色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
■漆黒のナイトとの話は進む■
■【連絡事項】も終わり、だいたいの話はなされた■
「……マルチネスの抜けた穴は大きい。そして悪辣王が入島したとすれば」
「……」
「状況は悪い。だがまだ絶望するほどじゃないさ。島の戦力は強い。だからこそ、乱れ側も回りくどい方針で攻めてきているんだ」
マルチネスの死と悪辣王の影。
そんな状況の中で頭を抱えるクライスとは違い、漆黒のナイトは決然とした表情を崩さない。
彼の声には希望の光が煌めいていて、クライスはそれを眩しく感じてしまう。
だからこそ聞いておきたいことがあった。
「漆黒さん。あんたは乱れが怖くないのか?」
「なに?」
「あいつらは異常だ。狂っている」
「……」
世界の異物とも言える乱れ。
それに立ち向かうだけでも、かなりの勇気がいるだろう。
雑兵レベルの乱れですら、クライスの心を蝕む波動を放っている。
そして相手はあの悪辣王。最大級の乱れを放つ最悪の異物。
その人格も含めて彼とまともに相対できる者は、とても少ないことは間違いなく。
「なぜ戦える」
■言わずにはいられない言葉■
■それほどに、今のクライスの心は揺らいでいた■
「……いや怖いさ。俺も」
「!」
「怖くないはずはない。なんせ、殺されたらそこまでだしな」
苦笑して言う漆黒のナイトは真髄に答えた。
クライスの心中にある乱れに対する恐怖を理解しているのか、その声色は励ますような響きだ。
一拍置いて言葉を続ける。
「なあ、少年はこの島が好きかい?」
「え、いや……」
今度はクライスが問われる番だ。
優しい口調で漆黒のナイトは語り掛ける。自然とクライスの緊張感がほぐれ、未来に対する不安感が溶けていくようだ。
それに合わせるように、また一拍おいてから次の言葉を紡ぎ始めるナイト。
「俺は好きなんだ。この島の雰囲気も、住んでる人々も。昔に、少し苦しい思いをしたせいかもしれないが……」
「……それは」
「どこかのどかでほんわかしていて、乱れの影響が感じられない場所……だ。そう思うだろ。あるのは【競技】による闘争など……ぐらいか」
自身もそうであったと。
彼の心に浮かんだ言葉は素直に直球にするりと出たもので、つまりは共感できるにも程がある言葉。
自然と頷くクライスの動き。
ナイトは口元を綻ばせた。
「まあつまり……戦う理由なんてそれだけで、俺は十二分に立ち向かえる。己にとって大切なものが、そこに在るんだから」
「それで、戦える……ものなのか?」
「ああ。体に力が漲って来るんだ、勇気が湧いて止まらないんだ」
力強く誇るように断言したナイト。
それを見る者を励ますかのような姿に、いつの間にかクライスは不安感が薄れていくような気がした。
この島を守る頼りになる柱の一人は、精神的にもそうであるようだ。
まだこの島は大丈夫と思わせる説得力がある。
「この島に対する愛がある限り、俺はどんな時でも剣を振るえるのさ」
「……」
「俺の魔剣には様々な想いがこもっている、止まるわけには行かない」
「……そうか」
クライスの呟きには、確かな敬意があった。
きっと、島で戦っている者たちはこういった覚悟を持った者が多いのだろう。己の弱さと向き合い、熱意をもって戦う意思の強さ。
それは、どうにも眩しく感じてしまうものだ。
目をそらしたくもなってしまう。
「……」
■崩れそうだった心を、また立て直す■
「少年? どうした?」
「いや、少しがんばる」
クライスは、気の抜けた声でそう言った。
「……だな。少年はそれでいい。がんばれ」
それに返答する声は、どこか緩やかなものだった。
ただし、力強く背中を押すような熱意を秘めている。そんな言葉が、早朝の静けさをまだ残したような空に響いた。
それを少し見上げた後、クライスは再び家の中へと入っていった。
その足取りは遅いが、どこか心軽やかなリズムを奏でる。
●■▲
「おラァァア!!」
戦士の鋭い一閃が、夕焼け空の下で炸裂する。その気合いの叫びは、血に飢えた獣を想起させるかのようだ。
数々の戦闘音が鳴り響いた後、静寂によって戦闘終了は告げられる。
勝者である男は、島の戦士たちをなぎ倒して堂々と立っていた。
「楽勝ッ!! ……とはイカねェかァ。さすがに消耗したゼ。ソルジャー諸君」
勝者として在るマリオは、そこそこに傷を負いながらも余裕の笑みを見せていた。息を乱してはいるが威風堂々。
少し荒れた地面に転がるソルジャー達を見ながら、それなりに楽しませてもらったことに対する感謝を抱く。
マリオは持った斧を肩にそえ、周囲に広がる殺風景な大地を見遣る。
「おっとッ。よくない気配がスるなァ。撤退ダ」
彼の判断は早かった。
こちらに接近する強者の気配を捉え、しかしその相手が楽しめそうにないタイプであると判断し、ならば戦う必要もなしと逃走を開始する。
周囲の仲間たちにも合図を送り、にやりと笑みを浮かべて追手から距離を取った。
「はハ、もしかしたら【シルバー・ルーザー】以上が来てるカ?」
マリオが口にした名は、ソルジャーの第2位の正式名称だ。
当然のことながら、島の治安維持を長い年月務めてきた組織となれば、見たことのないような魔導・スキル持ちがいてもおかしくない。中には、マリオの天敵となりうる存在もいることだろう。
(このおかしな気配……。あの特殊……ぎのうてん? だったか? の可能性あるナ)
特殊技能点。そう呼称されるスキル等を持つ者は、ソルジャーの試験が免除されるという話も聞いたことがある。
さらにあのゼノと同格が追ってきてるとなれば、逃げるのすらかなり骨が折れることになる。
なのでかなりの全力で。
全身の筋持久力を激しく駆動させるかのように、彼は走り出した。
「ハハはッ!! 久しぶりに走るかァ!!」
抗戦的な笑みを浮かべながら、マリオはかつてのトレーニングを思い出していた。
己の心身を鍛え、己を楽しませるような強敵と戦う。
なぜそれが思い浮かぶのか、自分でもよくは分からない。
●■▲
「はハ、まあまあの成果だな。もっと楽しみたかったガ」
息を切らしながら笑うマリオは、林地帯に潜んでいた。夜闇も相まって、隠れた彼を発見するのは難しい場所だ。
マリオは感覚を研ぎ澄ませて周囲の索敵を行いながら、自身のコンディションを確認している。
「はハ……ッ。衰えてはいないカ。こっちは」
彼のその視界に映るのは、真っ赤に染まった光景。
だが、その中でも異色を放つようなナニかがそこには在った。
「くハッ。はハッ。在るといいがナ」
短くそう言って、マリオは周囲に敵が迫っていないと判断する。そうして、少しだけ気を緩めた。
疲労が一気に襲ってくるような感覚が、全身を巡る。
もう敵はいない。
「ッッ!?」
■一陣の風が・マリオを襲撃した■
「アァッ!?」
■鋭い金属音と共に、風を弾き飛ばす彼■
「……なんのつもりダッ。テメェ」
「……」
風の正体は美しい女性。
剣を携え、引き締まった肢体が強調されるようなカラフル衣装に身を包み、静かな視線をマリオに向けている。
マリオと同じ混迷の太陽、クライスすら警戒する速力の持ち主であるトライフォ。
さっきの味方への攻撃は、間違いなく殺す気であった。
「別に。ただ単に試したクなったカら。それだけよ」
「……はァ、勘弁してくれヨな。そういうのハ。他の奴だけで十分ダ」
「防いだカら。いいじゃない」
「よくねェよッ」
マリオは少し息を吐き、まったく油断ならない仲間を見ながら肩を落とす。こういうことはそこまで珍しくなく、時々味方からのファイアを受けることはあった。
まあ、その度に返り討ちにしているがな。とは、マリオの言。
それはそれとして、精神的にうんざりはしていた。
「はぁあ……疲れんナァ。こいつラ」
「失礼。感謝するべき。いいトレーニングでしょう」
「トレーニング、ねェ。排除の間違いだロ。テメェの場合」
「……」
静かに、そう静かに殺気が刃となって彼女から放たれる。
それをマリオは感じ取った。即座に警戒態勢に入る彼。こういった状況には慣れているのか、少しだけ余裕のようなものを感じさせる。
クライスすら超えるかもしれない、超絶的な速力の持ち主を前にしても。だ。
ハハ。と、少し乾いたような笑みを響かせるマリオ。
「来るならこいヨ。その代わり、死んでも文句は言うなヨ。これでも元守護者でナ。テメェみたいな奴の相手は心得ている」
「へえ……そういうことを言うのね。あなたハ。そんな強気デ」
「言うさ。積み重ねた鍛錬の重み……味わってみるカ? 素人が」
■睨み合う両者■
「フ・ふ」
「!!」
■そこに割り込む、不気味な笑い■
「なァ!!」
マリオは豪快に斧を振るい、なにも見えない敵の脅威を打ち砕こうと駆動した。その反応は恐ろしく速い。
ギィンという音が鳴り、彼を仕留めようとしていた【暗殺者】はその姿を現した。
「やります……ネ……。対応しましタか……。筋肉だけの……ウスノロではないようですわね……」
「言ったろうガ。【経験】が違うト」
マリオと少し距離を空けて立つのは、フードを深く被った暗い雰囲気の美少女。その身のこなしを見ただけで、厄介な相手と判断する彼。
だが、まるで彼女……ヒナに後れを取るとは思っていなかった。
威風堂々と立つマリオの姿は、今までの戦闘によって培った自信がまざまざと表出している。
それを見たヒナもまた、その力量のほどをなんとなく感じ取った。
「さっきの動き……洗練された防御……。なるほど……、そういうタイプの選手……ですの」
「ハッ、一丁前に語るなよルーキーが。それほどの【スキル】を持っていても、使い方が雑すぎル。もう少し経験を……積むんだナ」
■一瞬だけ、マリオは言葉を詰まらせた■
「余計なお世話……ですわ……。この玄人気取り……筋肉マッチョが……」
「気取りかどうか、試してみるカ? 根暗女」
「……」
研ぎ澄まされるヒナの殺気。
対するマリオは、ある程度の距離を保ったままトライフォとヒナの二人を注視する。ただそれだけで、その二人の動きを制限するような威圧感を与えていた。
加えて、彼の不敵な笑みは脅威を伝えてくるようだ。
「そう、やはり厄介にして面倒ね。あなた」
「あァ、テメェなんぞよりな。よく思い知れヨ」
「口が悪い。苛立つ」
■膨れ上がるトライフォの殺気■
「どっからでもかかってきナ。【狭量】女が」
「……」
走り出す構えのトライフォと、同じく動き出す構えのヒナ。マリオはさらに笑みを深め、それをトライフォに見せつけてくる。
あまりに強気な態度。
同じ混迷の太陽を前にしても、自身が勝つと確信している雰囲気。
その様子は、こと儀攻戦においては乱れ達の中で最強の経験値を持つと、そう告げていた。