色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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血のように赤く・敗者を告げる

■空は血のように真っ赤だ■

■地面は乾いている■

 

「はァあああ!!」

 

■試合開始から50分経過■

■エレジーは雷光を纏いながら、フィールド上を走っている。その勢いは凄まじいもので、鬼気迫る迫力があった■

■それも当然なのかもしれない■

 

「――は・ヒ、ヒヒヒ」

 

 彼女は既に右腕を失っていた。その顔は冷や汗がいくつか浮かんでいる。吐く息は荒く、追い詰められているのは明らか。

 ゴールまでの距離は100メートルほどで、それを守る敵選手の数はそう多くない。

 彼女の雷撃走破ならば、充分に走り抜けられる戦況ではあった。

 

「……ッ! 行けるッ」

 

 エレジーが一気にゴールへと接近する。その両足は力みなぎり、敵選手たちを寄せ付けない破壊力を発揮した。

 速度と雷撃によって、並のブロックでは絶対に防げない走力。

 ゴールはもう目の前まで迫っていた。

 

「ヒヒ! かかりましたねェッ」

 

■どこからか・邪悪な笑いが響いた■

 

「なッ!?」

 

■エレジーはバランスを崩した■

■その両足は、肘から先を失っている■

 

「うぁッ!」

 

 顔から地面に転がり、無力に倒れ伏す雷光の走者エレジー。もはや片腕しか残っていない体では、試合続行不可能なのは明らかであった。

 魔導力も少ないのか、電撃の威力も弱まっている。

 彼女は弱気な表情を一瞬見せるが、歯をくいしばってなんとか耐える。

 まだ戦うための気力をみなぎらせている。

 

「は・ヒ。これはこれはァ、恐ろしい表情ですなァああッ。はヒ!」

 

「……ッ!!」

 

■頭を強く押さえつけられ、エレジーは視点を固定される■

■声の主の姿を見ることすら出来ず、歯噛みする■

■だが、その心中にはある星が光っていた■

 

「はヒッッ。あァ、なんと無様なァ!! もう戦えませんなァ! スターライトファイターともあろうお方がッッ」

 

「この……ッ!!」

 

「ひはハッ! もう試合は決まりましたかナァ!?」

 

■挑発的な声が、エレジーの耳の中で不愉快に反響する■

■他者を嘲るような感情が渦巻く、乱れの音色だ■

 

「まだだよ……!! まだ試合は終わってないんだから……ッ」

 

「ふん? んん? 強がりますナァ」

 

「強がりじゃない! まだこのチームの星がいる!!」

 

 エレジーは悪意の声に負けじと、意気旺盛な大声を発した。それは確かに強がりではなく、チームメイトへの強い信頼がある。

 決して乱れに負けない、強き星の輝き・同じスターライト・ファイターのポーラがいると。

 彼女の氷結魔導による戦闘スタイルのキレを、よく知っているからこその言葉だ。

 

「そ、そ、その星とはァ……この試合を勝ちに導けるッ。そんな存在であるとッ???」

 

「……当たり前!! 今に見てて!!」

 

■エレジーの力強い言葉■

■それと同時に、どさりという音が聞こえた■

 

「え?」

 

■彼女は、横目で音がした方を見る■

■それは人だった・両腕は変な方向に曲がっている・両足は歪に折れている・体中がひび割れている・片目は吹き飛んでいる・完膚なきまでに破壊されていた■

■そこには――目の生気を失ったポーラが倒れていた■

 

「ポー、ラ? な、んで」

 

 失われた星の光。

 それを見たエレジーの瞳もまた光を失っていき、試合の勝利がなくなったことを実感せざるを得なくなっていく。

 煙を発しているポーラの肉体は、既に試合続行不可能なのは明らかで、もはや退場するしかないという現実。

 

「そん、なァッ」

 

■涙を目に浮かべるエレジー■

■完全に気力を折られた彼女、勝利を確信した敵はその様を笑う■

 

「ひ・ハハはッ!! あの【大いなる怪物】相手では・では! か、勝ち目などありませんでしたなっ」

 

■ザシュッと■

■エレジーの残った腕が切断された■

 

「う、アッ!」

 

「ひ、ははハッ。――ここで退場はさせねェよ小娘ェッ。ははハッ!!」

 

 頭を掴まれて、両腕両足を失った体を持ち上げられるエレジー。ささやくようにかけられる言葉は、悪意を何倍にも濃くした色を宿していた。

 試合の趨勢は既に決まった。

 ならばあとは、その絶望的な試合の過程を目に焼き付けろと。

 彼女のスターライトファイターとしての尊厳を、粉々に叩き潰すつもりだ。

 

「ぐひハはッ!! ずッッと抑え込んできたからなァッ!! 存分に楽しませてもらうぜェッ!!」

 

■乱れの者は、その邪悪な笑い声をフィールドに響かせる■

■それはどこまでも残酷な音色を奏で、異世界競技の本質を汚すかのようだ■

■その悪意に呼応するかのように――【怪物】の雄叫びが遠くで響いた■

 

●■▲

 

■砂地のトレーニング場■

■魔導場内では、練習を行う選手たちの熱気が渦巻いている……が■

 

「はぁー。練習めんどい。つかれた」

 

■ため息は変わらずに。そう、ナマケモノの本質は簡単に変化しない■

■少し汗をかいてはいるものの、そこまでギリギリの練習を行っているというわけでもない■

■だというに、既にクライスの精神は結構ギリギリ状態になっているのだった■

■まるでスポ根のようなトレーニング展開に、彼の心は猛烈な拒否反応を起こしていた■

 

「うおおお!! もう一本!!」

 

「まだまだ!! やれるやれる!!」

 

 選手たちの声が、痛いくらい彼の耳に入ってくる。凄まじい熱量をひしひしと感じ、よくこの練習の熱意を一週間ぐらいずっと維持できるものだと感心した。

 その努力の熱波、結果。

 あのハーディンの試合からさらに、チームの総合力は目に見えて向上しているようだ。

 寄せ集め感のあったチームであったが、強大な乱れとの試合を越え、団結力も強化されている。

 

「よし! そこでパス!!」

 

「ナイス!! フジ丸さん!! さすが!」

 

 フジ丸がパス練習を行っている姿が、クライスの視界に入ってきた。自分とは違って、やたらとキラキラして見える練習姿だ。

 その動きは、長年の経験による技巧が感じられるもの。現在のような、汗を流して苦渋を越えるようなトレーニングを、ずっと続けてきた努力の成果だろう。

 

「……」

 

 フジ丸がパスを投げようとするのを、複数の選手が妨害しようとしている。

 が、それをさらに阻む一つの大きな影。

 

「相変わらずいい動きじゃねェかよ! それでこそ【不屈の歩兵団】の古株だ!」

 

「そりゃどうも。お前の方も頼りになるよボックス」

 

「……おう! そう言ってくれるとうれしいぜ! へへ! 次の試合も……【俺たち】の力を見せつけてやろうじゃないかよ!」

 

 ガタイのいい大男による豪快なブロックが、フジ丸のパスを手助けする。相手が複数だろうと上手く攻撃をいなし、逆に弾き返す勢いである。

 フジ丸と同じチームに所属するパワーファイター、ボックス。

 熱意なら他の選手にも負けてなく、凄まじい熱気と気迫を込めて練習を進めていく。

 

「……負けられるかよ!! うおお!!」

 

■彼は一瞬だけ、視線をそらした■

■その視線の先は……■

 

「なによ? クライス? ……あ、あたしの顔になにかついてますか?」

 

「いや、なんでも」

 

■ボックスが、ジャスミンに目を向けていた■

■クライスはそう感じたが、気のせいかとも思う■

■ジャスミンは自分の顔になにかついてないか、恥ずかしそうにチェックしている■

 

「……ああもうッ。余計なことさせないで! さっさと練習再開ッ!!」

 

「うおっ」

 

■顔をブンブン振って、無理やりに気持ちを切り替えるジャスミン■

■その眼光は、以前にも増して鋭くなっていた■

 

(なんだジャスミン、吹っ切れたか?)

 

■異常に調子のよさそうなジャスミンは、ここにきて急成長している■

■なぜか前よりも、ストレッチ中とかに手伝いを頼んできたり、休憩中に食事を共にしないかと誘われたりが多くなっているが、クライスは特に気にしない■

 

「よーし!! 新技行きま……くわよ!!」

 

「げっ」

 

 右腕をぐるぐる回すジャスミンと少し離れて向かい合うクライスは、彼女の新技を恐れていた。

 何故なら威力が単純に凄まじく、まともに受けるのは非常に難しい攻撃だからだ。

 しかし、特訓ならば苦労をするのは当然であり、嫌です駄目です拒否しますとはいかないわけで……。

 

「はぁ」

 

■溜息一つ■

■そして轟く大きな衝撃音■

 

「あ、いかん」

 

■クライスの意識は途切れた■

 

「……」

 

 数分後、意識を取り戻したクライスは頭に柔らかい感触を感じた。

 これはもしやと思った時には、ジャスミンの心配そうな顔が視界に映る。

 

「ご、ごめんなさい。やり過ぎました……Gさま……じゃなくてクライス」

 

「……」

 

 しょんぼり気味のジャスミンを見たクライスの視線が固まる。

 何故なら、彼女の頭に可愛らしい猫耳が生えていたからだ。

 そういえばそんな種族だったことを思い出し、クライスは少しだけにやけた。

 

「気持ち悪いっ。なにその顔……っ」

 

「いや、すまん」

 

「……」

 

 クライスの視線に思うことがあるのかどうか、ジャスミンは非常に絶妙な表情を見せた。

 喜んでいるようにも見えるし、戸惑っているようにも見える顔の後、彼女は決心したように口を開いた。

 

「あ、あんたが触りたいって言うなら……いいわよっ。モチベ上がるならっ」

 

「なぬ」

 

「好きなんでしょうっ。こういうの! か、勘違いしないでっ。さっきのお詫びにっ。他意はないですっ」

 

 顔を赤らめて言うジャスミンは、素直に可愛らしいと思うクライス童貞。

 なるほど、まさか自分のためにその姿を見せてくれたのかと、彼はしみじみと感じ入るのだった。

 これはまじでモフモフ天国ワンチャンあるのでは?

 クライスの脳裏を過ぎ去った言葉。

 

「では」

 

「う、うん」

 

「遠慮なく」

 

■モフモフタイムスタート■

 

「もっふもふもふ」

 

「あ、やぁ、もっと優しくっ」

 

「もふもふ!!」

 

■クライスのターン■

■勢いは加速し、もう誰にも止められない!かもしれない■

■練習中になにやってんだこいつ等。というツッコミの行方は……■

 

「なにしてるんですかっ。クライス様ー!!」

 

「!?」

 

「そ、そんなはしたないっ。だめです!!」

 

■サーシャのターン!■

■ピンク色のジャージを着た彼女が、真面目に練習しない選手を注意しにきた■

 

「誤解だ。サーシャ」

 

「……というと?」

 

「かくかくしかじか」

 

 このチームのマネージャーであるサーシャに、事情を説明するクライス。

 ジャスミンの了承済みで事に及んだことを、きちんと誤解なく伝える。

 そして、今ので自身のモチベが上がったことも。

 サーシャにあらぬ誤解を受けては困った困ったクライス君は、かなり必死で逆に怪しいが。

 

「わ、分かりました……早とちりしてすいませんでしたっ。クライスさまっ」

 

「いいさ、別に」

 

「サーシャは悪くないわよ。あたしが軽率だったわ。……クライスさ……じゃなくてクライスも悪くないしっ」

 

 ジャスミンの援護も受けて説得には成功したが、その彼女の顔はとても赤くなっていた。

 クライスに対して好意があると自分で言ったようなものなので、当たり前ではあるのだが。

 ジャスミンは、クライス達から顔を逸らしてうずくまっていた。自身の混乱する心を落ち着けているのだろう。

 サーシャとクライスは微妙な顔で向かい合っている。

 

「サーシャ」

 

「……なんでしょうか?」

 

「なんか、とげとげしてない?」

 

「してません。全然です」

 

■サーシャの不機嫌そうなオーラに、クライス勘づく■

■微妙に頬がふくらんでいてかわいいと、彼は思った■

 

「してるよな、絶対」

 

「してませんっ。絶対っ」

 

「……」

 

 クライスから顔を背けるサーシャは、困惑しているようにも思える。

 もしやこれはと過る考えがあっても、それを口にはしないクライス&ジャスミン。

 どこから見ても、彼女の反応は恋する乙女の何とやら。

 やきもちを焼きまくって、大火事になっているサーシャの顔。

 

「……と、特訓も良いですけど、休息も大事ですよ! レモンのお菓子を持ってきたので、食べましょう!」

 

「お、おお」

 

「おっとー、お菓子の気配! ごちそうになっちゃいますかね!」

 

 強引に話題を切り替えたサーシャ。そして、どこからともなく出現したロリン。

 これ以上の詮索は、藪に潜んだ竜になりかねないと考え、クライス達は大人しく休息を行うことにした。

 彼女の言う通りかなり無理を・あくまでクライスの基準ではあるが・したので、そろそろ休むべきなのは確かである。

 

■ロリンも加え、一旦休憩するクライス達■

■魔導場の端にレジャーシートを広げ、そこに座る■

■ひとときの休憩タイムがスタートした■

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