色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
【どこが……親交……と】
そんなことを呟いた少女が、広い一室の隅で膝を抱えていた。そこはあまりにも陰気で、薄暗くて息が詰まるような場所だ。
暗闇の中にさらに暗闇が溶け、入った者の心を孤立させていくかのような空気感は、なにも感じさせないがゆえに苦痛を与えてくるものだった。
そう・彼女はそういう世界で生きてきた。
【……】
少女は、質素な机だけがぽつんと置かれた部屋で、右手に持った古ぼけた書物をちらりと見遣る。
別に、与えられたものがそれだけということではない。
食事も十分で、寝床も十分、狭い檻に閉じ込められているわけでもない。奴隷のような扱いを受けているわけでもなく、地位的には高い位置にいると断言できる。
そして、ここから通じる別の部屋では一人遊びだって可能だ。
【だれか……だれも……】
■疾風の勇士で在る少女は、暗くつぶやく■
■これは、まだ彼女が無職の勇士に会う前のSTORY■
●■▲
「うお、おッしゃあああ!!!」
「ぬうッ。なんという迫力かッ!!」
炸裂する轟音と衝撃が、その魔導場を揺らすように伝播していく。あまりに力強いそれは、大地を体現したかのような衝突の余波だ。
二つのチームが争い、その強力な力の発露を連鎖発生させていく。
特に勢いが凄まじいのは。
「まだまだまだまだッ!! こんなもんじゃッ!! 足りない!!」
「うおおおい!? こんな激しいなんて聞いてないぞ!」
「とんだGIRLアタッカーだ!! これが期待の新星!! わくわくするYO! AHAHA!!」
石造りの床を鳴らしながら選手たちがぶつかり合う、舞踏会場のような場所。その中心にあるゴールへと、攻撃側が侵攻を行い・それを撃退する防御側。
ありふれた儀攻戦の光景だが、その勢いはありふれていない。
プロチームの中でも上位と思われるチーム同士の対決は、天窓のステンドグラスから射し込む光によって装飾されている。
「A・B!! その娘のブロックに回れ!! チームワークってやつを見せてやれ!」
「おうよォ!」
「任せな! こっちは二人で【ライン】を塞ぐ!!」
■大盾を持った男性二人が、一枚の大きな壁になるように並んだ■
「じゃまァッ!!」
「!?」
「うおッ!?」
凄まじい衝撃によってブロッカー二人の壁は揺らぎ、ゴールへと迫る一矢となる。それを発生させた選手――ジャスミンは、獰猛な獣のような覇気を放ちながら壁を押し込んでいく。
そのパワーを受けた男性選手二人の顔は、驚きによって目を見開いていた。
スターライト・ファイターに匹敵するであろう彼女の膂力は、もはや疑う余地もなく。
「だがまあっ、防ぎ切れない……ってわけでもないなッ」
「舐めてもらっちゃッ! 困るッ!!」
徐々に後退してはいるが、彼らの盾はジャスミンの突進を一応防ぐことは出来ていた。
それがいかにすごい事なのか、彼女のアタッカーとしての能力を知っている者なら、ありありとイメージできるだろう。
ジャスミンはそれに対し――獰猛な笑みを見せた。
「やるじゃない……!! それぐらいじゃなきゃ、この鬱憤は晴らせないっての!!」
■ジャスミンのパワーがさらに上がる■
「う、おッ。こりゃあ……どこまで持つか分からんぞッ」
「あの、麗しきジャスミン選手と相対できるのは嬉しいが……この圧力はシャレにならねぇな!」
ブロッカー二人はなんとか耐えているが、ジャスミン相手では何分持つやらという話だ。だが、こちらの【ライン】への侵攻を止めてはいる。
ブロッカーの片方が横目で、少し離れた場所で広がる選手たちの衝突を見遣った。
「あっちのアタッカー……厄介なジャスミンは止めた!! こっちのラインは押し返すぞ!!」
「おお! 全力でやらないと、意味がない!!」
■別の場所での衝突も、また激しさを増している■
■その中で■
「ううぅ……緊張するっスっ。深呼吸、深呼吸ッ」
前衛で激突するアタッカーの波を見ながら、後方で待機しているルーキー少女の姿。その手にはボールが在る。
彼女はまだまだ経験が浅いゆえに、基本的なルールを反芻しながら、自身の動く時を待っている。
いまだ前方のブロッカーは崩れず、ゴールへの道は遠い。
(ポイントエリア……は、内部でボールを出現させることが可能っ。そして、その形は)
クライスに憧れる少女リナは、ポイントエリアの範囲について頭の中で整理する。
終点や式の柱を中心に円形に広がり、さらにそこから【ライン】と呼ばれる道が伸びているエリア形状。
ゴールへ進むには、そのラインを通らなければならず、力尽くで通るのは絶対に不可能。
現在自身のいるラインを確認したリナは、選手ならば見える他のラインにも目を遣る。
(ジャスミン先輩の進むラインは細いッ。あれじゃあ、あの防御を完全突破しない限り進めないっ。……となると、やっぱり他のラインから進行して、ゴールを決めるしかないっ)
ジャスミンの停滞を目視し、リナは自分の進むラインこそが得点源になり得ると判断した。
今までの試合は、先輩たちの活躍もあってなんとかやってこれたが、これから先はもっとポイントエリアの仕組みやライン毎の状況も加味しないと、チームの勝利が危うくなる可能性だってある。
いつまでも、付いていくのが精一杯の新人ではいられない。
(恐ろしく速い敵の女性アタッカーに、元凄腕守護者ッ。……映像で見ただけなのに、足がすくむ強敵……!! 実際に相対したら、一体どんな……っ)
いずれ来るかもしれない、強敵の乱れ達との衝突に怯えるリナ。彼女は震える足を叩き、今この瞬間の【試合】に集中する。
頬から首筋へと流れていく汗すら敏感に感じる集中の中、リナは前衛でぶつかり合う選手たちの変化を見た。
(いまっ!! だ!!)
前方のアタッカーとブロッカーの戦いによって、少しだけ生じたゴールへの道。それを狙って切り込んだリナは、全力で足を動かして突破を狙う。
決して突出しているわけではないが、悪くない動き。
クライスのように一人で突破する力はないが、ルーキーとしての輝きを発している。
「ちィ! 一人抜けたぞ! 金髪女が!!」
「任せろ! こっちで止めるぜ!!」
侵攻するリナの前に立ち塞がる、彼女より二回りは大きそうな男性選手。筋骨隆々と言うに相応しい肉体は、相手チームのユニフォームである、赤と黄色がコントラストを奏でるスポーツウェアに包まれていた。
比較的暑いこの魔導場に合わせ、現在の試合の選手たちは基本的に半袖・半ズボンスタイルなので、より磨かれた肉体が分かるようになっている。
「お嬢ちゃん! ここでSTOPしなァ!!」
「!!」
ブロッカー男が、その右腕を彼女の方へ伸ばす。その動作は洗練されている。
リナをその腕力で捕らえて、動きを完全に封じるつもりだろう。実際、それをされたらもう彼女はどうしようもない。
パワー対決ではブロッカーの方に利があった。
「ッ。舐めないで――よッ!!」
伸ばされた腕は、リナの残像を掴むように空を切る。
「!! なッ!?」
驚愕するブロッカー男は、目端で通り過ぎていく影の姿を捉えた。
彼の中で、リナを侮っている部分もあったのだろう。所詮はルーキーのアタッカーと、己が積んできた経験を自負に、己が抜かれることなどないだろうと。
それを覆した彼女の走りは、確かな鍛錬によって洗練されたものであった。
「よしッ。よしッ!」
心中で力強くガッツポーズしながら、リナは己の進むラインの先を見据える。そこまで遠くはない位置に、ゴールである式の柱が見えた。
躍動する肉体は運動の火照りによってエンジンが加速するようで、彼女はさらに速度を増していく。
ここ最近、ずっと行ってきた走り込みが成果を出している。
(サーシャ先輩に言われてっ、基礎的な走力を上げてきたんだからっ。このままゴールする!!)
彼女の視界に映るゴールが、その輪郭を確かなものにしていく。
周囲からリナを止めようと動く気配はあるが、その敵選手たちもしっかりカバーしている為に、もう侵攻を止める者はいない。
掌握魔導によって己の動きを支えながら、憧れであり道しるべであるあの人のようにゴールへと。
「そうは行かせないっ! ってなぁ! かわいこちゃん!!」
「えッ!?」
■少し細身で筋肉質な男性選手が、金髪を揺らしながらゴールへの道を塞ぐ■
「舐めてて悪かった。……だよな、あの強力な乱れ達と戦ったチームのメンバーが、弱いはずないよな!」
「……!!」
リナは、自身の予測が間違っていたことに気付く。だが、それも無理はないことだろう。
経験を積んだ選手ですら、目まぐるしく動く試合中の状況を読み違えることはあるのだ。
リナが自責の念を感じているのは、その動きを鈍らせる枷としてのデメリットを生んでしまう。
まずいと、彼女が思った時には金髪ブロッカーが距離を詰めていた。
「もう、ダメッ」
急ブレーキをかけるリナの肉体。
これ以上は進めない、そんな直感が頭を過った。
そして、敵ブロッカーの手が勢いよく迫ってくる。それはあまりに速い。
「こっちだ!! リナ!!」
「!!」
リナの耳の中を、聞き覚えのある声が突き進む。
その瞬間、彼女は半ば無意識に腕を動かしていた。
「なぬっ!?」
金髪ブロッカーは、自身の横を通り抜けていくボールを横目で見た。咄嗟に腕伸ばすも届かず。
彼は、まだ彼女を侮っていたとそこで気付く。
その代償は、すぐに結果として現れることになった。
「ナイスパス! リナ!」
敵の防御壁を突破した一矢を、先に抜けていたフジ丸が引き継いだ。さらにゴールに近いPositionにいる彼は、勝利を確信して一直線に走る。
彼は、リナが抜けたのとほぼ同時に前へ進み、彼女からのパスを受けやすい場所へと移動していた。
敵の意表を突くために。
「そうは……させるかよ!! この野郎!!」
「!」
だが、少し細身の、仮面を被った男性選手がゴール前に到着する。
フジ丸たちの動きを察知して、素早くカバーに入ったのだろうと思われた。その対応の早さには、それなりの経験を積んだフジ丸も驚く。
彼らは間違いなく強敵チームだ。
このDream teamでも、余裕で勝てるとは行かないほどに。
「だからこそっ。意味があるんだがな!」
彼の判断は早かった。
フジ丸は体勢を変え、オーバースローフォームで一投を放つ。
天才というわけではないが、日々の着実な鍛錬によって形作られたシュートは、敵ブロッカーの動きを完全に予測していた。
「ぐッ!? しまった!?」
ブロッカーが左に伸ばした手の先を、鋭い一球が通り抜けていく。
あまりに早いフジ丸の切り替えに、少しだけ反応が遅れたのが敗因と言えるのかもしれない。
その結果は。
「Niceですッ。フジ丸先輩!」
■リナの言葉に呼応するように、ボールは式の柱を中心にした円形のゴールエリアに吸い込まれていく■
■赤と青の光が乱れ、ゴールの証を周囲の選手に示す■