色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
彼は高い天井を見遣り、己が現在いる地点を再確認する。
割れた高窓からは、とても淡い光が差し込んでいた。
「……」
■そこは、古ぼけた静かな空間・壁に刻まれたヒビの数々は、確かな歴史を感じさせた■
■血の嫌な臭いが漂い、そこには勝者と敗者が存在する■
■勝者の影がゆらりと動いた■
「――おめでとう!! 1stSTAGEクリアだ!! ジン・アームズくん!!」
「!」
「おめでとう! 本当におめでとう!!」
■場違いな陽気声が、血なまぐさい戦場に響く■
■それに、勝者ジンは微妙な表情で応えた■
「うるさいな……。少しは静かにできないのか、【ワールド・マスター】」
「無理・だね! だってこんなにめでたいことが! すばらしい勇者がすばらしい勇気を見せてくれたんだから! WOW!!」
「……チッ」
ワールド・マスター。その名を口にしたジンは、忌々しそうに舌打ちした。
その反応を見るに、これが最初の会話ではないのだろう。ある程度は言葉を交わし、こいつは気に入らないと判断した者の反応だ。
そんなジンの様子もお構いなしに、ワールド・マスターは言葉を続けていく。
「まあまあまあ!! そんな邪険にせずに!! 私は君のことを気に入っているんだよ! 本当に!」
「そうか。それで用件はなんだ」
「用件なくてはってこと? ひどいよ、そんな……。ただおめでとうを言いにきたのに。それと、ついでに現状を教えておこうかと思って」
■一旦言葉を切り、ワールド・マスターは言った■
「1stSTAGEは、ジン君の評価【C】! 今までの挑戦者の中で下の上! うーん! これは厳しいね!! WOW!! AHAHAHAHA!! 純粋な評価でこれとは!」
「……」
「ちなみに、ジン君の二段階上の評価【A】だった人が、FINAL STAGEまで行ったけど——見事に八つ裂きにされて死んだよ! HAHAHAHA! 急ぎすぎたよ彼は!」
ワールド・マスターが告げた言葉は、要約すると非情な現実でしかない。
このまま進めば確実に死ぬ、と。
「フン……、だからなんだ。進むしかないだろうがッ。どちらにしても」
「その通りなんだよね~。AHHAHA!! 出口は前にしかない! 進め勇者よ!」
「言われるまでもないッ」
「HAHA! でもでも、さっきの戦いは苦戦が酷かったね! そんなに強い相手だったかなぁ。能力値的にはそこまでじゃないけど、ジン君的にはついていくので精一杯って感じだね! 速度で負けているようじゃ、まずどんな攻撃も意味を成さないからね! 反省しないと!」
反省をうながすような言葉を、ジンにかけるW・M。
それに対しての彼の反応が刺々しいのは、まるで善意の気持ちが感じられないからだろうか。どこまでも煽ってくるような言葉に、ジンは強く歯噛みするのであった。
怒りに呼応するように、体に刻まれた傷が・ずきりと生々しい苦痛を与えてくるかのようだ。
「ジン君が目指す、選手としての最高到達点は一体どこにあるのかなぁ? 並外れたスピードでどんな敵も抜く? それとも、圧倒的なパワーで敵を打ち砕く! それともそれとも、神域のボールさばきでゴールを奪うシューター? どれかなどれかな?」
「……」
■問われて、ジンは一瞬だけ意識を止めた■
■己がなりたい理想の選手とは?と■
(そんなこと……具体的に考えたこともなかったな。ただ、がむしゃらにやってた。しかし、明確な形があった方が成長においては有効か……。フム……)
■自身の内面を、少しだけ深堀りする感覚■
■それによって振り返るは、過去の幻像■
【覇道の勇士!! 圧倒的なプレイで敵右翼を突破!! 彼を自由にしたら試合は決まる!! あまりに強力な個! 【アストロディアス学院】の天才新星が、プロの世界でも輝きを放つ!!】
儀攻戦において最強の一角である強豪校を卒業した、覇道の勇士。その学院は、古くからの歴史と伝統を大事にする校風で、伝説に刻まれた覇道の勇士を特別推していた。
彼の実力も相まって当時の熱狂は凄まじく、ジンも例に漏れず試合を見に行ったことがある。
テレビではなく、特殊な方法で観戦する生の試合は迫力がすごかった。
【な、なんだっ。あの怪物はッ】
かつて見たそれは、目標であった覇道の勇士がフィールドを蹂躙する姿。圧倒的なその力を目にして、心がさらに折れたのは違いない。
だが、今こそそれを頭に思い浮かべる時なのかもしれない。
絶対的競技者として君臨していた、恐るべき最強勇士の脅威と方向性を。
(奴はどんなブロックも突破し、敵陣を破壊していった。クライスともジャスミンとも違う、強力なアタッカータイプのプレイヤー。ならばオレは)
ジンの中で、形になっていなかった目標像が構築されていく。
それはおそらく、荒波の中で自身を繋ぐロープのようなもの。
切れてしまえばそれまでだが・うまく手繰ることができれば……。
「はは、無理そうかな。悩んでいる? なれっこないって。理想の選手になんか」
「……」
「揺らいで・揺らいで。落ちて・堕ちて。決意は萎えていく……そんな選手いっぱい見てきたよ。自身の行動原理となる【芯】。それがぐちゃぐちゃになったせいでね!」
■W・Mは言葉を投げかける■
■選手の精神をえぐる・死の棘のような言の葉を■
「――バカが。逆だ」
「え?」
だが、ジンはハッキリと返答した。
W・Mの言葉を斬り捨てるように、熱意をたぎらせながら。
「より固まったよ。オレの進む道が。そしてまた一歩だ」
ジンは己の心を激しく駆動させながら、新たな一歩を踏み出した。
悪意ある観測者の言葉など知らぬとばかりに、力強く・雄々しく。身にまとう気配は、ここに入った時よりさらに洗練されていく。
それこそが彼の魂の形なのだろうか。
「……」
■ジンは新たなステージへと進む■
■その先に待つのは■