色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「――そんなところで何をやっている。師匠。……楽しそうね」
「げ」
■妙にきっちりした声をかけられ、クライスは自然と背筋が伸びた■
■あまりに聞き覚えのあるもので、思い出すのは彼女の扱う灼熱の魔導■
「ミリアム」
「げ、ってなにかしら。気になるわね……。まあいい、それよりも私の修業に付き合ってくれ。拒否はゆるさない。即刻来い」
「そんな。もっと休む」
「だめ」
白くてぴっちりしたスポーツウェア風魔導具を着用し、その引き締まったボディをいかんなく発現している女性、灼熱の勇士ミリアムがクライスの腕を掴む。
クライスは抵抗しようとするが、なんか妙に圧力を感じるために逆らえない空気。
さらに加えて、彼女は汗に濡れた体をきわめて密着させてくる。
それはもう抱き着いているレベルで。
「おい、ちょっとっ」
「仕方ないだろう。逃げようとするから。本当に仕方ない」
「おいっ」
「師匠としての責任を果たしなさい」
■ミリアムに抱き着かれたような状態で、連行されそうなクライス■
■それに待ったをかける影ひとつ!■
「ちょっと待ちなさい! くっつきすぎ!! はなれてッ!」
「む、なんだ嫉妬か? 師匠と私の仲がうらやましいのか」
「は、はぁ!? なんですっすすって!?」
「分かりやすいな。フフ、噂の片思いとやらは本当らしい。残念だったな。師匠は私とプライベートでも深い親交がある。まあ私は恋心では……ない、が。な」
バチバチという音が鳴っているような、衝突寸前の雰囲気をかもし出すミリアムとジャスミン。
いつの間にか解放されたクライスは、サーシャの背後に隠れている。
ロリンは少し楽し気な笑みを浮かべながら、興味深そうにその場を観察しているようだ。
「なにが親交よ!! 無理やり練習に付き合わせているだけでしょうが!!」
「なに? 聞き捨てならんな。私と師匠は強い絆で結ばれている。……ある種、恋人以上のね」
■ミリアムは、少し顔を赤らめながら言う■
■いつもの凛とした雰囲気とはまた違う、乙女のような表情を一瞬見せた■
「そうだろう? 師匠?」
「え? おれ?」
■いきなりのキラーパス■
■サーシャの背に隠れるクライスは、コミュ障発揮で言葉出ない■
「え、ええっと」
「そんなことないわよね! クライス!! どうなの!?」
「ええー?」
凄まじい圧を発するジャスミンに、クライスは完全にビビッてなにもできない。涙目になりそうである。
なぜかサーシャは無言で、止めてくれる気配がなかった。
ロリンは論外。
「み、ミリアムは……ッ」
なんとか言葉をつむぐクライス。
声は震えまくっているが、己の記憶を引き出していく。
【師匠、今日も私に付き合ってもらう。さあ、行きましょう。早く】
【……今日は自主練で。じゃ】
【ふざけるな。連行する】
【う、うわーっ】
やたらと強引に練習に付き合わされていたのは、間違いないだろう。連絡先を教えてしまったため、予定を詰められてしまうこともあった。
一応、師匠という立場にちょっと気持ちよくなっていた。ので、なんやかんやで結構修業を一緒に行ってはいる。
この前も、彼女の家の地下にあるトレーニング施設で二人きりだった。
【おお。広い】
【今日は……そこで私のトレーニングを見て、至らないところがあったら注意してね】
【それだけ?】
【それだけよ】
トレーニング器具を用いて、迅速にトレーニングを開始したミリアム。クライスは彼女にもらったお菓子をつまみながら、めんどくさそうに見てはいた。
数分で飽きた。寝た。
【ちょっと! 寝ないで師匠! もう!】
【ええ~】
【ええーじゃないっ。しっかり見ていなさい】
【はぁ】
ミリアムのトレーニング姿を、結構それなりにしっかり見ていたクライス。現在の彼女は、体のラインがくっきり出るスポーツウェア姿だ。それがどういうことかと言うと、なかなか刺激的な光景である。
研ぎ澄まされた肉体美が躍動し、汗を飛び散らせ、その美しさを彩っていく。
洗練された動きは、トレーニングの練度を十二分に伝えてきた。
【……ほう】
【……そんなにまじまじ見るな。さすがに、少し恥ずかしい】
【いや理不尽か】
顔を赤らめながら腹筋運動を行うミリアムと、なんだかんだで少し見入ってしまうクライスの二人。
凛々しい表情で淡々と厳しいトレーニングをこなす美少女の姿は、もうそれだけで絵になるものではある。
よくそんなに熱心にやれるものだと、感心する気持ちもあった。
「ミリアム」
「なんだ?」
「トレーニング、楽しいか?」
何気なく問うた、ミリアムの心に迫るような質問。なんでそれを口にしたのか、彼自身もよくは分からない。
ただ聞いておきたいと・そう思ったから。
いつものように無気力に聞いた。
「楽しくない」
■きっぱりと、迷いなく彼女は言った■
■そう言いながらも、苦しそうな鍛錬は継続している■
「楽しくないのか」
「……ええ。イメージと違ったかしら?」
「どうだろ」
クライスはお菓子を食べる手を止め、少しだけ思案し、めんどうくさくて食べるの再開。とりあえず、もう少し真剣に彼女のトレーニングを見ることにした。
ミリアムはスクワットを行い、躍動する引き締まった両足は、力強さと美しさを同時に見る者へと伝えてくるのだ。
もっとも、二人きりでそれを見ることができる者は、間違いなく限られているだろうが。
「……?」
■一瞬だけミリアムが自分の方を見て、楽しそうに笑った気がしたクライス■
■その彼女の顔は、確かな好意が感じ取れる、儚げな少女のような印象を与えてくるものだった■
●■▲
■そして現在、ミリアムにがっしり抱き着かれているような状態のクライス氏■
■なんか、甘い香りまでしてきた気がする気のせいか■
(とりあえず)
目前に迫っている、ジャスミン……とジト目を向けているサーシャをなんとかしないといけない。クライスはそう思った。
相変わらず楽しそうな笑みを浮かべている……というか、絶対楽しんでいて、隙あらばちょっかいをかけてきそうなロリンは殴りたい。
本当にめんどうな状況だ。
「あー、そのだな」
「なによ! 早くこいつとの仲を否定してください! クライス!」
「師匠。まさか私との絆に背を向けるのか? あんなに濃密な時間を過ごしたというに。……あんなのはじめてだったのにっ」
■ミリアムが顔を赤らめて言った言葉■
■それに連動するように、サーシャの顔が赤くなってあわあわする■
■ジャスミンはそれ以上に赤くなっていた■
■ロリンは、このチャンスを逃すまいとクライスにちょっかいをかける■
「これは、いけませんなー。責任問題ですよ雇い主さま?」
「はぁ?」
「まさか、あんなことやこんなことを! 致してしまったというんですか! そうなんですか!? もう思春期男子ー!」
「おい、他人事だと思って」
「他人事ですし」
完全にクライスをからかって楽しむロリンは、わなわなと震えているジャスミンをちらりと見る。
今にも彼女は爆発寸前。若干、泣きそうにもなっている。
それを見たせいなのか、サーシャの方もなんか怒っている雰囲気発する。
「クライス! 許さない!! うわーん!!」
「く、クライスさま! どういうことですかっ!」
「うわあああっ」
■なんだかんだで乙女の地雷を踏み、美女たちがクライスへと迫る■
■彼は男泣きした■
■しながら、その視線は【ある人物】を探していた■
「――」
■【この場にいない】■
■【彼女は?】■
●■▲
■フードを被った少女■
■普段着のヒナが、つぶやいた■
「……足りないッ」
夕焼けに染まった草原で、彼女は血に濡れていた。
周囲には、首を飛ばされた四足歩行モンスターの死骸。大量に。
それだけならば、ナイトとして当然の光景かもしれないが、異常は確かに現れていた。
死体の有様が【おかしい】。
この世界ではありえない【表現方法】。
「はハ……頭がッ。おかしく・ぐちゃぐちゃ・に……ッ」
■この光景を生み出した少女は■
■青ざめた顔で・荒い呼吸を繰り返していた■
「どう・して……。なん・で……!!」
■見えない刃を振るう勇士は■
■頭を掻き毟って・増悪を込めた声で言う■
「クライスさん……ッ!!」
■殺意は鋭く、最愛の勇士を刺す■
■消滅しない死体群の中心で、彼女の表情は別人のように陰っていた■