色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
【この儀式場……無級だったか】
■ハーディンとの戦いで取り戻した儀式場■
■そこは、大勇士になるために必要なキーの一つだった■
【……】
■クライスはこれで、また一歩大勇士に近づいた■
■一応、現在判明している無級の儀式場は、島の危機ということでクライスがすべて手に入れていた■
【あと二つ】
■無職の勇士が大勇士になるまで、あと二つの無級が必要になる■
■クライスはそう感じていた■
■ある少女の願いでもある――その力はきっと、今の悪辣王の脅威に対しても有効な力となってくれるだろう■
●■▲
【ではまた。肩を並べて戦う時もあるかもしれないな】
■ゼノが去った後■
「ふざけているの? あんた」
「ええー」
■昼の病室■
■ベッドの横の椅子に座って、リンゴを剥いているジャスミンは言う■
■彼女の服装は、淡い色のカーディガンで、その色合いにマッチするように表情は穏やかだ■
「あたしを巻き込みたくないなんて……ひどい侮辱よ!! バカにしているわよね!」
「いやいや俺は」
「とにかく! あたしはあんたと一緒に戦うわよ! 絶対に!!」
ジャスミンに、自身の想いを告げたところ猛反対を食らってしまったとさ。
彼女はあくまで、クライスの力になりたいと譲らない。
クライスとしても、本人の意思を捻じ曲げることはしたくないので、ここで言葉に詰まることになってしまった。
「だいたい、それを言ったら他の仲間は巻き込んでもいいのかしら?」
「ぐっ」
「あたしだけ特別扱い? ずいぶんと舐めてくれるじゃない! ……そんなに頼りないですか?」
■弱弱しいつぶやきが、ジャスミンから聞こえたような■
「いや、それは」
ジャスミンにジト目を向けられ、クライスは何を言ったらいいかと言葉をつぐむ。確かに彼女の言っていることは分かるのだ。
今回のハーディンの一件が、トラウマっぽくなってる側面もあるのかもしれない。
本当に助け出せて良かったと、彼は心の底から安堵している。
「……今回だって、あたしがいなければ不味かったでしょうに。……そうよね?」
「それは」
「やせ我慢しないの。今だって結構ガタガタなのに」
「……」
彼女の言う通りではあった。
なので、碌な反論もできずに言葉に詰まるクライスは、ジャスミンに言い負かされるしかない。
彼女が、爪楊枝を使ってリンゴを差し出してきたので、それを食べながら渋い顔を形作る。
リンゴは普通にうまい。
やたらと芸術的で、綺麗な皮の剥き方だったのが印象的。
「……」
「これから動くんでしょう? 儀式場を取り戻すために。乱れたちとの試合に挑む」
「!」
「顔に書いてあるわよ、まったくもうっ! 分かりやすいんだから!」
「お前が言う」
心中で考えていた今後の動き。
儀式場を各地で破壊しているという乱れたちに、どう対処するか、その答え。
クライスの中でそれは既に確定事項となっていた。
今回は、ジャスミンを助けるのが目的としてあった、が。
(これ以上は看過できない。止める)
■彼の中で何かが囁く■
■放置していたら、取り返しのつかないことになると■
「……敵は危険だ。それでも戦うのか」
「勿論! この島を好きにはさせない!」
ぐっと拳を握りしめるジャスミンの瞳が、めらめらと燃える。
そこに秘められた決意は、簡単に揺るがないものと気付き、クライスは困ったなと顔をしかめた。
しかし、彼女の選手としての能力は、どう考えても乱れ達との試合において有用すぎる。なのでさらに頭が痛い。
そんな彼をジャスミンはちらちらと見ている。
「そ、それに。あんた一人じゃ危なっかしいし……!! 放っておけない……でしょうっ」
「……」
■いつもより緊張した様子で、言葉つむぐ彼女■
■その視線には、前には感じたことのないような、強い好意の色が表出していた■
■ジャスミン自身も、どうクライスに接したらいいのか悩んでいるようだ■
(ツンデレ過ぎる。分かりやすい)
鈍感にすらなれないレベルの好意目線。
ジャスミンは直球感情を表しているために分かりやすく、呆れてしまう程に可愛らしいとクライスは思う。そんな彼女の姿を好ましいと思うからこそ、大変なこともあるのだが。
自然と、彼の心臓がきりきりと痛みを感じてきた。
「……」
「……」
「……」
「……」
■気まずい■
■と、二人の想いが交差した■
「あの……」
「な、なんだ」
「その……」
■お互いの気持ちに折り合いがつけられず■
■二人の感情は迷走していた■
■なのだが■
「……助けに来てくれて、ありがとうね」
迷走しながらも、ジャスミンはポツリと言った。
必死に心の底から絞り出したかのような、儚げな少女のような言葉に、今までにない印象を感じたクライス。
ジャスミンらしくない、そのいじらしい反応は、彼の緊張感を高める結果にしかならないのだが。
(ドキドキしてきた)
結構鈍い彼にも、異性としての好意が強く伝わってくる。
今まで女性にそういった好意を向けられた経験が少ない・というかヒナしかない。
そんな彼に、まともな対応は無理のダメ押しというやつであり、自身のモテモテ具合に戸惑うしかない。
感情としてはもちろん嬉しい。
しかししかし、心の整理が上手くいかないのも事実。
(落ち着け。コミュ障発揮している場合じゃない)
クライスは、深呼吸をしながら次の言葉を模索する。
こういう時の、モテる男の対応をまるで持ちあわせてはいない彼だが、男の見栄的なものがあるのだ。
なんとか素敵な言葉を抽出するように頑張るが、顔を変に歪ませた為にジャスミンに笑われてしまった。
「ぷ、ふふ」
「笑うなよっ」
「ご、ごめん。あまりにも変すぎて……」
場の雰囲気が一気に緩む。
予想外の展開ではあるものの、変に緊迫感がある状態は壊れたので、クライス的にOKな展開。
やはり、気兼ねなく会話できる方が楽だし嬉しいのだ。
ラブコメ的な雰囲気は毒なのかもしれない。
「……まあ、とにかく。あたしはアンタに救われた! つまり借りがあるってことよね!」
「いや。友達だし。気にするな」
「友達…………いいから!! とにかく借りがあるのよ!! 分かった!? 大人しく返されてなさい!」
「ええー?」
強引なジャスミンの言葉に、開いた口が塞がらないクライスは、さらに変な顔になってしまった。
なにがなんでも、彼女はクライスの力になろうとするようだ。
借りと言う建前でもって、乱れたちとの戦いに介入する腹積もりである。
これではクライスも下手に断ることが出来ない。
まあ、元々彼女の意思を尊重する気ではあった。
「……そろそろ時間。あたしは用事があるから行くけど、サーシャとヒナが見舞いに来るのよね?」
「お、おう」
「あ、あんまり鼻の下を伸ばしてるんじゃないわよッ。もう!! だめだから!」
「誤解だっ」
椅子から立ち上がってジト目を向けてくるジャスミンに、クライスは急いで顔をそむけた。
ヒナはともかく、サーシャは自身にそんな感情を抱いていないと弁明する。
「どうかしらね。あの娘……むむむ」
「?」
「アンタには女性の心の機微なんて分からないでしょう。微妙なラインなのよ」
「??」
サーシャについて、ぶつぶつと口にするジャスミン。
それを疑問に思いながら見ていたクライスだったが、やがて彼女は考えても無駄と思い、病室の出口へと歩いていった。
「……」
その途中で立ち止まり。
顔を少しだけクライスの方へと向けながら、ジャスミンはか細い声で言う。
「あたし、これからジルヴァラを頑張っていこうと思ってるの」
「……へえ。円盤戦は」
「あたしには円盤戦よりも儀攻戦の方が合ってるって、今回の試合で確信したわ。もう迷わない! これがあたしの進む道!!」
儀攻戦プレイヤーとしてやっていくという、確固たる信念からくる気配がジャスミンから感じられる。
正直、敵に回したくないようなオーラなので、クライスは若干引いていた。
……それはそれとして、どうやら彼女の中の迷いがなくなったのは、純粋にうれしいと思える。少し複雑ではあるが。
「クライス……特訓とか、しないといけないわよね。ね!」
「は?」
「……儀攻戦を想定した特訓とかっ。一緒にやった方が良いでしょう!!」
顔が赤くなっているジャスミンの混乱マックスの大声に、クライスは呆気にとられている。
ようするに、退院したら一緒にトレーニングしようという誘いだ。
共に戦う戦友としてのコンビネーションを磨くためなのか・それとも他に何か特別な感情があるのか。
分からないがクライスは返答した。
「え、やだ。面倒だし」
「……」
■努力嫌いの怠け者は■
■ジャスミンの誘いを、見事に打ち砕いた■
「こ、この」
■彼女はこめかみをぴくぴくさせて■
「根性なしーッ!! バカーッ!!」
■顔を真っ赤に染めながら、怒った様子で退室した■
「……まずかったかな」
いつもの怠け癖から、反射的に返答してしまったが、ジャスミンに対して悪いことをしたかと頭を掻いた。
しかし熱血スポ根みたいに努力をするなど、彼にとって何とか避けたい事態ではある。
だが、相反する想いがあるのも事実。
「ハーディンに・悪辣王」
■ため息を吐くクライスは、ベッド近くにある戸棚へと目を向ける■
■そこに入っている物を引っ張り出し、自身の手元で広げた■
「……」
広げたそれは、円盤戦の大会の際にBuyしたポスター。凛々しく美しく、堂々としたジャスミンの姿が映っている。
戦闘服を着て、汗を流し、どこまでも好戦的な笑みを浮かべる彼女が、拳を天に向かって突き上げている。
あまりに人気で売り切れそうだったため、慌てて購入したものであり、そうしてしまうほどに惹かれるものがあったのは事実だ。
「ふーむ」
■見ていると、なぜか不安感が薄れていく気がする■
■サーシャとはまた違った、太陽のような安心感を与えてくれる■
■彼にとっての・平穏の一欠片■
「そうか、そうだよな」
小さくつぶやき。
宝物を扱うように大切に、手に取った欠片を戻した。
●■▲
■怪物たちの存在が彼の不安を煽る■
■その時■
「……大丈夫よ。クライス」
■病院の外に出たジャスミンが、誰にも聞こえないようにつぶやく■
■近くの花壇の植物を揺らす風に合わせて、それは消えていった■
■彼女の言葉の意味は……クライスの様子は見えないが、その不安感を感じ取ったのかもしれない■
「あんたを支える。あたしが絶対に」
■愛する者を守る、新たな誓いを心に刻み■
■進み続ける少女は熱意と自由を胸に、走り出した——■