色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
■これで5回目――■
■白く・無機質な広く四角い部屋■
■は、現在赤く染まった部屋へと変貌している■
「はぁ……!! はぁ……ッ!!」
■乱れる息が、長時間運動による心肺機能の限界を告げている■
■それでも休むことなく・鍛錬の波は彼へと襲いかかってくる■
「う、おおッ!!」
鋭く振るわれた斧が、向かってくる人型の脅威を切り裂いた。その度に、攻撃を与えたジンの肉体が軋みを上げていく。
ここに来るまでに受けた傷から漏れる血が、赤くキレイな床を濃く染めていった。
だが、なんとか絶命を避けることが出来ている。
「ぐ……ッ!!」
本当に、なんとかではあるが。
一瞬でも気を抜けば、次々に迫ってくる【侵攻者】たちの突破を許してしまうだろう。
「多い……!! そして、強いッ」
■ジンというブロッカーを突破しようと、【白い機械】の選手たちが数体走ってくる■
■顔面は黒いガラス張りになっていて、口も鼻も耳もない■
■複数のケーブルが少し露出している関節部が、機械音と共に力強く駆動する■
「左斜め前、右斜め後ろ、正面2ッ!」
迫ってくる脅威たちは速く、少しの迷いが悪手となる。求められるのは即座判断・防御。
ただし、ただ自分の身を守るような行動では足りない。
今回の試練は、今までの戦いとは方向性が少し違う。
それは敵の数であったり・試練のクリア条件であったり。
「はぁッ!!」
気合の一撃が、右斜め前から迫っていた敵を打ち砕く。さっきとは違い、切り裂くことすら出来ない。
それは彼自身の体力の減少によるものか、それとも。
なんにしても、少しの間の動きを止めることは成功した。
「次ッ!」
斧を振るった腕を軸に、ぐるりと一回転。
勢いをそのまま利用し、前方から迫る敵2体の姿を捉え、回転する刃を前方右の敵の腹へと叩きつけた。
反動で、ジンの脇腹から鮮血が飛び散る。
「ぐッ……!」
内臓がねじれるような痛みが走り、表情に苦痛の色を浮かべた。
ダメージによって明滅する視界の端で、左側から迫る敵はしっかりと見ている。
それはジンに攻撃――ではなく、そのまま彼の脇を通り抜けて行こうとしていた。
白き機械たちの目的は、ジンの背後に在る。
「【ゴール】は……させんッ!!」
■ジンの背後には、終点を模したゴールポイントが存在する■
■敵がそこに到達した時点で敗北・そういうルールによって、このステージは縛られていた■
■敵ロボットの動きも、まるで儀攻戦を意識したかのような、ルールに則ったものを感じさせる■
■現在の敵の数と勢いを考慮すると、背後から迫る敵に一手遅れて対処できないとジンは直感した■
「おアァッ!」
ジンの右足の蹴りが、通り抜けようとする敵の胴体に炸裂した。踏みつけるようなそれは、さらなる反動によるダメージを彼の肉体に刻む。
蓄積される傷の重みは増していく。
状況はいまだ予断を許さず、未来への道しるべは闇の中に在った。
「最後ッ、のッ一歩ッ!!」
だが、それでも彼の瞳は燃え盛っている。
蹴りの反動を利用しての、後方にいる敵への加速接近。体への負担を気力で抑えた、揺るがぬ目的意識。
それらが合わさって、足りなかった一手分を補う。
「だァアッ!!」
■現在の全力を発揮した、強力な斬撃■
■それは確実に金属の体を破壊し、その脇腹を大きくへこませた■
「らァ!!」
気合いの声を軸に、回転するように斧を振り抜く。
遠心力と気迫の合わせ技とでもいうのか、当然のごとく強烈な一撃は、ゴールに迫る敵を大きく弾き飛ばした。
そのまま床に倒れた機械の体は、もう動くこともなく停止している。
損傷部から紫電を発しているロボットの様子を見て、ジンは張り詰めていた気を緩めた。
「よ……しッッ」
■敵を退けたことで、ジンは小さく息を吐いた■
■そう、それはおそらく――■
「――しまッ」
それはおそらく、油断と呼べるものであって。
自身が撃破した、ロボット達それぞれの損傷具合を見誤った結果だ。
彼が勢いよく振り返った時には、既に遅かった。
「くそッ!!」
ジンの視界に映るのは、敵ロボットがゴール地点に到達している姿。さっき一回は退けたはずの相手だ。
思った以上にダメージが浅く、その動きを止めるには至らなかった。
結果、こうしてまんまとゴールを許してしまったのだ。
「あ・はーッ! 残念でしたー!! 最後の最期で気を抜いたねー!! そんなんで、通用すると思ってるー!? AHAHAHA!! その程度じゃ、覇道の勇士なんて夢のまた夢! 最初から出直してきてよ!」
「……ッッ」
苦渋と自責の念を顔に浮かべ、ジンは強く歯ぎしりした。言い返したいが、部屋に響く声はまさしくその通りなことを言っている。
ゆえに、ただ自身の失敗と敗北を受け入れるしかない。
そして変化は起きた。
「これで6回目、かッ」
■ジンの視界を光が埋め、浮遊感を感じる■
「……!!」
光が消えた時、そこに在る光景は変わらぬ白い部屋。あまりに清潔すぎて、逆に不気味さを感じさせる雰囲気。
だが違う。
決定的にさっきまでの雰囲気・空気感とは違う場所である。
その証拠を確かめるように、ジンは頭上を忌々しそうに見上げた。その視線の先には数字が書かれている。
「【1】。に戻った……」
■血のように真っ赤な字で、ホンワカ島基準の1と刻まれた天井■
「クリアしたら次の部屋!! 失敗したら逆戻り! 何部屋あるかも分からない!! どうどう!? この試練のお味は!?? ジン君には少しにが~いかなぁ!! あははは!!」
「……耳障りな奴だ」
「ええ~? ごめんごめん!! そんなにショックだった!? 自分の慢心のせいで失敗したことが!! 自業自得なのに!? あそこで突破されるようじゃ、未熟だよだよ!!」
いつものW・Mは、いつものようにジンを煽る。
その声が示す通り、現在ジンを阻む試練は一度でも失敗したらリセット系。クリアすれば、部屋の中にある巨大な鋼鉄の扉が開く仕組みのようだ。
まだ敵が出現しないところを見るに、なにかしらのスイッチがあるのだろうか?
「……フン、上等だッ」
特に言い返すようなこともなく、ジンは己を叱咤するかのような言葉を放った。
まだ息は荒く・流れる血は少しずつではあるが、増えているような状況。
さらに加えて、さっきの部屋は【3】の部屋であった。
進めば進むほどにクリアが難しくなることは分かっていて、おそらく部屋の数は3の倍はある……そう、W・Mの言動から推測しているジン。
(なるべく早く……帰還しなくてはッ。チームの助けにッ)
焦る心が彼の背中を押す。
この修業場に来てから、何日経ったかも曖昧になりかけている。
所々が砕けた鎧は受けた傷の重さを示す。血を流す肌が露出し、それは時間経過と共に死へと誘う致命傷を想起させた。
一刻も早くクライス達の下へ戻り、今度こそ騎士としての使命を全うするのも、彼にとって強力な原動力の一つだ。
(……落ち着け。早まるな)
しかし、そこでジンは冷静に思考を動かした。
深呼吸をして、平常心を保とうとする構えは、この世界に来る前よりも確かに洗練されているように思える。
さっきまでの激情を静かに研ぎ澄ませていく。
「……まだ、だな。今は」
乱れかけた精神を立て直す。その両目に宿った熱意はそのままに、己の感情を律していく。
さっきまでの焦りはもうない。
そうして彼は、部屋の端へと足を向けた。
「よし、また仕切り直しだ」
部屋の端に置いてあった袋……このステージに来た際に自分で置いたものだ。薄汚れているそれは、おそらく他の修練者が遺したのだろう。
ジンはその中にある赤い木の実を一つ取り出し、無造作に握りつぶした。
青紫の液体が実から出て、それを自身の傷ついた体に塗っていく。
「助かるな……この場所の良心は」
その木の実は、ここに来るまでのエリアで入手したものだ。
他にも、腹を満たすような木の実や喉を潤す木の実など、多種多様な回復アイテムが存在する。
それらを見逃していたら、もっと早い段階で詰んでいただろう。
事前に備えていたからこそ。今に繋がる。
「……焦燥の中でも、機を逃すな。か」
一人つぶやくジンの言葉は、あるいは儀攻戦において大事な要素なのかもしれない。
ジッと、持っている袋を見遣る。中に入っている量を考えても、この場所で長時間足止めされるのは危険・詰む可能性は高かった。
一刻も早くこの試練に適応、成長しなくてはここで終わりだ。
「……」
ジンの頭の中で、思考が高速回転している。この状況を打破するための策を、必死に構築しているのだ。
腐っている時間すらない迫る時間制限。
失敗によって心揺らいでも、とにかく進まなければ話にならない。
「それでいい」
だが、それでいいのだと。
戦斧の勇士は、さらに熱意をたぎらせて言った。
腐っている暇など与えてくれなくて結構。
己が進むべき道が、それだけがそこに在ってくれるのなら――ただ前に足を進めるだけでいい。
「必ず戻る」
■誓いの言葉を口にし、確かな足場を踏みしめる■
「……かかってこい! 次は踏破する!!」
先ほどと同じようにゴールを背にし、室内にランダムに発生する敵機械を迎え撃つ。少しの休息ではあったが、心身のコンディションはまた持ち直したようだ。
揺らごうとする精神をさらに固め、より強固な契りの原動力へと。
傷ついた斧を握りしめ、ジンは再びの試練へと走り出した。