色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

122 / 125
遠き光

■巨人の腕と弾丸が激突し、凄まじい衝撃が走る■

■それは勢いよく周囲に伝播していき、選手たちにある想いを抱かせる■

 

「すごい……!! あの壁を揺るがしてるッ」

 

「彼女は……!!」

 

■巨人の腕にはヒビが入り、弾丸はそのままの勢いで突き進む■

■その猛攻は、確実に敵の防衛ラインを破壊していく■

 

「はああああァッ!! 一つ目ッ!! 壊れろ!!」

 

 雨粒を弾き飛ばしながら躍動する、その洗練された美しき肢体。流れる桃色の髪は、今この場において、神秘的な輝きを放っているように味方選手は思ってしまう。

 両腕から繰り出されるパンチが敵選手を砕き、うねるように放たれた左足は襲いくる敵集団を蹴散らす。

 

「まだまだァッ!!」

 

■絶望的な状況を覆す、救いの女神のような存在感■

■きらめく雨粒を散らしながら、ジャスミンは逆転の一歩を踏み出した■

■その姿に魅了されたかのように、周囲の味方たちも奮起していく■

 

「よし!! おれたちも行くぞ!! 彼女に続けー!!」

 

「うおおおおッ!! やってやる!!」

 

 美しき女神に追従する従者のように、味方選手たちが巨人に向かっていく。

 己の拳か、得意とする武器か、もしくはその両方か。それぞれの奮闘の仕方は違えど、全員に共通するのは前を行くジャスミンへの期待。

 雨の中で躍動する彼女の姿が、勝利への渇望を復活させていくのだ。

 

「や、やってやるっス! ジャスミン先輩の力に!!」

 

■その中には、ジャスミンの後輩であるリナの姿も■

■彼女は疲労で息を乱しながらも、残った力を総動員して敵の壁に立ち向かっていく■

■まだまだ未熟・されど、その熱意は本物であった■

 

「みんな……ッ!!」

 

■先頭を突き進むジャスミンの拳が、敵選手数人を弾き飛ばす■

■そんな彼女を背後から襲おうとした敵を、味方の盾持ちが防ぐ■

 

「グッ!! 邪魔をするナァ!! その女はオレ……いや儂?オレ?……のものだァッ!!」

 

「いいや! 邪魔をするね!! 彼女こそが勝利の鍵だ!!」

 

 快進撃を続けるジャスミンに掴みかかろうとする敵選手を、味方選手がなんとか食い止める流れ。

 彼女の猛攻はその間にも勢いを増し、敵の防衛ラインを破壊していく。

 

「二つ目!! 突破ッ!!」

 

■豪快な音が鳴る■

■ジャスミンのハイキックによって、敵の壁が破壊された■

 

「なんだァッ。なんなんだァッ!? この勢いはァッ」

 

「くソがァッ!! これならどうだァッ」

 

 彼女の右拳が、小太りで体格のいい男の胴体にヒットする。あまりに重々しい一撃は、彼の全身に多大なダメージを与えた。

 が、男は怯みながらもその腕を掴み、ジャスミンの動きを少し制限することに成功する。

 

「ぐッはは! ジャスミン!!」

 

「今だぁああァッ」

 

■一斉に飛びかかる敵選手たちは、やはり一糸乱れぬチームワーク■

■さすがの彼女も、この数に押さえられたら厳しいと思わせる迫力■

 

「厳しいわね——お願いします」

 

■ジャスミンが放った言葉■

 

「わかったー」

 

■それに呼応するように、気の抜けた返事■

 

「ぐッ、がッッ!?」

 

「どあァッ!?」

 

 激しい連続音と共に、蹴散らされる敵選手たち。

 フィールドを駆ける高速の弾丸。

 乱れの手をジャスミンに届かせる前に、疾風のごとき守護騎士が彼らを阻んだ。

 彼のそれは、彼女を守るという強い意志が表れた、怒涛のブロックであったことは間違いなく。

 

「よし、いくか」

 

「……ええ。クライス」

 

■彼女を守る騎士の名は、クライス。スキル100%状態■

■死んだような無気力な目ながらも、彼女に襲いかかる手を見事に防ぐ■

■さらに■

 

「援護」

 

「ぐッ!?」

 

 クライスの両手が敵集団の壁を怯ませ、そこにヒビを入れていく。

 それはまるで、巨人の腕に斬撃を食らわせる騎士のごとく。

 だが、彼の顔色は優れない。

 

「だめだ、きつい」

 

 増幅された乱れの波動が、今もクライスの精神に影響を与えている。いつもよりも力が出ない。

 こうならないために、試合終盤まで身を隠して戦闘態勢を整えた。それなのに能力低下が激しい。

 巨人の腕を破壊するには足りなく、決定的に盤面を覆す力はない。

 

「だったら——あたしが壊すッ!!」

 

■クライスが入れたヒビに、強力すぎる突進が炸裂する■

■ジャスミンの突破力は、ここに来てさらに勢いを増していた■

 

「グッあああッ!?」

 

「なんて衝撃……ッが!?」

 

■轟音と共に、巨人の腕が崩壊していく■

■騎士に守られし、勇ましき姫がその肉体を躍動させ■

 

「はああああ!! まだまだァ!!」

 

 破壊の拳が敵の盾を砕き、迫る大剣の一撃すらも迎撃し、弾き飛ばして強引に進んでいく。

 暴力的な嵐のようなパワープレイは、難攻不落に思えた巨人の守りを確実に突破し、着実にゴールへと近づいていく。

 それを見ている敵選手が、彼女の異様な快進撃を疑問に思う。

 

「なゼ……!? これほどの破壊力がッッ」

 

「……そうカッ。まさかッ」

 

 そこで敵が気付いたのは、ジャスミンの参戦タイミングについてだ。

 彼女は明らかにどこかに身を隠し、試合終盤まで攻撃に参加することはなかった。

 それはつまり、体力を温存していたとも言えるわけで。

 

 ——同時に、自分たちが想定外に疲労していることにも気付く。

 

「どうしたのかしら!! ずいぶんヘロヘロじゃない!!」

 

「ぐァ……!! このッ。調子に乗るなァァ!!」

 

「調子に乗らせてもらうわ!! 今は特にねッ!!」

 

 疲労している敵と、体力を温存しているジャスミン。その差が生まれた原因について、何人かの敵選手は気付いている。

 というよりも、何故かここに至るまで気付くことが出来なかった。

 自身の体力が急速に減っている、その理由に。

 

「ぐ……がッッア!! 体が追いつかんかぁァ!!」

 

「そりゃそうでしょう!! そこまで完璧な連携!! 全員で合わせようと思ったら無茶当然よ!!」

 

■あまりに一体感を強制した、ハーディンによる統率■

■それは体に負荷がかかり、追いつけなくなる者も複数出てくる■

■つまり■

 

「そこォッ!! よ!!」

 

「ぬッあア!?」

 

 疲弊した敵のポイントを的確に捉え、凄まじい威力のタックルで攻めていくジャスミン。

 決して頭で考えているわけではなく、野生の勘に近い攻勢ポイントの選出。

 破壊の拳が巨人の体を揺るがしていく。

 疲労以外の理由で、いまいち敵の動きが鈍いのは気のせいでなく、それもまたジャスミンの優勢理由になっていた。

 

「この……!! なんでキレが衰えなイ……!? 女ァッ!!」

 

「鍛え方が違うのよ!! 特に足腰のね!!」

 

「!?」

 

■過去の、ビーフによって行われた修業■

■それによる、不利な足場での戦闘に対する耐性の獲得■

■現在の雨でぬかるんだフィールドにおいて、修業の効果が最大限に発揮されていた■

 

「とんでもないな。ほんと」

 

「ぐァ!? 貴様!!」

 

 ジャスミンの邪魔をしようとする選手を、さりげなく排除しながら、彼女の背中を見ているクライス。

 どこまでも、突き進んで行ってしまいそうな彼女を。

 追いかけるかのように、彼もまた共に走っていく。ぬかるんだ地面は走りにくいが、それでも。

 その在り方は。

 

「認めンぞォォォッ!! ジャスミンんんンッッ!!!」

 

「!」

 

■クライスの耳に鳴り響く、まがまがしい気配を纏った声■

■その声の主に受けたダメージは、いまだにクライスの不調の原因だ■

■忘れもしないそれは、狂気と怒りを混ぜたような言葉となっていく■

 

「ここまでやってくれるとハなァッッ!! 儂の盤面をめちゃくちゃにッッ!! ハッははあっははッ!!」

 

■乱れ達の主力、ハーディン・ゴズレイド■

■怒っているのか——笑っているのか■

■ごちゃ混ぜになった感情を発露しながら、彼は自身の宝である少女の下へと一直線■

■そのスピードは特別速いわけでもないが、鬼気迫る迫力によって、実際以上の脅威に映る■

■160程度の身長ではあるが、相対するジャスミンにとっては■

 

「うゥッ……!!」

 

■彼女とハーディンの距離は、まだそれなりに離れている■

■だというのに■

 

「ぐあはッッはッはッッァ!! あァァ!! ジャスミンッ!! またお仕置きが必要なようだなァッッ!! 悲しいが喜ばシいッッ!! 忌々しいがッッ見惚れテしまうッッ!! 君という宝は——永遠なル闇の中で愛でルが相応しいッッ!!」

 

■ジャスミンの視界に映るハーディンは、まるで巨大で凶悪な巨人のようにも映っていた■

■それは彼自身の乱れとしての威圧感と、彼女の恐怖感によって形作られたイメージ■

■足をすくませるには十分な威容であった■

 

「うゥ……!」

 

「ぐッフははははッ!! 逃がさんぞゾォッ!! ジャスミンッッ!!」

 

 巨人の手が、ジャスミンを捕えようと伸ばされる。彼の顔は狂気に染まり切り、既にジャスミンのことしか見えてはいない。

 己の心臓を高鳴らせる、最も愛すべき奴隷が目前に迫っている。

 今度こそは絶対に逃げられないようにして——永久の檻の中へと誘おう。

 そんな強い想いと共に、ハーディンは彼女に攻撃をしかける。

 

「ぬゥッ!?」

 

 だが、そんな彼の視界からジャスミンが消えた。

 消えたと言っても、超スピードで抜き去ったわけではない。

 

「魔導弾ッッ!! こしゃくなァッ!!」

 

■ジャスミンの放った魔導の弾が、ハーディンの視界をさえぎった■

■彼の体が一瞬硬直する■

 

「はッはハはッ!! だからァッ逃がすかァッッ!!」

 

■しかし硬直の後、即座に対応する■

■見えずとも、俯瞰視点によって状況は把握している■

■ジャスミンは左右のどちらかを通り、自身を抜き去るつもりだろうと■

 

「ああ・逃がさんともさ——【◆暗黒◆】」

 

■それは、いきなりその場を支配した■

■空間がねじ曲がるような、そんな錯覚を起こさせるような異質■

■ハーディンは迷わず、己の秘奥である魔導を発動したのだ■

 

(【現象の言】・【暗黒】。特殊・発動)

 

 ハーディンが得意とするのは失われた魔導・暗黒。

 敵対者の生命力を削るこの魔導には、ある隠された性質があった。

 同じ魔導でも発動者によって性質が変わる(炎の魔導を手から出すか・口から出すか等)ことはあるが、闇の魔導の場合それが顕著に表れる。

 つまり、ハーディンが発動したこれも例外ではなく。

 

(――【衆愚領域】・完全発動)

 

【恐ろしいナ。お前のその魔導ハ……まさしく、あのクライスの天敵かもしれン】

 

■マリオすら恐れる、ハーディンの切り札■

■クライスすら仕留めうる可能性を秘めた、可能性への侵食■

■すなわち■

 

「君に選択権はない――私の軍門に下れジャスミン」

 

 ハーディンの暗黒魔導。

 その本質は何かを【削る】ということ。

 彼の場合、削る対象が生命力ではなく。

 相手の行動そのもの・ゆえに物理的に突破不可能な概念の鎖。

 回避しようとしても、体が勝手にハーディンの方へと向かってしまう。

 

「さァぁア!! 盤面終局ッ!!」

 

■ハーディンの勢いは、さらに加速する■

■まずは自身の視界を阻む魔導弾をねじ伏せるべく、その強靭な腕を伸ばした■

 

「――そうね。終わりよ」

 

「ハッ……は?」

 

■伸ばした腕の先■

■そこにある魔導弾の形が、ヒト型のように変化——否、それは紛れもない人だった■

 

「なァにィッ!??」

 

■魔導の塊と同化したような、ジャスミンの姿がそこにはあった■

■その全身に満ちるエネルギーは、ハーディンの動きを鈍らせるほどの、隔絶した気配を発していた■

■揺らめくような銀光を纏い・少女は弾丸と成る■

 

「最初からッ! こっちは避ける気なんてないのよ……ッ」

 

■そう、避ける気などなかった■

■一度捕らえられ・解放されたことで、彼女は自身の原初の想いを取り戻したのだから■

■ただひたすらに、己の力を解き放ちながら突き進みたい・何者にも囚われないぐらい・その強烈にして純粋な衝動■

■それを思い出させてくれたのは■

 

「――」

 

 彼女の鋭い眼光は、ハーディンに対する恐れがないわけではない。

 しかし、決して怯んではいなかった。

 その背後に、頼りになるナマケモノのヒーローが在るのだから。

 知らず知らずの内に、そのフィールドを駆ける姿に惹かれていた・ゆえに原初の箱を開けるカギとなった男が。

 

「がんばれ」

 

■そのナマケモノの、気が抜けたような言葉■

■それが聞こえたのか・そうでないのか——ジャスミンは、大地を強く踏みしめた■

 

「あたしは……突撃するしか能のないッッ!!」

 

■強く・強く■

■まるで、このフィールド全体に伝わるのではないかと錯覚するほど強く■

■衝撃が、彼女の踏み出した足から一気に駆け抜けていく■

 

「突き進むだけのッッ!! 暴走列車なのよぉオッッ!!!」

 

■ただ一直線に・敵へと突進■

■揺らぐ決意は、もうどこにもない・彼女を縛る鎖が壊れていく■

■そうして、強く鳴り響く衝突音は、盤面が破壊されたことを示すもの■

■砕け・粉々に・今まで張り巡らせた策が崩壊する音が聞こえる■

 

「ごッッがあァッ!??」

 

■ハーディンが大きく宙に弾き飛ばされ、彼女を阻む壁はなくなる■

■縛る鎖も砕け散った■

 

「ば……カ……ナッ」

 

 ハーディンの顔面まで広がるひび割れ。大きなダメージを受け、試合続行は不可能に思え、今まで維持していた力が消えていく。

 明滅する視界の中で、彼は遠く離れていくジャスミンの背中を見る。

 どこまでも明るく輝く太陽のような、見る者を魅了する荒々しい存在感。彼女と出会ったいつかの日、心奪われた美しさ。

 それが、今もそこに在った。

 

「あァ——やはり君だ」

 

 そう言った彼の視界から、太陽の輝きは去っていった。

 遠く離れ、どこまでも・どこまでも。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。