色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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定まりし心と共に

「……はぁ……ハァ……ッ」

 

■息切れの音が空間内にこだまする■

■彼の体力は、限界を迎えようとしていた■

 

「……まだ、まだッ」

 

■だが、それでも彼は止まらない■

■内にある指針を頼りに、重々しい歩みを進めていく■

■内からも外からも、かかるプレッシャーはもはや異常の域に達していた■

 

「ぐッ!?」

 

 斬撃音と共に・ジンの血が舞った。

 戦斧の勇士は、澄んだ青色の床を蹴って急速後退を行い、自身を殺そうとする脅威から距離を取る。

 その動作にすら体が悲鳴を上げ、しかしその苦痛を押し殺して動かねば・ここですべてが終わる。

 

「ぐ、オおッ!!」

 

 裂帛の気合いが回避行動の速度を上昇させ、普段以上の力を発揮させた。

 脳が訴える痛みを無理やりに無視して、苦渋の汗と血を流しながら、通常の後退距離より少し長く動き切る。

 

「――よし、ごーかく!」

 

■軽薄な声が響き■

■その次の瞬間、ジンの顔すれすれを死の刃が通り過ぎた■

 

「……ッ!!」

 

 もしあと少し、後退の距離が短かったら。

 頭を真っ二つに切断され、脳をぶちまけ、なにも成さないままにその人生を終えていただろう悪寒が走る。

 それは、この狭間の世界に来て何度か感じた、明確な死の気配であった。

 

「はァ……ッ!! はッッ」

 

 息が乱れ・直そうとしても乱れ、心臓はやかましいぐらいに鼓動を強める。今ある生がガラス細工のように脆く感じられ、全身を強烈な痺れと孤立感が襲った。

 ただひたすらに呼吸が重い。ただこの世界にいるだけで、常に発狂しかねない苦痛と苦悶の波動を受けているのだ。

 その目に映る光景を・手探りするように眼球が捉えた。

 

(ふざけた、子供部屋……のような)

 

■壁も床も青色に染まった室内・散らばったおもちゃの数々■

■壁のいたる所に、ファンシーなデザインのシールが貼られている■

■所々に散りばめられた黒褐色は、ただのペイントか・それとも■

 

「なんて……それよりも問題はッ」

 

■ジンの視点が一点に固定される■

■そこに立っているのは、カラフルな色合いの・不気味な笑顔浮かべるピエロ■

■その怪物は、持っている大きな鎌をジンの血で染めている■

 

(まだ二つ目のステージッ、なのにッ、難易度が段違いだッ)

 

 ファーストステージですら、それなりの疲労と傷を負ってクリアした。だが、次なるステージはそれ以上の魔境。

 それを証明するかのように、前方のピエロがゆらりと動き出した。

 

「ッ!!」

 

 強烈な斬撃が、ピエロの細い両腕から生み出される。

 振るわれた大鎌は、その見た目に反して風を鋭く切り裂く超スピードを体現。

 それに対してのジンの行動は、回避するしかなかった。

 

「う、オアッ!!」

 

■必死の想いで足を踏み込んだ瞬間■

■さっきと同程度の回避では・シぬと直感した■

 

「あ、あアァッ!!」

 

■体の一部が壊れるような音を聞きながら、決死の出力で床を蹴った■

■そして■

 

「ぐ、アッ!?」

 

 ジンの胴体部分を裂くような刃が、少量の血を散らした。

 鎧は見事に切り裂かれ、彼の防御力は完全に貫通され、まともに受ければ一撃で終わりの致命斬撃がそこに在った。

 その攻撃の結果は、ギリギリで回避成功ということになる。

 

「ははは! やるねー! おいおい! 必死すぎ笑う!」

 

 あざ笑うような声がその場に響く。とても聞き覚えのあるその声に、ジンは思わず舌打ちした。

 W・Mは、どこからか彼の修練を見ている。

 そして、時々悪意の混ざった言葉を放ってくるのだ。

 

「そろそろ体力は限界かな? そしたら死ぬ! けどね」

 

「……うるさいっ、そこで見ていろ」

 

 だが、ジンはそれすら踏み越えようとしている。

 斧の柄を強く握りしめ、感覚を研ぎ澄ませていく。

 

「……」

 

 ゆらりと動くピエロを、しっかりと両の眼で捉える。

 攻撃に転じるとしたら、この攻撃を回避した直後・一気に距離を詰めて渾身の一撃を食らわせる。

 それで――。

 

「それじゃ、遅いッ」

 

 ジンは動き出した。

 ピエロの攻撃が来る前に。

 

「へえ、死ぬ気だー」

 

 W・Mが発する言葉をまるで意に介さず、ジンの両足は加速していく。攻撃地点到達まで残り5メートルほど。

 だが、死の大鎌はそれよりも早く・さっきよりもさらに速く。

 振るわれた。

 

「うるさいッ!」

 

 一瞬だった。

 胴体を裂くように横薙ぎに振るわれた斬撃を、急速駆動で屈んで回避する。

 この敵に対して初めてやる避け方だったが、死の気配に屈せず、今まで以上のスピードを発揮して成功突破。

 

「うおらァッ!!」

 

 気合の一閃と共に、ピエロの頭部が粉々に砕かれた。

 接近しての一瞬で決着は着いた。

 

「ほう・ほう・ほう? そう来るかぁ。へえほう」

 

■W・Mの驚いた声の中、ジンは片膝を突く■

■全身に刻まれた傷・今にも肺が壊れそうな脆い息遣い■

■まだ2番目のステージだというのに、明らかにその消耗は限界に迫っていた■

 

「ま、見事って伝えておいてあげようかなぁ。はー、盛大に半分こされるかと思っていたのになぁ。はぁ。はいはい。がんばってたねー」

 

「……」

 

「でもさぁ、ちょっとあれだよね。最初の方でダメージを食らいすぎ。あ、これは今回のバトルだけでなく、ファーストステージのことも言ってるから」

 

「……」

 

 W・Mから紡がれる言葉は、確かな悪意をもってジンへと放たれる。その響きは、まるで毒の塗られた刃のよう。

 体力的に追い詰められた彼を、さらに追い込もうとするかのような。

 それに対するジンは無言のままだ。

 

「あのモンスター達から逃げ切るには、普通に戦ってはダメ。それを理解できた・だけれど、根本的な能力が低すぎた。結果、余計な傷を負うハメになった。やっぱりここに来るのは無謀だったかなぁ? ねえ、どう思う? 思う?」

 

 問いかける声には、侮辱の意味が込められ。

 それを聞いた戦斧の勇士は……。

 

「……」

 

「……ちょっと? なんで無言? シカトかな? もしも~し、聞こえてますかぁ? ザコ勇士さ~ん」

 

 ジンの反応は無言、なのでW・Mは少し声を荒げて言う。

 そして数秒後、彼は口を開いた。

 

「……悪い。聞いてなかった。何か言ったのか?」

 

「……は?」

 

「少し静かにしていてくれ。今はそれどころじゃない」

 

 ただ静かに、冷静に、ジンはW・Mのことなど眼中にないと告げた。どんな言葉を発しても、耳に入ることすらないと。

 それは決して強がりなどではなく、本当に外野からの声など意に介していない。

 なぜなら今は、そんなものよりも大事な考えが頭を巡っているのだから。

 

(どうするか・このまま進めば、途中で力尽きるのは確実。ならば、多少進むペースを遅くしてでも……しかし、乱れ達の脅威が迫っている。早く帰還したい。そうなると――)

 

 ジンの脳内で展開される、今後の動きとその先の困難な道のり。ステージを進むほどに難易度は上がっていくのだろう。

 となると、当然なにかを大きく変えなければ未来はない。

 その何か……。

 

(――掴みかけている。なんとなくでは、あるが)

 

■浮かぶ輪郭は幻想か・それとも■

■この鍛錬の先に待つ、自身の武器がなんとなく感じれる■

 

「……妄想中悪いけど、ここで死んだら全部おじゃんだよ? 分かってるのかなぁ。さっさと進むべきなんじゃないの?」

 

「……」

 

 明らかに苛立った様子のW・Mの声。

 それを、今度はそれなりに聞いていたジンは、その意見も確かに一理あるとは思った。自身の体から今この時も失われていく血液は、死へのカウントダウン。

 これ以上の長考を行ったところで、現時点ではろくな発想は生まれないと判断できる。

 それよりも。

 

「よし。進むか」

 

■ジンははっきりとそう言う■

 

「ようやくかぁ。ま。そんな貧弱な能力値じゃあ、こわくてこわくて仕方ないよね! HAHAHA! 次のステージは! さらに難しいよ! 能力値平均3000以上の選手でも、死ぬ人は死んじゃうね~。優秀な能力値を持っていても困難な壁ってこと!」

 

 W・Mは、ジンが死ぬであろう未来を想像してあざ笑う。

 部屋の奥に位置する、血で濡れたような色合いの大きな扉へと歩む彼に、精神を揺さぶるような言葉を放っていく。

 W・Mの言う通り、ジンの能力値はとても優秀なレベルとは言えず、次のステージで死ぬ可能性は高いのだろう。

 

「ああ! ここでジン君ともお別れかぁ! 悲しいね! 涙が止まらな――」

 

■扉が閉まる音が、なんの感情も乗せずに響いた■

 

「は?」

 

 今度こそ。

 そう今度こそ。

 ジンはW・Mを完全にスルーして、己の進むべき道へと踏み出した。

 

「……あいつ、コロす」

 

 確かな怒気を伴いながら、W・Mはそう言った。

 もう誰もいない、不気味にして・血なまぐさい部屋に空しく響く声。

 そしてジンは。

 

「さあ・3rdSTAGEだ」

 

 戦斧の勇士が新しく踏み入れた部屋は、さっきまでと違う無機質な白い部屋。

 気のせいか、機械音のようなものが聞こえてくる。

 彼は深呼吸し・一瞬だけ、この先の不安――後どのぐらい続くのかという現実を想像した。

 

「……」

 

■不安感が足元を揺らがせ、そのまま彼を定まらぬ闇へと堕とそうとする■

 

「――一歩ずつだ。進むぞ」

 

 が、崩れようとした足元が再び強固な信念で固められる。

 揺らぐような不安感を吹き飛ばし、その右足は床をしっかりと踏みしめた。

 不安と焦燥が心揺らす修練場においても、戦斧の勇士ジンの中に在る行動原理が失われることはない。

 骨と肉から発せられる激痛の信号に顔を歪めながらも、その瞳の熱意の向く先はブレることがなかった。

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