色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「は・ハァ!! いよいよ……!! ここまで来たか……!!」
■試合が始まってから、彼はずっと盤面を支配する流れを構築していた■
■元から不利なことは分かっていて・だからといって諦めるという選択肢もあり得なかった■
■そうして今、逆転の機会が巡ってきていることを直感した■
「崩すべきゴールは二つ……!! それで決着は着くッッ」
■ハーディンの脳内で構築される、全体の戦況を俯瞰で見た図■
■その中で、試合時間内に崩せそうなゴールが二か所あった■
「ぐはハッ!! はハッ!! これで逆転だァッ!!」
勝利への道筋は構築された。残り7点差を埋めるのは不可能ではない。
今回の試合、敵のチームのバランスは脅威で、弱点らしい弱点もなかった。
それでもなんとか戦えたのは、フィールドに隠されたギミックを上手く使ったから……だけではない。
(こつこつと……この試合場に関する情報は集めていタッ。あァッ、ほぼ情報がないような儀式場ではあったがァ、だからこそ奴らの隙を突くことができたァ!!)
ハーディンは慎重に、自身が戦うことになるフィールドにいくつか目星をつけ、その情報を収集していたのだ。
ゴールドが今回の試合の戦場に選びそうな場所を、推測した結果でもある。
読みは当たり、完全に不利だった戦局に逆転の兆しが見えようとしている。
「はハはッ。このままいけば——」
■曇天の空・小雨の中で笑う彼■
■ハーディンの現在位置は、ゴールの手前■
■周囲の平原では、選手たちの最期の攻防が繰り広げられていた■
「うおお!! まだまだぁ!! 舐めるなよ!!」
「はハ!! その程度じゃあ、破れねェぜ……!! ハーディンさんの構築した壁ハ!!」
「なんとしても突破しろッ。もう時間がない!」
試合時間の残りに反比例するように、敵味方のボルテージが加速していく。
ただしその熱狂は、スポーツマンのような真っ当な強き想いと、ルール無用の無秩序な狂気の発露に分かれていて、混沌を強めているが。
両陣営の激突は拮抗……しているように見えるが、実際は違う。
「なんだッ。この【守り】はッ」
攻撃側の必死の突撃は、乱れ達の強固な壁を崩すに至らない。多少ひび入ることはあれど、すぐに脆さを修復して立て直してくる。
壊しても壊しても再生してしまう壁のごとく。
かなりの統率が取れていないと出来ない動きに、攻撃側のベテラン選手は驚きを隠せない。
「一石二鳥で出来るチームワークではない……!! なんなんだ……!?」
「——なんだろうが構わないだろう。やることは一つだッ!!」
「!」
■強力な意気を感じる男の声が、攻勢側に響く■
■それを発した人物は、目前に立つ敵の防衛選手めがけ、己の力を発揮する■
「チームの誇りにかけて!! この程度の素人選手たちに負けるわけにいくかァ!!」
■彼の両腕が敵選手の持つ大きな盾を掴み、ゴールへの道をこじ開けようとする■
■その強力な腕力は、確かな努力と経験によって生み出された、チームを勝利へと導く突破口■
「道を開けろォ!! 不屈の歩兵団のメンバーは、この程度じゃへこたれないぜッ!!」
■不屈の歩兵団所属、クライス達のチームメイトであるパワーファイター・ボックス■
■彼は熱意を全身にたぎらせながら、負けはしないと轟き叫ぶ■
■そこには、仲間たちと激闘を乗り越えてきたが故の自負があった。確固たる絆の証明があった■
「オレ達が勝ってッ!! お前らが負けるッ!! 当然の結果だッ!!」
「ぐおッ!?」
「こイつ……!! なんて力ダ!」
ボックスの奮闘によって、敵の壁を崩すようなヒビが入った。全身の力を上手く使った突撃は、生半可な選手のブロックで止められるものではない。
攻撃力の高さを連想させる筋肉の躍動に、乱れ達は精神的な意味でも押されている。
ブロックを崩されるのは、確かに当然の結果と言えた。
「!」
「はハァッ!!」
破壊した敵の壁の向こうから迫る、大きな威圧感を放つ選手。身長自体は並。そこまで速いというわけではないが、死んだような目と、狂気的な乱れの波動が敵に恐怖感を伝えるような・そんな存在。
乱れ側の実質リーダーと言っていい、混迷の太陽の一人ハーディン。
彼はボックスと相対する。
「真っ向勝負か!! 受けて立つ!!」
「はハァッ!! 真摯で紳士だからなァ!! 儂はッッ」
ボックスはハーディン相手でも怯まず、己の秘められし力を解放しようとする。
その鋭い眼光は青い輝きを放ち。
急速に変化していく彼の肉体は、所々が金属の光沢を帯び、機械的な駆動音を鳴らしていく。
否、それは紛れもなく機械が発する音であった。
「ぬゥゥ!? なんだァ!! それはァッ」
「さあな!! オレ達が勝った後に教えてやるよ!!」
■駆動する機械のPOWER■
■蒸気を口から発しながら、その本領を発揮したボックスが、乱れの首領へと攻撃を仕掛ける■
■その勢いは、ジャスミンにも引けを取らないものだが■
「ぐ・ハッ」
■攻撃の瞬間、ボックスは確かに感じた■
■ハーディンの裂けるような笑みと■
「がッアッッ!?」
■機械の体を破壊するような・強烈に過ぎる衝撃を■
「!? ボックスッ!!」
「今のは……!! 力負けしたのかッ!?」
とても勢いよく、ハーディンにふっ飛ばされたボックスの体。地面を何回か転がった後、それは止まって、立ち上がることは出来ない。
誰の目から見ても、受けたダメージは戦闘続行に支障をきたすレベルであった。
この盤面において最高クラスの戦力であるボックスが、ハーディンの手によってやられた。
その事実は全体の士気に影響を及ぼす。
「ふ、ぐははッ!! この程度かァッ!! 貴様の力はァッ!!」
■ハーディンは邪悪な笑みを強める■
■その顔は、この試合の勝利を目前にした者の輝きで溢れる■
「大したことがないのだなァッ。不屈のなんちゃらとかいうチームもッ!! ぐッはハはッ!!」
■ハーディンの振るう指揮棒が、その勢いを増していく■
■ここがチャンスと見た彼が、存分に乱れを解き放つ■
「……ッ!! ふ、ざけんなッ」
「ボックス! 戦えるのか!?」
「あたりまえだ……!! このまま終われるかッ!!」
グググ……といった様子で、なんとか起き上がってくるボックス。その顔には冷や汗が流れ、体には既にかなりのひび割れが広がっていた。
試合続行は可能なのだろうが、ハーディンを突破できる力は残っていない。
体を揺らしながらも、また戦うための熱意だけは瞳に宿っている。
「もう一度……!! 今度は違う方法でッ」
ボックスはハーディンを攻略するための策を考え、まだ勝機は消えてないと奮い立つ。
さっきはハーディンを突破さえ出来れば、間違いなくゴールまで行けた。決して難攻不落というわけでない。
事前情報通り、敵の親玉はなにかしらの【強さの秘密】を持っている。純粋な能力値とは違う何かを、さっきの攻防で感じたのだ。
(それさえ掴めれば……!!)
■ボックスは、仲間たちと共に再び壁へと挑む■
「ぐッはッは————終わりの時だ」
■しかし■
■ハーディンの盤面は・既に完成していた■
「【終局(ライズ)・盤鎖(サクリファ)】ッッッ!!!」
■変化は、今まで以上の早さでやって来た■
■彼が指揮棒を振り下ろした瞬間、その形は完成したのだ■
「何……!? こいつらッ。いきなり強く……!?」
「お、押し込めー!! このままだと、一気に押し返されるぞ!!」
敵選手の壁に挑む侵攻者たちの攻撃が、強烈なカウンターを食らったかのように、防がれ……いや、弾き返されていく。
剣で攻撃しても盾で弾かれ、魔導攻撃を行っても同じく魔導で防御され、あまりに完璧な役割分担・連携によって、攻撃側の行動が封殺されていく。
それはまるで熟練のチームの防衛力——すらも超えた、【ひとつの生物】。
「ぐ・ふふフはッ!! なんだッ!? なにか頭がちくちくちく・はハははッ! あァッ!???」
「あハははははハッ!? ぐるぐるぐる、視界が回るッッ。オレは儂、俺は儂? オレは???」
「な、なんだ一体……!?」
突然、支離滅裂さを増していく乱れの選手たち。目が血走り、その焦点はどう見ても合っていない。
心が定まっていないようにも見える混乱・しかし、その統率だけは不自然なほど乱れていない。
「ぐ、フはははははッ!! はハッ!!」
「ハ、はははhはあははははははッ!!」
「「「ハ、はははhはあははははははッハ、はははhはあははははははッ!!!! ぐはハはははははははっはhhッッ!!!」」」
■重なる笑いが、大きな音となってフィールドを駆け巡る■
■それはまるで、一つの巨大生物が笑っているようにも聞こえる■
■巨人の大笑・狂気■