色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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盤面の結末

「ぐ、がッは……!??」

 

「なんだァあアッ。力が抜けルッ」

 

■ハーディンの戦闘不能、同時に■

■弱体化していく、乱れの軍勢■

■さっきまでの威容は失せ、全体的な士気が低下■

 

「ぐがァ……オレは……僕は……儂は……???」

 

「な、なんだ。いきなりっ。……動きが鈍く、なった?」

 

 敵選手たちの動きが明らかに鈍り、クライス達は多少困惑しているようだ。

 だが、今の状況がチャンスであることも明らかだった。

 そう、ジャスミンが言った通りに、勝利への活路が開いたのだと。あの太陽のような呼びかけが、彼らの次の行動を早まらせた。

 

「行くぞー!! このまま押し切る!! 彼女に続け!!」

 

「おおお!!」

 

 畳みかけるクライス達の攻勢。

 乱れ達は精神も乱れ、まともな防衛は期待できない。

 そして、もう既にこの場の決着は着いていた。

 

「――到着ッ! よ!!」

 

■ハーディンを撃破し、彼が構築した盤面を破壊したジャスミン■

■雲の切れ間から射す陽光に照らされ、きらめく汗を流しながら、彼女は堂々とゴール地点に立っていた■

■その美しき・強き姿は、味方の士気を上げるに充分すぎた■

 

「はぁ……はぁ……。やったっ。やった。ようやくっ。あたしは……ッ!! やった!!」

 

■だが、息が乱れた体は崩れ■

■ガクガクと……遅れてきた恐怖によって震える足は、力を失い■

■そのまま、後方へと倒れていく■

■体力の問題だけではない、もっと根本的な■

 

「おっと」

 

「! ……クライスっ」

 

 いつの間にか隣にいたクライスが、優しく彼女の体を抱き留める。無気力ではあるが、いつもよりも穏やかな――少なくともジャスミンはそう感じる声色と共に。

 そこにいるだけで安心できる……そんな風に思ってしまう。

 ジャスミンはさっきまでの緊張感・恐怖感が少し緩み、しかしてその足はしっかりと地に着く。

 彼女の瞳の熱意が燃え上がる。

 

「まだ……試合は終わっていないわ。……行きましょう」

 

 今回の作戦……ジャスミンが自分自身を囮にし、敵の力の源であるハーディンを撃破する。

 それは上手くいった。

 

 ハーディンは慎重ではあるが、同時に感情的でもあり、それなのにあまりにも今回の彼は大人しい。まるで自身が撃破されたら、盤面が破壊されてしまうかのように……それに気付けたジャスミンによる、賭けのようなものだったが。

 敵が慎重ではあるがゆえに、仲間にすら詳細を伝えないで行ったことだった。

 それを達成できたのは、やはり彼の存在が大きいだろう。

 

「ああ」

 

 ジャスミンの体を支えるようにして、共に走り出すクライス。

 彼女の想いを受け取り、そのそばで戦うことを彼は決めている。

 

「……っ」

 

 さっきまで震えていた体が、安堵によって落ち着いていくのをジャスミンは感じる。

 彼と一緒にいるだけで・ただそれだけで不思議と安心してしまう。

 それは、今までの彼女があまり感じることのなかった、不可思議な感覚ではあった。

 そうまるで。

 乱れに村を襲撃されたあの日、ヒーローに助けられた時のように。

 

【だれかぁ……たすけて……】

 

■そう言っていた、もっと小さい頃の……ある少女■

■檻に囚われた彼女は、希望なぞ望むべくもなく■

■自身を縛る鎖はあまりに強い■

■ヒーローの姿形すらも想像できず、ただひたすらに頭の中で巡る妄想だけが頼りだった■

 

「……」

 

「ん?」

 

 想像も出来ないからこそ追い求め・なんとか存在を知ろうとしたヒーロー。

 その姿が、ジャスミンの頭の中で形になろうとしていた。

 それは思ったよりも。

 

「なんだよ」

 

「……なんでもない。ふふ」

 

 思ったよりも、気の抜けた顔で。

 そして、想像よりも素敵なヒーローだった。

 

「……あの輝く太陽のように」

 

「?」

 

■いつだって太陽は自由で、明るく輝いていたので■

■彼女にとっての憧れとなった■

 

「……」

 

■ファイターとして戦っている時■

■そんな存在に、少しなれているような気がしたのだ■

■今回の走破で、その実感が今までよりも強く感じられた■

 

「やっと……」

 

■彼女は過去の鎖を壊し■

■燻ぶっていた闇を振り払った■

 

「そして、今はそれだけじゃない」

 

■彼女の中に生まれた、新たな決意の火種■

■それはきっと■

 

●■▲

 

「はぁ……ッ。くソがァ……!!」

 

 息を乱しながら走る選手が一人。

 彼の姿は見るからに倒れそうで、それがハーディンの支配力の反動であることは明らかだった。

 右手に持った短剣は、目前の敵選手たちを突破するには不十分だった。

 

「はははッ!! なんだァ!! オイ!! いきなり弱くなったなァ! 乱れ共!!」

 

■彼を阻む強力な壁の一人、ベント■

■闘技場で氷結を纏いながら、雄々しく力を振るう■

 

「最後まで油断せずにいきましょう。はい」

 

■もう一人の壁、氷結の麗人ポーラ■

■華麗に舞う彼女の姿は、美しさによって味方の士気を上げていると言っても過言なし■

 

「ぐッ……がァッ!! 息が……くるシい……ッ!! なんでだァッ……!!」

 

 どう考えても、攻勢側である乱れ達は満身創痍であった。

 もうまともに運動する体力は残っておらず、ハーディンによる能力強化も解除された。

 そんな状態で、スターライト・ファイター級の二人を突破できるわけもなし。

 試合時間は残りわずか。

 

「25対15――決着です」

 

■ポーラの言葉と同じぐらいのタイミングで、試合終了の鐘が鳴る■

■クライス達の乱れとの戦い——その初戦は、雨上がりの勝利で終わった■

 

「や、った……!!」

 

「はぁ……ようやく、試合終了……ッ。疲れた……これが乱れとの試合か」

 

「だけどっ。勝った!」

 

 島を守れた安堵や試合に勝てた達成感がないまぜになった、不思議な感情を抱きながら、乱れを打ち破った選手たちは歓喜する。

 ポーラとベントも互いに拳を合わせ、相手の奮闘を言葉にせずとも称える。

 通常の試合とは違う雰囲気だが、間違いなくそれは異世界競技が終わった後の光景であった。

 

「ぐ……!! 認めルかァ……!! こんなのッ」

 

 通常の試合とは違うからこそ、試合後にも気を抜いてはいけない。

 なぜなら彼らは乱れであるがゆえ。

 試合結果に納得できないで、襲いかかってくる者がいるのは自然な流れと言える。

 現に今も。

 

「ヒハハッ。試合なんて関係ねェ……! コロす……!!」

 

■凶悪な凶器を構えた乱れ複数人が、敵を排除するために忍び寄る■

■試合結果など知らぬとばかりに、ルール外での蛮行を行おうとする■

 

「いやいや。ワシがそれを許すと思うか?」

 

「!?」

 

■だが、自然な流れではあるので■

■彼がそれを見逃すわけもない■

 

「ぐっおお!? これはァッ」

 

「な、なにがァっ」

 

 試合後の奇襲を考えていた乱れ達……いや、それ以外の乱れにも変化が起きた。

 彼らの周囲に黄金の輪が複数発生し、神々しさを感じるような光に飲み込まれていく。

 それは抗う術のない強制的な排除機能であり、乱れ達の天敵でもある試合後措置。

 そのシステムを仕掛けた男の声が響く。

 

「試合結果は公正でなければならない。敗者は大人しく退場するんだ」

 

「この声……ッ!! てめェッ!! まさかッ」

 

■声の主は、元地区長ゴールド■

■乱れに協力しながらも・彼は決して試合結果を軽視したりはしない■

■敗北した者たちは、暴走の余地なく排除される■

 

「くそがァッあああァ!!」

 

 乱れ達は、安寧の光に包まれて消えてしまった。

 それを呆然と見ている勝利チームは、勝った場合の処置について、ゴールドから伝えられていたことを思い出す。

 

「こういうことか……乱れ達のルール無用は止めるって。実際に見るのは初めてだ」

 

「左様。そうしなければ、いい試合を見せてくれた素晴らしい選手たちに悪いからな。ハハ」

 

「そういうところは……変わらないんだな。アンタは」

 

 選手たちへと伝わる、元地区長ゴールドの声。それに聞き覚えのある者は、ぴくりと反応した。

 なにかしらのファイターイベントで、朗らかに喋っていた声色のままだ。

 それが恐怖を抱かせる。

 

「……正直言って、見たかった試合展開とは違ったがな。いや、なかなかどうして。いつかの試合を彷彿とさせる激闘だった! これでこそ!」

 

「……」

 

「ハハ! また、このチームの試合が見たいものだ! その時はチーム名も決めなくてはな!」

 

 笑いを響かせるゴールドは、次の試合の算段を考えているのだろう。

 彼がセッティングするその戦いは、今回の試合内容も踏まえたものになるであろうことは間違いない。

 

「オイィッ!! この声が聞こえてっかァ!! 元地区長さんよォオ!!」

 

「ん?」

 

「ん? じゃねェぜ!! ずいぶんととんでもないこと、やってくれたなァッ!!」

 

 ゴールドの声に呼応するように、獣の雄叫びがその場に響いた。

 獣の名はベント。スターライト・ファイターに近いとされる、将来有望なファイターだ。

 試合後の疲労が隠し切れないが、その闘志は決して萎えずに、今も荒れ狂っている。

 彼は怒っている……ようにも思える表情だ。

 

「ああ。そうか。ベント・ハワード。王者の継承者……とは言えないか。はは。それはそうと、いい気迫だ! やはりファイターはそうでなくては!」

 

「……あんたにそう言われると、正直悪い気はしねェなァ!! オイ!」

 

「お、おいっ。ベント!」

 

 ゴールドの言葉に、普通に喜んでいるベントに対し、味方選手たちはツッコミを入れざるをえない。

 あまりに気楽な語りは、どう聞いても敵側の主力に向けるものではなかった。

 だが、ベントが発する闘争心は健在だ。

 

「ははは。次の試合も楽しみにしているよ。キミの戦いはいつも、ヤジと称賛が飛び交うもので、スポンサーがたもそれを売りにしている部分があったが……楽しかったか? 島の救世主としての試合は」

 

「おう。もっと骨のある相手を頼むぜェ! そうでなけりゃあァッ!! 満足できねェッ!!」

 

「ふふ。今回とはまた違うが……強敵を約束するよ」

 

■不敵な笑いと共に、元地区長の言葉は途絶えた■

■ベントもまた、次なる乱れの強敵とのバトルを想像し、獰猛に笑うのだった■

 

「もっとも——次の試合では、メンバーが何人か減っているかもしれないが」

 

■ゴールドのその言葉は、きっと誰にも聞こえなかっただろう■

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