色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「やったー!! 勝ったー!! 一緒に飯食いに行こう!! 灼熱の勇士さん!!」
「断る。そんな暇はない。不満の残る試合だったしな」
「ええー! つれないなぁー! 選手割引のいい店あるんだよぉー!」
■試合が終わり、選手たちはそれぞれの感情をあらわにする■
■やはり、素直に安堵とよろこびを感じる者が多いようだ■
「ふはー! つかれたー! やすむー!」
「はぁ……! はぁ……! くそぉ……! 僕、まるで目立ってない……!」
■ある場所では、守護の剣士とイヤシノ地区最強が■
「立てるか? ボックス」
「……あァ。自分で立てる。大丈夫だフジ丸」
「そうか。……不完全燃焼みたいだな」
「そんなこと、ねェよ。まったく」
■またある場所では、不屈のチームメイトが■
■この試合を勝利に導いた者たちを想いながら、それぞれの感情を示すのであった■
■試合終了を告げる鐘は、まだ鳴り止むことはないようだ■
●■▲
「――で、儀式場は」
「元に戻ったよ。本当に助かった、改めて礼を言う」
「いや別に」
ナゴミノ地区の病院、朝の病室。
この場所に戻ってきたクライスは、儀攻戦での無茶が祟って、ベッドで絶対安静状態となっていた。病室の天井を何ともなしに眺めながら、横になった彼は、お見舞い&感謝報告などをしにきたゼノに対応する。
「……」
彼の話によると。
儀攻戦勝利後に、敵チームの乱れの一派はほぼ全員確保、しかしリーダー格のハーディンは捕えることが出来なかったとのこと。
しかし儀式場のシステムは正常に戻り、なんとか敵の企みを防ぐことが出来た。復旧したシステムは抗体のようなものが出来て、二度と同じ脅威には侵食されないらしいという話。
総合すると、試合勝利後のシステムにより、多くの乱れをそのままぶん捕り箱に転送できたという結果になった。
「当然、クライス君の助力も大いに助かった。ハーディンは強敵だったろう」
「ああ。一人じゃきつかった」
ハーディンの能力はクライスの天敵と言えるものだった。
試合前に受けていた傷も考慮するとクライスの勝率は低く、敗北する可能性もかなりあった。
それを突破した、ジャスミンの予想外の突破力。
儀攻戦らしいチームプレイで、困難を撃破したクライス達。
(あいつを弾き飛ばすとは、とんでもないな)
ジャスミンの新技は、クライスの目から見ても恐ろしい威力を持っていた、まともにぶつかったら、100%状態でも止められないだろうと思えるほどに。
これからのことを考えると彼女の力を借りた方が良いのだろうが、クライスはそのことについて悩んでいた。
(ジャスミンのことは、ぼかして伝えてある)
もし、ジャスミンがそれほどの力を持っていると分かれば、ソルジャーたちとしても彼女の力を借りようと躍起になるだろう。
巻き込むことになるのは、極力避けたいというのが本音だった。
その結果、自身が死ぬ可能性があるとしても。
(なるべく村の人たちは巻き込まないで、乱れたちを排除したい)
しかしそれは難しいであろうことも理解はしていた。
乱れの脅威はそんなに生易しいものではなく、島全体に影響を及ぼしていくだろう予感。
ならば、早めに見切りをつけるのが正解なのだろうが、簡単に割り切れたらクライスという人物は存在していないだろう。
■ぎしぎしと鳴る脳内音■
「……ッ」
■未だ・乱れの旋律は鳴りやまない■
「クライス君?」
「……いや、大丈夫だ」
■これから待ち受ける苦難を考え・クライスは顔をしかめた■
●■▲
「ぐッはああああッ」
■夜闇を走る小太りの男■
■息は絶え絶えで、今にも死にそうな気配を纏っている■
■周囲の木々のざわめきが、まるで自身をあざ笑っているように聞こえる■
「はッはッ」
焦った様子でしきりに背後を気にしながら、奴隷を束ねる男・ハーディンは逃走を続けていた。
乱れの波動を放つ彼を追跡するのは、特級の戦士たち。
彼を仕留めるために、万全の準備を進めていた彼等に隙は無く、故にハーディンは終わりを迎えようとしていた。
「くそ、くそ!! なぜ儂がァア!!」
■現在の状況に悪態を吐く■
■だが、状況は悪化の一途を辿るのみ■
「儂の夢ッ!! 儂のコレクションッ!! 儂のッ」
ハーディンは焼き払われた己の家を思い出す。
長年かけて集めたコレクションを一夜で全て失ってしまった悲しみに涙を流し、やり切れない想いがふつふつと湧き上がってくる。
何の権利があって自身の夢を奪うのか?
自身はそんなにも邪悪だというのか?
「儂は、儂はァア」
ハーディンは己の欲望に忠実に生きて来た。
そうすることが、人生を幸福に生きるコツだと教えてもらったし、実際に幸福は掴めたと思っていたのに。
今の状況はどういうことなんだと、絶叫を上げたくなる。
「儂の・どこが・気色悪いというんだァアアッ」
【なんて気色の悪い……!! この世のものとは思えない!!】
【排除する!! 貴様は世界の悪性だ!!】
「黙れッ、黙れッ」
【邪悪な乱れはここで消えろ。――本当に気持ちが悪い】
「おゴアああああああッ」
今まで言われ続けて来た言葉が連続フラッシュバックを起こす。
頭をぐるぐる巡る言葉は冷たく脳内を突き刺し、ハーディンを苦しめていく。
どこに行っても弾かれる・異物の象徴・故に世界に馴染めない嫌悪感の特異点。
正常なる世界だからこそ存在を許されない。
「ッ!??」
■背中に衝撃を受けて■
■ハーディンは地面を勢いよく転がった■
「遂に追い詰めたぞ。醜悪な乱れ」
「異物は絶対に排除する」
■ハーディンの背後・木々の陰から■
■黒いマントで全身を覆った集団が現れる■
「【浄化の兵隊】イィ……!!」
■彼等こそは、この異世界の秩序を守るもの■
■乱れを排除し・安寧を守る世界的規模の組織■
■名を浄化の兵隊■
「このオォオッ、悪辣非道の外道どもがァアッ!!」
「失笑なり。貴様がそれを口にするか」
彼等は訓練されつくした動きでハーディンとの距離を詰めていく。
まるで逃げる隙はなく、彼の命運も尽きたと誰もが思うだろう。
理不尽な・彼にとっての・状況にハーディンは吠える。
「許さんぞォオオッ!! 儂の宝!! 儂の全てを奪いおってォオ!!」
「貴様の捕えていた奴隷は全て解放したからな。邪悪は断ち切られ、滅びるが定め」
「グあアアあッ!!」
■狂気の叫びと共に■
■戦闘音が発生し……■
「――よし、そろそろ殺すか」
■結果■
■ハーディンはボロ雑巾のような有様になった■
「ぐひゅふううううーッ、ぐ、ぐぞオオォ」
「はは、見ろよこの醜態」
虫の息と言うに相応しい姿のハーディンを囲む浄化の兵達たちは、その醜態を眺めて嘲笑っていた。
ハーディンの顔は赤く膨れ上がり、全身の骨は崩壊寸前、まさしく満身創痍と思われる状態・死の間際。
それでも死んでいないのは彼がしぶといからではなく、ちゃんとした理由があった。
「まあ、痛めつけるのはここまでで良いな」
「正義の鉄槌は効いたかよ。ゴミクズ」
■安定感のある悪意によって■
■ハーディンは追い詰められ、苦しめられる■
「ぐ、ウううッ」
■彼を見下す視線は・いつもの如く■
【キモちわるい、気持ちの悪い、気色の悪い気持ちがワルイワルイ何故生きている息をしている、この異物がゴミクズが世界の汚れは排除スル、絶対に排除デリートこの世から消し去ってやる気持ちの悪い異物め】
■悪意の奔流は止まることなく・流れ続ける■
「――弱い者いじめはよくないな。止めようか」
「なに?」
「貴様は……」
■突如出現した悪意は・それすらも塗り潰した■
■ふたたびの戦闘音、そして■
「ご、アあ。や、やめッ」
「少しは人の気持ちが分かったか。ちなみに僕は分からない」
「ごッ――」
顔をフードで隠した男の蹂躙劇。
ぐちゃりという音と共に砕け散る人間の中身・最後の蹂躙が終わり、その場に残ったのは異物が二つ。
静寂が満ちて血生臭い臭いが充満する夜闇の中で、二人の乱れは出会った。
その方向性は違うが・どちらも特級の悪性であることには違いなく。
「ハーディン・ゴズレイド」
■予想外にもハーディンは素直に名乗った■
■悪辣王に対して感謝と・親愛の感情を抱くのに、そんなに期間はかからなかった■
「美味しい飯屋があるんだが、一緒に行くかい? ただし、鎖国が厳しい国なんで密航必須だが」
「ぐひひゅう、肉の質次第だなァア。油をおおおォよこせェッ」
■危うい綱渡りの上で展開される奇妙な友情■
■ハーディンは出会った時に言われた一言を・今も胸に刻んでいる■
「気持ち悪くなんてないさ。素晴らしいじゃないか」
■少しも見下しの感情を秘めてはいない瞳で■
■悪辣の王はハーディンの内面を肯定した■
「進めている計画があるんだが――」
■そんな友人から頼まれた計画■
■ハーディンは喜んで力を貸すことに決めた・そう約束した■
●■▲
■時は過去から今へと■
■儀式場の不具合か・彼の乱れの強烈さゆえか、とにかく敗北後の強制転送から逃れた乱れが一人■
■夜の林を、力強く土を蹴って走り抜けようとする両足は、さらなる熱意に満ちていた■
「――失敗したカ。ハーなんとか」
「……」
現在。儀式場にて敗北した後。
過去と同じように夜闇を逃走するハーディンの前に、同じ混迷の太陽が姿を現した。
その姿は邪悪な気配が零れ出していて、残虐性という点で言えば悪辣王以上かもしれないオーラを纏う。
名を人体破壊者・ザント。
「ぐ、ふふ。ザントよオォ、何の用だァア」
「なーニ、同志を助けに来たのサ。くハハ」
「ほうほうゥウ、貴様が儂を助けに来たとな?」
ソルジャーたちから逃げて来たハーディンは既にボロボロ。
このタイミングでの助っ人はナイスという他ない筈なのだが、ハーディンはまるで警戒を緩めてはいない。
むしろどんどんと警戒を強めていく。
目前の人物は味方ではないと。
「――もう一度言う、何の用だ」
「……」
「貴様が仲間を助けるために動く? 有り得んだろオォ。同胞殺しよォ?」
「……ハハ」
ハーディンは確信をもってザントを警戒し、臨戦態勢を取った。
それに対するザントの反応は否定なし・つまりは言葉が当たっているということ。
放たれる邪悪な気配は、今この瞬間も増大していた。
「……聞きたいことがあってナ。質問は一つダ」
「ふむ、言ってみるがいいさァア。仮にも乱れの同胞だァ」
■ザントは鋭い視線を向けて■
■虚偽は許さないと告げる■
「戦う理由はなんダ。王の作戦に執着する理由ハ?」
「……」
質問は行動の動機について。
ハーディンは儀式場の破壊などに執着するようには見えず、仲間内でその疑問を抱く者は少なくなかった。
別にそれをやらなかったからといって、悪辣王は特に咎めはしないであろう。
それなのになぜ?
「なにをォ……愚問すぎるぞォッ……貴様ァッ……」
だがそれは、他者にとっての疑問である。
「友との約束だ。守るのは当たり前だろう」
彼にとっては当たり前のことである。
絶対に揺らがないことである。
ならばこそ迷いなく・そう返答した。
「……へえ、キミはそういう人種だったカ」
「質問はそれだけかァ。ならば去るがいい」
「ああー、問いはそれだけ・次の行動も決まった」
■ザントは殺気を発して■
■ハーディンの心臓に狙いを定める■
「ぐハハァア、やはりそう来るかよ。貴様はア」
「ハハ。キミは普段の言動とは正反対に、【警戒】強くてやり辛いナ」
「貴様だからというのもあるぞォオ、警戒を緩めるには布石が足りなかったなァア」
睨み合う二人の混迷。
近くの草木が騒めき、不穏な気配が加速度的に上昇を続けている。
どちらかが動いたらどちらかが死ぬ。
間違いなくそう断言できるほどの・邪悪な殺気がその場に充満していく。
「……」
「……」
■先に動いたのは■
「――行くゼ」
■眼帯の男・ザント■
(速いなァア、流石にィ)
ザントの速力はハーディンを上回り、並の就職者では対応不可能なレベルに達している。
トップクラスにはあと一歩届かない程度ではあるが、彼が使える魔導の威力を考えると充分過ぎると言えるだろう。
(ザントの得意魔導・【稲妻】。だがしかしィイ)
ハーディンはザントの戦法を超速分析する。
ザントは電撃魔導による広範囲殲滅攻撃を持っていて、その威力は異常なレベルにあった。
だが、この状況においてそれは使わないと確信している。
(使えば、安寧の太陽の追っ手が集まってくるからなァア)
あまりの超威力ゆえに目立ちすぎる弊害。
それを理解しているからこそ使えず、つまりは小規模攻撃に限られる。
現にザントは接近戦を選択した。
(儂相手にそれは――愚かアァア!!)
■発動する暗黒魔導■
■相手の行動権を縛る悪辣戦法■
「ぐ、オッ!?」
ザントは自身の動きが制限されたことに気付き、顔を驚きに染めた。
どう動こうとも前方突撃に変換される不条理。
彼は冷や汗を流した。これが悪辣王すら認める、最強クラスの防御魔導かと。肝が冷えるとはまさしく今の状況。
「――やばいガ、これなら対処できル」
■ザントの邪悪な笑み・伸ばされた腕■
「ッッヌゥ!?」
■勝負は一瞬■
「ぎアッッ!!?」
■ザントの腕がハーディンに到達した瞬間■
■人間だった肉の塊が飛び散り・地面に撒かれる■
「相手がワルイ、あばヨ」
地面を転がるハーディンの右目を、無慈悲に踏み潰すザント。
その場に満ちる血の香りは惨殺の証。
顔色一つ変えずに凄惨な現場を眺めるザントは、恍惚の表情を浮かべて薄く笑った。
これこそが乱れの代表格。
仲間だからなんだというのか。邪魔になったなら消すだけだ。
彼の行動はそれをしっかりと体現していた。
「さて盤面はどう動くかナ。いつも通りに博打で行くとしよウ」
■邪悪は夜闇に消え■
■混迷の太陽は不気味に暗躍する■
「……」
■地面に染みこんだ狂気的な血と肉は、もう妄言を吐くこともない・その妄想が紡がれることもない■
■当たり前のように消える異物として、その内に抱えた熱意ごと排除された■
■太陽を求めたまがまがしい闇は・同じ闇に飲まれ、消え失せる■