色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
■武器を振るった年月の分だけ、人は強くなれるというのなら■
■重ねた地獄の分だけ・強くなれるというのなら■
「オオ……ッ」
■その戦士は・どれほどの頂に上れると言うのか■
「まだだ・まだ、まだまだ……」
周囲はまるで荒野・いや、それ以上に荒れ果て、生気のない平原だった。
彼は、この場所に来てからの出来事を思い出そうとする。それはある種の現実逃避のようでもあった。
喉は痛いほど乾いている・肉体は疲労の渦に飲まれている・精神は摩耗を続けている。
止まることのない乱れは・彼の周囲で荒れ狂い、今にも命を奪わんとしていた。
「まだ……オレは……戦えるッ。そうだッ」
■そんな乱れ払うように、決意の声を発する■
■明滅する視界の中で、必死に足に力を入れた■
「……くそ」
■彼の目前に在るのは、古ぼけた黒い扉■
■とても大きく・しかし錆びついていて、威圧感と不気味な気配を纏ったモノ■
■それはしっかりと閉じられていて、まったく開く気配を感じさせない■
「また、か……ッ」
もうこの扉を見るのは何回目だろうか?
この【場所】に入る際、通った時に見て、二度と見ることはないだろうと思っていた扉だ。
そもそも、ここに戻ったところで意味はない。
この扉は入口専用で出口ではない。
「そうッ。わかっている……ッッ」
■無意識の内に、この場所と外界を繋ぐ場所へと戻ってきていた■
■それほどに、この【魔導場】の環境は恐ろしく、心身を着実に削っていく■
■彼のいた世界とは根本から異なり、ただ息をしているだけで、耐えがたいほどの苦痛が襲ってくる■
■以前にも感じたことのある不快感ではあるが、その時よりもはるかに密度が濃い■
「ぐ、くそ……ッ。なにをやってる……ッ。オレはッッ」
自身の行動を、吐き捨てるように言う。苛立ちに任せて目前の扉を殴りつけた。鈍い痛みと共に拳を流れる血は、苦渋と後悔に染まっている。
その痛みも【別世界】基準になっていた。
酷く嫌悪感を感じる、脳髄まで響くような感覚だ。
「……!!」
■痛みを感じている彼は、それ以上の脅威を察知して振り向いた■
■そこには■
「もう追いつかれたか……クソッ」
■いつの間にか、周囲を複数の巨大な影によって囲まれている■
■そのどれもが、まがまがしい気配を発し、血なまぐさい視線を向けてくる■
「……ッ」
■その怪物は大きな口を持ち・そこからは物を溶かす毒の息を発生させていた■
■ある怪物は体中に奇怪な目を持ち、茨のようなモノを複数生やしている■
■ある怪物は巨大な目を・牙を・爪を・ただひたすらに狂暴な気配を■
■多種多様な怪物が、脆弱な生命を踏み潰すために集まってくる■
■その犠牲者たちの姿は、足元を見れば一目瞭然であった・散らばる人骨や、彼らが持っていた装備の残骸——は、赤黒く染まっていた■
「……まいった」
思わず出た一言は、この場所に来てしまった後悔か。それとも。
なんにしても、もう後退の道はなく、怪物たちに所々を抉られた体で進み続けるしかない。
立ち止まれば待つのは【死】なのだから。
「……やってやるッ。もう一度だッ」
■歯を食いしばり、戦斧の勇士・ジンは重い一歩を踏み出した■
■この場所——【狭間の地】を踏破するために■
■闇に覆われ・ひび割れた歪な空が、修練者を笑うかのように不気味に鳴動した■
●■▲
「……」
「……」
■深夜、クライスの部屋■
■ベッドの上には二人の影が座っている■
「……ごめんなさい、こんなに夜遅く」
「別に、いい」
「うん、ありがとう……」
震えるジャスミンを、後ろから抱きしめるクライス。
ハーディンとの一件で彼女が受けた心の傷は深く、いまだに体が震え出して止まらなくなる時があった。目を閉じると思い出す凄惨な光景は、悲鳴と絶望をジャスミンに刻み込んだ。
そんな時はよくクライスの部屋を訪れていた。
「こうしてると落ち着くのよね……。ふふ」
「そうか」
「そうよ。あんたがそばにいるだけで……あたしは助かるの」
ジャスミンの言葉の終わりの方は、か細い声だった。クライスに聞こえたかは分からない。
彼は本当にただ抱きしめているだけだ。
それだけでジャスミンは心安らぎ、また乱れとの戦いにおもむく気力を充実させていく。
まさしく心の支えとなったことに対し、クライス自身もできるだけ彼女の平穏を守りたいと思っていた。
「ふーむ」
それはそれとして、この状況は結構理性的な意味できつかったりもしたが、何回か重ねる内に慣れたクライス。
これで彼女が調子を戻せるのなら、そんなこと言ってもられないのだし。と。
「ねえクライス……あたし」
■少し幼げな声色で、ジャスミンはクライスを呼ぶ■
「?」
「……なんでもないっ。なんでもっ」
「なんでもないこと多いな」
■もどかしい想いを秘めたまま■
■彼らは乱れとの次なる戦いに向け、心身を整えていく■
■こうして過ごす何気ない時間によって、さらにその絆を強めながら■
●■▲
「ハァア!!」
「おおっ」
■後日■
■場所は浅瀬に囲まれた砂地■
■照りつく太陽の下で、クライス達は特訓を行っていた■
「どうしたのよ!! いつもよりはやる気があるじゃない!!」
「いや別に」
「やっぱり気のせいね!! ぶっ飛ばす!! 気合入れてあげる!!」
「やめて」
ジャスミンが突撃を繰り返して・クライスがそれを受ける。
無職の勇士としての力をフルに使っても、最近のジャスミンを相手にするのは苦労するレベルになっていた。
衝撃音が魔導場内に響く度に、突撃の威力は上がっていく。
それを聞いていた、周囲の選手……前回の試合を共に戦ったチームメイト達は、畏怖の念を彼女へと向けていた。
「うおーっ。すんごい威力~。こっちまでビリビリくるなぁ。あはは」
「はッはァ!! 頼もしいねェッ!! 次の試合が楽しみってモンよ!!」
「はは、本当にいつも闘争心マックスですねー。あなたは」
「そりゃあなァ!! せっかく、普通の試合には出られないような選手と戦える機会! 楽しまなきゃ損だろォ!!」
少し離れてトレーニングをしているロリン&ベント。彼らは、実戦形式での攻防を行っている。
ベントの放つ氷結の拳を、ロリンは巧みなフットワークでかわしていた。その防御技術は洗練の域にある。
対するベントの魔導も、回避するロリンの体をわずかに凍結させていく。
「わずかに……なッ。なかなか芯まで凍らねェなァ!」
「そんな簡単に行きませんよ。その氷結魔導、魔導力がある程度高い相手にはイマイチな威力ですねー」
「言ってくれる、ぜ!! ラぁッ!!」
炸裂するベントの拳が、さらに勢いを増してロリンへと放たれた。それにはさすがのロリンも目を大きく開け、反応が少し遅れた。
「おっとー、あぶなッ」
「なにィ!?」
■ロリンは鋭い蹴りによって、向かってくる拳の軌道をそらした■
■彼女の長いスカートが大きくめくれ、その下に隠された、守護者の女戦士としての洗練された美脚が顔を覗かせた■
「……へえ、いい足してんじゃねェか」
「え、セクハラ?」
「そういう意味じゃねェよ! はッはァ!!」
ロリンもベントも、汗を流し息を乱すレベルの疲労具合。周囲で戦っている選手たちも同様に。
次なる乱れ達との試合に向けて、鍛錬を重ねていく。
次戦も同じメンバーで戦うことを想定してのチームプレイも行い、このチームならではの武器を研ぐ。
「しっかしッ、今回も練習に遅れたなァッ。ロリンさんよォッ!」
「あー、すいません。少し用事がありまして……」
「頻繁にすぎねェかッ。……まァ、練習する時はちゃんとやってるからァ、いいがよォ」
■ベントは視線を周囲に巡らす■
■そこにはいない、何人かの選手■
「……エレジーとポーラ。あの二人に関してはァ、確か【試合中】だったなァ」
「……ええ、乱れのチームとの。ね。いやー、二人がいないと寂しいですね」
「はッ、確かにイマイチ張り合いがないかもなァッ。おらッ!」
■エレジー達は、乱れの新たなチームとの試合中■
■その戦いの様子を思い浮かべながら、彼らは二人の帰還を待つ■
■チームのトレーニングの熱は加速していった■
それから少し経った頃――エレジー達の敗北が告げられた。