色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「……選手としテ、幾度も銀の闘技会で活躍してきた守護者。輝ける星にして、努力する秀才のお手本ファイター。その性格も含めて人気が高く、それゆえに、界隈に与えた影響は大きかった……乱れと化した星。そんな情報は知っていたケど、実際に対峙するとそれ以上」
「なんで知ってんだヨ。ぺらぺらと気色悪いナッ」
「さあ?」
トライフォの放つ殺気が、緩やかに収まっていく。それに連鎖するように、ヒナの放つ殺気も鎮静化の兆しを見せていた。
マリオはそれを見て、構えていた斧を静かに下げる。
あのまま衝突していれば、彼もただでは済まなかった――しかし、敗北せずに返り討ちにできるとも思っていた。
「……つまらない……でスね。あの方と戦う前の……肩慣らし……のつもりでしたのに」
「慣らし相手とは、舐められたもんダ。そんなに強いのカ? 噂のクライスとやらはヨ。……はハ。俺の防御を突破できるほどに?」
「なにを――当たり前のことを……ッ。身のほどを知りなさい……有象無象が……ッ。あの方は……最高の勇士にしテ、最強の選手……ッ!! あの眼差し……ッ!! あの息遣い……ッ!! 本当に本当に本当にッッ。愛おしく……テッ!! 狂おしく……て、なので、なので?なんデッ、ころしてやりたく……なってしまいますわッッ。あァッ!! ぐちゃぐちゃにして・したイッ!! どこまでモッ、わたくしの心を苦しめルッ、あの憎くて愛おしくて脳髄を侵食すルッ!! あの方をッ!!」
■一瞬で狂気に染まるヒナ■
■涎を垂らしながら、焦点の定まらない瞳で狂ったように哭く少女■
「……お、おう。なるほど。こういうタイプか」
さすがのマリオも引くレベルではあった。
とはいえ、こういう人種も乱れの中ではいるにはいるので、普通よりは耐性があると彼は自負している。
それはそれとして、絶対にチームを組みたくない女ではあるが。
ヒナはそんなマリオのことなど気にせず、今にも体がちぎれそうな勢いで身もだえしていた。
「だが、チームを組むことになりそうカ」
「ええそう。次の試合も、私たち【波涛の白竜】は続行。残念ネ」
「はぁ……。このチーム、崩壊しそうダ」
トライフォが告げたチーム名、波涛の白竜。
それこそがゼノ達を倒したチームであり、トライフォとマリオを擁する強力な兵団である。
そのチーム力は、ハーディン達のチームを確実に超えているとマリオは分析していた。
だが、彼はあまり好きではない。
「くソ……ッ。どうせなら王と組みたかったゼ。今までとは違う、未知の化学反応を起こせたかもしれねェのにッ」
「あの方は、チームプレイに向いていない」
「……テメェが言うか?」
「アナタもね。ケダモノ」
微妙な火花をぶつけ合いながらも、一応はチームであることを意識してか、マリオの敵意はさっきよりも薄い。
その斧は殺気を放つことなく、静かに下げられていく。
「――試合で遭いましょウ。せいぜい足を引っ張らなイで」
「抜かせ、そりゃあこっちの言葉ダ。素人が」
●■▲
「行ったか……。試合の日は近い、ような気もするが。ま、下手に連携考えない方がいいカ」
トライフォとヒナが去った後に、マリオはため息混じりに呟いた。うんざりするようなチームメイトとの交流のせいで、無駄に体力を使ってしまった気がする。
そのせいなのか、かつての仲間たちが脳裏をよぎり―――それを下らないと一蹴した。
過去の残像の中で……笑い合ってはいたが、結局今いる場所はここなのだ。
今さら過ぎる絆などに興味はなく、それよりも優先すべきことがある。
「さァて、楽しみにしとくかァ。……もう少し調整するかナ」
■陰る景色の中で、獣は静かに牙を研いでいく■
「だめ! これからの時間はわたしと遊ぶ約束ー!」
■そんな獣の背中に抱き着く影一つ■
「……分かった、分かっタッ。だから離れろッ」
「やだー!! はなれない!!」
頬を膨らませるリーチェは、彼の背中をポカポカと叩く。
マリオとしては、いきなり密着されて色々と大変な気持ちが発生しているので、気恥ずかしそうに彼女を離そうとする。
だが、執念の力なのかなんなのか、なかなか彼は苦戦している様子だ。
「くッ、試合中なら気にならんガッ。苦手だッ」
「はなさなーい!! もんね!」
微妙に顔が赤くなっているマリオは、分かった分かったと力を緩める。これ以上に抵抗しても無駄と判断し、諦めてリーチェの要求に従うことにした。
力を抜いた彼は、その手をリーチェの頭に優しく置いた。
「そうか、お前も一緒に遊ぶカ。なにして遊ぶ?」
「押し合いっこしよう!! 力勝負!!」
「……好きだナ。そういうの」
やれやれと肩落とすマリオは、視線を近くの茂みに向けた。鋭く細められた目はなにを映すのか、ギラリと鋭敏な輝きを放つ。
数秒の間、そのまま視線を少し巡らせた後、彼はふぅと息を吐いた。
「……こんなものカ。少し期待したガ、まあ違うよな。はハ」
「はぁ? なんの話してるのー! こらー!!」
「いやァ、なんでもなイ。お前はトライフォと違って、人懐っこいナって感心したんだ」
「んんん? それってほめてるのー?」
「褒めているゼ。少なくとも、おれと連携する分には助かるからナ。試合でも頼りにしてる」
「ふっふーん!! それはそう!! あんな人より頼りにして!!」
リーチェはトライフォに負けないよう、胸を張る仕草を見せた。それを可愛い奴めと笑うマリオは、比較するようにトライフォのことを思い出す。
そう、あのどこまでも冷たい・拒絶の瞳を。
彼女は完全にマリオたちを拒絶していて、近寄りがたい雰囲気を全方位に発している。
ただでさえ、人間を凌駕した生物的気配を纏っているのに、これでは同じ乱れたちですら接すること不可能だろう。
「むー。本当にいやな人だよね! 遊びに誘ったのに無視されたー!!」
「ま、一人が好きな奴もいるだろうヨ。そっとしておけ」
「むむぅ~。でもでも、ちょっと撃っただけで怒るんだよっ。ぷんぷん」
「……それは怒るだロ。常識的に考えて」
リーチェはトライフォのことを思い出し、頬をむむむと膨らませている。彼女の襲撃を受けたトライフォのことを思うと、正直同情する気持ちあるマリオ。
それに連鎖するように、自身のチームをいま一度思い返した。
尋常ではない速力使いに、黒い外套を纏った暗殺者。
トライフォは当然として、気配遮断スキルを用いた隠蔽も、儀攻戦においてかなりの脅威となるだろう。
「おれが敵チームだとしても、攻略に手間取るだろうナ。あんまり戦いたくはない敵ではある……違う意味デ」
■並んで立つ異種族の少女たち■
■ヒナとトライフォの姿を幻視する■
「なにをブツブツ言ってるのー!! もうー! 撃ち殺すよー!」
「はハ、すまん。撃つのはやめろ」
リーチェの言葉に、割と本気でお願いするマリオ。彼女は冗談でなく、本気で撃ち殺しにくるであろうと思っている。
その辺のブレーキのなさは恐ろしくもあり、同時に……。
「くク、さてはて。次の試合、どうなることやラ」
■小さく呟き、マリオは萎えている闘志を一瞬だけ強めた■
●■▲
「あァ……待ち切れませんわ……ッ。はやく……ッ。あの方と……ッ」
「落ち着いて。焦らない。焦らなイ」
大きな植物の葉によって、月の光が遮られた場所。そこで二つの妖艶な声が重なっていた。
少し冷たい外気によってその響きはより洗練され、聞く者を凍りつかせる鋭さを持っている。
彼女たちは、まるで外界から隔絶されたかのような異質な雰囲気を放っていた。特にヒナは、身を震わせながらその時を待つ。
「必ず……ッ。あの方を……ッ、クライスさんを……ッ!!」
ヒナの息は荒く、その瞳は現実を映していない。苦痛のようにも喜色のようにも見える表情は、この瞬間にも変化を続けている。
定まらぬ心は・増悪を伴ってより歪に形を変える。
「どうしたい? その男を――」
トライフォはヒナを試すように言う。
その言葉は危険な気配を漂わせ、両腕をヒナの方へ伸ばすトライフォ。そのまま彼女をかき抱くようにして、しっかりと動きを封じる。
その状態で、ヒナの耳へと口を近づけた。
ささやくように再びの問い。
「どうしたイ?」
●■▲
「――ヒナ」
■そして■
■同時刻、スローラ村■
「あの娘は……とても大人しい……子でした」
「……」
サーシャ宅、その居間は緊張感と静けさに包まれている。その理由は、卓に着いた一人の女性であろう。
美しい客人。青く綺麗な、透き通るような長髪を生やした人物だ。全身を黒いローブで覆った姿は、ある乱れの少女を想起させる。
「……似てるな」
彼女の対面に座ったクライスが、そんなことを呟いた。彼の表情は無気力で、しかし、話す客人に対する視線はやや強い。
それもそうだろう、彼女はヒナの姉であるのだから。
地区長の一人にして、島のトップ選手の一人であるローラが、クライス達の下を訪れていた。
「そんな……やめてくださいまし……ッ。いや……ッ」
「え?」
■いきなり、顔を赤らめるローラ■
「そんな風に、体の隅々までじっくりと見られますと……わたくしも恥ずかしい……ですわ……! 勇士さま……ッ」
「え?」
「ぺろぺろと……ッ。舐め回すように……!! そんな……!!」
いきなりなに言ってんねんこの女と、クライスは若干放心状態になってしまう。確かに美しい女性とは思ったが、そんな誤解を招くようなことを言われても困る。
そこで、隣からわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
ちらりと横目で見ると、隣に座るロングスカート姿のサーシャがジト目を向けている。
頬が膨らんでいてハムスターみたいな可愛らしさを感じ、クライスは癒された。
「……」
不思議と緊張が解けていく、そう感じた彼は息を吐く。さっきまでの重さがなくなった。
これで冷静に話ができるようになる、ような気がする。
これから聞く話は、それだけの重さが在る。
ああ。当然だろう。
「……さあ、そろそろ真剣に話すか」
「わたくしは真剣……ですわよ? 勇士さまに辱められて……責任をとってくださいまし……」
「エ?」
怪しげな声を響かせたまま、恐ろしいことを言ってくる地区長に対し、クライスはヒナの面影を見た。
こんな風に、自身をからかって来ていたなと。いや、本気だったのかもしれない。が。
よく思い出せるんだ、あの日々が。
「――話してくれ。アイツのこと」
■クライスは、はっきりとそう言った■
「ええ……勇士さまが、それを……望むのなら……」
居間の机に着くのはクライスとサーシャ。
そして二人の対面に座る、地区長ローラ。
彼女はゆっくりと、ヒナの過去を古ぼけた引き出しから取り出すように、語り始めるのだった。
「姉のわたくしにも……なかなか心を開かない、引っ込み思案な子で……。我が故郷においては……【親交の姫】として……祀られていましたわ……」