色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
■昔、故郷で何度も聞かされた話を彼女は思い出す■
■二人の城主が、あることをきっかけに殺し合う物語だ■
「……?」
ヒナは己の纏う気配が異質に変わったことを察したが、それ以上に異質な気配を感じて周囲を観察する。
殺戮に夢中で、血の種類が増えていることに気付いていなかったようだ・生々しい死体の山が増えていた。着ている服からソルジャーと思われる。乱れを発する彼女を捕えに来たのかもしれない。
「なぜ……」
もしや自分が殺めてしまったのかとヒナは考え、背筋をとても寒い何かが走り抜けた気がした。
地面に散らばる指や足や手首や・血痕、破壊された魔導具、その他諸々……。
人間を構成する要素がそこにはあった。
「ああ……なんてことを……」
■自身がやってしまったことを考え■
「。・?‘@*_!」
■自身以外がその場にいることに気付く■
■フードを少し上げ、その人物を視認する■
「……誰」
「^:・。、」
様々な色が混ざり合った髪を伸ばした少女は、右手に持った剣に肉片をこびり付かせて立っていた。ヒナとの位置は少し離れている。
いつの間にやら、その強大な気配が現れたのか。
我を忘れていた彼女には何も分からないが、目の前に立つ女性が乱れの一派であることは分かる。
ヒナは警戒し、身構えた。
「それ以上……近づかないでくださいまし……!」
「……」
謎の少女は、ゆらりとした動きで始動する。
その瞬間に、ヒナは己の殺気を極限まで研ぎ澄まし、自身の得物を発揮するべく駆動させた。前回の試合での失態以降、彼女は悔しさに身を任せるように修業を行っている。モンスターと戦っていたのもそのためだ。
今の自身ならば、そこらの相手などには負けないという自負がある。
「遅いわね」
「な……ッ!?」
■およそ10メートル■
■即座に、それほどの距離まで接近してきた乱れの少女■
「この……ッ」
ヒナの反応も速かった。
洗練された魔導具操作技術によって、風の刃を向かってきた賊へ向ける。
しかもその形は、まるで花のように開き、前方から来る敵を串刺しにする上下左右同時斬撃スタイル。
刃の檻に囲まれた敵に逃げ場はない。
「だから・遅い」
金属音が強く響き。
風の刃は、超速の刃によって砕かれ、その意味を失った。
だが、風であるがゆえに再生も容易・まだ終わってはいない。
「いいえ、これでEND」
「ぐッ……!?」
ガッシリとした圧力が、攻撃をしかけようとしたヒナの行動を封じた。
背後から、謎の少女に抱き締められる形で拘束されてしまったヒナ。その力は、まともに振りほどけるようなレベルではない。
そして、感じる殺気は下手に抵抗するとコロすと言っている。
「あでやかな髪……いい」
「なにを……!?」
どこか甘い声が、ヒナの頭上からかけられる。
謎の少女はヒナの髪に触り、撫でるようにその手をゆっくり動かしている。まるで恋人の髪を扱うような、そんな動きだ。
甘い吐息がヒナの頬をくすぐる。
「――貴女は私と同じ種族ね。名は?」
■謎の少女……混迷の太陽・トライフォ■
■彼女の発する言葉を、ヒナは理解できていた■
「わたくしは……!」
■二人は惹かれ合う■
■自身の鏡のような存在に■
■同種族だからなのか、不安と共に妙な安心感をヒナは感じていた■
「話を聞かせて。貴女の絶望を・憎悪を」
「だれが……ッ」
「死にたイ?」
ヒナを縛る腕の力が強まる。めきめきという音が聞こえてきそうなほど、強力な圧を感じる。
異世界競技者として鍛えているはずのヒナですら、冷や汗を流すような肉体能力の高さ・さきほどのスピードにいたっては、クライスに匹敵するかあるいは――。
あのハーディンとはまた違う、驚異的な選手特有のオーラのようなものを発している。
「……」
■ここは大人しく話を合わせるべき――まるで言い訳のように、彼女は心の中でそう決めた■
■こうして・乱れ二人は巡り合った■
■吐き出されるは怨嗟の声■
「……始まりは、ほんの些細な……違和感……」
「違和感?」
「試合に勝っても……どこカ……スッキリしなイ……! 焦燥感でス……」
「へえ、興味がある」
意外というか、なんというのか。
トライフォは、真剣な表情でヒナの話を聞いているように思える。
興味がある。その言葉が嘘でないことは、ヒナにもなんとなく感じ取れたのだ。なぜ、そう感じたのかは分からない。
「あァ……本当になんで……全部あの時のことが……悪イッ」
「あの時? いつ?」
「あの……!! いまいましい試合……ッ!!」
■ヒナが思い描くのは、最強の守護者たちとの試合だ■
■あの戦いで、彼女は屈辱の敗北を喫した■
■だれよりも活躍するはずが・あの方の役に立つはずが■
「う……ぐッ。く、そ……ッ。くそ……ッッ。くそが……ッ!! あァッ!!」
「すごい怒り・本当に悔しかったのネ」
「当然……ですわッッ」
歯が砕けるのではないかというほどの、強い歯ぎしりの音を響かせるヒナ。
トライフォはそれを聞いても、平常心な表情で耳を傾ける。
怨嗟の声は止まらずに。
「本当に……ッ、その屈辱が……!! 試合に勝利してもッ……! 頭をよぎってッ」
「【ただの勝利では足りない】。ということ」
「そう、ですわ……ッ!! わたくしは……ッ!! だれよりも……ッ!!」
■ヒナの歪んだ表情は、苦痛と増悪が混ざり合ったような、まがまがしい気配を隠さずに■
■乱れの渦は空気と溶け合うように、その場を侵食していった■
「ゆるせない……ッ、ゆるせない……ッ、ゆるせない……ッ!!」
「そう」
「ああっ……あそこでもっと走っていればッ……もっとキャッチを上手くできていればッ……もっと状況を判断できてイれば……ッ!! 敵を排除できれば……!! アッあッ! この前のッ……!! 試合もッ……!! 結局、あんな豚に……ッ!! 無様をさらして……ッ!!」
「いいわね。吐き出しなさい。聞いてあげる」
「……!!」
「私は味方。信じて」
■だれが味方なものか■
■そう言いたくなるヒナの口が、自身の乱れを自覚して止まった■
■もう既に手遅れ?なにもかも遅イ、乱れが・乱れが・心中に渦巻く漆黒の想いが・は・止まりはしない・止めてたまるかこの怒りと苦しさと理不尽と悲しみと、憎悪と憐憫と、憤りが止まらないッッ!!!■
「あの喝采を……ッ!! フィールドの注目をッ!! あの時の……苦しみを……ッ!! あの方の……すべてをッ!! 欲しい……ッ!! わたくしだけを……ッ!!」
「……」
言っている言葉は支離滅裂で、トライフォに完全に理解できるものではない。
完全でなくとも充分であった。
その言葉からあふれる圧倒的な乱れ・増悪の奔流だけは、確実に感じ取れるのだから。
にやりと、トライフォの口が邪悪にゆがむ。彼女は片腕でヒナを拘束したまま、もう片方の腕でヒナの足へと手を滑らせた。
「あ……ッ?」
「いい。私好みの美しい【乱れ】……かわいいわね」
■トライフォの吐息が、ヒナの耳をくすぐる■
■伸ばされた手は・好き勝手に彼女の体で動き回る■
■そして・もっと心中を吐き出せとトライフォは言う■
「さあ・もっともっと」
「……」
「聞かせテ? ぐちゃぐちゃを」
「……愛する人が……理想の形が……崩れてしまいました……」
ヒナの語る言葉は、少しさかのぼった過去に向けて。
儀式場での乱れたちとの戦闘において、彼女はピンチに陥ってしまい、そこをクライスに助けられた。
彼はヒナのことを大切に想っている。
それはきっちりと理解できた。
「理解できたからこそ……です」
■だからこそ理想が生まれ■
■現実とのずれが発生した■
「ジャスミンを……助けに……行ったんです。わたくしを置いて……」
「貴女の想い人ね。悲しい話」
「いえ……良いことです……ジャスミンは友人」
「複雑な心境。やはり悲しい」
■ヒナの心は■
■異常なほどに軋みを上げている■
「こんなに……わたくしを置いていったことが……苦しいなんて……」
「些細な傷。それでも響く」
「どうしてか……心が定まらない……あの試合以来……さらにッ」
「ハーディン。あの男の強烈な乱れのせい、かも」
■夕焼けは染まり■
■夜闇が・世界の基準となる■
「わたくしは……」
「ソルジャーの追撃が来る。一緒に来て。私はあの変質者とは違う。貴女自身の意思で、一緒に来てほしい」
■その場に満ちる乱れの渦は、もはや形容できないありさまだ。常人では発狂しかねない、複雑怪奇な質をもった乱れのコントラスト■
■もしクライスがこの場にいたら、そんな想像をしてしまうヒナ■
「わたくしの……意志……?」
ヒナの頭の中で、クライスの顔が浮かび上がる。
彼の顔が、この乱れのおぞましさを見て、嫌悪と軽蔑を混ぜた表情にゆがむイメージが。
あまりにも・あまりにも、むごい幻視。
足元から、彼女を支えていた平常が崩れ失せていく感覚。
凄まじい吐き気を感じ、口元をとっさに押さえた。
「か……はッ……!!」
そして。
「……」
■トライフォの誘いに■
「……ふ・フ」
■ヒナは自身の意志で・手を伸ばした■