色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
■時は追いつき・戦いの場へ■
■場所は町の中央にある【魔導・戦闘場】・その一角、大きな丸いドーム■
「――選手控室に到着だ」
天井の大きな照明群が、待ち受ける戦士達を暴く。
様々な選手が行き交う広い空間で、マサルは壁際に佇み、ライバルたちを観察する。
(体育館ぐらいの広さはあるな……百人以上はいるか。ここなら安全だな)
誰かが煙草を吸っているのか、少し煙たい室内。
何処にも戦いの場へ通じる扉は見えない。
「……」
■鋭き視線は強者を貫く■
「……」
黒い帽子を深く被った男性・右手には長い槍の魔導具。
(ドリー・マックス……あいつから聞いた話だと、動きは遅いが攻撃力が中々高いらしい)
一応自分なりにも情報を集め、裏付けはある程度取ってある。
■太い両腕は全てを砕く■
「うおおおおおん!! なに勝手に退場してんのぉ!?」
腰に色々なアクセサリーを付けた、全体的にちゃらちゃらした雰囲気の男。図体がでかい。
(ライト・メルキッサ……肉体を強化するタイプの魔導を得意とする。ライバルの、【剛力獣】の姿が見えないが)
「おい、聞いたか?剛力獣のやつ失格になったらしいぜ……」
「本当かよ!これはチャンスだな」
(……真実なら朗報だ。くくくくくくくくくくく……準備は済ませたっ。すごいめんどうだったけどっ。なまけた時もあったけどっ)
大きくにやけるマサル君。
「なんだアイツ……顔がやべぇ……」
「近づくな。無視だ無視」
「目ぼしい奴は他に……ん?」
マサルの視線は控室入口の大きなドアに。
そこから体を屈めて入ってきた二人の大男。
「――おいおい……此処は小学校なのか?」
「ガキ雑魚しかいないじゃねぇか! はは!」
二人組の、屈強な肉体を持つ者達。軽薄な声の二人。
(見覚えがあるな……町の壁に貼られていたチラシで……)
一人は金髪。もう一人は黒髪。
(金髪の方……勇士だったな)
上半身裸の金髪の男は、腰に刀の様な物を携えてずんずんと歩いていく。
(あれが魔導具か?)
更に集中して見ようとするマサルだが……。
「クライス様! 差し入れに来ましたっ!!」
陽気な声と共に姿を見せたのは、マサルの応援に来たサーシャ。お馴染みのワンピースに身を包み、きょろきょろと見回している。
「かわいいな~。誰の付き添いだ?」
「あの尻尾……モフモフ族だ」
注目を浴びるサーシャはさすがのかわいさ。
両手に持った丸い風呂敷には、作り過ぎた差し入れが。
「こなくて良いって言ったのになぁ……」
やれやれと首を振るマサルだが、どこかうれしそうでもある。
「おーい、サーシャちゃ――」
「おお!! なんか美味そうな匂い!! よこせや! それ!」
「!?」
小走りのサーシャの行く手を塞ぎ、その右腕を伸ばす金髪勇士の男。
「きゃっ!?」
咄嗟に後退して、その手から風呂敷を守る彼女。
「いい、いきなり何をするんですか!」
「うるせぇ!! よこしやがれ!!」
怒声を上げる金髪勇士の背後から、青い霧のようなものが現れる。
「ひっ!? い、いやっ」
激しく怯えるサーシャ。
「……ッ」
だが、堪えて。
「わ、渡しません! こ、ここ、これはクライス様のものでしゅ!!」
涙目になって足を震わせながら、風呂敷を守る。
いまにも倒れそうなほど青ざめているが、サーシャは恐怖と戦っていた。
「ほーう、オレ相手に良い度胸じゃないか……なッ!!」
金髪勇士から勢いよく放たれた拳は、なさけ容赦なく、サーシャ目掛けて飛んでいった。
「……あ」
周囲の者が息を呑む中、激しい衝撃音が響き。
「あ?」
「……」
鋭い眼光を光らせた男……マサルが、勇士の右拳を左手で防いでいた。
彼の表情はおそろしいほどに冷えきっている。
「何者だ……てめぇ……!!」
真剣な顔つきで睨み返す金髪勇士と、マサルの背後で震えているサーシャ。
「くら……いす……様」
ぼそりと呟くサーシャに、マサルの表情は見えない。
「……ザコが」
「……」
金髪勇士は大人しく拳を下げる。
マサルは何も言わずに、ただ立ち塞がるのみ。サーシャを守る意思……気迫がそこにあった。
「……いやー、すいませんね! 相棒が!」
その場を収めるように睨み合う二人の間に入ったのは、相方の男。こちらも逞しい上半身を露出している。
「この場はどっちも悪かったってことで!ね!」
「……」
「……収めとけよ。な?」
マサルを威圧するような口調で、黒髪男は告げ。
「……言っとくが、さっきのは本気じゃないからな?」
「大会では覚悟しとけよ――本物の地獄を見せてやるぜ」
去り際にそんなことを言い、二人は人ごみの中に去っていった。
「も、もうしわけないです……私のせいで」
「それよりも、怪我は」
静かに言うマサルの顔は、まだ彼女には見えない。
「だ、大丈夫ですぅ。こ、腰がぬけそうですけど……。うぅう……こわかったぁ」
「そうか」
そっけないような感じもする、彼の対応。
「――」
その眼光だけは、殺気を伴うほど強く輝いていた。
●■▲
■マサルのトラブルと同時刻・控室前通路にて■
「うああああっ!?」
悲鳴が鳴る。
「おっとおっと! 喧嘩を売られたのでやり過ぎてしまった! いっけね!」
陽気過ぎる声が返ってくる。
「おまえ! よくもボクの魔導具をぉ!!」
床に蹲る十代程度の少年は、己の茶髪をかき乱しながら発狂している。
彼の視線先、床には粉々に砕けた短剣が。
「弁償しろぉおおおおおお!!」
「なになに言ってんのぉ? だったら喧嘩売らなきゃよくないない?」
ふざけた口調で少年を見下ろすのは、サラリーマン風のスーツを着た、これまた少年らしき者。きっちりと整えられた髪色は、灰色。
「うるさいッ! 雑魚の分際で! 【王子】であるボクに口答え――」
「はい。どっかーん」
「ぎゃああああ!?」
■一瞬で消し飛ばされ・消滅する少年の体■
「……ライバル減ったなぁ」
残ったスーツの少年は、大して関心なさげに自身のポケットを確認する。
「さーて、行くか」
歩き出した彼の足は、戦いの場へ動き出した。
■それから数分後、魔導・戦闘場内部の男子トイレ■
「ふんぬぬぬう!!」
獣のような唸りを上げるのは、金髪勇士の相棒である男。
「まずい! 出ない! どうしよう! 失格になっちまう!」
彼は大便器の上に座り、激闘を繰り広げていた。
「便秘! なんぞに! オレが!」
■彼は四日前から酷い便秘に悩まされており、非常に評判が良い便秘薬メーカーの力を頼り、遂に決着の時を迎えようとしていた……■
(便秘で間に合わず失格なんてっ! そんな間抜けなっ!)
これは男のプライドを懸けた戦い。
(だが、便秘薬が格安で手に入った! ラッキー!)
己の宿命を込めて、いざ参らん。
(腸を操れ! 腹に全力を集中して!)
「うおおおお!!フィニッシュ!!」
――遂に、戒めから解き放たれた。
「――お、おお」
個室に降り注ぐ天からの光。
祝福を告げる鐘。
(見える――今の俺なら――)
彼は辿り着く。
この世にある、本当の安息に。
(良かった――生きてて)
「ぐふっ!?」
安息は壊れた。
個室の扉を貫いた大きな刃によって。
「な、何者だ」
刃は腹を突き破り、彼の口端から血が垂れる。
(油断していた――すまない相棒。オレはここまでだ)
恐るべき巧妙な罠。
解放によってもたらされる安息、その一瞬のスキを突く魔刃。
(もしや……あの薬は伏線!?)
気付いてしまった恐るべき事実。
彼に薬を渡したのは、この状況を作る為の策。
(フン、認めたくはないが……)
男はニヒルに笑い、最後の言葉を言う。
「負けたぜ……お前の勝ちだ。くそったれ」
■有力選手ゴン次郎、敗退。場所:男子トイレ個室の右から二番目■
「……」
速やかに事を成した暗殺者は、静かにその場を去る。
「安全地帯の控室から迂闊に離れたこと……それがあなたの敗因……でス」
●■▲
■ゴン次郎敗退の同時刻・控室■
「おいアレ!」
「間違いないよな……テレビで見た……」
ざわめく選手控室。
原因は、その場に参上した一人の選手である。
「……」
マサルは彼女のことを知っている。
調べる前から知っていた。
(ミリアム・ソルジャー。――【灼熱の勇士】)
■イヤシノ地区に存在する、あるジルヴァラチーム■
■その少女は、そこの二枚看板の一角■
「フン……」
圧倒的なオーラを纏った優勝候補・淡い銀髪のミリアムが姿を現した。
●■▲
■相手の細かいステータスは、特殊な魔導具やスキルを使用することで確認できる■
(あのミリアムの人属性は……)
マサルが目を凝らして見ようとしても、やはり隠蔽されていてムダだ。
(……くそ、ステータスを完全に見れば確認できるのに。はぁ)
「……」
ただ無言で歩くミリアム・ソルジャーは、前に見た時と同じような短いズボンを穿き、ラフな装い。
そのまま彼女は、マサルと同じように壁に寄りかかった。
(隙がない……強敵感……)
彼は当然、彼女の情報もある程度は調べてあるがたいした成果は得られなかった。
まあ本当にめんどうくさくて、簡単にしか調べていないというのがマサル談。
(灼熱の勇士――ミリアム・ソルジャー……魔導具に関する詳細は分からない……前にテレビに出たこともあったとか。しかし、知名度はそこまで高いわけではないか。それでも一部では優勝候補扱いされるということは、実力が高いのだろう……とにかく謎の多い相手――俺と同じ)
マサルにとって彼女は、目的に立ちふさがる厄介な壁だった。
ぐうたらニート生活を達成するには、かならず打倒しなければならない……のだが、すでに彼はめんどうくさくなっている。
(【本気】で戦うことはさけたい……ああ面倒なノルマ)
今回の大会での彼の方針は、ある程度力をおさえて優勝するというもの。
(最初からハンデ戦……相手の実力次第ではかなり不味いかもな)
「あれがミリアムか! なかなか強そうじゃないかよー!」
マサルにとっては、あっちで大声だしてる金髪勇士・ゴン三郎の方が闘いやすいと感じる。相棒どうしたとか言ってはいけない。
(……少しでも、強敵との戦いは避けたいが……)
マサルは視線を強め、ミリアムのことを凝視する。
(バストは……どちらかというと、尻が大きそうな……って、なにを考えている俺? カメ朗じゃあるまいし。あまりにめんどうくさい現実に、逃避行動をとりはじめたか?)
「……」
(にらまれた。こわい……)
あまりに露骨に見過ぎて、鋭い視線を飛ばされたマサル。
「――不潔ですよ……クライスさん……」
「いやこれは亡霊のせいであって……決して……おわっ」
いつの間にかマサルの横にいた、双剣背負ったフード少女ヒナ。
「びっくりさせんなよな……暗殺か?」
「声かけませんよ……」
拳を構えるマサルにあきれ顔のヒナは、ミリアムのほうを見た。
とてもカタギとは思えない邪悪な視線を送っている。
「……警戒してるんですか? 彼女……」
「ああ、まあな……そうだ、何か情報は持ってないか?」
「情報……です……?」
少し考え込むヒナ。
(この様子だと持ってるな)
マサルはそう考えるが、肝心の彼女はお悩み中。
「うーん、どうしますかね……教えても……でもなぁ……」
「それなりの報酬は支払うが? 魔導には【金】がいるだろう?」
「……お金」
マサルはズボンの右ポケットから財布を取り出し、お札二枚をヒナに見せた。
「二万ペル……」
そのお札には、筋肉隆々な男性が太陽を背景に己の肉体を見せつけている絵が描かれていた。
何かしらの有名人と思われる。
「もちろん情報の質次第で、もっとあげても良いぞ」
「……」
ヒナはさらにうなり。
「……だめ。教えません……残念」
マサルの提案を拒否した。
「なんでだ?」
「……もしあなたが勇士様なら……他の【ゴミ勇士】に負けるわけがない……です」
「ゴミってっ」
少し恐怖するマサル君。
ヒナは、排他的というか過激な面が見えかくれしている。そう感じた。
それはどこか危うさも感じるものだ。
「頑張って……自力で乗り越えてください……わたくしのことも、容赦なく叩き潰してネ?」
顔を赤らめてヒナは語り。
「……」
何がなんでも証明せよと、彼女の両瞳が言っている。
そして少女は去り、マサルは一人笑みをこぼす。
「そのつもりだよ。最初からな」
■時は経ち・いよいよその時がやってきた■
「大変お待たせいたしました……これより――混沌戦開始です!」
室内にアナウンスが流れ、マサル達はバトル場へと移動することになる。
そのまえに、今回おこなわれる競技……混沌戦の簡単なおさらいがはじまった。
「異世界競技……混沌戦は、本来は最後のひとりになるまで争うルールです。しかし今回は、残りふたりになった時点で終了とします! そのふたりだけが、最後の決闘場にすすむ権利を得られるのです! とにかく敵選手を戦闘不能にするか、リタイア宣言させるかすればいいわけです!」
マサルは事前にある程度しらべていたルールを反芻し、途中でめんどくさくなってやめた。
ぶっつけ本番でいいやと、ナマケモノらしい適当さをみせる。
「この競技では、フィールド上の宝箱に入っている武器のみが有効な攻撃手段となります! それ以外の魔導や魔導具攻撃などでは、選手にたいしたダメージはあたえられません!」
つづいていく説明にねむくなってきたマサル。ここのところ色々あってつかれているのかもしれない……と、寝ころがりそうになる。
さすがにやめたが。
かわりに、おおきなあくびをした。
いろいろ細かいルール説明をしているようだが、とりあえず基本的なこと聞いとけばOKやろ精神で、だいたいをスルー。
「それでは始めましょう! 勝利の栄光をつかむのは……あなたかもしれない!!」
■開始の言葉は発された■
■これよりマサルの競技者としての、真価が問われる■
「その場に設置された、円形の台の上に……」
案内の通り、室内奥には大きく低い円形の台座があった。
台座には様々な模様や文字が刻まれ、常とは違う気配をハッスル。
「うおおおお!! おれが一番だ!! 行くぜぇぇぇぇぇ!!」
暑苦しい体育会系の男性が、誰より先に台座に向かう。
「ちゃんと順番は守ってくださいねー。あっちに着いた時点で戦闘を許可します!」
「なぬ!?」
(順番……バッヂを返した時に、貰ったカード)
数字が書かれたそれをマサルは確認する。
(57ね……)
それなりに早いかなと思う彼。
「おおお!! なんでおれが一番じゃないんだ!!」
号泣する選手を見て、少し顔をしかめる。
(暑苦しいな……ああいう人種は苦手だ)
□番号は進み、彼の計画も進む□
「それでは57番の方!どうぞ!」
「よし……やってやる。……なんて意気込みないけど」
マサルは歩き出し、台座の上へと。
すでにめんどうくさくなっている。
「あいつは、さっき【霧の勇士】の……」
「攻撃受け止めてたな。注目だ」
さっきの一件によって、それなりに注目されているマサル。
(参った……)
まだ始まってもいないのに警戒されてしまうとは……と、頭を掻く彼は。
(お前のせいだぞ)
少し離れている、霧の勇士であるゴン三郎を見た。
「へっ……首を洗っておけよ?」
偉そうに腕を組んでマサルを見遣る彼。
(……)
マサルは一瞬だけゴン三郎の刀に注目した。
「……クライスさん……」
彼を見送る不気味な視線は、暗殺者のもの。
「……」
灼熱の勇士は、大して興味なさげにマサルを見ている。
「位置に着いた……」
円形の台座の上で周囲を見回すマサル。
まだ参加者はかなり残っており、彼はうんざりする。
(あっちに行ったら隠れて……減るのを待つか)
どうにも情けない戦法を立てるが、面倒なものは面倒なので仕方ない。
(あー、くそ面倒だ――)
台座から発せられる赤い光に包まれて、マサルの体は【飛ばされる】。
(移動系の魔導具ね)
感じる浮遊感。
(結構いい気分かも……)
光は収まり、マサルの体はどこにもなく、次の番号が呼ばれる。
●■▲
■バトル場【森エリア】、中央部■
「森か……モンスターとかいたりして」
光が収まったと感じた時には、既に森の中にいたマサル。
夜の風と空が彼を迎える。
(勝利条件は、敵ひとりを除き……全ての戦闘不能:消滅・もしくはリタイア宣言)
バトル場に複数存在するエリアの一、森エリアがここ。
「飛ばされる場所は……ランダムって言ってたな……じゃあ行くか」
「はい皆さん注目。大事な情報ですよ~」
ところで、アナウンスが耳に響く。
「気分削がれるなぁ。なんだい、大事な情報って」
転びそうになったマサルは、アナウンスに集中した。
まためんどうな説明かと。
「今回のイベント、こそこそ隠れてやり過ごそうとかいう人もいると思いますので……」
「ぎくぅ」
自分のことを言われているようで、びくり。
「より早く事態を進行させる為のルールを発動します!」
言葉を合図に。
「まず最初の情報はこちら!どどん!」
「……?」
何が起きたか分からずに、マサルは疑問符を浮かべ。
いきなりその体が光りはじめた。
光は柱となって、上空へと伸びていく。
「まさか……っ」
「今の光は選手の位置ー!! さあさあ!! BATTLE!!」
「おいおい……っ」
悪い予感は的中。
「はい! それでは存分に潰しあってくださいね!」
「あちこちで光が……」
森エリアではない地点でも、続々と光が発生。
森エリアの中央部でも、立ち上る光があり。
「くそぉっ」
隠れることすら出来ずに、彼はいきなり危機に陥る。
平穏なんて許さないと、天に告げられている気分になった。
「どうしてこうなった」と、彼が言うのはそれから数分後のこと。