色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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流れの支配者

「防御陣形ィィイ!! 強化ぁア!!」

 

■叫ぶと同時に、少し鼻血を出しながら■

■ハーディンは自TEAMに指示を出し、不自然なほど迅速に態勢を整える■

 

「……ほう。対応が早いな」

 

 ミリアムは、目前で変化する敵選手の動きを注視する。

 彼女にとって、強敵との戦いは自身を強くしてくれるCHANCEでしかない。

 ならばと、自分がこれから勝つ敵たちの力量をしっかりと測ろうとする。

 自身の勝利はまるで疑っていない・王者のごときスタンスと誇り高さ。灼熱の勇士としての強き自負がそこにはあった。

 

「さあ、私を強くしてみせろ!! 乱れのゴミ共ォッ!!」

 

■狂気に染まった目で、ミリアムは灼熱を噴射する■

■その勢いは凄まじく■

 

「ぐッふふ!! ならばァ!! これでどうだあぁァッ!!」

 

■それを迎え撃つように、ハーディンの戦略が火を噴く!■

 

「ひゃハは!! あの灼熱の勇士が相手とはなァッ!!」

 

「!!」

 

■鋭い槍を持った敵選手が、ミリアムに接近・刺突を繰り出す■

■それを彼女はなんとか回避し、カウンターとしての炎をそいつに放つ■

 

「おッとォッ!! 当たったらまずイ!!」

 

「……!」

 

 炎魔導をすれすれで避ける、槍使いの男性選手。その顔には余裕がかなり見受けられ、どうやら回避が得意な選手であるようだ。

 彼はそのまま槍を回転させ、勢いをつけながら、次なる攻撃の布石とする構えを見せる。

 ミリアムは睨みを利かせ、自身の魔導力を練り上げ、次なる火炎を放とうと。

 

「むっ!」

 

■彼女は体を勢いよく屈めた■

■殺気を察知し、背後からの攻撃を回避したのだ■

 

「はハァ!! やるじゃねえぇか!! 美人さんよォ!!」

 

「フン。うっとうしい! どうやら、私の踏み台の資格はあるようだな」

 

■短剣二つを持った男が、舌を出しながら邪悪に笑う■

■ミリアムは炎魔導を放とうとした■

 

「させるかよォオ!!」

 

「!」

 

 槍使いの横やりによって、炎魔導の発動が阻害される。

 繰り出された攻撃を、なんとか避けるミリアムではあったが、中途半端な勢いの炎攻撃になってしまう。

 当然、敵には当たらずに空気を焼くだけだ。

 

「……ッ。そういうことね」

 

「はハはッ!! あまり俺たちの速力を舐めるなァ!!」

 

 二人以外にも、数人が彼女に襲いかかり、その動きを抑制する展開。速力だけで言えば、彼らはミリアムに負けてはいなかった。

 そんな状況に置かれた場合、まともに魔導攻撃を放つのも難しく、いまいち本領を発揮できない炎魔導で対処するしかなかった。

 敵の波状攻撃作戦は、上手く機能していると言える。

 

「ぐッはは!! 防ぐのが危険な魔導攻撃ならぁア!! 防がずに対処すればいいイ!!」

 

■ミリアムと言う、発射台自体を潰すこと■

■それがハーディンの狙いだった■

 

「きてるきてル!! 流れがキテるぞおォッ!! 儂というビッグウェーブの!! FIRETIMEがァ!!」

 

■支離滅裂な雰囲気を出しながらも、見据える先は定まっている■

■それが彼・ハーディンを象徴するような言動だった■

 

「ぐふハhあhhahhはァッッ!! 麗しき女神ィ!! 完全攻略ゥッ!!」

 

■狂ったように笑いながら、乱れの首領は叫んだ■

 

「——まだ、余裕を見せるには早いんじゃないかしら?」

 

■変化は、ハーディンの視界で起きた■

 

「な・にィィ!?」

 

■ミリアムの体を、神々しい気配が覆った■

 

「なっ、ぐあァ!?」

 

 轟音が響く。

 ミリアムに突き立てられた、槍使いの速くて強烈な刺突。それが弾かれると共に、彼の顔面をミリアムの拳が撃ち抜いた際の音だ。

 なぜ彼が簡単に攻撃を受けてしまったかと言うと、槍による攻撃が【当たった】にも関わらず、結果が伴わなかったからだろう。

 

「その程度の攻撃では、私の鎧は砕けん。がっかりだ」

 

■威風堂々と・あるいは傲慢に?■

■彼女は敵選手を威嚇する■

■半透明の炎が・ミリアムの周囲に展開されていた■

■それこそが敵の攻撃を防いだのは明白で、ならばどうなるかと言うと■

 

「まずいッ」

 

「……」

 

 即座に、敵の動きが焦りに塗られていく。キャンバスにじんわりと広がるようなそれではなく、明確に急速に広まっていく漆黒の毒。

 ミリアムにダメージが入らない、無敵時間が発生するのはまずい。

 早くせねば、その謎の鎧を砕かねばと、逸る両足は明らかだった。

 

「それが隙だ。弱者ども」

 

「ッ!!」

 

■焦りによって引き寄せられた敵対者を、右手から発射される灼熱の顎が飲み込んだ■

■さっきまでミリアムをしのいでいた彼らは、その身に大ダメージを受けた■

 

「ぐああッ!?」

 

「【師匠】なら、さっきの攻防で私を捉えていた。やはり物足りない敵だ」

 

■彼女は彼を語る時、ふと表情が変わる時がある■

■いつも厳格・隙がない、鉄壁の女である灼熱の勇士が■

■見たことのないような一面を、見せる時があった■

 

「……」

 

■脳裏に過った自身の師匠・最初は敵として戦った因縁の相手■

■あの時から離れてくれない・心の中でずっと燃え続けている幻影のような男■

■ゆらゆら・ゆらゆら■

 

(そうだ、敵として再び戦うと思っていた)

 

 迫りくる敵を見ながら、ミリアムは心を静かに燃やしていく。くべる薪は、相反する感情の調和と崩壊。

 かなりの速度で迫ってくる敵選手は、さっきよりも警戒して攻めてくるだろう。

 が、そんなことでは今の彼女の感情を消すことは出来ない。

 

「あぁ——あなたはなんて」

 

■一瞬■

■ほんの一瞬だが、ミリアムに隙が生まれ■

 

(この女ァ、ミリアムの炎魔導は【直進型】ァ。放たれた手から一直線に伸びる軌道ダ!!)

 

(ならばァッ!! 挟み撃ち!!)

 

■彼女の両側から迫る、敵選手の影が二つ・自身に飛んでくる、外野からの魔導攻撃を的確に防御しながら接近する者たち■

■彼らは、炎魔導が出てくる方向とは逆からの攻めを実行・右手から出れば左から、左手から出れば右から■

■ハーディンによって統率された動きで、的確に隙を突く■

 

「——そう来たか。浅慮だな。弱者ども」

 

■ミリアムの【両の手】から、灼熱が発生した■

 

「んなァッ!?」

 

「ばカな!?」

 

■予想外の炎魔導の直撃を食らい、吹き飛んでいく敵選手×2■

■防御すら出来ず、彼らは否応なく大きなダメージを受けた■

 

「ぐおおおァ!! な、なんて威力ッッ」

 

■火炎をまともに受けた敵は、驚愕するしかない■

■今まで受けた焼却魔導の中でも、間違いなく破格の威力であった■

 

「勇士スキル……かァッ」

 

 火炎でボロボロになった自チームのユニフォームを見ながら、彼はミリアムの強さの秘密を口にした。

 勇士スキル・勇士が持つ特別なスキルのこと。

 灼熱の勇士と言う名から連想できるのは、なんらかの炎系スキルの存在だろう。

 

「……ッッ」

 

 その詳細は分かっていないが、何か弱点でもあるのか? 否か?

 敵選手の思考が巡るが、試合時間は待ってくれない。なので、弱点や欠点のあるなしは身を削りながら確かめるしかない。

 だが・だがしかしだ。

 

(問題なのハ……!! 奴の厄介なスキルが、それだけではないってことだァ!!)

 

■ミリアムの炎魔導スキルと、防御系スキル■

■少なくとも、その両方を攻略しなければ彼女を止めるのは難しい■

 

「く・ぐぐぬぬぬにィッ」

 

 顔を引きつらせるハーディンは、灼熱の勇士ミリアムの対処によって頭をパンクさせそうになっている。

 元々、叡智を持っているわけでもない、特段指揮能力が高いわけでもない。

 明らかに脅威として君臨する彼女を止めるには、自チームの戦力が足りないのだ。

 離れた敵を飲み込む炎魔導を見て、苦々しく舌打ちをした。

 

「どう……すればァ……!! これは……ッ。手詰まりカ……ッッ」

 

■全身の汗が止まらない■

■思考が定まらず、視線はどこか遠くへ行っている■

 

「ぬゥッ!?」

 

■突然の大きな音に、彼は勢いよく振り向く■

 

「あははは!! 突破ー!!」

 

 音の正体は壁の崩壊。

 元気に笑う雷神が、乱れ達の防衛ラインを突破して、ゴールへと迫ってくる。

 電撃魔導自体の威力が大したことはなくても、彼女の身体能力と合わせて考えると充分脅威と言えた。

 エレジーの笑顔が接近してくる様は、ハーディンからすると恐怖でもあるのだ。

 

「フン、やはりこの程度か。期待外れでもないがな」

 

■熱波がハーディンの頬をなでる■

■それはつまり、もう一つの壁の崩壊を意味する■

■強烈な炎を纏った勇士が、ゴールへと近づいてきた■

 

「ぐ、ぬううううううッッ」

 

■灼熱と電撃が両側から迫りくる、その窮地■

■ハーディンに打つ手はない■

■この盤面は既に詰んでいる■

 

「——では、次の盤面に移るとするかァッ」

 

■その変化は突然起きた■

 

「えっ!?」

 

「!!」

 

 エレジーとミリアム、その二人の前でハーディンの体が【青い光】に包まれていく。

 この現象に二人は見覚えがあった。

 

「【変換】!! 逃げる気っ!?」

 

 限定魔導の一つ・変換。

 自身をある程度近いゴール前へと移動させる、儀攻戦において重要となる要素の一つ。

 遠くのゴールへと移動できるそれは、試合中の使用回数3回までと決まっている。

 その強力な札をここで切ってきた。

 

「させるか……!」

 

■ミリアムが、裂帛の気合いをもってハーディンへと迫る■

 

「ひゃハ!! ハ!」

 

「どけ!」

 

 彼女の侵攻を止めるために、数人の選手がブロックを行う。それでも当然、ミリアムと言う強者を完全に止めることは出来ないのだ。

 そう、数秒足止めする程度なら……出来るということだ。

 ハーディンによって強化された、今の乱れ達の統率と能力ならば。

 

「ぐッふふ……!! 今の盤面ならば、ギリギリ届かんよ儂には」

 

 目の前の戦況ではなく、もっと広い視点に目を向けるような、そんな視野を展開している——ハーディンと言う名の、未完の大器。

 彼の戦術によって、超強力な手札二枚からの挟撃を、なんとか避けることに成功しようとしていた。

 

「待てー! このー!! 別に卑怯ではないけどっ。なんかセコい!!」

 

■エレジーが更に深く切り込み、敵の首領へと手を伸ばす■

■だが■

 

「ぐ・フ。さらばだ女神たち……! その美しき姿は、儂のメモリーに永久保存しておこウッ」

 

■姿を消すハーディン■

■これによって、この盤面の勝敗は決した■

■エレジーとミリアムたちの勝利だ■

 

「……」

 

 最大の脅威がいなくなった今、二人の侵攻を止める者はいない。

 結局ハーディンは、なすすべなく撤退することになったという結果だけが残る。あの焦りようから見ても、それは確かなことであろう。

 そんな思考が巡っているミリアムは、ふと足を止めた。

 本当にそうか?と。

 

■脳裏でよぎるのは、ハーディンの視線■

 

「……まずいッ。【踏み込み】すぎたッ」

 

■現在のミリアムとエレジーの位置■

■それは、ハーディンを追いつめたことによるもの■

■ではなく、逆におびき寄せられていたとしたら?■

 

「……後ろかッ!」

 

 ミリアムが勢いよく振り向いた。選手たちの交戦中の姿、その先に見える光景。

 そこには、大地を飲み込む大きな【水の顎】の姿が在った。

 彼女の耳に届く大きな水音が、事態の深刻さを否応でも突きつけてくる。

 

「激しい水流……!! これが奴の狙いッ」

 

 ミリアムの視界を横切るように、激しい水の流れが大地を染め上げていく。それはまるで自然の猛威の再現。

 どこからともなく発生した大量の水は、その向こう側にあるフィールドを切断するように、またたく間に大きな川を形成した。

 大地の急激な変動も含めて、間違いなくこの儀式場のギミックによるものだろう。

 

「わわわーっ。なになにっ。なにこれ!?」

 

■フィールド上に広がる、動揺の波長■

■選手たちがどの方向を見ても、激しい水の流れは途切れることない■

 

「隔離された……というわけか」

 

■急激な水の流れが、ゴール周辺を囲むように展開された■

■ミリアム達の戦っている場所は、まるで孤島のごとき場所となる■

 

「……!!」

 

 近くにいくつか水場があったことを思い出し、ミリアムは歯噛みした。

 おそらくはアレがこのギミックに関わっていて、ハーディンはそれを見て策を思いついた。

 やたらと時間を稼ぐ構えだったのは、時間経過によって発動するタイプだからだろうか?

 初めから彼は、ミリアム達を自身の手で止める気はなかった。

 

「いや……止められるなら、止めたかったのだろうが、最後の手として残していたか」

 

 ミリアムは水辺へと走る。

 彼女の予想が正しければ、ただ孤島と化しているわけではなく。

 

「フン、【防衛モンスター】とは。小癪な」

 

■水中に潜むいくつもの影■

■それは、モンスターのもので間違いない■

 

(儀式場内でギミックとして存在するモンスター……。その強さはまちまちではある・が)

 

 ミリアムの視界に映る、凶悪な魚型のモンスター群。その数はどう見ても対処不能なレベルで多く、このまま泳いで渡ろうとすれば彼女やエレジーでも餌食になるだろう。

 それに、ここまで大掛かりな仕掛けである以上、そんな簡単に突破できるとも思えない。

 たとえ倒したとしても、すぐさま復活するであろうと推測できた。

 

「完全に封じられた……か」

 

■ミリアムとエレジー■

■強力な手札二枚を、ゴール一つと引き換えに封じてみせたハーディン■

■彼は邪悪な笑みをそのままに・次の盤面へと向かう——■

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