色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
ロリンから渡される乱れたちの資料。
その中でも脅威となりうるだろう、元守護者のマリオ。
トライフォとも一緒に行動している姿がそれなりに目撃されており、もし同時に相手取ることになったら恐ろしい壁となるだろう。
最強スピード&スタミナの組み合わせだ。
「リーチェの狙撃も厄介。遠距離から超威力の大砲が飛んできます」
「遠距離は苦手だ」
「雇い主様は遠距離攻撃得意じゃないですしねー。人のことは言えませんが」
クライスは、これといった射撃系攻撃を有していない。
異常な速力に複数の魔導具。
スコップは言うまでもなく、掃除機による攻撃回収&リバース攻撃も遠距離向きではない。
なぜなら掃除機で回収したものは、それが例え遠距離攻撃であったとしても、遠くまで飛ばすことが不可能なのだ。
良くて中距離攻撃が限界。
加えて、彼の三つ目の魔導具も攻撃向きではない。
(どうするかな)
■追加される情報に悩むクライス■
■乱れの軍勢はやはり脅威■
■今度の試合も油断ならない■
「厄介極まりますよねー。最速の怪物とは儀攻戦で相対したくないです」
「……」
クライスは、己に匹敵する速度の少女を思う。
間違いなく、純粋な速力では最強格だろう。
人間とは思えない威圧感を発する彼女は、実際に人間離れした肉体駆動を見せる。
脅威と美麗の感情を同時に抱かせる肢体は、神々しさすらあった。
「まあ、儀攻戦で戦うとも限りませんが。普通に襲ってくるかもしれませんしねー。めんどくさっ」
「きりがない」
「本当にそうですね。各地のソルジャーさん達、頑張ってますよ。試合とは無関係に暴れている乱れの対処」
競技とは関係なく、乱れの勢力が普通に暴れる場合もあった。
それでも島の平穏が維持されているのは、治安を維持する組織の奮闘のおかげだろう。
ゴールドに出し抜かれた側面もあるとはいえ、いまだ総合戦力ではホンワカ島が上。
「だからこそ、儀式場を人質……っていうのも何か変かな? まあいいや。人質に取って、まともな全面戦争を避けたんでしょうけど」
「姑息な」
「まったくです。もしかしたら儀式場破壊すらブラフで、別の目的あるやも」
「……」
乱れの目的すら、いまだ全容分からぬ。
島を覆う暗雲がどんどんと大きくなっているのは確かで、しかしまだ悪辣王も健在である。
島に入ってきたという情報はない。
だがもしかしたら……。
(既に)
■最悪の想像■
■直視したくない悪辣の王が・迫っている■
(ありえない)
■想像したくもない■
■またあの異物と相対するなんて■
「ぐ……!」
「雇い主さま?」
「すまん。少し外出る」
クライスは調子を戻すために退室。
外に出て、静けさに身を任せる。
少し肌寒い早朝の風は、春の始まりを告げるかのよう。
「……?」
■そこで連絡を受けた■
■内容は……■
「マルチネスが……死んだ。殺された」
「……は?」
サポート通信に映される顔は、漆黒のナイト。その表情は見たこともないほどに余裕がなく、彼も衝撃を受けていることの証明。
クライスはいきなりの報告に足元がぐらつき、崩れていくような錯覚を覚える。
あれほどの強者が死んだ。
悪辣王と相対しても、果敢に立ち向かっていた戦士が?
「誰だ」
「……」
「いったい誰に」
■頭に浮かぶ最悪■
「悪辣王——」
●■▲
「……はい、そうです。【始末】しました。問題なく」
クライスがいない室内で、ロリンもまた連絡をしている。
その声は・いつになく無機質なものだ。
だが、そこに秘められた陰謀の香りはごまかせない・室内に差し込む朝の光すら飲み込むように、強力な闇がうごめいている。
「ではまた・進展があったら連絡しますねー」
サポート通信は切れ、ロリンは一瞬だけ気配を冷たく研ぎ澄ませる。
その瞳には、渦巻くような闇が在った――。
●■▲
「悪辣王様。誰かからの連絡ですか?」
「ん? あァ、そうだね。特に気にするようなものでもないよ」
悪辣王はサポート通信を切り、つまらなそうに銀髪女へと返答した。彼の吐く息は、春にさしかかる季節の割には白く、外気の冷たさを表していた。
現在王は、外に出て【軽い運動】を行っている。
その姿は、上半身裸にラフなスタイルのズボンで、とても身軽な印象を与える。
研がれた肉体の強靭さは、割れた腹筋や筋肉質な太い腕だけではなく、その全体的な気配によって表現されていた。
「そして・相手はお前だ」
■悪辣王の視線の先には、早朝の浅瀬に立つ修業相手がいた■
■それは、178センチほどの王の四倍はある怪物■
■巨大なカエルのような姿形で、体を染め上げるはまがまがしさすら感じる紫の表皮■
■両手に持った武器は、さらに禍々しさを感じさせる巨大な黒い槍■
「おっ」
その場を強力な振動が走った。
大地を割るような凄まじい勢いと共に、巨大モンスターが槍を悪辣王に叩きつけたからだ。
激しい水しぶきと粉砕された大地のコントラストが、その場を染め上げる。
この一撃はあまりに速く・重い。
就職者の攻撃に換算した場合……。
「おおよそ能力超過。それほどに強力無比な一撃ですね……」
■就職者たちのトップクラスに位置するパワーを、モンスターは発揮している■
■モンスターの中で、S級に限りなく近い領域に在る怪物■
■銀髪女はそう結論付け、目を少し細めた■
「ですが・まあ・たかだかA級最上位程度では」
銀髪女はさらに言葉を続けた。
彼女がうっすらと浮かべる笑みは、悪辣王に対する心配など微塵もなかった。心配があるとすれば、このモンスターが王を楽しませることが出来るか否か。
それだけだ。
「朝食はおでんにしますか? この町の、独特な文化から来る料理なのですが」
■銀髪女は、日常のような声色でそう言った■
■それに応える者は■
「いいね。【異界書物】を起源とする料理だろう。知っているよ」
軽い調子で返答を行い、槍を弾き、超速でモンスターに接近する影。
その右腕が、咆哮するかのようにうなりを上げた。
「ごオッアッッ!?」
■モンスターの断末魔と共に・一瞬の接触で勝負は着いた■
■崩れ落ちる怪物の体■
■その胴体には、致命傷と言うにも生ぬるいほどの大きな風穴が空いていた■
「あァ、今日は運がいいかもね。いや、悪いカな?」
モンスターの巨体が倒れると同時に、辺りに浅瀬の水が飛び散る。
大きな水しぶきを浴びながら、悪辣の王はただ静かにその場に立っていた。そう、まるで戦闘前と変わらぬ姿を保ちながら。
息すら上がっていない。
つまり。
「無傷……! 申し訳ありません王っ。あまりに弱いモンスターを……ッ」
銀髪女が言う通り、王は能力超過相当の攻撃を受けてもなんのダメージもなかった。無傷という言葉が相応しい、圧倒的な防御的威容を示してそこに在る。
ああこれこそが・絶対的な乱れの王。
規格外の能力と才能を発揮する、島の選手たちにとって最難関の壁の一つ。
「なかなか楽しかったよ。モンスターとの戦闘は、これはこれで新鮮味がある。戦ったことのないレアなモンスターだったしね」
「そ、それは良かったですっ。フ、フふ」
「久々に全力に近いダッシュをしたけど、さすがに少し衰えているかな? ……まあ、僕が儀攻戦(ぎこうせん)をやると決まったわけでもない。出る幕もなく・終わってしまうこともある」
■悪辣王は、どこかつまらなそうに言う■
■そんな彼を見て、銀髪女は恍惚の笑みを浮かべていた■
「あァ……ッ。王ッ。なんという洗練された……いいえ、最初から貴方様は完成された才を持っていたのでしょう。あまりに突出ッ。あまりに破壊的ッ。この世にはびこる歪な秩序の鎖を・内側から溶かし砕く、砕強の化身ッッ」
■圧倒的なフィジカルの深奥■
■それを垣間見た彼女は、歓喜によって己の体をかき抱いた■
■その両目に映る王は輝きで満ちている■
「……かつて、異世界から来た【集団】が生み出した町。数々の争いが起き、十五の将軍たちが殺し合い、今でもその名残である旧型の【防壁柵】によっていくつかの地域に区切られている……という話だったっけ? この町は」
「は、はいっ。そうです王よッ。完璧ですっ」
教わったヤマトの歴史を口にし、王は思案顔を見せた。気まぐれで習った歴史だったが、なかなかどうして納得のいくところもあった。
今戦ったモンスターの強さは、世界を見てもトップレベルであろう。
問題なのは、そのレベルがヤマトにおいて上限ではなく、【中央値】であるということだ。
「それだけ多くの【転移者】が来た……ということは、歪みも大きかったことだろう。世界法則を壊すほどの・ね」
「……ああ、なるほど・つまり」
「【あちらの世界】の法則が、こちらの世界のリミッターを壊し、モンスターに通常ではあり得ない力を授けた。【未完理論】と同じだね」
■悪辣王はにやりと笑う■
■この世界とは違う混沌の気配を察して・己のかつての冒険、その結論を思い出したからだ■
「その乱れを利用すれば・【運命】すら壊すことも可能かもしれない、か」