色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「あ~」
「……」
「うあ~」
「ちょっとッ」
■朝、サーシャ宅二階■
■怠け者の声が、自堕落の室内に響く■
「あ?」
「あんたの怠惰スキルは分かるけど、いつにも増して気が抜けすぎよ!」
「そうか~?」
「絶対そう! このナマケモノ! いつもいつもっ」
「……」
部屋の主は、ベッドの上にうつ伏せ寝。
枕に顔を埋めて、ピクリとも動かない彼は何を思うのか。その近くに座っているジャスミンはそう感じている。
少なくともジャスミンは、ヒナの離脱のせいでとても焦燥感を強めているのだ。
話を初めて聞いた時は、崩れそうになる両足をなんとか保っていた。
「どうすれば良いのよ。あの娘……ッ」
悲痛な声を出して、友の安否を憂いるジャスミン。
いつもクライスの部屋に忍び込んだり、いつの間にかみんなの輪に入ってきた、そんな少し不思議な少女はどこにもいない。
乱れに堕ちた彼女の未来は、暗く閉ざされている。
「……さあ、あいつ次第」
クライスはこうなった原因を知らない。
しかし彼女が自身の意志で乱れ側に付いたと言うのなら、なにかそうなった要因はある筈だ。
もしかしたら。
自分の行動がヒナにそう決心させたのではと、過る想いはいくつもあるのだ。
クライスにとっては何気ない言動が、彼女の心に亀裂を入れたのではと。
(分かるか、そんなもの)
人にどんな影響を与えるか。
何がどう干渉しあって、どんな心境の変化をもたらすのか?
そんなもの完全に理解できるわけもない。
出来ていれば、人同士の軋轢など起こる筈もないのだから。
いや、理解出来たところで譲れないものがある限り……。
(何度もあった)
■異世界に来る前■
■元の世界で■
(嫌というほどあった)
思い出すのは人間関係の拗れ。
どれだけ仲のいい者同士であっても、少しのすれ違いで壊れていくような脆い絆。
この異世界に来てからは見なくなった光景。
思えば、むしろ今までの人間関係が平和すぎて珍しいものだったのかもしれない。
(ああ面倒だ)
どれだけ平穏に上手く行ってるように見えても、見えない乱れは進行を続けていたりする。
その潜在的な脅威を見逃した結果が、今のこの状況かもしれないのだ。
クライスは自然と歯噛みしてしまう。
「クライス。あんた……どうする気なの?」
「……」
「ヒナは乱れの味方になった。きっとソルジャーは逮捕しようとするでしょう……でも、あたしはまだ信じられないわ」
「だな」
あえて逮捕と言ったのは、それ以上の最悪の展開をジャスミンが想像したくないからだろう。
乱れとして覚醒だけならまだしも、敵の一派として活動している事実。
これでは排除されてもおかしくはない。
そんな事態だけは、二人とも避けたいことだろう。
少なくともジャスミンはそう思っている。
「……さて、どうなるか」
ぽつりと呟くクライス。
感情は故意に抑えられていた。思った以上に平坦な声は、その中に在る感情を隠すかのよう。
その様子に直球なジャスミンが不安感を感じ、声を荒げてしまうのも当然か。
「アンタ……まさかっ。ダメよ!!」
「……」
■ぴりぴりと■
■クライスの嫌う雰囲気が発生する■
「!」
■そこで鳴り響く音は■
■来客の証■
■誰かが訪ねてきたようだ■
「お邪魔しますね。雇い主様」
■サーシャ宅に訪れたのは、色香の盾の一人である守護者ロリン■
■いつものドレス姿だが、纏う雰囲気が少し違う■
「この村でとれた果物です。とても甘くて美味しいですよ」
「おやおや! さすがはサーシャさん! わたしの好物ストロベリー登場! んまそー!」
居間でテーブルに着いたロリン、クライス、ジャスミン。ロリンと向かい合うように座るクライス達は、緊張している。
彼女が、単なる世間話をするために来たのではないと理解していた。
ロリンは食事をしながら、いつもの調子で説明を始めるのだった。
「もぐもぐ。まあ要するに、少しの間練習に参加できないかも、ってことですねー」
「それは困るわよ。どっかのナマケモノじゃあるまいしっ。どっかのナマケモノみたいなのはダメ」
「……」
ジャスミンは、隣に座るクライスをジト目で見ながら言う。どっかのナマケモノは全力で目をそらす。
それはそれとして、ロリンが練習に参加できないというのは、クライスにとっても困る。
彼女の防御力の高さはチームにとって必要。
小難しい理屈は無視して、そう感じているからだ。
「本当にすいませんねー。まあ、用事を終わらせたら帰ってきますんで。ゆるしてください!」
「……その用事の内容は?」
「いけませんねー雇い主さま。乙女の秘密ですよ! これは!」
「……」
はぐらかすように言うロリンに対し、クライスは鋭く目を細めた。それは、彼女が身に纏う不穏な気配のせいもあるのか。
思えば、ロリンという少女のことを、よく知っているようで深くは知らない彼。
まるで、彼女自身が上手く追及をかわしているかのようだ。
「……あはは。いつにも増してピリピリしてますね」
「分かるだろ。その理由も。お前なら」
「ええ、まあ。見当はついています、よ」
■ロリンの言葉、そしてジャスミンの頭によぎる少女■
◆クライスも同様に◆
「ああそう、その彼女のことですけど」
■その考えを見透かしているかのように、ロリンは話を切り出した■
「もし敵対したら・容赦なく切り捨てますので」
■冷たい声が場を支配した■
「なん……ですってっ。もう一回言ってみなさいよッ!」
「聞こえませんでしたか。ヒナさんを……始末すると言ったんです」
ロリンの発言に、ジャスミンは動揺をあらわにした。
隣に座るクライスは無表情で動かない。
ジャスミンの眼光が危険な光を宿して、対面に座するロリンを貫いた。
少女二人の視線が激突する様を、乱れを嫌う怠惰の勇士はどんな風に思っているのか。
「ヒナさんは乱れに与した。ならば処断しても問題はないんですよ。そう思いませんか?」
「問題……大ありよ!! そんなこと許さない!!」
「まさか乱れに味方すると?」
敵意をむき出しにして言い合う光景。
増悪が発散されていくような空間の軋みに、クライスの脳内で響く乱れの怪音。
ぎし・ぎし・ぎしと、全身を苛むような苦痛の嵐は止まらない。
決して仲が浅くはない二人のいさかいならば、さらにだ。
(ロリンは遊びに来る)
このスローラ村に引っ越してきたロリンは、見事なコミュ力で村の人たちと仲良くなっていった。
サーシャ宅にも訪れることが多く、クライス達との距離が縮まったのは確かだろう。
だからこそ、負の反動はクライスを力強く殴りつける。
(ああ、だめだな)
思い出した理由。
なぜあの世界を嫌っていたのか。この異世界に惹かれたのか。
その原因の一つをはっきりと自覚した彼は、確固たる思いをますます強めていく。
「ジャスミンさんは強情ですねー。もう味方ではないのですし、守る必要ありますか?」
「当たり前でしょうっ。ヒナは大切な友人よ!!」
「……ふーん」
「アンタだってッ。一緒に戦った仲間じゃない! 本気で言ってるのロリン!!」
■苛烈する舌戦■
■今にも戦闘が起きそうな雰囲気■
■乱れが関わるものには、伝播するように不協和音が起きる■
「雇い主様はどうでしょうか? ヒナさんの処遇について」
「……」
ロリンの問いはクライスへと。
彼は目を閉じ・ヒナとの思い出を回想する。いつも自分の所へ遊びに来ていた、はた迷惑な少女のことを。
ろくでもないな。と、薄く笑う。
「俺は」
■クライスは■
「倒すよ。あいつを」
■ローテンションで言う■
■その顔は無気力のままだ■
「!?」
「ほっほう。実にかしこい選択ですねー、さすが!」
「……」
クライスの発言に、ジャスミンは眼光を方向転換。
いったい彼は何を言っているのかと、疑問と困惑の中にいる彼女に対し、クライスは涼しい顔で受け流す。
ロリンは怪しい笑みを浮かべていた。
「あいつは敵。そう選んだ」
「……!!」
「なら倒すさ」
完全に張り詰めた空気が室内を支配する。
急な用事ということで退出しているサーシャはいないが、いくら彼女でもこの場を治めるのは不可能だろう。
誰より怒りを渦巻かせているのは、皮肉にも正義の少女。
「なんでよっ。ヒナは……あんたにとってもッ。ずっと一緒にッ」
「……」
「それなのに……!! そんな……ッ」
クライスはジャスミンに問われる。
一緒に過ごしてきた大切な仲間を、平穏の欠片を、乱れになったらあっさりと切り捨てるのかと。
そんなことを許容できるような男だったのかと。
「……」
「……」
■しっかりと視線を交わせる、クライスとジャスミン■
「……ッッ」
■そして、ジャスミンは苦悶の表情で居間から去った■
「あちゃあ行っちゃいましたね。これは大変だなー」
「……」
「で、雇い主さまは情報いります?」
「いる。くれ」
■残ったクライスとロリン■
■二人は情報交換を行う■
■ロリンは右手の指で一枚のディスクを回しながら、軽い調子で言った■
「まず比較的情報が多くて脅威なのが、マリオ&リーチェコンビ」
そのディスクを居間にあるテレビへ手際よくセットし、再生されるは乱れの主力の映像。標準的な大きさのモニターに、ガタイのいい男と少女のコンビが映る。
二人の脅威の姿を見たクライスは、いつかの記憶を刺激されて言った。それは確か、昔の試合映像だったかなんだったか……曖昧なものだ。
「見た覚えがある。前に」
「詳細まではご存じないでしょう。マリオの方は元有名な守護者なんです。所属は【継戦の盾】」
「【継戦の盾】?」
「長期戦に優れた者達が所属しています。実力的にはチーム内最強。最強の盾にいてもおかしくない実力でした」
「最強の盾、ね」