色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「……ゼノのチームが敗北した。予断を許さない状況だ」
■マリオとゼノの試合は決着し■
■乱れ達の勝利という結果が残った■
■それは、ゼノという強大な戦力を失ったことを意味し■
「……」
自室でそれを聞いているクライスは、小さくため息を吐いた。さらなる脅威の発生と、頼りになる味方の喪失。
ゼノの力は間近で見ていた。だからこそ、それを撃破した敵の脅威がよく分かってしまうのだ。
敵チームの戦力は、一体どれほどのものであるのかと。いずれ、そのチームと戦う可能性があり・そうなった時の苦難を想像して気が滅入る。
(サポートチームに聞いた話では。前は勝てる試合だった)
この前のハーディンとの試合、アレは総合的なチーム力では勝っていたはずの試合。今回の島の危機に際して急遽結成された選手たちのサポートチームは、そう結論を出していた。
だが、恐るべき爆発力によって追い詰められた。
ならば、もし自分たちと同格レベルのチームと戦ったらどうなってしまうのだろうか。
「少年。気にすることはない、ゼノも覚悟を持って乱れと戦っている」
「……」
「もちろん俺も。この島の安寧を守るために覚悟は決まっている。……もし俺が敗北したとしても、気に病むことはない」
■漆黒のナイトとサポート通信で話すクライスは、心に刺さる棘のようなものを感じていた■
「ではまた、何かあったら遠慮なく連絡してくれ。クライス」
「……ああ」
「ああそうそう。前に言っていた他チームとの練習試合については、クライスの要望通りのチーム編成にしておいた。世界に散っている選手もどうにか呼び戻して、かなり理想の相手になっているはずだ」
「サンキュ」
■サポート通信が切れ、クライスは大きくため息を吐いた■
■周囲はまだ夜の始まり■
■静けさが逆に心を苛んでいく■
(くそ、頭が痛い)
ぎしぎしと、脳内に鳴り響く乱れの音は止まらず。
ゼノとそこまで仲が良かったわけではないが、やはり平穏が崩れる感覚は逃れ得ない。
視界がぐらついて、足元が崩壊していくような嫌悪感。
どこまでいっても・慣れることなどあり得ない最低の気分。
(くそ、クソッ)
乱れは着実にその足を進めていく。
ここまで来てしまえば、いまさら見て見ぬふりなどできはしないが、だからこその負債がどんどんと溜まっている。
(また、あと何回、あの乱れに立ち向かうのか)
乱れの波動を受け続けることで、クライスの精神にはガタが来ていた。
平気な筈はなく、今にも逃げ出して叫び出したいような気分になっている。
それに加えて、大切な友人が敵側にいるという異常事態。
ヒナに事情を聞くことすら出来なかった。
なぜなんだという想いは強まっていく。
「う、ぐッ」
■膝を折ってしまい、床に両手を着けるクライス■
■記憶の中で・ヒナと過ごした日々が駆け巡る■
【クライスさん……また……一緒に――】
■彼女の瞳・まるでこちらの全てを喰らいつくすような、深淵に染まった自我■
■その危うさを感じる時はあったが、それでも平穏の欠片としてヒナを想っていた■
■しかし、欠片はいつの間にか乱れに侵食されていたようだ■
「く……ッ」
平穏の欠片だったものが乱れに変わった時。
クライスはどう動くのか・どういう想いを抱くのか。少なくとも今は、立ち上がれないほどのショックを受けているようだ。
まったくどうにもならないほどの、無力感と焦燥感が心中を支配しているがゆえに。
ぐるぐると回る時計のような時間の加速、あるいは停滞。あるいは――。
時間間隔がおかしくなっていくような、そんな錯覚すら覚える。
「うう、ぐううッ」
■あふれる涙は止まらずに、無念と無力の想いは隠せない■
■気力は底まで沈んでいく・負の連鎖は止まらない■
「なんでだ……ッ」
せっかく異世界に来たというのに、また苦難の波に流されようとしている。
そんなことはもう御免だと心底思っているのに、運命とやらは彼を安寧破壊の環から逃してはくれないようだ。
取り巻く環境が自身を追い詰めていくようにも思えて、吐き気と絶望感が同時に襲い掛かってきた。
(俺はこの世界を——ッ。違う、こんなのはッ)
■クライスは■
■かつていた世界を思い出した■
「ああ、ああァ」
心が。
へし折れる・音が。
「――クライス様」
優しい音色によって塗り潰され。
彼は心地よい温かさに包まれる。
「……」
「辛いのでしたら、言ってください。抱え込まないで」
「……ごめん」
「……そ、そんなに苦しいのなら、もう休んでもいいのでは? ないかと……」
いつかのように・いつものようにサーシャはクライスを抱き締め、彼の心を癒していく。
発する声も感じる体温も人を癒すためにあるかのような、そんなサーシャの存在に救われる。
クライスの流す涙の意味が変わっていく。
いつもこうやって助けられて、なんとか乱れ達に立ち向かえている。それはきっと、多かれ少なかれ彼だけではないのだろう。
「ああ、休みたいな」
「……」
「だが、だめなんだ」
■喉から絞り出すような声で、無職の勇士は言う■
「乱れを放置できない。戦わないと」
「……っ」
「そうしないと、いけないから。な」
今にも壊れそうな声を発するクライスに、サーシャは何も言えなくなってしまう。
彼女だって今の状況はしっかりと分かってはいるのだ。
クライスの存在が乱れたちに対する強力なカードとなり、島の安寧を守るカギとなることなど。
それに、サーシャは彼が戦う理由を知っている。
クライスの欲するものをよく理解していた。
「クライス様……ごめんなさい」
「あやまるなよ」
「ごめんなさい……本当にっ」
サーシャは己の無力を感じながら体を震わせる。
友達のヒナはいなくなってしまい、大切なクライスは今にも精神が壊れそうになっている。
そんな状況を打破する力が、自分にはないと嘆くのだ。
きっと、ヒナの変化を見逃したのも責任を感じているのだろう。と、クライスは考える。
「あやまる必要ない。充分助けになってる。そう言った」
そんな彼女へ感謝を伝えるクライス。
サーシャがいるおかげで立ち上がることができるし、ヒナを助けるために動くことができるのだと。
抑え切れない感謝の念を、彼女にぶつけるのだった。
「……また、踏ん張るから」
■自身を支えてくれる彼女のためにも、止まるわけにはいかない■
「全部終わったら……」
■そうして彼は・また乱れの中へと向かう■
「……」
■部屋の外で、その言葉を聞いていた者が一人■