色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「うん、美味い」
「さすがはサーシャね! 家事万能! 最高の嫁!!」
「んまー! すごー! もっと食うー!」
「ふふ、それなら良かった。たくさんありますからね」
■レジャーシートの上で、食事を行う三人■
■クライスは、ハチミツ漬けレモンを口に含み■
■こういう時が、少しでも長く続くことを願った■
■単純につらい練習もういやだとも思う■
「……しかし、すっかり魔導場を利用させてもらってるけど大丈夫なの?」
「特別料金は払った。事情も説明した。くわしくは俺しらん」
「乱れたちに対処するのに訓練は必須だし、こういう緊急事態なのだから、みんな協力してくれますよ。あはは」
■本来はプロ上位チームが儀攻戦の練習に使う場所を、緊急事態として借りているクライス達■
■しかし、しっかり金は取るあたり、なかなかちゃっかりしているチームのようだというのがクライスの感想■
「割高だ。はぁ」
「でも、この前の活躍でソルジャーから報酬をもらったじゃない。まさかヒナじゃあるまいし、すぐに全部使ってないでしょう」
「……」
乱れの一角・ハーディンとの戦い。
その戦いで活躍したクライスは、お礼としてそれなりの大金をゲットしていた。
彼の目指す夢の自堕落生活には金は必要なので、それはそれで嬉しいのだが……。
「また、戦うことになるだろうな」
■敵はまだ島に潜んでいる■
■また、島の命運を懸けた儀攻戦を行う必要がある■
■そう考えると、さらに気持ちが滅入ってくるのだ■
「クライス……あんた調子は?」
「なに?」
「乱れの波動を受けて、精神に影響があるんじゃないの?」
「……それは」
ジャスミンはクライスの調子を慮る。
乱れを発する人間と戦うということは、その負荷を心に受け続けるということ。
ごりごりと削られていく心は、いつか限界を迎えるかもしれない。
クライスは普段と変わらないように見えるが、ジャスミンは何かに気付いたようだ。
「大丈夫だ。本当に」
「……本当かしら。あたしの目をしっかり見てみなさいな」
「じー」
■ジャスミンの両目を凝視するクライス■
■めっちゃ凝視している■
「じー」
「……ッ」
■ジャスミンの顔が、リンゴのように真っ赤に変貌!■
「もう駄目! 見ないで!! バカ!!」
「!?」
■なぜか怒られた■
■ジャスミンは恥ずかしそうに顔を隠し、ううう……とうめいている■
「何故だ、理不尽だ」
「うるさいっ。うるさいっ。うるさーい!!」
赤面状態で叫ぶジャスミンにクライスは困り顔。
両手で制止のポーズを取るが、彼女の怒りは収まらない様子なので、サーシャに助けを求めようとした。
「……」
「サーシャっ」
なぜかサーシャは頬を膨らませていた。
怒るジャスミンとすねるサーシャのコンボに、クライスは一時退避したくなってしまう。
しかし魔導場内に身を隠す場所などなく、二人の鋭い視線に晒されてしまった彼は気まずさマックス。
「雇い主さま! これはしっかり責任とらないと! さあさあ!!」
「くそーっ」
■ロリンの煽りも加わり、どうするべきかと悩むクライス■
■そのまま走り出した■
■得意の現実逃避である■
「あっ、逃げた! 雇い主さまが逃げた!」
「この程度で逃走って、情けなくないのかしら……」
「クライス様! 怒ってませんから! 戻ってきてください!」
「……本当に?」
■機能停止中の防衛モンスターの陰から、顔出すクライス■
■豆腐メンタルな彼は、おそるおそる戻ってきた■
「ふぅ。びっくりさせないで」
「悪かったわね。アンタがこんなに情けないとは、思ってなくて。もうっ」
「本当にわるい」
若干すねているようなクライスが、シートの上へと帰還を果たした。ロリンはその様を見て、笑いをこらえている。
むすっとした顔のまま、サーシャの持ってきたおやつをそっとつまむクライス。それを口に含んで、少しだけ表情が柔らかくなったようだ。
その様子を見ていたジャスミンとサーシャが、同時に「かわいい」と小さく口にした。
「……まあ安心しなさい。乱れに立ち向かう時は、あたしが全力で力になってやるわ!」
「……そうか。助かる」
「ふふん! 大船に乗ったつもりでいなさい!」
胸を張りまくって、自身が力を貸すと宣言するジャスミン。ない胸を張っているなぁ。とか、そんなことを口に出したら絶対終わると確信して口に出さなかったクライス英断。
サーシャは二人の様子を見て、少し悲しそうな顔を伏せた。
「どうした」
「い、いえ、なんでも……ないんですよっ。なんでも……」
「無理がある」
どう見ても落ち込み度MAXなサーシャの様子に、クライスとジャスミンは心配そうな視線を向ける。
ロリンはいまいち感情が読み取れない、凪のように静かな表情だ。
サーシャは隠し切れないことを悟り、素直に自身の想いを告げるのだった。
「ジャ、ジャスミンはこんなに頑張って、クライスさまの力になっているのに……わたしは隣に立って戦うこともできなくて……! 情けないやら、もうしわけないやら、もういろいろと考えてしまって……すいませんっ」
「……」
サーシャがうつむきながら言う言葉を、三人は静かに聞いている。クライスの顔は、なにかを考えているようにシワが寄っていた。
そして彼は口を開く。
「なんで?」
「え?」
「いや、なんでそう思ったのかなって」
「そ、それは、わたしは試合で一緒に戦えないからっ」
クライスの疑問の問いかけに、サーシャは動揺した様子で応える。それを聞いても、クライスはますます理解できないような表情になった。
そんな彼を見て、クスリと笑ったのはジャスミンかロリンか。
「一緒に戦ってる」
「え」
「フィールドにいないだけで、いつも戦ってる」
■少し呆れたような表情で、クライスは言う■
■そんな当たり前のことを、わざわざ言わせるなと■
「……そうよ。サーシャ。おかしなこと言わないで。あなたはいつも、チームのために頑張っているじゃない!」
「え、えっ」
「もしかして……あたしが捕まった時に助けに行けなくて、もうしわけないとか思ってるの? もしそうならごめんなさい。心配かけて……でも、駄目だからね! そんなこと言ったりしたら!」
「え、あ、はい」
ジャスミンはサーシャの両手をしっかり握って、その目を正面から見据えながら言う。彼女の温かい手の温もりが、サーシャの沈んでいた気持ちを救うようだ。
いつだって彼女はこんな風に、弱気なサーシャを勇気づけてくれていた。
そんなジャスミンを助けるためだからこそ、死力を尽くして策を練ったことを思い出す。
「……そうですよ! そんなこと言ったら、他のマネージャーの人たちにも失礼になるんじゃないですか? そうなりますよね」
「う、いや、それはっ」
■ロリンの言葉。それを受けたサーシャは、周囲にいる女性マネージャー達へと目を向ける■
■彼女たちも、選手たちを支えるために忙しない様子で動いていた■
「彼女たちが一緒に戦っていないと……そんなわけないじゃないですか。でしょ?」
■一瞬だけ、ロリンは真っ直ぐな視線をサーシャに向けた■
■が、すぐに軽い感じの表情へ変わった■
「……」
「サーシャはすごい」
「そ、そんな……っ」
クライスがサーシャをすごいと言うのは、まるでお世辞の気持ちなどない。心の底からそう思っているのだ。
選手たちのサポートを献身的に行い、試合で勝つための策を練り、いつだってひたむきに頑張っていた。
ぶっちゃけクライスには到底ムリなことなので、尊敬の念を持っている部分もある。
【う~ん、こうじゃないなぁ……もっと詳細を詰めていかないとっ】
【……】
【あの……クライスさま? な、なんで背後にっ】
【気にしないで】
■彼女の頑張りを近くで見てきた■
■なにか支えになれればと思うが、逆に支えられてばかりと感じる■
(今、この時もな)
■サーシャに注いでもらった、水筒のフタに満ちるお茶■
■それをゆっくりと体内に流し込みながら、少し落ち着いた様子のサーシャを見るクライス■
■そんな時、休憩タイムに乱入する選手の声が響いた■