色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

134 / 134
求めていたモノ

「……ゼノのチームが敗北した。予断を許さない状況だ」

 

■マリオとゼノの試合は決着し■

■乱れ達の勝利という結果が残った■

■それは、ゼノという強大な戦力を失ったことを意味し■

 

「……」

 

 自室でそれを聞いているクライスは、小さくため息を吐いた。さらなる脅威の発生と、頼りになる味方の喪失。

 ゼノの力は間近で見ていた。だからこそ、それを撃破した敵の脅威がよく分かってしまうのだ。

 敵チームの戦力は、一体どれほどのものであるのかと。いずれ、そのチームと戦う可能性があり・そうなった時の苦難を想像して気が滅入る。

 

(サポートチームに聞いた話では。前は勝てる試合だった)

 

 この前のハーディンとの試合、アレは総合的なチーム力では勝っていたはずの試合。今回の島の危機に際して急遽結成された選手たちのサポートチームは、そう結論を出していた。

 だが、恐るべき爆発力によって追い詰められた。

 ならば、もし自分たちと同格レベルのチームと戦ったらどうなってしまうのだろうか。

 

「少年。気にすることはない、ゼノも覚悟を持って乱れと戦っている」

 

「……」

 

「もちろん俺も。この島の安寧を守るために覚悟は決まっている。……もし俺が敗北したとしても、気に病むことはない」

 

■漆黒のナイトとサポート通信で話すクライスは、心に刺さる棘のようなものを感じていた■

 

「ではまた、何かあったら遠慮なく連絡してくれ。クライス」

 

「……ああ」

 

「ああそうそう。前に言っていた他チームとの練習試合については、クライスの要望通りのチーム編成にしておいた。世界に散っている選手もどうにか呼び戻して、かなり理想の相手になっているはずだ」

 

「サンキュ」

 

■サポート通信が切れ、クライスは大きくため息を吐いた■

■周囲はまだ夜の始まり■

■静けさが逆に心を苛んでいく■

 

(くそ、頭が痛い)

 

 ぎしぎしと、脳内に鳴り響く乱れの音は止まらず。

 ゼノとそこまで仲が良かったわけではないが、やはり平穏が崩れる感覚は逃れ得ない。

 視界がぐらついて、足元が崩壊していくような嫌悪感。

 どこまでいっても・慣れることなどあり得ない最低の気分。

 

(くそ、クソッ)

 

 乱れは着実にその足を進めていく。

 ここまで来てしまえば、いまさら見て見ぬふりなどできはしないが、だからこその負債がどんどんと溜まっている。

 

(また、あと何回、あの乱れに立ち向かうのか)

 

 乱れの波動を受け続けることで、クライスの精神にはガタが来ていた。

 平気な筈はなく、今にも逃げ出して叫び出したいような気分になっている。

 それに加えて、大切な友人が敵側にいるという異常事態。

 ヒナに事情を聞くことすら出来なかった。

 なぜなんだという想いは強まっていく。

 

「う、ぐッ」

 

■膝を折ってしまい、床に両手を着けるクライス■

■記憶の中で・ヒナと過ごした日々が駆け巡る■

 

【クライスさん……また……一緒に――】

 

■彼女の瞳・まるでこちらの全てを喰らいつくすような、深淵に染まった自我■

■その危うさを感じる時はあったが、それでも平穏の欠片としてヒナを想っていた■

■しかし、欠片はいつの間にか乱れに侵食されていたようだ■

 

「く……ッ」

 

 平穏の欠片だったものが乱れに変わった時。

 クライスはどう動くのか・どういう想いを抱くのか。少なくとも今は、立ち上がれないほどのショックを受けているようだ。

 まったくどうにもならないほどの、無力感と焦燥感が心中を支配しているがゆえに。

 ぐるぐると回る時計のような時間の加速、あるいは停滞。あるいは――。

 時間間隔がおかしくなっていくような、そんな錯覚すら覚える。

 

「うう、ぐううッ」

 

■あふれる涙は止まらずに、無念と無力の想いは隠せない■

■気力は底まで沈んでいく・負の連鎖は止まらない■

 

「なんでだ……ッ」

 

 せっかく異世界に来たというのに、また苦難の波に流されようとしている。

 そんなことはもう御免だと心底思っているのに、運命とやらは彼を安寧破壊の環から逃してはくれないようだ。

 取り巻く環境が自身を追い詰めていくようにも思えて、吐き気と絶望感が同時に襲い掛かってきた。

 

(俺はこの世界を——ッ。違う、こんなのはッ)

 

■クライスは■

■かつていた世界を思い出した■

 

「ああ、ああァ」

 

 心が。

 へし折れる・音が。

 

「――クライス様」

 

 優しい音色によって塗り潰され。

 彼は心地よい温かさに包まれる。

 

「……」

 

「辛いのでしたら、言ってください。抱え込まないで」

 

「……ごめん」

 

「……そ、そんなに苦しいのなら、もう休んでもいいのでは? ないかと……」

 

 いつかのように・いつものようにサーシャはクライスを抱き締め、彼の心を癒していく。

 発する声も感じる体温も人を癒すためにあるかのような、そんなサーシャの存在に救われる。

 クライスの流す涙の意味が変わっていく。

 いつもこうやって助けられて、なんとか乱れ達に立ち向かえている。それはきっと、多かれ少なかれ彼だけではないのだろう。

 

「ああ、休みたいな」

 

「……」

 

「だが、だめなんだ」

 

■喉から絞り出すような声で、無職の勇士は言う■

 

「乱れを放置できない。戦わないと」

 

「……っ」

 

「そうしないと、いけないから。な」

 

 今にも壊れそうな声を発するクライスに、サーシャは何も言えなくなってしまう。

 彼女だって今の状況はしっかりと分かってはいるのだ。

 クライスの存在が乱れたちに対する強力なカードとなり、島の安寧を守るカギとなることなど。

 それに、サーシャは彼が戦う理由を知っている。

 クライスの欲するものをよく理解していた。

 

「クライス様……ごめんなさい」

 

「あやまるなよ」

 

「ごめんなさい……本当にっ」

 

 サーシャは己の無力を感じながら体を震わせる。

 友達のヒナはいなくなってしまい、大切なクライスは今にも精神が壊れそうになっている。

 そんな状況を打破する力が、自分にはないと嘆くのだ。

 きっと、ヒナの変化を見逃したのも責任を感じているのだろう。と、クライスは考える。

 

「あやまる必要ない。充分助けになってる。そう言った」

 

 そんな彼女へ感謝を伝えるクライス。

 サーシャがいるおかげで立ち上がることができるし、ヒナを助けるために動くことができるのだと。

 抑え切れない感謝の念を、彼女にぶつけるのだった。

 

「……また、踏ん張るから」

 

■自身を支えてくれる彼女のためにも、止まるわけにはいかない■

 

「全部終わったら……」

 

■そうして彼は・また乱れの中へと向かう■

 

「……」

 

■部屋の外で、その言葉を聞いていた者が一人■

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。