色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
■薄暗い部屋の中で、膝を抱えて座る人影■
「……」
その人影は朝から晩まで体勢を維持していた。
まったくそこから動かずに飯すら抜いて、彼はただ自己の世界に逃げ込むのだ。
完全に自分の信念を折られた少年は、呆然と思考の海に沈む。
「負けた……オレは……」
原因は以前行われた儀攻戦での敗退。
仲間達と努力をして試合に挑んだというのに、いきなりやられて敗走・消滅、まるで活躍できずに終わった無様な結果。
努力は積んできたつもりだった。
しかし結果は惨敗。
仲間達の役になどまるで立てず。
「はぁ……結局こんなもんか……」
大きなため息。
どこまでも気分は落ち込んで何も行動できない、なのでこうして引き籠って自分の世界に逃げ込むしかない。
彼にとってあの敗北は、重大な意味を持っていたのだ。
(結局オレは弱虫のままか)
■ゴウトは子供の頃を思い出す■
【やーい弱虫ゴウトー!】
【ひょろひょろゴウトー!】
子供の頃のゴウトはとても貧弱な肉体の持ち主で、よく同年代の子供たちに馬鹿にされていた。
それが悔しくて自分自身を鍛えようと決意し、必死になって努力を続けて来たのだ。
彼の理想は、己の肉体を武器にどんな敵にも勝てる、そんな肉体強者的な戦士であったのだが。
「これがオレの限界……か。ハハ、やってらんねーな」
本当に強い戦士には到底届かない、己の肉体限界。
それを知ってしまったからこそ絶望は強まって、行動は気力の鎖によって封じられる。
気分は落ちこみ何も耳に入れたくはない。
外の世界で起きている異変に薄々気付いてはいるが、部屋から出ることが出来ずに蹲る。
「もう何日だろうなぁ……」
自身がこもってからの日にちを思う。
だがそれもぼんやりとした思考のせいで、はっきりと認識はできない。
怠惰の波に飲まれていく意識の中。
なんとなくゴウトは、クライスのことを思い出した。
「お前も……こんな気分だったのか?」
■いつも覇気のない友人■
■その気持ちを、少し理解できた気がするゴウト■
■ただしかし、それとは別の感情も自覚しようとしていた■
「……?」
●■▲
「ああ――やっとこの時が」
大きな屋敷の一室。
とても整った顔を持った長髪の着物女性が、畳の部屋で正座をして襖の向こうを見つめていた。
彼女の視線には情欲が無限に渦巻いていて、とても危険な雰囲気を醸し出している。
「ああ・ああぁッ」
行灯によって照らされた室内に響く声は妖艶。
彼女は自身の待ち望む存在が、襖の向こうにいることを確信している。
こうしている間にも足音が彼女の耳を犯して・興奮させていた。
そして最愛の人物の名を口にする。
「――悪辣王様」
■襖が開き■
「やあ黄金巫女。……なんて呼ばれていたか、このヤマトでは」
■フードを深く被った男性・右腕には赤い包帯■
■血に濡れた悪辣の王が、血を垂らす袋を右手に持って現れた■
「このヤマトの外縁部は島の結界の外。索敵も届かずに、結界に弾かれることもないということ……か」
「そうでございます。加えて厄介な結界は弱まり、魔導によっての素通りが可能になった。……【それ】は?」
「支配者気取りの男さ。むかついたんで暇つぶしに狩った」
■袋を無造作に畳に放り投げる王■
「まあまあ、見た感じどこかの貴族のようですがっ」
「上も下も腐った、魔導崇拝国家の貴族だ。結構珍しい魔導を使っていたな」
「それはそれはッ。楽しい旅路でしたねっ」
心底袋の中身のことなどどうでも良さそうに、黄金巫女は悪辣王の言葉に酔いしれている。
一言一句を聞き逃さないようにしている彼女の顔は、火照り気味。
流れるような銀髪が、今にも炎上しそうな有様だ。
「長旅でお疲れでしょう。湯の用意は既に出来ていますっ。合戦の地で有名な美麗山脈を眺めながら……」
「いや。その前に体技の調整を行っておくかな、少しズレがあった」
黄金巫女の隣に胡坐をかいて座る悪辣王は、そっけなく彼女の提案を断った。
その様子は疲れているようにも、退屈しているようにも思える。
なんとか、読み難い彼の内面を推し量ろうとする黄金巫女。
ベストな対応を心掛けてはいるものの、王は非常に掴みどころがない。そんなところが、また好きなのかもしれない。
「……」
「どうした?」
「いえいえ」
■黄金巫女の瞳が・揺らめいた■
■一瞬だけ・王の違和感を感じ取ったから■
「それで……このヤマトにはいつまで滞在を? いつでも遮断魔導を掛けることは出来ますが」
「さて。まだこの先の予定は決めていないな。しかし優先するべきことはある」
「?」
悪辣王は、数秒間だけ目を閉じて過去の残滓を思い返す。
そんな姿すらも余さずに堪能しようと、正反対に目を見開く黄金巫女。
王の目が開くと同時に彼女は普段の表情に戻る。見事な連携(?)である。
「次の標的は——だ」
■血の匂いが充満する和室で■
■乱れの刃は次なる獲物を定める■
「……さて、どう動くのかな」
「?」
■つぶやきの意味は巫女にも分からず■
「あァ、島の強者たちはずいぶんと奮闘していて、ワクワクするよ。次の試合は、おそらく無職の勇士とトライフォのチームかな? どう見る」
「はぁ。どう見るかですか? 順当に行けば、トライフォ側が勝つと思います。無職の勇士のチーム力は確かに世界上位クラスですが、トライフォ達には勝てない理由……穴がありますから」
「穴・か。まあそうかな。しかし、おそらくハーディンを倒したであろう、ジャスミンとかいうアタッカーに・チームにいるであろう灼熱の勇士。あの二人は注目しているね」
「……」
■一瞬だけ、黄金巫女の気配が殺気を纏った■
「かなり厄介な存在になる、そんな可能性を感じてはいるよ。ふフ、あるいは……」
「……ええ。そうですかね。そうかもしれません。厄介……な。ですが、【そういう意味】ならばトライフォのチームは盤石です。新しいメンバーが入ったみたいですし」
「新しいメンバー? ああ、気配を消すタイプの【アタッカー】の」
「はい。――勇士の一人でス。彼女は、必ずやトライフォ達の力になってくれることでしょう」
黄金巫女の言葉に、悪辣王は少しつまらなそうな表情を見せた。だが、彼女の言葉に説得力を感じているのも事実だった・だからこそ、退屈な感情は消えないのかもしれない。
なので。
「ひまつぶし」
■ぐしゃっと音が鳴り■
■黄金巫女の頭部が弾け飛んだ■
「ああ、こんなものか」
■その手を血に染めた王は、つまらなそうにそう言う■
■その場にいるのは、血の中に沈む少女と乱れの王者■
■王は、ただ死の気配しかない室内で立っていた■
「――申し訳ありません、王。つまらない結果をお見せしてしまい。あァッ、なんという、ふがいない……ッ!」
なのに。
血の中に沈んだはずの少女が、王の背後に寄り添うように立っている。泣きそうな顔の彼女は・しかし、自身を殺そうとしたことには悲しんでいない。
ただひたすらに頭を下げていた。
血も死体も消えていた。
「いいや。結構おもしろい」
悪辣王はなにも変わらない・平然とした様子でそんなことを言う。その瞳には、なんの罪悪感も存在していなかった。
そのまま座り直し、近くの皿に載っているせんべいを手に取って、軽くかじった。
表情は少しだけにこやかだ。
「うん。おいしい」
「よ、よかったですっ。本当にっ」
普通の態度を見せている二人は・どう考えても普通ではない。
たださっきまでと同じように、危険と隣り合わせの会話を続けている。
「……さて・なんにしても、次の無職の勇士の試合は島の明暗を分ける一戦になるだろう。もし負ければ、島の崩壊は確実となってしまうだろうね」
■これまたつまらなそうに■
■悪辣王は、自身の予想を口にした■
「た、退屈でしょうか?」
「ああ、本当に、【不明の勝利劇】のような試合が見れれば少しはマシなんだけどね」
「ふ、不明の勝利劇ッ。10年以上前の……【銀の闘技会】決勝ですねっ」
「そうさ。僕が唯一……」
■悪辣王は言葉を途中で切り■
■一瞬の空白を生じさせてから、言った■
「唯一、特別視していた選手だったかもね。あの試合の彼は」