうち、その食糧は一週間ほどで尽きてしまい、城やCITY全域の食糧に頼らざるを得なくなっていた。

 配給制にして統制をきかせているとはいっても、都合30万から40万に及ぶCITYの戦闘員非戦闘員を含めた人口を養うには大いに不足していた。

 

「御主人様には食でひもじい思いはさせまいと、努力はしてまいりましたが、既に限界となっており、もはやこうする他にないと」

「ちっ。世知辛いな……」

 

 ランスは不承不承、最後の一口となるトーストを放り込んだ。

 

「ランス様。城下では既に食べ物を得るのにも精一杯の人がいると、聞きます。食べられるだけ―ひぃん!」

 

 ランスはシィルが言い終わる前にシィルの頭を小突いた。

 

「そんなのお前に言われんでも……わかってるわ」

 

 しかし、内心複雑なものがあるのか、その拳はいつもより勢いがなかった。

 ビスケッタはそそくさと2人分の食器を片付け、ランスの部屋を後にする。

 

「かなみ!」

 

 ランスの求めに応じ、かなみが参上する。

 

「調べはついたか」

「クレインさんや、フレイアさんの報告を総合するに、リア様はじめ、姫様たちが魔軍に繋がれているのは間違いないわ。……国の各地で辱められているのもね」

「そうか」

 

 ランスは短くも、その声には静かな怒りを込めている。ランスは従前より、既に捕らえられた自らの女たちの消息を、忍びに命じて調べさせていた。

 

「あと……、不確かな情報なんだけど、近々、捕虜をCITY近郊まで連れ出す用意もしてるみたいで」

「わざわざ向こうから、持ってきてくれるんならかえって好都合だな……本当なら、その前に俺様が直々に行きたいんだが」

「無理よ無理無理!! 今いる軍に加えて、抵抗を鎮めたところからどんどんこちらに転用しているわ。それに紛れさせるでしょうから、いくらランスでも、多勢に無勢よ」

 

 既にCITYを包囲する軍は50万に達し、日を追うごとにジリジリと包囲環を狭めていっている。

 

「ちっ。場所がわかったら、できるだけ早く知らせろ」

 

 そう言って、ランスはしっしと追い払う仕草を見せた。

 

「えっ……?」

「なんだ。まだ何かあるのか」

「こ、これだけ調べたんだし、その……」

 

 かなみはもじもじと、ランスを上目遣いで見る。

 

「なんだ? ご褒美にセックスでもしてほしいのか?」

「ううーー……。もういい! 馬鹿!」

 

 そう言って、そそくさとかなみは天井裏に戻った。

 

「たく。調べたって大半はクレインちゃんとフレイアのおかげだろうが」

「かなみさんだって一生懸命ですよ。そんな風にいわなくても」

 

 シィルはかなみをフォローしたが、ランスは鼻を鳴らす。

 

「ふん。俺様専属の忍者ってんならもっと仕事しろって話だ」

 

 ランスはそう言って、部屋を後にした。

 

―CITY スポーツジム―

 

 ランスは自身の鍛錬を口実に、かわいい子を見つける目当てで時折ジムに通っていた。

 

「総統、お疲れ様」

 

 ランニングマシンで走り込みを終えた後、バーナードがあいさつをしてきた。

 

「おう」

 

 そう適当に返して、バーナードはそのまますれ違っていった。

 

「誰だあれ。あんなむさいやついたか?」

「バーナードさんだすよ。いい加減覚えないとかわいそうだす……」

 

 中央広場で出くわし、そのまま勝手についてきたロッキーが、そうバーナードの背中に同情の視線を送る。

 

「お前もなに勝手にひっついてんだ! 前線にいって弾除けにでもなってこい」

「そんな、ひどいだす。普段お世話できない分、せめてオラが休みのときくらいお供を……」

 

 ロッキーはもちろん、他の兵士たちと同じく前線で働き、功績が認められたのと、戦死により空きがでたことからウルザから直々に東部戦域にある、第二炊事場の第四班班長を任されていた。そのため、朝食の片付けをすませ、時間のあいたこの時に、ランスに居合わせたのである。

 

「ええい。なんでむさ苦しい男と一緒に居なければならんのだ。おい、シィル。お前が甘い顔なんかするからだぞ」

「ロッキーさんとは久々に会えたわけですし、そんな邪険になさらなくても」

「そうそう、かろもロッキーおじちゃん結構好きだし……」

 

 シィルと、たまたま一緒についてきていたカロリアがロッキーをかばった。

 

「あの、カロリアさん、オラまだおじちゃんって呼ばれる歳じゃ」

「あ……そうだったっけ。ごめん」

「でーい、うるさい。走って喉が乾いたし、ジュースでも買ってこ……」

 

 そう言いかけたところで、大きな声がランスたちの耳につく。

 

「ランスゥゥゥ!! 死ねぇぇぇぇ!!」

 

 その声とともに、パンパンになったプチハニーが一体、ランスのもとへ投げ込まれる。

 

「なっ。なん」

「ランス様! あぶないだす! すぐに後ろに……」

 

 ロッキーは咄嗟に斧を振り上げ、プチハニーを迎える。

 やがてそれは炸裂し、大きな爆音が響いた。

 幸いにもプチハニーは斧の面に振れて爆発した為、ランスは無事であったが、ロッキーは爆弾の衝撃を直に受けた。

 

「あんぎゃああああ!! 痛いだすううう……」

 

 ロッキーは致命傷は免れたものの、全身にやけどを負う重傷だった。

 

「ロッキーさん! 大丈夫ですか!? いたいのいたいの、とんでけー!!」

 

 シィルは自身も破片で切り傷を負ったのにも構わず、ロッキーにヒーリングをかけ続ける。

 

「おじちゃん! おじちゃん! しっかりして!!」

 

 カロリアもロッキーの肩に手をやりながら、懸命に声をかける。

 

「ちっ。しぶとい奴……。おい、お前とお前、担架にかついで、病院に連れて行ってやれ」

 

 ランスはそのへんにいた兵士を二人指さして、そう指示した。男たちはすぐに従い、ロッキーを担架に載せた。

 

「おい、ランス。大丈夫だったか」

 

 そうしているとサーナキアが、一人の男を、縄をつけて。連れてやってきた。

 

「あ! サーナキア……ったく肝心な時に役に立たないな」

「しょ、しょうがないだろ! 外出の時護衛をつけようとしても「俺様に護衛などいらん」って言って断るのはそっちじゃないか」

 

 ランスは総統となってからも、見張られるような感覚を嫌って、直接の護衛をつけていない。

 

「あーそうだったか。で、なんだその男」

「あ、ああ。僕がたまたまシティのジムに入ったら、爆発の後に、ちょうどそこでぶつかってな。取っ組み合いになったがなんとかこうして」

 

 と、サーナキアは少しだけ胸をはった。

 

「ほー。サーナキアちゃんに捕まるなんて、どんくさい奴もいるもんだ」

「どういう意味だ!!」

「くっ……」

 

 捕まっている男は、サーナキアに一瞥した後、観念したかのような顔をした。

 

「さーてと。殺す前になんで急にこんなことしたか、教えてもらおうか」

「決まってるだろ! お前を総統の座から引きずり下ろすためだ。お前のために無駄な死と、過酷な労働を強いられて」

 

 そこまで聞いたところで、ランスは有無を言わさずカオスを振り上げ、首を落とした。

 

「バカバカしい。ここが終わったら死ぬだけだっていうのに、無駄も過酷もあるか」

 

 ランスは冷たく突き放した後、その場を立ち去った。

 

―参謀本部―

 

「総統……。ご無事でなによりです」

 

 ランスはそのまま、参謀本部へ向かった。爆発の一報を聞いて動揺していたのか、ランスの姿を見て、ウルザはじめ中にいる一同全員が、胸をなでおろしている。

 

「全く何、世界が終わったみたいなツラしてんだ。あんなぷちハニー程度で死ぬほど、俺様はひよわじゃないぞ。がはははは」

 

 ランスは何事もなかったかのように。大きく笑った。

 

「外には逃亡を手引しようとしていた者も何人か見られ、全て捕らえました。狙いが総統であったのが明らかである以上、CITYの住民の中に総統の死を願うものがいるということになります」

 

 クリームは存外冷静に状況を申し述べた。

 

「ちっ……この非常時になに考えてんだ」

「その……おじさまに万が一の事が起こったら、取り返しがつきません……。ですから、そういう情報を早く把握し、対処できる機関と体制をより強化すべき……だと思います」

「状況が状況ですから、趣旨には賛成です。ただ、すでに治安当局の人員は手一杯で、これ以上割くわけには……」

 

 ウルザが難色を示した所、ランスが提言する。

 

「なんだそれなら、丁度いいのがいるぞ」

 

―CITY とある民家―

 

「総統は、酒色に耽り、民に貧しい暮らしを強いて、自分は贅沢ばかりしている! あの城にいる面々もそうだ! やつらは総統に近いのをいいことに我々の食糧や物資を盗み続けているんだ!」

 

 あれから3日後、一人の青年が演壇に立ち、演説をしている。

 

「そうだそうだ! あの新聞の言ってることは正しい!」

「魔軍と戦うなどといっているが、あいつらは俺達に寄生してるだけだ」

 

 青年の主張に賛同し、声を上げる人々もいる。

 

「今こそ我々は民主的な方法をもって総統を降ろし、正しいやり方で魔軍に向かっていかなければならない。直訴をおこない、それを以てかなわぬ時は……」

 

 そう言いかけたところで、民家のドアが蹴破られた。

 

「我々は総統親衛隊! 反総統的団体として逮捕する!!」

 

 その凛とした声で、青年たちは次々と逮捕され、連行されていった。新聞も押収されていく。

 元々CITYに居残っていたのに加え、チルディが連れてきたリーザス親衛隊の生き残り達300名弱は国が消滅した為、ランス総統直々の親衛隊に組み替えがされた。そして、城本体を守るランス城騎士団とは違い、CITYの公安警察の武力となることを命じられていた。

 

「ふう……。新聞の書いてあることだけはあながち嘘とも言いきれないだけに、心苦しいですわね。そうでございましょ。イベットさん?」

「………」

 

 イベットはこっくりとうなずいた。彼女も数少ないリーザス親衛隊の生き残りである。

 

「やはりジュリア先輩がいないと、少し寂しいですわね……」

 

 隊長に任命されたチルディは寂しげにため息をついて、その新聞を松明にくべる。ジュリアはリーザス陥落時にリアの近くにいたが、行方は分かっていない。おそらく捕まったのであろうとチルディは覚悟した。

 

「私も同じですよ。チルディ隊長」

 

 背後で逮捕の指揮を執っていたウルザが、証拠集めで収集している傍らでチルディに同調する。

 

「あ、ウルザさん……どうも」

 

 チルディとイベットはウルザに小さく礼をした。ウルザもそれに応える。

 

「確かに彼らのしようとしていた事は、反逆といえるものですが、必ずしも理のないことではありませんから」

「よ、良いですの? ウルザさんは警察の重鎮でございましょう?」

 

 秩序を守る側の言葉としては不適切といえる発言に、チルディは思わずウルザへ問いかけた。

 

「これでも昔はレジスタンスのリーダーでしたから、それだけに、彼らの気持ちもわからないではないんです……」

 

 ウルザは床に散乱した新聞を拾い上げ、眼で読みながら言う。新聞と言っても、粗末な紙に書かれたビラに近いもので、いかにも寄せ集めであることをうかがわせた。

 

「それはそれは……なんと申し上げれば良いのか。複雑ですわね」

「それでも……。それでも、仕事ですから。それに、今、総統に死なれたら、即座の破滅しか私たちには待っていません。ですからどうか、職務をこなしてください」

 

 ウルザのその声は切実で、どこか差し迫った印象をチルディに与えた。

 

「私も総統とはそれなりに行動を共にしましたし、色々言いたいことはありますわ。ですが、思いは同じですの」

 

 チルディもウルザも、すぐ側でランスと行動を共にしていただけに、その英雄の気質はしっかりと心得ている。

 その後も捜査は続けられ、謀議に参加していた15名の住民は内乱未遂罪として重度の労役刑が科された。

 

ー参謀本部ー

 

 あれからさらに10日が経過し、戦線の疲弊は更に積み重なっていった。ランスもここ数日は通い詰めており、状況を聞いている。

 

「今度は西側第2区に20大隊規模の攻勢……。全くしつこい攻勢が何遍も何遍も……」

 

 クリームは半ば呆れながら黒い兵棋を配置した。

 

「敵の勢いは一定の一方で、私たちの消耗は積み重なっています……。食糧や装具もどれほど統制してもこのペースだとあと……一ヶ月もつかどうか」

 

 アールコートは暗い表情でそう告げる。

 

「兵の士気や統制にも乱れが出ています。この一週間だけで122件の軍規違反が発生し、昨夜では遂に20名規模の脱走が確認されました。しかし、やはり包囲は抜けきれず魔軍にすべて殺害されたようですが……」

「そうか……」

 

 ウルザの報告も聞き終え、ランスは珍しく真剣な顔で目を細め、虚空に視線を投げかけながら今後の事を考えていた。

 

「ランス様……」

 

 いつものように連れてこられたシィルも、ランスを心配するような目線で顔を見る。

 

「よし、奇襲をかけよう」

 

 ランスは唐突にその身を前のめりにし、軽い調子の声で言う。

 

「奇襲? どこにです?」

 

 クリームの声はやや強張っていた。彼女にとって、思いつきのように聞こえる奇襲の提案は、いささか奇異に聞こえたのかもしれない。

 

「決まっている。さしあたっては大将軍とかいうのがいる陣地をだな……」

「さすがにそれは……ヨシフというリーザスに攻め込んでいた大将軍が、そのまま指揮を執っているのですけれど……、疑り深さから、夜毎に陣を変えており、所在は一向につかめません……」

 

 アールコートは弱々しい口調ながらも、それを真っ向から否定した。

 

「じゃ、じゃあ魔人だ。一人や二人始末すれば、少しは勢いも」

「残念ながら、四国全て落ちた時点で、魔人領への帰還を命じられたようで一人も確認されておりません」

「舐めた真似しやがって」

 

 ランスは奥歯を噛んで、悔しさをにじませた。

 

「じゃあ、これでどうだ」

 

―翌日 夜 魔軍本営―

 

 ランスはあれから決死隊を募り、1000名ほどの部隊を率いて直々に、南東方向にある魔軍の一つの拠点を急襲。事前の徹底的な偵察や、魔軍側の緩みもあって作戦は成功し、多量の物資略奪に成功した。

 

「がはははは! 所詮はこんなものか。大したことないな」

 

 本営にいた魔物将軍を倒し、中にいた少女をいただいた後、ランスは大いに高笑いした。

 魔軍の攻撃がはじまって以来の戦果に、兵士たちの士気は大いに高揚し、活気にわいている。

 

「さっすがランス兄ぃだぜ。こうも簡単にこんなデカブツぶっ倒しちまうもんなー」

 

 魔物将軍の死体を横目にアルカネーゼは尊敬の眼差しでランスを見ていた。

 

「この程度、朝飯前よ」

 

 やがて、指揮官として随伴していたウルザが本営にあった倉庫の調べを終え、報告に戻る。

 

「倉庫にあった物資は当面の戦闘継続には役立ちそうです。食糧も相当にあり、数週間程度はもちそうですが、やはり魔物たちの食べ物なので。事前の加工は必須ですね」

「なあに、そこはうちの料理人になんとかさせる。さーてウルザちゃん、約束を守ってもらおうか」

 

 ランスはそう言うと鼻息をならしてウルザに近づく。

 

「約束? なんのことです?」

「言ったじゃないか。一時的にでも撤退させたら俺様とセックスするって」

 

 ウルザは素で忘れていたのか、「ああ」と、思い出した声をあげた後、

 

「この程度ではまだまだですね。力量を見るに、予備部隊の一軍を潰走させただけですし、すぐに穴は埋められてしまいますよ」

 

 と、頬を緩ませながら冷静に返した。ウルザ自身満更ではなかったが、少しだけ意地悪をしたそうな心境である。

 

「だが引かせたことには、変わりないじゃないか」

「それに、今そんなことしてる余裕はなさそうですよ」

 

 ウルザはランスから視線を逸らし、背後に目を遣る。

 そこにはかなみが静かに立っていた。

 

「ランス。急いで。魔軍が異変に気づいて、別の部隊がここに向かってるわ」

 

 その声は切迫しており、近くに迫っていることを如実に知らせた。

 

「ちっ……。じゃあしょうがない、口でいいから、今すぐ」

「噛みちぎってほしいんですか?」

 

 ウルザの微笑みながらのいなしに、ランスは即座に「違ーーう!!」と返したが、かなみは矢継ぎ早に続ける。

 

「ランス! 冗談言ってる場合じゃないのよ。あっという間に囲まれるわよ」

「クソっ。しょうがない。これは貸しにしとくからな! ウルザちゃん」

 

 そう言ってランスは本営を後にした。

 

「ふう。全くランスさんは、変わりませんね……」

 

 ウルザはそう言って、手で髪をもてあそんだ。

 

「ウルザさん。いくらランスの言う事だからって、そんな約束しなくても」

「別に嫌ではないんです。ランスさんが現状を何とかする為に、成果を出してくれたのは事実ですし。ただ、なんとなくちょっと意地悪したくなっただけです」

 

 ウルザは少しだけ、ランスに犯された魔物将軍に入っていた娘を見る。彼女は気を失っており、聞こえている様子はない。

 

「え……ウルザさん、もしかして妬いて……」

「ふふ。どうでしょうね。さて、私たちも行きましょう。戦果が無駄になってしまいますから」

「は、はい!」

 

 ランス率いる決死隊はそのまま魔軍が帰って来る前に撤退し、作戦は成功裏に終わった。

 

―魔軍司令部―

 

「なんたる失態だ。虫けら如きにまんまと隙を突かれおって」

 

 魔物大将軍のヨシフはランスたちの急襲を聞き、肩を震わせて激怒していた。

 

「本当だワン。たかが一千の小勢に魔物将軍まで討ち取られるなんて大失態だワン」

 

 前線へ遊び半分に視察にきていたケイブワンも一緒になって報告に来た、魔物隊長をなじる。彼はランスたちに壊滅させられた魔物将軍の麾下にいた数少ない生き残りである。

 

「申し訳ございませんヨシフ様。何分、規格外に強い連中で……。それに攻撃を開始して以来外にでることもなかったものですから」

「追い詰められた雑魚が、強者に乾坤一擲の攻撃をしかけるなど、十分に予想できることであろうが。馬鹿者め」

 

 そう言いながら、ヨシフは冷酷に魔物隊長の頭を踏み潰した。失敗した部下に行う、恒例の粛清であった。

 

「相変わらず容赦がないワン」

「こうでもしなければ、軍の統制はうまくいきませぬもので」

 

 冷徹な物言いから一転して、ヨシフは途端におべっかを使いはじめる。

 

「しかしご安心ください。すでに立てこもる人類軍のうち1割以上は削りました。この件を除けば徹底的に奴らの士気を挫き続けており、調略も続けております。そうだな、ダルソン」

 

 ヨシフから振られた魔物将軍のダルソンは、張りのある声で答える。

 

「はっ。人類側の工作員を雇って疑心をあおるニュースを書かせ、この前は未遂に終わりましたが、カオスマスターの暗殺計画が実行されました。他にも何人か便宜と引き換えに情報を引き出させ、内部で起こっていることは手に取るように把握できます」

「締め上げが十分に進んでいるなら、それでいいワン。ケイブリス様は、ホーネット派への懲らしめ、人類側の他の抵抗が落ち着き次第、ここに来てトドメを刺す予定だから、それまでじっくりとやってほしいワン」

 

 リーザス滅亡から1ヶ月半が経過し、CITYを除く人類側の抵抗は確実に鎮圧されつつあった。ケイブリスはその総仕上げとして、ランスを叩き潰す策略である。

 

「でも、相手に奇襲を受けて物資を引き渡してしまったら、何の意味もないワン。このことはしっかりと報告するワン」

「は……ハハッ」

 

 ヨシフは内心に焦燥を感じながら、ケイブワンに跪いた。

 その後すぐにケイブワンは本陣から去っていく。

 

「相変わらず、鼻につくケイブリスの腰巾着ですな」

「まあ良い。所詮は雑魚でしかない。それよりも、このまま人間共を調子づかせてはならん。そろそろ例の作戦にとりかかれ。失敗は許されん」

「御意」

 

 ダルソンは底冷えするようなヨシフの目に、内心恐怖しながら本陣を後にした。

 

―ランスの部屋―

 

「がはは。今日は久々に豪勢だったぞ。ビスケッタさん」

「御主人様のおかげで、大量に食材が手に入りましたもので。マルチナ様の手によって、魔物の食材もうまく口に合うよう調整されましたからね」

 

 ランスは久々の満足な食事にご満悦だった。ここ二週間ほどは、普段の7割程度の食事しか出されていなかっただけになおさらである。マルチナは魔軍に襲われかけたものの、すんでのところで人類軍に救出され、ランス城の料理長となっている。

 

「良かったですね。ランス様。他の皆さんも喜ばれていると良いのですが」

「城の中を見た限りですが、おしなべて評判は上々です。やはり皆様、長く続く戦いに鬱屈したものがあったのでしょう」

「うむうむ。このまま定期的に奴らから略奪すれば、ずっと困らんぞがははは」

「さすがにそうは上手くいかないと思いますけど……ひぃん!」

 

 シィルはランスからのゲンコツを受けた。

 

「余計な事をいうな」

「残念だけど、シィルちゃんの言う通りよ。ランス」

 

 かなみが天井裏より降りてきた。

 

「なんだと? お前までそんなことを」

「この前のは予備戦力だったからまだ付け入ることもできたけど、今朝偵察した限りでは。全方位ガチガチに警報用の罠やら、柵や防塁などを築いている上に、前列には主戦級の兵が配備されるようになってる。よっぽど癪に障ったようね」

「そんな……たった一晩で?」

 

 シィルはあまりの動きの速さに、驚きの顔を隠せずにいる。

 

「他の斥候の人から聞いた話だと、ケイブリスの使徒のケイブワンが来ていたみたい。二度と同じことは起こさせたくないのでしょう」

「ちっ。親玉の腰巾着が来てるときに大恥かかされたから……ってとこか」

 

 ランスは苦虫を潰したかのような顔で言う。直感で流石に分が悪そうだと判断せざるを得なかった。

 

「それと、もう一つ報告。例の捕虜集合の件だけど、もうこの街にたどりつきはじめているみたい」

「何。じゃあすぐに取り戻しに」

「だから言ったでしょ。もう魔軍の警戒が厳しすぎて奇襲は無理よ。せめてもう少し時間をあけないと」

 

 かなみは呆れて目を伏せながら言う。

 

「あと、なんだか大きな……、ステージみたいなものの骨組みが、敵陣中に見えたわ」

「ステージだと。そいつらを使ってなにかする気ということか」

 

 かなみは少し悩んだ仕草を見せて、一度頷いた。

 

―第一防衛線 北側 第四区―

 

「ふぃー。久々にくったくった」

 

 朝食を食べ終えた兵士が、塹壕によりかかりながら言った。

 

「ああ。なんでも総統直々に、やってくれたそうだな」

「少しは俺達のことも考えてくれてるようで、よかったよ」

 

 他の兵士たちも久々に腹が満たされ、普段の批判や愚痴はおさまっていた。

 

「うむ。やはりランス殿は立派な将器のあるお方だ! 主らもそう思うであろう?」

 

 最前線でガード軍の総指揮を執っていた柴田勝家は、豪快に笑いながら言う。兵士の反応は様々であったが、勝家に真っ向から否定する兵はいなかった。

 そんな少し弛緩されたムードが広まる中、一人の兵士が外側に気づく。

 

「なんだあれは」

 

 他の兵士たちも次々とその一点に注がれる。木で出来た急ごしらえの舞台であり、そこにいる人々の注目をひきつけた。

 やがて舞台の上に魔物兵が何体も現れ、魔物隊長が拡声器で話し始めた。

 

「今日は、ケイブリス様の格別のお計らいにより、勇敢に抗し続ける諸君に、慰みを提供する。目ん玉よく開いて見たうえで、今夜のマスかきのネタにしやがれ!!」

 

 その言葉と共に、後ろの扉から、4人の女性が魔物兵の先導で手鎖に繋がれながらボロボロの一枚の衣をまといながら出てきた。その模様は巨大な魔法ビジョンによって前線の兵士にも逐次放送される。

 

「あ……あれはマジック様!!」

「くっ……」

 

 壇上のマジックは目に見えて狼狽する元ゼス軍の兵士たちを見つけ、屈辱に耐えていた。

 

「シーラ様もいるぞ……」

「ああ、あれはリア様……おいたわしや」

「こ、香姫様……なんと……」

 

 引き出されたのは四人のかつて、その国の皇女であり、絶大な権力を持っていた人々であった。手を縛められ、ボロ布を身にまとうだけの彼女たちに、かつての威光はなかった。

 

「オラァ。お前! 命じた通りの事言うんだよ!」

 

 魔物兵はマジックの尻を蹴る。相当に衰弱してるのかその一蹴りだけで彼女は突っ伏してしまう。

 

「うっ……も、元ゼス国民の皆様」

 

 マジックは立ち上がりながら言うが

 

「声が小さい!」

 

 と今度は頭を殴られた。そして、立ち上がったマジックは大きく声を張り上げる。

 

「元ゼス国民の皆様! 私、マジック・ザ・ガンジーは、この通りこの魔物たちの子を孕んでしまいましたぁ!」

 

 マジックは服をたくしあげ、臨月の腹を衆目に晒した。

 

「ケ、ケイブリス様に、逆らった……、贖罪として、私が何人も何人も孕み、産み落としていく産む機械になりました!! これからもこの三名の王女さまたちと一緒に、どんどんモンスター様たちのでっかいマラを受け止め、償い子袋としての使命を、全うしていく所存です!!」

「そーいうことだ! 今からその模様をたーっぷりと実況中継してやるぜ! たんと見て、今日のズリネタにしとけやブヘヘヘヘヘ」

 

 その言葉と共に、魔物兵たちによる公開凌辱が開始された。

 マジックの放った言葉は、元ゼス国民の兵士たちだけでなく、前線全体に大きな動揺を与えた。軽い祝賀ムードさえ出ていた人類軍には大きすぎる亀裂が入ったのである。

 

―ランス城 ランスの部屋―

 

「な、なんだと!? 四王女が公開レイプされてるっていうのか」

 

 青ざめた顔をしたウルザからの急報を聞き、ランスは目を見開かせた。

 

「はい……信じがたい話ですが。北部戦闘区から同様の報告があがっており、事実と判断するしか」

「よし。俺様が前線に行く」

「待ってください。軽挙はなりません。明らかにこれは、総統を釣り出す為の罠です。舞台のまわりは精鋭の魔物兵で守られていますし、ここは」

 

 ウルザは進み出さんとするランスの肩を掴み、切実に再考を促す。

 

「だからってここで俺様が出ないと昨日せっかく火をつけてやったのが台無しになるだろーが! ウルザちゃんがなんて言おうが、俺様はいくぞ。ついてこいシィル!」

 

 ランスはウルザの制止を振り切って、部屋から出ていった。

 

―北側 第四区―

 

 ランスが公開凌辱がされている現場についても、その模様は相変わらず流され続けていた。

 

「総統!」

 

 ランスの姿を見て、兵士たちは次々と縋るような目線を投げかけた。

 

「うわあ……あまりにもひでーやこれは……」

 

 ランスに続いたアルカネーゼはそう率直に感想を漏らした。画面に映し出されている彼女たちには血や精液、汗やツバ、小便などがありとあらゆるところにかけられ、素肌の見えるほうが少なくなっていた。

 

「ランス。眼前の状況を見た限りでは、昨日よりも精強な魔物兵が、周りを固めています。安易な突撃は禁物ですよ」

 

 クルックーは単眼鏡を使って軽く敵軍を見渡し、そう評価を下した。

 ランスはクルックーの忠告がきこえているのかいないのか、塹壕の上に登り、カオスの切っ先を魔物兵たちの方に向け、兵士に力強い視線を投げかける。

 

「悔しくねえのかてめえら!! 眼の前でおめーらの君主が犯されているんだぞ!! 今から俺様はあの舞台に向かって一直線に突撃し、何が何でも取り返す! お前らにひとかけらでも勇気があるなら、俺様に従い、協力しやがれ!」

 

 ランスはそのまま一人で魔軍に向かって突っ込んでいった。

 

「あたしたちも行くぞ! ランス兄ぃを死なせるな!」

「ランス城騎士団! 突撃! 僕についてこい!」

「ランス殿に続くぞ! 香姫様ぁ!! 待っていてくだされ!! 必ずやこの勝家めが、お救いいたしますぞ!」

 

 それから数瞬遅れてアルカネーゼやランス城騎士団たちがランスに続き、それにあてられるように塹壕内の兵士たちが一斉に奪還のために次々と動き出した。その数、総勢3800名。

 ランスは鬼畜アタックを繰り返しながら突破口を作り、アルカネーゼやクルーチェ、柴田勝家などがそれを広げていく。

 

「馬鹿な奴ら。人類軍が奪還に動き出しましたぞ」

「ようし、ヨシフ様の言う通り、殺してから撤収するぞ。こらお前ら、離れろいつまでもがっつくな」

 

 壇上にいる魔物隊長は事も無げに剣を四人の王女たちに向けた。罵詈雑言や卑猥な言葉を浴びせながら組み伏せていた魔物兵たちは即座に離れる。

 そして次の瞬間、マジックの首が魔物隊長の手によって飛ばされ、そのまま高々と掲げられる。

 ここからは離れたCITYの前線から、大きな嘆きの声が伝わる。そして、次に香姫とシーラの首が飛ばされ、同じ作業が繰り返された。

 

「―――」

 

 最後に残されたリアは、犯された状態のまま虚ろな目でそれを見ていた。彼女は陥落後に施された肉体改造によって、肌はきめ細かさが失われ、局部や乳房が肥大化し、見るも無惨な姿となっている。

 魔物隊長は三人の王女の血がついた剣を払ったのち、リアのもとへとずんずん近づいていった。

 

「待ちやがれ!!」

 

 リアの首も落とされようとするその刹那、ランスが扉を乱暴に蹴破り、魔物隊長の前に姿を現した。

 

「ほう。あの兵の中、よくここまでたどりついたな。感心したぞ」

 

 魔物隊長はランスの方に振り返る。

 

「よくも……、俺様の女にこんなことしやがったな! 死ねえええええ!!」

「ぎゃあああああ!!」

 

 ランスは怒りに任せて剣をふるい、一閃のうちに魔物隊長は斬り伏せられた。そしてそのまま、ランスはリアの手をとった。

 

「おい。大丈夫か。しっかりしろ」

「――――――。ダ……ダー……リン?」

 

 リアはランスを認識すると、意識を取り戻す。

 

「おう。助けに来てや」

「嫌……。嫌あああああ!!! 見ないでええ!!!」

 

 リアはランスの手を振り払い、体を自らの手で覆い隠す。

 

「おい、どうした……あ……」

 

 ランスはリアの体を見て状況を察した。何もかもが魔物の責め苦に耐えられるよう改造された体。かつてランスが求めた端正で、美しい肢体はもはや影を潜めてしまった。

 リアは自身の変貌ぶりへの恐怖や羞恥のあまり、半狂乱になって手を振り払い続け、ランスの接触を拒んだ。

 

「リア……様……」

 

 シィルはあまりにも変わり果てたリアの姿に、後の言葉が浮かばなかった。

 

「うっ……。酷いなこれは……」

 

 やがてランスに続いて来た仲間や兵たちが次々と舞台に現れる。アルカネーゼは首なしとなった三人の体と、すぐそばにある頭をみて率直にそう漏らした。

 

「ランス。無事ですか」

「ああ……なんとかな」

 

 ランスはやや影のある表情で、クルックーに答えた。彼女はランスの背中越しにいる人物を見つける。

 

「リア女王は……なんとか生きておいでですね」

「ああ……だが」

 

 その先はランスも言葉を濁した。

 クルックーが近づくと、

 

「嫌あ! 近づかないでぇ!!」

 

 と手で払いのける。もはやかつての凛として気高い、名君の女帝の姿はどこにもなかった。

 

「連れて帰るぞ……。これでも、一応俺の女だからな」

「わかりました」

 

 その後、三王女の遺体と、壊れたリアを連れて防塁まで、魔軍の反撃をうまく振り切って帰還する。

 

―CITY 城門―

 

 城門にたどりつくと、チルディとウルザが出迎えに来ていた。

 

「ご無事でなによりです。ランス総統」

「ああ」

 

 ランスは短く答えた。しかし、その顔は浮かなかった。

 

「状況は聞いてるか」

「はい」

「……、マジックのこともか」

 

 ウルザは少しだけ目を伏し、唇を噛み締めて

 

「ええ」

 

 と答えた。悲哀の感情を極限までおさえた、そんな声と所作である。

 

「すまん……」

 

 ランスからは珍しくそんな言葉が口を突いて出た。

 

「いえ。ランスそ……ランスさんが悪いわけでは、ありませんから」

「リア様は、リア様は無事なんですの?」

 

 チルディは真に迫った表情でランスに詰め寄る。

 

「生きてはいるがな……」

 

 ランスはリアを連れ出したクルックーを目で指示して、リアを見せるよう、うながした。

 

「リア様。よく、よく生きて帰られ」

「――――」

 

 チルディは拝跪してリアを迎えたが、様子がおかしいことに気づき、見上げる。叫び疲れたのか、茫然自失な状態に戻っている。

 

「そんな」

 

 リアは一枚羽織っていたが、その異状さはそれだけで隠しきれるものではなかった。チルディはあまりのことにしばらく言葉を失った。

 

「おいたわしい……」

 

 ウルザは小さく、変わり果てたリアを見て呟いた。

 

「すみません……すみません」

 

 シィルはランスにかわってチルディに頭を下げた。

 

「ま、まぁ。生きて戻られただけ、果報には違いありませんから。そうでございますわよね。イベットさん?」

「……」

 

 チルディに連れられたイベットはあまりのことに、どう反応していいか分からない顔をした。

 

「さすがにこういうときくらいはなにか、喋って欲しいですわね」

 

 チルディはそうイベットに漏らしたが、特に非難の色はなかった。

 

「……、香ちゃんとシーラ、マジックは丁重に弔ってくれ。リアは……、城で預かる。一応専用の部屋もあることだしな」

「分かりました」

 

 翌日、CITY内の斎場で三王女の葬式が行われた。財政事情から身分に比しては小規模なものだったが、多くの参列者が訪れた。

 リアはランス城内のリーザス大使館にあてがわれたが、半狂乱となるか、虚ろになるかで、正気に戻ることはなかった。

 こうして、人類軍の士気は大きく下がり、規律や統制のタガの緩みは押し留められなかった。

 

―魔軍本陣―

 

 それから二ヶ月が経過した。

 元から危険な状態であった士気は、三王女の死とリアの狂乱によって更に下がり、軍民関わらず騒乱や暴動がたえなくなっていた。

 加えて、魔軍側も連日捕虜の公開処刑や拷問、凌辱を繰り返し、ひたすらに精神を削いでいった。ランスも最初は救出に向かっていたものの、五日目あたりから嫌気が差すようになり、魔軍の警備がより厳重になったのもあいまって、それを皮切りに放置するようになった。これも総統への批判が高まる原因となった。

 それでもウルザら参謀部による懸命な施策や、何よりも後がない状況下により長く戦線を維持できてはいたが、ついにこの前の日に魔軍が総攻撃を開始し、あっという間に防衛線を次々と突破。CITY本体の外壁に迫っていた。

 

「ぐぅわぁはぁはぁっはー! よーくやってくれたな。もうこれで人類どもは俺達に逆らおうなんて妙な気はおこさねえだろう」

 

 病的なまでに慎重なケイブリスがいよいよ本陣に乗り込んだということは、作戦が最終段階にさしかかったことを意味する。

 

「既に死傷者・逃亡者含めて8万人にのぼり、CITY本部を守る兵はほんのわずかしかおりません。明日にも事は決するでしょうな」

 

 ヨシフはケイブリスの前に控え、調子の良い声色で報告する。

 

「明日は俺が前にでて指揮を取る。あいつらに一片の痕跡も残させねえよ」

 

 そういってケイブリスは野卑な笑い声をあげた。

 

「いつもは慎重なケイブリス様がやる気だワン」

「それだけ相手がもう弱っちくなったということだニャ」

 

 使徒のケイブワンとケイブニャンはそれぞれケイブリスを持ち上げる。

 

「そういうことよ。人類軍の総大将くらい、俺様直々に首をとらにゃ格好がつかんしな」

「カミーラと結婚したから、特に張り切ってるんじゃないんですかワン?」

 

 この二ヶ月の間にケイブリスはCITY以外の全ての反乱を鎮圧し、ゼスから救い出したカミーラと無理やり結婚式をあげた。

 

「カ。カカカ、カミーラさんに俺様の強い所証明しないと、夫としての沽券にも関わるからな」

 

 ケイブリスは有頂天な様子でそう話した、よほど嬉しいようである。

 

―ランス城 ランスの部屋―

 

 謁見室の方で、ランスの主だったメンツが全員集まり、会議が行われていた。

 

「率直に申し上げます。もはや我々に魔軍に抗す力は残されておりません。忠誠を誓う兵士は少なく、人員が足りないのに加え、魔人ケイブリスが表に出てきてしまってるからです」

 

 防衛線が突破されたことで魔軍側の攻城兵器が届くようになり、すでに市内のかなりの部分が被害を受け、いよいよ末期の様相を呈し始めていた。

 クリームはそんな絶望的な状況を、悲しげに語った。

 

「もはや決戦は明日。か」

 

 ランスは既に覚悟を固めていた、食糧も装備在庫もわずかしかなく、兵が満足に動ける時間もそう残されてはいない。

 

「ケイブリスダークの記録を以前読みましたが、何もかもが規格外の魔人で、彼一人で数千の兵が守る砦を粉砕したという話があるほどです。無敵結界もあるとはいえ、素の力が途轍もないのは間違いありません」

 

 ウルザは恐ろしいほど冷静に、淡々と事実を述べる。

 

「ひっ……。そんなとんでもない魔人が、ここに来るんですか?」

 

 シィルが怯えた表情で言う。ケイブリスダークの話は歴史の授業でもやるとはいえ、そこまで詳細には触れられていなかった。

 

「確実なことは言えませんが、わざわざここまで来たということは、自身の手で総統と決着をつけたがってると見るべきでしょう」

「ちっ……。野郎に求められても毛ほども嬉しくねえが、そこまで望んでるならやってやろうじゃないか」

 

 ランスはこの状況にあっても、生来の強気を維持していた。

 

「もはや勝てるかどうかではなく、やるのみですな」

 

 JAPANからの援軍に来た将軍で唯一生存している柴田勝家は、そう言って槍を構え直した。上杉謙信や、毛利てるなどは滅亡後の合流前に魔軍の急襲を受け、戦死している。

 

「お、オラもランス様の為、また命をかけるだ」

 

 三日前にようやく包帯が取れたばかりのロッキーは、武者震いをした。

 

「ロッキーさん。まだ傷も塞がりきってないのですし、あまり無理をされては」

「ウルザ様。心配してくれて嬉しいけども、いいんだす。オラは、ランス様の為に、できる限りのことをしたいだ」

 

 あまりにも愚直にランスへの忠誠を口にするロッキーに、ウルザはこれ以上何も言えなかった。ただ、黙って最敬礼をする他なかった。

 

「形勢は極めて不利と言わざるを得ません。しかし、私たちには世界で二振りしかない魔人をも倒せる武器を持った2人がいます。そこに賭ける他、私たち……人類には望みはありません」

 

 クリームはそう言いながら、ランスと健太郎に視線を合わせる。

 

「こうなったらもう他は全部捨てるしかないな」

  

 ランスは唐突にそんなことを言い出す。

 

「え……?」

 

 クリームは何を言われたのか一瞬理解できず、目を瞬かせる。

 

「私も一応……それは考えました。この城だけを死守拠点とし、CITYを捨てるということ……ですよね」

「さすがはアールコートちゃんだ。そういうことだ。もう使える兵も少ないのだから、拠点を絞り、そこを守らせたほうが効率はいい」

 

 ランスの作戦はシンプルなものであった。しかしそれは今まで前線で踏ん張ってくれたCITYの兵士や、戦争を支えてくれた市民たちを事実上見捨てるのと同義である。

 

「総統。それはあまりにも……」

「ウルザちゃん。相手はデカブツなんだ、使える兵も少ない中で広く守ろうとしても無駄だ。ああいうのは一カ所をぶち破るのをねらってくるからな」

「何を言ってるのですか総統! 我々が人類を守らずして、何の意味が」

 

 クリームはあまりの言葉に激昂するが、ランスはそれ以上の圧を持った言葉で返す。

 

「俺はハナっから、人類がどうなろうと、どうでもいい。俺様と、俺様が楽しくきままにやれるものがあればいいんだ。今まではたまたまそれが、噛み合っていたから俺様も協力していただけだぞ。クリームちゃんは何か勘違いしてるんじゃないか?」

 

 そう言うとクリームは、そうだ、ハナからランスはそういう男だったと認識し、沈黙した。ランスは内心、どうせ終わるならば俺様のやり方ですきにやると決意を固めていた。

 

「総統の意見は分かりました。しかし、いきなりそう告げれば多大なる混乱が起きかねません。兵たちには、規律を保ったままランス城まで少しずつ後退せよと、そう命じてもよろしいでしょうか」

 

 ウルザは妥協案としてこれを提案した。

 

「分かった。それでいい」

 

 ランスの言葉にウルザは少しだけ安堵したかのような表情を見せる。

 その後も、明日の最終決戦に向けての計画が詰められ、2時間程で議題は終了した。ケイブリスをこの部屋まで誘い込み、一気に畳み掛ける算段である。

 

「ようし。そんじゃあ俺の女どもはそのまま俺の寝室に来い。ついでに城にいる女できるだけ全員だ」

「は……? 何を言ってるのですか? 明日はどういう日かおわかりなので」

「分かってないなクリームちゃんは。明日が決戦だからこそ、俺様が直々に愛を注ぎ込んでやろうって事だ。あ、野郎どもはさっさと寝ろよ。覗いたりしたらケイブリスの前に俺様が殺す」

 

 ランスはクリームの言葉を遮りながらそう自信満々に答えた。男性陣は一部恨めしげな目をしながら、その場をすごすごと退散した

 

「え……えーっ!? そ、そんな……はわわわ」

 

 アールコートは顔を紅潮させ狼狽している。

 

「はぁ。全く、ウルザさんも何か言ってあげてください」

 

 話を振られたウルザは、暫し顎に拳を当てて考えた後

 

「仕方がありませんね。いいですよ」

 

 と、諦めたかのような表情で答える。ついに観念し、聞かん坊の弟を観るような視線をランスに送った。

 

「えっ。そんな……。どうしちゃったんですかウルザさん」

 

 普段ランスに誘われたら即座にゲンコツを食らわすウルザしかイメージに無かったクリームは、予想外の発言に困惑する。

 

「借りもありますからね。それに、ランスさんとすること自体は……いえ、なんでもありません」

 

 そこから先を言うと調子づかれるとでも思ったのか、ウルザは、先の言葉を言わなかった。

 

「そ、そんな」

「よーし、じゃあまずは今まで俺様にたっぷりと貢献してくれた三軍師たちと4pからだ! がはははは」

 

 そういって、嫌がるクリームを無理やり抱き寄せながら、4人は寝室へ向かった。

 最期を予感してか、この日のランスの射精数と絶頂させた数は、最高記録を大幅に更新した。

 

ー終ー

 

 

 

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