ランス短編・中編集   作:OTZ

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鬼畜王ランスヘルマン仕官ルート(下)

―リーザス城 リアの部屋―

 

「へぇ……ダーリンが盗賊団の長ね」

 

 リアはかなみからの報告を興味深げに聞いていた。

 

「はい。一度ヘルマン軍の攻撃を受けたようですが、敵指揮官を生け捕りにすることで壊滅することに成功したようです」

「さっすがダーリンね。リアが惚れただけのことはあるわ」

 

 リアはまるで自分のことのようにランスの活躍を喜んだ。

 

「それで、ヘルマンの動きはあれから?」

 

 筆頭侍女のマリスがかなみに尋ねる。

 

「はい。内部の事情はよく分かりませんが、偵察は厳重に行っているみたいで、ランスたちの行き場所を把握し、軍を配備するなど威嚇行動は取っていますが本格的な衝突には未だ至っては居ないようです」

「あれだけ派手に暴れているのに盗賊に手も出せないなんて……。よっぽどあの国はガタがきてるみたいね」

 

 リアは呆れ気味に言いながら、マリスの淹れた紅茶に口をつけた。

 

「しかし、全く放置しているわけではない以上、ヘルマンの上層部はともかく、軍単位では既に問題は把握した上で出来うる限りの行動はとっています。ランス殿の身が危険であることには依然としてかわりはないかと」

「そうね……。よし、決めたわ。マリス、とりあえずリックとバレスと、あとレイラも呼んでおいてくれない? ダーリンの”護衛”として誰かしら送りたいから」

「かしこまりました」

 

―リーザス城 謁見の間―

 

 しばらくして、三軍の長が集められた。

 

「というわけで、あなたたちからダーリンの身辺警護と、ヘルマンの偵察のために人をやりたいの。どうかしら?」

 

 下問に対し、バレスがまず答えた。

 

「老骨に鞭打ち、儂めがいきたいところですが……。そのようなお話ならば万一に備え、マウネス砦をはじめ兵を置かねばなりませぬ。他国境のことも併せ考えますと、余分な兵はおりませぬな」

 

 バレスはそう冷静沈着に言い、口ひげを撫でた。レリューコフ率いる1軍が普段以上に東方に兵を配備していることを耳にしており、できる限りの警戒を念頭においている。

 

「親衛隊からは出そうと思えば何人か回せます。しかし、送られる先がランスく……、ランス殿だけならばともかく、盗賊というのを考えると、彼女たちの身の安全を預かる身としては、遠慮したく思います」

「レイラ、貴女自身が行くのはどうなの?」

「問題ありません。彼とは個人的にも、色々と縁もありますし……」

 

 レイラは口元を緩ませて、それに賛同した。

 

「そう。まあレイラならば安心ね。じゃあ、あとの軍はヘルマンに備えて」

 

 そうリアが締めくくろうとしたところ、バレスが口を挟んだ。

 

「お待ちくだされ。此度はランス殿の警護が主任務。何が起こるか分からぬヘルマンに送り込む以上は、より確かな剣士を送るべきかと」

「あらバレス将軍。私では力不足であると仰せですか?」

 

 レイラは少しだけ不満げな顔をバレスに向けた。

 

「そうは言わぬが……。護衛ならばより適材がおるであろうという話じゃ。のう、リックよ」

「はっ」

 

 バレスがリックに目を向けると、リックは短くも明瞭に返答した。

 

「リックを? 確かに適材ではありますが……、ランス君が喜ばないんじゃないかしら」

 

 ランスの気質をよく知っているレイラは、そう懸念を示す。

 

「それは別に考えれば良いこと。まずはランス殿の身の上が第一。猛者揃いのヘルマンではどんな敵が襲いかかってくるか、分からぬ。軍が限定的とはいえ動き出してるなら尚更じゃ」

「分かりました。ちょうど先のヘルマンとの戦では物足りないと、思っていたところです」

 

 意気揚々とリックは剣の柄を握り、その自信を伺わせた。

 

「赤将が抜けるのはちと痛いが……。まあ。レリューコフもそう簡単に行動には出んじゃろう。しばしの間は副将に任せよ」

「待ってバレス。軍はできるだけ派手に動かしてちょうだい。ヘルマン側の柵を一つや二つ壊しても構わないから」

 

 リアは慎重を取ろうとしたバレスに対し、むしろ戦意を煽る。1軍をなるだけ張り付かせ、ランスに振り分ける余裕を与えないようにする意図であった。

 

「承知。黒軍と赤軍を出来うる限り動かし、引きつけましょう」

「しかしリア様。リック殿だけではランス殿もお気に召さないのでは……」

 

 マリスが少しだけ不安をのぞかせる表情でリアに言った。

 

「ふふふ。ダーリンの事一番分かってるのはリアだもん。ちゃーんと考えてあるわよ、その点もね」

 

 リアは不敵に笑い、その候補のことを考えていた。

 

―コサック近く 戦場―

 

「はわわ……。やはり凄いですね。リックさんは」

 

 シィルは先程の間での劣勢はどこへやらとばかりに、蹴散らし続けているリックと赤の軍の面々を見つつ、口に手を当てながら率直な感想を述べた。

 

「ふん。リアの差し金みたいだが、どうせならもっと早く送れってんだ。あと少し遅れてたら流石の俺様もちょっとヤバかったぞ」

「しょうがないでしょ。リーザスから結構遠いんだから……」

 

 と、いつの間に現れていたかなみが呆れたように息をついた。

 

「なんだかなみ。お前も来ていたのか」

「な、何その反応……。リック将軍だけではランスが気を悪くするからって無理やり行かされたのに!」

「フン。まあ、少しは気を遣ったみたいだな。偵察に潜入、夜のお世話まできっちりやってもらうぞ、がはははは」

 

 やっぱりくるんじゃなかったと、かなみは目に見えてわかるほど肩を落とした。

 

「かなみさんそんな顔。なさらないでください。今、お茶を用意しますから」

「う、うん。ありがとう。シィルちゃん」

 

 シィルの優しさに少しは心が晴れそうなかなみだったが、すぐにランスに壊される。

 

「何言ってやがる。すぐに仕事をしてもらうぞ」

「えっ」

「どうやら敵将は女らしい。クリームちゃんっていうそうだ。すぐに本陣に潜入して、捕まえてこい」

 

 ランスの無茶な命令に、かなみは目を怒らせて反応する。

 

「そ、そんな! 無理よ。ランスの場所突き止めるのに精一杯で準備も何もしてないのに!」

「もし、無事に捕まえてきたら、セックスするのは勘弁してやる」

「え?」

 

 ランスの口から出た意外な提案に、かなみはその身を止めた。

 

「ああ。お前はもう何回か抱いてるからな。英雄の俺様には常にフレッシュな女を抱く務めがあるのだ」

「フレッシュって……」

 

 かなみは呆れ顔でランスの言葉を流しながら、暫く考え込んだ。ランスはそのさまをニヤニヤとしながら見つめている。もちろんそんな約束など守るつもりはない。

 

「分かった。できる限りがんばってくる……。約束、忘れないでよ」

 

 そう言って、かなみは風のように消えていった。

 

―ヘルマン側本営―

 

 突然の敵側の援軍に本陣は大変な混乱を呈していた。

 

「くっ……。何なのよ、このデタラメな強さ。どんなに防衛線しきなおしてもどんどん突破していく……」

 

 クリームは頭を抱えていた。長く西方の番裏の砦を守る2軍に居り、先の戦争の際も直接は関わらなかった彼女にとっては赤軍の介入など完全に計算外であった。

 

「副将! 敵がここ一直線につっこんで来ています! もはやここも危ないです。一時撤退を!」

 

 中隊長は狼狽しきったような声で注進する。

 

「悔しいけど……。ここは仕方ない……か。E、F小隊を盾に、A、B、C小隊をコサックに向けて引くよう伝令を。数では依然として我々が優勢だから、決して散開せず、複数人で囲むように敵に対処させるのを徹底させて!」

「御意!」

 

 クリームの指示に従い、中隊長はすぐに現場へ向かっていった。

 

「ふう。甘く見すぎた……かしらね」

 

 そう言って力なくクリームは軍議用の椅子に腰を下ろした。この敗戦でまたあのいけ好かないボンボンの将軍に罵倒され、若輩だから、女だからと蔑まれるのかと思うと、クリームの内心はとても落ち着かなかった。

 

「っ……!」

 

 クリームは黙って軍議の机を一度拳で叩いた。

 そうしていると、別の伝令が報告に来た。

 

「副将。よろしいですか」

 

 その姿は何度か見覚えがあった。王室専属の特殊部隊である、闇鷺であった。

 

「どうしたの」

「陣の近くで怪しい動きをしている者がいたので、この通り捕らえてまいりました。いかがしましょう」

「むぐぐ……!」

 

 女忍者、もといかなみは口を封じられ、手を戒められながらクリームの前に突き出された。

 

「忍者……。珍しいわね。本で読んだことはあるけど」

「JAPAN特有の装束を着た間諜です。恐らくは副将の認識で誤りはないかと」

「時間がないけど……。情報を聞き出しましょう。喋れるようにしてあげて」

 

 闇鷺は口の戒めを外し、かなみは反抗的な目でクリームを見据えた。

 

「さて、こういう手段は好きじゃないのだけど」

 

 クリームは静かに軍刀を抜き、首につきつける。

 

「死にたくなければ答えなさい。リーザスはどの程度関与してるの」

「……」

 

 かなみはクリームを睨みつけたまま、全く答えようとしない。

 

「まあそう簡単には答えないわよね。じゃあ、あの急に入ってきた援軍と、リーザスとは関係があるの?」

 

 彼女は答えなかったが、わずかに眉を動かす。

 

「そう……。そうなのね」

 

 それだけが聞きたかったとばかりに、クリームは剣を鞘におさめた。そのまま兵の一人を呼ぶ。

 

「すぐにレリューコフ将軍に盗賊団の中にリーザス軍ないしリーザスの関与を受けた兵がいることを伝えて。リーザスの関与が明らかならば、さすがに1軍も動かざるを得ないでしょう。そうなれば、あんな盗賊など一捻りだわ」

 

 兵がクリームの命を聞き、出ようとした瞬間、陣が切り裂かれ、敵兵が乱入してきた。

 

「副将、クリーム・ガノブレードだな! 神妙にしろ!」

 

 よく規律を受けた兵士の言葉に、クリームは時間切れであることを悟らざるを得なかった。

 

―アークグラード 1軍本営―

 

 コサックからの急報に、1軍は大きく動揺した。この日も合同会議が行われ、副将が捕らえられたことから仕方なく将軍のネロが出席した。

 

「な……。クリーム君が捕らえられたとな?」

「ええ。全く女の士官はこれだから困りますよ。勝手に私の断りなく軍を動かした上に、挙げ句こんな負け戦を」

 

 ネロはふんぞり返って、その場にいないクリームを憎々しくなじった。

 

「こうなったからには私が直々に打って出て、賊徒どもをヘルマン騎士の名にかけて成敗致します」

「しかし、副将を失って、4軍はかなり大きな混乱を引き起こしていると聞き及びますが……。本当に大丈夫なので?」

 

 カールは半分蔑みをもった視線でネロに尋ねる。事実上軍務を全て回していたクリームを失ったことで4軍は機能不全となり、麾下にある都市や、兵站、調達に多大なる支障を来たしていた。

 

「我々4軍はヘルマンの盾。脅かすものがあれば打ち払うのみ」

 

 ネロの答えになってない返答を聞き、最早命運は尽きたとレリューコフも、カールも直感した。適当な愛想笑いを浮かべて発言を流し、レリューコフが口を開いた。

 

「最早こうなれば、儂の出るほかあるまい。ここまでの事態になったからには、事後報告でも許されるじゃろうて」

「しかし、将軍。ステッセルは将軍を潰したがっているのですぞ。そうむざむざ口実を与えて……」

 

 カールが止めようとした所、もう一人その場に割って入った男が居た。

 

「じーさん無理すんな。盗賊如き、俺等がやりますよ」

 

 ボサボサ頭を掻きながら、焼けた声でレリューコフを制したのは、5軍の将、ロレックスであった。

 

「ロレックス将軍! いつもの如く、神出鬼没で……」

 

 遊撃・特務担当の5軍は決まった任地がなく、このようにふらりと軍議の場にでることは珍しいことではなかった。

 

「評議会の裁可がでたのかの?」

「ええ。有り難くも、ステッセル閣下直々にね。ウジ虫にはウジ虫を……って、如何にもあのヤローが考えそうなこった」

 

 ロレックスは侮蔑の意を隠そうともせずに言い放った。

 

「分かった、そういう事ならば、お主らに任せよう。得体のしれぬ強さを持つ連中じゃ、そちらの方が適任やもしれぬしの」

 

 レリューコフは決して蔑みの意図はなく、敬意と信頼を持ってロレックスに託すことに決定した。

 

「いやー、面白そうな連中で、久々にやりごたえありそーっすよ。このところ、やり甲斐のねえつまらん仕事ばっかでうちのチンピラどもも緩んでましてね。ここで一発ヤキ入れるにはちょうどいいっすよ」

 

 5軍副将のオルオレはニヤついた笑みを見せながら、任務への自信をのぞかせた。

 

「実を言えば、リーザス国境もそれなりに動きをみせておっての。あまり兵は割きとうはなかったのじゃ。頼むぞ、ロレックス、オルオレよ」

 

 レリューコフは両人の肩を叩き、それぞれの目を見て、激励した。ヘルマン軍第一の柱石である人物の付託に二人は、明瞭な応諾の返事を以て、それに答える。

 

―洞窟 ランスの部屋―

 

 略奪に成功し、多くの団員を失いながらも二度目の正規軍撃破によって、盗賊団はその士気を大いに上げていた。

 

「がはは。今日の俺様は最高だ!! ヘルマンのゴミどもをこうもたやすく破れるとはなあ!」

 

 ランスは捕らえたクリームを眼前に、高らかに勝利を宣言した。

 

「くっ……。まさか、赤い死神が盗賊団の中に紛れてるなんて……」

 

 クリームは悔しさを多分に滲ませた声を発しながら、下を向いた。

 

「たやすくって。リック将軍がいなければやられてたのはランスの方でしょ」

 

 かなみは目を瞑りながら、やれやれといった様子でランスに呟いた。

 

「そうよっ……! 包囲は完璧で、途中までは確実に押せていたのよ。なのに、こんなっ」

「がははは。なんと言おうが、勝者は俺様で、お前らヘルマンは敗者。それは動かせん事実なのだ」

 

 ランスは前に出て、クリームの右肩を靴で押さえつけながらそう嘲った。輝くような金髪は既に土に汚れ、4軍の知将としての彼女のプライドも威厳も、今やズタズタに切り裂かれている。

 

「ふっ。ふふふふふ」

 

 クリームはランスの足下でにわかに低く笑い始めた。

 

「何がおかしい」

「そうやって今は笑っているといいわ。使者は送れなかったけど、生き残った兵からいずれリーザス介入の噂は伝わる。ヘルマン軍が本気で潰そうと思えば、この程度」

「フン。ルーベランちゃんも同じこと言ってたが、その結果お前らは敗れただろうが。俺様を舐めるなよ」

 

 クリームを一度軽く蹴って、ランスは元の位置に復した。

 

「しかしお頭。尋問したヘルマンの連中の話では、本格的に俺等を脅威とみなして動いてるようだぜ。団員もかなり失ったし、拠点を移すくらいは考えたほうが」

「ランス殿。我々もあくまで護衛として来ているに過ぎません。来る火の粉は払いますが、御身を守ることを考えれば、大きすぎる危険は避けたほうが賢明だと思います」

 

 バウンドとリックがそれぞれ提言する。リックは赤の軍から精鋭を30名ほど連れてきてはいたが、今回の戦いで盗賊団自体が大きく人数を減らし、まともに戦える者は戦闘前の4割程度である130名程度にまで落ち込んでいた。

 

「だが、さっきお前が話した話じゃ、あのジジイが国境でちょっかいかけて釘を刺しているんだろ? 4軍も副将を失ったんじゃ、しばらくは動けないはずだ。しばらくは息もつけるんじゃねーか」

 

 ランスはそう楽観を語るが、リックもバウンドも懸念は晴れなかった。

 

「フン。まあいい。とりあえず戦勝者の権利として、クリームちゃんは頂くかあ。聞きたい事もるしな、がははは。お前らも今日は各自で休んでいいぞ」

「えっ。ちょ……嫌あああ」

 

 そう言ってランスはクリームを抱えて、寝室へと消えていった。

 

「全く……。相変わらずねあの男は」

 

 消えていった方向を見据えながら、かなみは吐き捨てた。

 

「しかしまあ。音に聞こえた赤い死神が、俺達の仲間になるとはなぁ。今後とも宜しく頼みますよ、リックの兄貴」

「恐縮です。しかし、我々はあくまでランス殿の護衛に来たのみ。我々赤の軍は、あなたたちの仲間になったわけではありませんよ」

 

 リックは最低限の礼はこなしつつ、バウンドに対しては一定の線を引いた。

 

「そ、それはつまりどういうことで?」

「ランスの身に危険が迫ったときは私たちは助けますが、盗賊稼業までは手伝わないってことです」

 

 かなみははっきりとした声色でそう強調した。

 

「生業ですから、止めはしませんけどね。協力もしません。寝床も我々は別に野営するつもりですし」

「わ、分かりました……」

 

 一瞬士気を高揚させたバウンドは、肩を落として、その場を去っていった。この場にはかなみとリック、シィルだけが残った。

 

「ランス様のために、本当にありがとうございます」

 

 シィルは二人に向き直って、深々と頭を下げた。

 

「私は正直、できれば、来たくはなかったけどね……」

 

 かなみは額に手をあてながらそう言う。

 

「うう……」

「私はランス殿の隣で戦えるのはありがたい限りですよ。あの人の傍で戦うと、血が滾りますから」

 

 リックはシィルを励ますつもりで、そのように告げた。

 

「ははは……。しかし、少し思ったんですけれど」

「どうしたのシィルちゃん」

「その……盗賊の皆さんには協力しないということは、日々のお食事などはどうなさるのですか?」

 

 シィルは率直な疑問をぶつけた。

 

「しばらくの分くらいなら、持ち込んできているし大丈夫よ。心配しないで」

「自分らも、遠征前提で兵站に組み込んであるので、当面は問題ありません」

 

 リックやかなみは自信を持って返答した。

 

「でもその……。ランス様は、今の生活をやめるつもりなさそうです……よ?」

 

 シィルは遠慮がちに尋ねた。

 

「大丈夫です。あまり大きい声では言えませんが、長くは続きませんから」

 

 リックは確信を持った目を、仮面の奥からのぞかせる。

 

―洞窟 ランスの寝室―

 

「うう……何度も何度も。化け物ですか、あなたは」

 

 クリームは処女を散らされ、そのまま6回に亘って犯された。

 

「がははは。なかなか良かったぞクリームちゃん。君はAランクだ、俺様だけの女にしてやろう」

 

 ランスは洞窟と情事の湿気で汗だくになりながら、クリームの顎を指で持ち上げてニヤつく。

 

「勝手なことを……。い、いいですか。あなた達には必ず、ヘルマン軍によって鉄槌が下される! いつまでもこんな無法が通じると思わないことね」

 

 クリームは破瓜と、無理な性交による苦痛に耐えながら、ランスに啖呵を切った。

 

「ふーん。ヘルマン軍ね……。よくそんなに信頼ができるな?」

「当たり前よ! 私は、命をかけてヘルマンという国に尽くしている。たかが二度、まぐれで勝ちを拾った程度でいい気になっていたら、必ず痛い目に」

「こんだけ俺様が暴れているのに、ろくに兵も出せない国がねぇ……。言っちゃ悪いが、リーザスならなんぼかマシに動いてるぞ?」

 

 ランスは直感で思った事をそのまま口にした。なんだかんだ言っても、ランスの内心ではリーザス軍のことはそれなりに買っている。

 

「ぐっ……。しかし、それでも、私はこの国に」

 

 クリームの内心は穏やかではなかった。今回ほどでなくても、無能な将軍の判断の遅れや誤采配により危機に陥ったことが何度となくあった為であった。

 

「そんなおっぱいやらなんやら丸出しのまま言っても、説得力がないぞ」

「なっ……」

 

 クリームは慌てて体を隠すが、ランスのハイパー兵器は臨戦態勢を再び整えた。

 

「だが、それはそれでそそるものがあるな! もう一度だ。とー」

 

 こうしてランスは一晩中クリームの体を楽しんだ。クリームの心中では、ランスから言われた事が頭から離れなかった。

 

―洞窟 Aランクの間―

 

 この部屋にはランスからAランク指定を受けた、女たちの居住スペースとなっている。間仕切りが設けられ、寝具や化粧台があるなど、それなりの空間は確保されており、ランスの部屋を除けばその次に良い居住空間となっていた。

 クリームはそこに放り込まれ、生活を余儀なくされていた。そこではルーベランも共におり、顔見知り程度だったクリームとは何度か会話するようになっていた。

 

「私たち……、本当に助かるんでしょうか」

 

 ルーベランはふとそんな事を呟いた。

 

「な、なにを言っているんです。ここまでの事態に発展した以上、レリューコフ将軍はじめ、ヘルマン軍がいずれここに攻め寄せ、解放されるのは目に見えています」

 

 クリームは力強い声でそう言ったが、ルーベランは気弱になってしまっている。

 

「しかし、副将が囚われてから既に3日経過しましたが、そんな気配全くないではないですか」

「それは……きっと、色々手続きなどに時間が」

 

 クリームの弁明も、ルーベランの耳には虚しく響く。

 

「私なんてもっと辛いんですのよ!」

 

 そう話していると、アナセルが間に入ってきていた。彼女は二人よりもさらに前にランスに囚われ、慰み者にされ続けている。

 

「そうでしたね……本当に申し訳ありません。私の力が及ばないばかりに」

 

 ルーベランは、床に手をついて、アナセルに謝罪した。

 

「あなたに謝ってもらったって仕方ないわ。いつのまにこんなに故郷から離れた場所まで連れ回されて……。もう限界なのよ! 盗賊如きにこんなに手間取るなんて……、ヘルマンという国を私は大きく見損なったわ」

 

 アナセルは蔑みきった目線を二人に向けた。

 

「救出がなされれば、私は貴女を責任をもって郷里までお送りし、相応の償いを致します。ですからどうか、お気を鎮めて……」

 

 ルーベランはなんとか宥めようとするが、アナセルの姿勢は変わらなかった。

 

「そんないつになるかも、なされるかも分からない言葉……。信用できないわ」

 

 と言い捨てて、アナセルは二人から離れていった。しばらくして、彼女のすすり泣く声がかすかに聞こえてきた。

 

「本当に……自分が情けないです」

 

 ルーベランは拳を作って、むしろで造られた、急ごしらえの床を叩く。

 

「ルーベランさん。貴女はすべき職務を執行しているだけです。貴女は悪くない。悪いのは……」

 

 クリームはそう言って彼女を励まし、その先の言葉を濁した。

 

―ログA近郊 平原―

 

 それから2日後、略奪の為、再びランスたちはめぼしい街に向かおうとしていた。

 この日は霧が濃く、そのためかなみを偵察にだしたが、沈痛そうな面持ちで、帰ってきた。

 

「どうした。なんかあったのか」

「この先に、ヘルマン軍がいるわ」

「ちっ……。またか、どうせ雑魚どもだろ?」

 

 ランスは軽口を叩いたが、かなみは大きく首を振り、その顔のまま続ける。

 

「あれは、ヘルマンの第5軍……、しかも将軍のロレックスが直々に率いてるわ」

「誰だそりゃ」

「ヘルマンの人斬り鬼の異名を持つ、大陸屈指、ヘルマン最強ともされる剣豪ですよ」

 

 リックは特に取り乱す様子もなく、冷静に、しかしどこか高揚したかのような声色で言った。

 

「ほーそうなのか。美人か?」

「中年の男性と聞きます」

「ちっ。つまらん。お前にやる、好きだろ、こういうの」

「よ、宜しいのですか! ありがとうございます!」

 

 リックは深々と頭を下げて礼を言う。ずっと戦いたかった相手と刃を交えられそうで、興奮しているのがこの場の誰にも伝わった。

 

「ちょっとちょっと! 迂回とかしないの? 回り道なら既に見当をつけてるけど」

「なーに。どうせ大したことはないだろう。いちいち逃げ回るのもつまらん。ここは正面突っ切って得物にありつこうじゃないか。なあ、お前ら!」

 

 ランスの掛け声に、盗賊団たちは大いに喚声をあげる。

 

「あ、呆れた……。今回は前みたいな規模じゃないのよ。少なく見積もっても5000人、おそらくあれはもう、ヘルマンがとうとう重い腰を上げたと見るべきよ」

「ご、5000だと……?」

 

 その数をきいて、ランスは驚愕した、盗賊団はリックの加勢を含めても250人程度しかいない。

 

「そう。だから回り道をして、なんとか」

「無駄でしょう」

 

 リックがかなみの提言を遮る。

 

「え?」

「相手はこの手の戦に強い遊撃担当の5軍。道は全て押さえられているでしょう。その上、この霧、しかも慣れぬ道だと統率が困難になる恐れがあります。ただでさえ寡兵なのです。あまり士気を削ぐようなことをするのは賢明ではない」

「ほう、じゃあどうするっていうんだ」

 

 ランスがリックに尋ねた。

 

「できる限りこの兵が一丸となって固まり、中央突破を狙うのみです。その隙でできる限り時間を稼いだ後は大きく迂回して、アジトにまで戻る。これしかありません。先陣は自分と赤軍が務めますから、ランス殿らは後ろに続いてください」

「略奪をする暇はないってことか……」

 

 ランスは苦い顔をしながら、リックの献策を聞いた。

 

「そんな……あまりにも無謀すぎる策だわ。そんなことなどせず、大人しく降伏するべきよ」

 

 同じく、ヘルマンの情報を引き出すためにクリームは随伴させられていた。

 

「バーカ。大人しく降伏して、今更許すわけねえだろ。それに俺様は、降るのはもってのほかだ」

 

 ランスは決断を下し、前に出る。

 

「よしリック、お前が先導しろ。敵の影が見えたら構わん、一気に突っ込め! 俺様はそれに続く」

「はっ。ありがたき幸せ」

 

 リックは心底嬉しそうに、連れてきた面々を集め、ランスの前に整然と列を作った。

 

―ログA近郊 ヘルマン5軍本営―

 

「ようし、奴さんかかったな。野郎ども、手筈どおり、突っ込んで正面の奴らが応戦してる間に、全方位からじわじわと囲んで締め上げろ。数では俺等が圧倒的に上だ。自信を持って戦え!」

 

 ロレックスの号令に、5軍の面々は野太い喚声をあげて答えた。そして、各々の配置に散っていく。

 

「しっかしほんとなんすかねえ。あの赤い死神が参戦してるってのは」

「いくらへっぽこどもとはいえ、あの嬢ちゃんが指揮してる4軍をああも簡単に崩せるのは、並大抵の所業じゃねぇ。十中八九、奴が絡んでるとみるべきだろう」

 

 ロレックスは確信を持って答えた。

 

「嬉しそうっすね~。将軍」

 

 オルオレはやや引いた目でロレックスを見た。

 

「ふっ。本物と直接刃を交わすことなんざ、そうそうあるもんじゃないからな。せいぜい、楽しませてもらうとすらぁ」

 

 ロレックスはそう言うと、愉快そうに笑った。

 

「おいらはまだ将軍に万一の事あったら困るんすよ。ほどほどにしてつかぁさい」

「なんだ。お前は俺がおくれを取るとでも思ってるのか?」

 

 ロレックスはオルオレに笑いながら尋ねる。

 

「いやそうは思わないっすけど……、そうなったらお互い戦えなくなるまで切り合うつもりでしょう?」

「あたりめぇだろ。命がけの仕合いで好きで刃を引くやつがいるか」

 

 だから困るんすよ……。と言わんばかりにオルオレはうなだれた。

 

―2時間後―

 

 5軍と盗賊団は衝突し、赤軍の突破力と、ランスたち盗賊団の統制でどうにか戦況は拮抗していた。

 

「ッラァァァァ―――!!」

 

 リックの一閃により、また5・6人の兵がなぎ倒された。黒鉄の騎士たちも彼にかかっては飴細工も同然であった。

 

「オラァァァァ!!」

 

 そうしていると、横合いから一際鋭い剣戟が、リックの横を薙ぐ。僅かなところで回避し、敵に相対した。

 

「赤い死神だな! 会いたかったぜ」

「貴公は!」

 

 リックは剣を構えて誰何する。直感で只者ではないことは理解した。

 

「ヘルマン第五軍・将軍、ロレックス・ガドラス! その剣筋、リーザスの赤い死神のものと見たが、いかがか!」

 

 ロレックスは、誰にも聞こえる大音声を上げる。

 

「リーザス赤の軍が将、リック・アディスンだ! ヘルマンの人斬り鬼に出会えるとは、武人として光栄至極! いざ、参らん」

 

 その言葉と共に、リックがロレックスのもとへ跳ね、剣をふるい、ロレックスがそれに応える。

 赤い死神と人斬り鬼の立会いがはじまり、しばらく衆人の注目を集める。

 

―数十分後―

 

「ちっ……。どこまで湧いてきやがるんだ」

 

 ランスは最早何人目になるか分からないほど、ヘルマン兵を切り裂いた。

 

「はぁ……はぁっ……。ランス様ぁ。今度こそもう、ダメかもしれません」

「だから、そんなこといっても死ぬだけだっていってんだろ! このバカ奴隷が!」

 

 ランスは血走った眼でシィルを怒鳴った。

 

「あっ、ランス様。あれ……」

 

 シィルが指さした先をみると、眼にも止まらぬ速さの丁々発止が繰り広げられていた。

 

「な、なんじゃありゃ……人間とっくに辞めてるだろ」

「リックさんと……、例の人斬り鬼さんでしょうか? はわわ……。全然見えないです」

 

 シィルとランスも遠くからしばらくそれを見物している。

 

――

 

「はぁ……はぁっ。つええ、つええな。アンタ。こんな僻地まで来た甲斐があるってもんだ」

 

 ロレックスは、肩で息をし、額や腕などに傷を負いながら、リックを讃えた。

 

「ええ。こちらこそ。ヘルマンまでわざわざ来た、甲斐があるというものです」

 

 リックは満面の笑みを浮かべながら、剣にロレックスの顔を映した。リックもまた少なくない傷をつけている。

 そうしてる間にまた三合斬り結び、火花が散った。互いの得物は既にボロボロである。ロレックスは飛び上がり、距離を取る。

 何をする気だとばかりに、リックも瞬間的に2,3歩退いた。

 

「このままいつまでも斬り合っていたいが、そうもいくまい。ケリをつけさせて、もらうぜ。弐式―――」

 

 ロレックスが二振りの剣を上げ、構えていると、リックのすぐ側に忍び寄る影があった。

 

「ちょいと失礼」

「なっ――」

 

 リックは反応しようとしたが、疲労と、ロレックスへの集中で間に合わず、仮面を剥ぎ取られてしまった。

 

「えっ……?」

 

 気を高めていたロレックスは、その仮面の下の意外な表情に当惑せざるを得なかった。

 

「あっ……。うっ」

「お前……、案外かわいい顔、してたんだな」

「うっうわああああ!!!」

 

 先程までの剛鬼ぶりはどこへやら、リックは剣を落とし、頭を抱えて座り込んでしまった。

 

「な、なんだよこれ。どういうことだ」

「こういうことっすよ。将軍」

 

 いつの間に将軍の隣に立っていたオルオレは、リックの仮面を振り回していた。

 

「あっ! お前、この野郎、真剣勝負に茶々入れんじゃねえよ!!」

「まあまあ。オイラはどうしても、将軍には生きていてもらいたいんでね。……、にしても結構な賭けだったんですが、まさか本当にああなるたぁねぇ」

 

 オルオレはくっくっくと低く笑う。

 

「まさか……。その仮面か?」

「そういうことっす。去年イラーピュの墜落がありやしたでしょ? その時に、赤い死神が素顔を晒したら、”ああ”なったって小耳に挟んだもんで、一か八かやってみたんっす」

「な、なんじゃそりゃあ。あのとんでもないバケモンにそんな弱点があるだなんて」

 

 ロレックスは目を真ん丸にして、驚きを禁じ得なかった。

 

「さ、もはや死神は、まな板のコイっす。煮るなり焼くなり好きに……あれ?」

 

 オルオレがリックの居た場所に目をやると、既にその場からリックは消えてしまっていた。

 

――

 

「な、何が起こったんだ……? 急に止まりやがったぞ」

「さぁ……分かりません」

 

 世紀の決闘の唐突な中断に、観衆と化していた兵たちは茫然自失としていた。

 

「こういうこと、よ!」

 

 かなみは、ランスの前に現れ、リックを放りだした。

 

「わっ……あれ。これが……リック?」

 

 ランスが放り出されたリックの顔を見たが、当を得ない表情をした。

 

「あ、ランス様! 仮面ですよ仮面! リックさんがいつもつけてらっしゃるのが」

「ああ……そうだっけか。男の顔なんざ興味ねーからな」

 

 ランスはようやく気づいて、どうでもよさそうに頬を掻いた。

 

「で、それとこれがどう関係あるんだ?」

「ああ、そういえばあのときランスは居なかったわね。リック将軍は、素顔を人に見られると、急に気が小さくなってしまって、とても戦える精神状態じゃなくなってしまうの……」

 

 かなみは恥をさらすような声で、ランスに言った。やがてリックは目を開け、ランスの前に立ち上がる。

 

「も、申し訳ありませんランス……殿。このようなことになってしまって」

「この役立たずが! どうするのだ、お前の突破が要だったんだぞ!!」

 

 ランスはリックの胸ぐらをつかんで、大きく震わせた。

 

「な、なんとかしてみせます」

 

 リックはランスから逃れ、剣を持ち直し、敵兵に向かう。

 

「う! ウォォォォ……」

 

 しかし、その声は頼りなく、仮面をつけていたときの、何者をも怯ませる圧力は消え去ってしまっていた。

 

「おい、ふざけてるのか! それじゃあわんわんだって逃げねえぞバカタレ!」

「す、すみませんランス殿。こ、これが全力です」

 

 その足は震え、剣を持つ手は震えており、今にも落としてしまいそうなほどである。

 

「な、なんだーこれ! これがあの赤い死神かよギャハハハハハ!!」

「あれじゃあ死神というよりどっちかてーと、女神ALICE様みてえだぜ!!」

 

 リックの正体を見た5軍の兵士たちは次々と罵声と嘲笑を浴びせにかかった。

 

「ふーむ……。どうやらオルオレの言ってたことは本当みたいだな」

 

 そうしていると、その場にロレックスがのそのそとやってきた。

 

「うっ」

 

 リックはその姿が視界に入ると、体の震えが更に大きくなった。

 

「な、なんだテメェは! おっさんがずこずこ入ってくるな!」

「ランス。あれが、ロレックス将軍よ」

 

 かなみが小さくランスへ耳打ちした。

 

「何? てことがこいつが大将首か……」

「ほう。お前がヘルマンを荒らし回ってるっつー、盗賊の頭だな?」

 

 ロレックスは剣の切っ先をランスに向けた。

 

「そうだ。俺様がランス様だ!」

「ふーん……。なるほど、噂通り、女好きの顔だな」

 

 ロレックスはランスの顔を眺めると、納得したように一度うなずいた。

 

「さて、どうするよ? あんたの虎の子はこの調子だし、もう勝ち目はねぇぜ? 大人しく投降するか、戦って死ぬか。選ばせてやるよ」

 

 ロレックスは声色は優しくとも、相応の圧を持って、ランスへ迫った。

 

「ちっ。どうもこうもねえ! 俺様には世界中の美女が待っているのに、こんな寒い国で死ぬ気はねえんだよ! おっさんをぶった斬って、先に進むだけだ!!」

 

 ランスはあくまでも闘志を失わず、剣の切っ先をロレックスに向けた。

 

「ふっ……。なるほど、面白い。この状況下でも闘志を失わねぇか。トーマの爺さんも、これにやられたってぇわけか」

 

 先の戦乱で生き残ったミネバからの報告を、ロレックスは人づてに聞いていた。

 

「分かった。だったら、俺を倒してみろ。もし、お前が俺を倒せたなら、先に進むといい」

 

 ランスはその言葉を聞き、2・3秒ほど考えて答える。

 

「ちっ……。野郎と決闘する趣味はねぇが。やるしかないか。そのくしゃくしゃの頭とうっとおしい髭、ふっとばしてやるぜ! 行くぞぉ!」

 

 ランスは力任せにロレックスに飛び込み、首を狙った。

 しかし、すぐさま剣に弾き返され、ランスは吹き飛ばされる。

 

「なんだこの衝撃……重い」

「なんだ、こないならこっちから行くぞ。ウラァァァァ!!」

 

 今度はロレックスがランスに突進し、二振りの剣で何度もランスを斬り裂こうとする。

 ランスは身に触れる寸前でなんとか反応し、防ぎ切るが、その一撃、一撃の重さに腕が軋み、体全体が押し負けそうになる。

 

「ちっ……。デカブツがぁ!!」

 

 ランスはそれでも負けじと、瞬間的に反応して、ロレックスの胴体を狙い、剣を大きく振った。

 

―10分後―

 

「がっはっは!!」

 

 斬り合いが始まって10分、ロレックスは笑い声を挙げた。

 

「なんだ貴様。なにがおかしい」

「いや……、ランス、お前も中々だな。赤い死神にはちょいと劣るが、そのデタラメだが、熟練された経験に基づく技、大したもんだ!」

 

 キィンと、また一合、刃が響く。

 

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ! さっさと死ね!」

 

 ランスは飛び上がって、ロレックスの脳天を斬り裂こうとしたが、それを見越してロレックスは大きく後退した。

 

「なんだ、降参か?」

「もう少し楽しみたいが、そう言うなら、さっさとケリをつけてしまおうか。――弐式豪翔波!!」

 

 ロレックスは剣を振り上げ、そこから竜巻のような衝撃波を繰り出した。

 

「ちっそうくるなら……。ランスアターック!!」

 

 ランスも同時に、ランスアタックを繰り出し、二つの衝撃波が衝突し、世界が白く染まった。

 

――

 

―ログA 病院―

 

「はっ!」

 

 ランスは病床で飛び起きた。

 

「あっ。気づかれましたか。ランス様ぁ……」

 

 シィルは目に多分に涙を含んで、ランスを迎えた。

 

「な、なんだ。俺様はどうなったのだ」

「えっとその……。ランス様はここに運ばれて、他の方々はこの都市の地下牢へ。本当なら私もみなさんと一緒だったんですけど、将軍さんのお計らいで付き添いを許してくれました」

 

 シィルはたどたどしく状況を説明した。

 

「クソ……。俺はまだあの野郎との決着がすんでねえんだ! すぐに叩っき……」

 

 ランスは動き出そうとしたが、体の節々に激しい痛みを覚え、静止を余儀なくされた。

 

「あいたたたたた……」

「あーん。ダメですよランス様ぁ。お医者様もまだ骨が何本も離れているから、しばらくは安静にって」

 

 シィルが大慌ててランスを押さえていると、ランスを負かせた張本人が入ってきた。

 

「気付いたみたいだな。ランス」

「あ! 貴様! お前とはまだ決着が……いっててて……」

 

 ロレックスは闊達に笑う。

 

「元気なのは良い事だ。さて、単刀直入にお前さんに相談があるんだが」

「ちっ……なんだ」

「本来なら、お前は即刻死刑だ。何しろ二回もヘルマンに泥を塗り、各地を荒らし回った盗賊なんだからな」

 

 シィルはシュンと小さくなってしまった。

 

「だが、俺はお前が気に入ってる。あれだけの剣技に加え、これだけヘルマンを振り回した行動力、リーザスともつながりがあるコネクション、そこで物は相談なんだが……、俺の配下にならないか?」

「やだ。俺様は誰かの下、ましてやてめーみたいなおっさんの下なんか冗談じゃねえ」

 

 ランスは強気の姿勢のまま、ロレックスを見据えていった。

 

「ガッハッハ。まあそういうと思った。ここからが本題なんだが……、盗賊を続けていいと言ったら、お前どうする?」

「あ?」

「俺ら5軍は特殊な部隊でなぁ。盗賊団や暴走族、ヤクザまがいの連中を支配下におき、いざってときに遊軍として出動できるという運用思想になってるんだ。中央からの無茶な指令をこなすには、まともな軍人では手に負えんこともあるからな。その時の為の俺等というわけだ」

 

 ロレックスは、柔らかな声色で説明を続ける。

 

「つまり、今まで通りの事をしていいっていうことか?」

「まあ、早い話がそういうこった、無論、5軍の影響下にはあるから、時折指示に従ってもらうこともあるが……」

「じゃあやだ」

 

 ランスはきっぱりと断った。ロレックスは困ったような顔をする。

 

「ランス様ぁ。ロレックスさんをそんなに困らせないでくださいよ。それに、この話を断ったら、ランス様は……」

「うるさい」

 

 ランスはあくまでも聞き入れない姿勢である。

 

「わかったわかった……。そろそろ本当のことを話そうか。クリーム!」

 

 ロレックスはクリームを呼び出し、控えさせた。彼女は4軍副将に復帰し、立て直しを図っている。

 

「あ、お前……」

「ランスさん。計画の真意を話します……。ですが、どうか内密にお願いします」

 

 ランスはクリームの真に迫った表情に、とりあえず話を聞こうと言う姿勢になる。

 

「なんだ」

「ランスさん。私も、ロレックス将軍もこの腐りきった国に、嫌気がさしています。ですから、出来る限りこの国をかき乱してほしいのです」

 

 クリームはあくまで冷静に、しかしあまりにも過激なことを口にした。

 

「ほう……どういう風の吹き回しだ? あれだけ俺様に反抗的だったクリームちゃんが……、俺様に惚れたのか?」

「違います!! 毒をもって毒を制す。そうしなければこの国は変わらないと、今回のことで私も痛いほど分かりましたから」

 

 クリームは眼鏡のフレームをかけ直しながら、静かな声色で言った。

 

「お気持ちはわかりますけど……。でもそのために罪のない人たちにもひどいことを……?」

 

 シィルはクリームに疑惑の視線を投げかける。

 

「もちろん、事前に場所は指定します。主に、脱税をしてる豪商や、資本家、汚職政治家などなどを対象にリストアップし、適宜情報を共有するつもりです」

「ほう……」

 

 ランスは真剣に考え始める。既に手軽に襲えるようなところは限られていた為、事前に政府権力を使って出してくれるというなら渡りに船だからである。

 

「盗賊や社会不安は国を揺るがすもとになります。それに加えて、アリストレス将軍などの同志と共謀し、いずれは中央を……というのはまだ先の話ですが、まずはその手始めを、ランスさんにやってもらいたいのです」

「ふーむ……」

 

 ランスは20秒ほどおとがいに手をあてて考え、結論をだす。

 

「分かった。そういうことなら、下についてやろう、だが、俺様は俺様の好きにやらせてもらう。お前らの指示にいいなりにはならん。あくまで本当に形だけだ。それでいいか」

「ガッハッハ。全く、これから臣下になるとは思えんが……。それで構わんぞ。俺も、お前をどうにかできるとは思っていないからな」

 

 そういう訳で、ランス盗賊団は名目上ヘルマン5軍の一組織となり、ランスは名目上、ヘルマンの大隊長という形で採用された。

 

―リーザス城―

 

「これが全ての顛末です。リア様」

 

 ランスとロレックスの裁量により、一旦かなみとリックはリーザスへ返され、かなみはそのままリアに奏上した。

 

「ふーん……。ダーリンをここに連れてくるのは失敗したってわけね」

 

 リアは冷たい視線で、リックとかなみを見た。当初の計画ではヘルマン軍にランス盗賊団を壊滅させ、命からがらでリックとかなみがランスを救い出し、リーザス城まで連れて来るものだった。

 

「申し訳ございませんリア様。私があまりにも不甲斐ないばかりに」

「そうね。仮面を剥ぎ取られるなんて本当に不甲斐ないわね」

 

 リアは容赦なくリックを責めた。彼は何も返せず、沈黙するのみだった。

 

「でもまあ。いいわ。これはこれで」

「え。宜しいのですか?」

 

 マリスは意外な顔でリアを見る。

 

「だって、待っていればダーリンがヘルマンを壊してくれるんでしょ? そのどさくさに紛れてリーザスが攻め込めば、ヘルマンはリアのものになるもの」

 

 リアは不敵に笑ってみせる。あくまでしたたかな姿勢であった。

 

「そんな上手くいくとは思えませんが……」

「なにかなみ? ヘルマンと戦ったときに敵にまんまと捕らわれかけておいて、リアに意見するの?」

「うっ……。申し訳ありません」

 

 かなみは小さくなって、リアに跪く。

 

「ふふふ、楽しみだわ。ダーリンからのプレゼント……。リック、それまでにその臆病癖、なんとかしときなさい」

「ははっ!」

 

 リックも同じくかなみと同程度に跪いた。しばらくして、リックは予備の仮面をいくつか発注するのであった。

 

―終―

 

 

 

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