色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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無職の怒り

「こっちだ! いたぞ!」

 

「逃がすな! 袋叩きだ!」

 

(うわああ。いきなり計画崩れたぁああ)

 

 両腕と両足を必死に振って逃走するマサル君は、己の計画(笑)が壊れて焦っていた。

 

「おかしいだろ。なんで」

 

 着々と包囲されているのを感じながら、次の一手を考える。

 

(今こそ無双の時!!……はだめ。こんなところで手の内を見せてどうする)

 

 己のステータスと、参加者たちのステータスを見比べれば、無双することも難しくはないだろうと思える。

 

(しかし、全力は当然拒否)

 

 無職の勇士であることはもちろん、強力な力を持つ選手であることも出来れば伏せたい彼。

 

(となると……当然)

 

 マサルは策を即座に構築して、試みようとする。

 

「見つけたぜ! ソロ選手!!」

 

「悪く思うなよ! 手を組んでは駄目ってルールはない!」

 

「一気に仕掛けるぞ! お前ら! コンビネーションだ!」

 

(わあお。五人もいる)

 

 冷や汗を流しながら降参のポーズを取り、草むらの上で両手を上げるマサル君。

 いかつい面をした男が五人、彼を包囲する。

 その手には、この競技専用武器らしき銃を全員が持っていた。

 

「なんだ?リタイアか?」

 

「するなら30秒以内な!」

 

 リタイアするなら手荒な真似はしないと、男達は攻撃の手を止める。

 

(リタイアだって?)

 

 さっさとリタイアしてしまおうか。

 そんな風に考えていた時もあった。

 しかし。

 

「……分かった降参しよう」

 

 大人しく降参を選ぶ彼は、そんなことを諦観と共に言う。

 

「潔いな。懸命な判断だ……」

 

「次の標的はどうする?」

 

「近くにもう一人いたな……そいつを」

 

(油断し過ぎだ)

 

 わざとらしくマサルは叫んだ。

 

「踏破◆踏破◆烈風っ」

 

 同時に、右腕を地面に伸ばす。

 

「なにぃ!?」

 

「【魔導】!?」

 

 咄嗟に反応し、魔導を発動しようとする五人。

 

(遅い)

 

 地面が吹き飛び、大きく土煙が上がった。

 

「うおあ!?」

 

「しまった!視界が!?」

 

「うわああ!?」

 

 混乱して武器を撃とうとする者がいる。

 

「ばか!? 撃つな――」

 

 仲間の制止も聞かずに、銃弾が放たれ。

 

「ごっはぁ!?」

 

 制止した男を見事に吹き飛ばした。

 

「う、うわわ!?」

 

「なんだよ!?」

 

 さらに混乱は広がり、乱射される銃撃。

 

「ぎゃああ!!」

 

「いてぇ!?」

 

 次々と上がる悲鳴と、魔導などの炸裂音。

 

「な、なんてこったっ!?」

 

 土煙が晴れるころには、すでに一人を残して全滅。その一人もすでにボロボロ。

 満足げな顔で天に昇っていく四人の魂を見て、彼はツッコミをいれた。

 

「なんで満足気!? 何処に行った!? あの野郎!?」

 

「――後ろだ」

 

「は」

 

 最後の一人の脳天に、強烈な一撃が叩き込まれた。

 

「こ、姑息な……」

 

 地面に前から倒れる最後の一人。

 間違いなく致命的な一撃だ。

 

「五人相手だぜ? まともに戦えるかよ」

 

 息を切らしている風に、マサルは肩を上下させる。

 

「……次は覚えてろよおおおぉ」

 

 恨み言を口にしながら、倒れた男の体は消滅した。

 

「……ふぅ、疲れたぁ……ZE」

 

 全ての敵を蹴散らし、マサルは近くの木を背に座り込んだ。

 

「……」

 

「おーっと! 新米就職者のクライス選手! すさまじく卑怯な手段で窮地を乗り切った! 風の魔導を使えるようです!」

 

 マサルの耳に聞こえるアナウンス。

 それを的外れと彼は思った。

 

(魔導じゃない。あれは、ただの【パンチ】だ。……やっぱり見られてるよなぁ。魔導か? 魔導具か? それとも……)

 

 クライスの戦闘を実況する声は、彼の動向を把握していることを示していた。

 これでは下手なことはできない。

 それはそれとして、僥倖もあったのだが。

 

(異世界競技において……一部の魔導・スキルなどは弱体化されたり、使えなかったりする場合があると聞いた。が、俺の基礎能力は十全に使えそうだ)

 

 マサルはすでに、己の能力の底をつかみ始めている。

 

(しかしやっぱり、迂闊に力を見せられないな……くそ。今回はかなりうまくいったがっ)

 

 彼は監視する存在を意識し、次の行動を考える。

 

●■▲

 

■一方その頃。バトル場を囲む、分かれた観客席の三段目:岩石エリア側■

 

 観客席の前方に立った上に細長い鋼鉄の壁、その上方に取り付けられた巨大モニターに、五百を超える観客達の視線は集まる。

 

「はー! 大した姑息さね! 本当姑息! 姑息王よ! あいつ! 正面からぶっとばしなさいよ!」

 

 夜空に響く歓声の中で、二人もまた声を上げる。

 

「すごい! クライス様! やっぱりすごい! 最強だよ!」

 

 ジャスミンとサーシャは並んで座り、戦士クライスの戦闘を見守っていた。

 

「まったく! 正々堂々戦えないのかしら! 情けない!」

 

 ハットをかぶり、ポップコーンを口にしながら、ぷんぷん怒りのジャスミン。

 

「もうジャスミン! クライス様を素直に褒められないの!?」

 

 ジャスミンの反応に不満気なサーシャ。

 彼女はとてもきらきらした瞳で、マサルのことを応援していた。

 

「おいアイツ、割とやるじゃん」

「賭けときゃよかったか?くそ」

 

「クライス……聞いたこともねぇ」

「相手だって無名のザコだ……それにあそこまで苦戦してるようじゃ、大したことはないだろ」

 

「ねえ?あの人イケてない?かっこいいよね……」

「うん、爽やか風イケメンって感じ!」

「頑張ってほしいなぁ……!」

 

「……あいつはどうだ?」

「無茶言うな……そんな簡単に分かるかよ」

 

 様々な思惑が渦巻くのは、戦場だけではないようだ。

 

●■▲

 

■少し経ち・凍土エリア■

 

「……」

 

「……」

 

 いてつくような寒さが充満する場。

 氷の大地の上で静かに対峙する二人は、共に優勝候補であった。

 

「こっちはこっちで面白そうなことになってますね! 解説のおしゃべり侍さん!」

 

「そうでござるな! 共に実力者! ああそうそう! 拙者も昔こんなシチュエーションで……」

 

「聞いてねーよ……さて、どうなりますかね!」

 

 実況解説の声がフィールド上に響く。

 

「まさか、こんなに早く戦うことになるとはね……。やれやれ。幸運なのかな?」

 

 一方の人物は、帽子の男・ドリー。

 チャック付きの黒い上着は高級感を漂わせ、彼の気品を上げている。

 持っている長い槍は、穂先を鋭く光らせて敵を威嚇する。穂先の下には、赤い布のようなものが巻きつけられていた。

 

「――さっさとかかってこい。私の勝ちは揺るがない」

 

 もう一方は白銀の強者。

 【灼熱の勇士】と呼称される、戦士の風格が漂う女性。

 灰のタンクトップと短いズボンは、動きやすさを重視しているようだ。

 武器は手元になく、素手のみなのは自信の表れか。

 

「両者、とてつもない威圧感を放っていますね!」

 

「そうでござるな~。まあ、拙者ほどではないでござるが!」

 

「うぜぇ……ドリー選手と言えば、【ヤマト】の戦士を倒したことで有名ですね!」

 

「ヤマト?」

 

「え、知らないの(笑)」

 

「し、知ってるつーの!!」

 

 

 

「ほう、お前はヤマトに行ったことがあるのか」

 

「かかってこいって言ったのに……昔ね、まあ【倒されかけた】けど……」

 

 実況の言葉に反応したミリアム。

 関心ありといった風に問いを投げた。

 ドリーの反応はとてもそっけなく、これからの戦いに集中しているように見える。

 

「やっぱり危うきに近寄るものじゃないね……あそこの【儀式場】は、普通の方法では入れないと聞くし」

 

「儀式場が目当てと」

 

「それ以外にないだろう? ……儀式場は、純粋に就職者の力を底上げしてくれるものでもある」

 

 儀式場について語るドリー。

 

「点在する儀式場……その所有権を巡って、少し島はきな臭い雰囲気を纏い始めている」

 

 少し悲し気な語りは、静かに放たれ。

 

「守護者の管理が届かない場所もあるし……欲は尽きないね」

 

 

 

「まあ、オレもそうなんだが――!!」

 

 ドリーの発言・宣言・刺突。

 それらに掛かった時間はわずか一秒。

 

「おおッ!? いきなり仕掛けたーッ!!」

 

「うわ! 速すぎ! 見えないよ拙者!」

 

「え?」

 

□観客たちが驚愕の声を上げるほどの、恐るべき速攻□

 

「……やるね!」

 

 しかしその穂先は空を切り。

 

「――流石は【刺突の勇士】。よけ切れんとはな」

 

 ミリアムは後方に距離を開けて、槍の領域から脱する。

 服の腹部分が少し裂けていた。

 

「ははは、新米就職者に負けるとあっては……一応それなりの経験を積んだ大人としてね……」

 

「私相手だ。恥じることはないだろう」

 

「すごい自信だなぁ!」

 

 互いに相手の出方を伺うかのような硬直。

 

「でも、そういうことはコレを凌いでからね?」

 

 否。硬直ではなく、既に状況は詰めに入っていた。

 

 最初の一撃で、刺突の勇士は己の奥の手を解放していて。

 

□ミリアムに走る悪寒――□

 

「!?」

 

 何処から来る?

 ミリアムの頭を過った疑問は。

 

「上だ。もう遅いけどね?」

 

 一瞬の内に上空から降り注いだ刺突の雨によって、氷の大地ごと砕かれた。 

 

「す、すげぇな」

 

「これが、噂に聞く破壊槍の正体かっ」

 

 各エリアの観客達が、モニターに映された光景を前にしてざわめく。

 あまりに非現実的な光景はまさしく異世界競技。

 ざわめきはさらに強くなっていく。

 

「さすがに跡形もないよな……?」

 

「だろ……なんつー威力!」

 

 半径三十メートルは余裕で吹き飛ばすぐらいの【刺突】を見れば、それも当然と言える。

 

「なんで上から?」

「さあ……というか魔導なのか?」

「いや、ドリーの左手に銃がある。……おそらくだが、勇士が持つ魔導具+混沌戦の専用武器による複合攻撃……。ゆえにダメージも軽減されない」

 

「あの槍がドリーの魔導具……」

「二百年以上前から在ったっていうが、まるでそんな感じないな」

 

「ミリアム……」

「残念だがここまでだな。一万ペルがっ」

 

「たかがイヤシノ地区で、これほどの戦いが見れるとは」

「わざわざ【ナゴミノ地区】から来た甲斐はあったか」

 

「わわわ……刺突の勇士の本領見ちゃった」

 

「あんた的にはどうなのよ? 刺突の勇士」

 

「わりと好き……サイン貰いに行こうかなぁ」

 

 サーシャは少し興奮気味に語っているが、マサルがこの光景を見たら嫉妬するかもしれない。

 彼女の一番は決して揺らいではいない、が。

 

「うーん、あたしの好みじゃないわね。もっとこうクールな感じの……」

 

 ぶつぶつ言うジャスミンは、自分の世界へと入ってしまう。

 

「でも、灼熱の勇士か……」

 

 撒き上がった氷の破片の中に消えたミリアムを、想うサーシャ。

 

(伝説では……【無職の勇士】と殺し合ったっていうけど――)

 

 

 

「はぁ、まさか初手で切り札を使ってしまうとは」

 

 眼前で巻き起こる氷の煙幕を見ながら、己の今後を憂いるドリー。

 まだまだ強敵がいるというのに、専用武器の残弾を使い果たし、己の十八番も見せてしまった。

 

(詳細までは見せたことのない技だが……恐ろしく危険な相手だ。仕方ないか)

 

 ドリーは決してミリアムを侮ってはいなかった。

 むしろ最大限の警戒をもって、彼女を仕留めにかかったのだ。

 

(新米とはいえ……な)

 

 彼にそこまで警戒させる要因の一つは、ミリアムの経歴にあった。

 

(モンスター討伐……しかも単独でA級下位を何体も倒して、金を稼いでいたという話もある。真偽不確かな情報だが)

 

 モンスターで通常単独撃破出来るのは、B級までとされている。

 どれだけ経験を積んだ就職者でもだ。

 

(【就職者】と呼ばれる常人を超えた者達でも、当然限界レベルはある……オレも既に限界までステータスを上げた)

 

 就職者はそれだけで社会的に便利な存在、常人を上回る能力でどんな困難も壊していく。世間ではスターのような扱いも珍しくない。

 その超人の限界レベルを、軽々と超えてくる者達がいる。

 

(そうしていずれ、【あの領域】まで到達するんだろうな……しかし【踏破】四つで最大まで強化した、オレの槍が持つ攻撃スキル最強の連撃なら!)

 

 渾身の力を込めた必殺技を頼りに、ドリーは未来の怪物を撃破した。

 

「オレには届かないが……今は勝たせてもらうぞ!」 

 

「――今でも勝てんよ。お前では」

 

 撃破したという達成感を粉々に砕く、酷く冷酷な声が響く。

 

「……ああクソッ」

 

 らしくなく舌打ちしてしまったドリーは、己の無力さを嘆いた。

 

(ここまでやっても、だめか)

 

「とはいえ、この【炎】がなくては不味かったが」

 

 氷結の煙から現れた銀髪の少女は、それとは真逆の獄炎を纏っている。

 

(半透明な炎……どこか神秘的なっ)

 

 神々しい輝きを放ちながら歩んでくるミリアムは、ドリーを怯ませた。

 

(炎……灼熱の勇士の【勇士スキル】!)

 

 スキルの中には、勇士しか使えないスキルというのが存在した。それが勇士スキル。

 

「攻撃力2000に及ばずか。経験を積んでその程度では、所詮は凡人」

 

 見下すように言いながら、氷を踏み砕きながら前に進む。

 

「終わりだ。灼熱の渦に消えろ」

 

 その右手をドリーの方へと向けた。

 

「踏破◆焼却◆変化◆隠蔽◆■■◆■■」

 

(六つの言葉を重ねた魔導、だとッ)

 

 魔導というのは、言葉を重ねれば重ねるほど一回の発動で得られる恩恵が増える。

 しかし、数を重ねるのは難しく。

 

(四つでも多い方なのに……なんてッ)

 

 畏怖の念を抱きながら、ドリーは成すすべなく巨大な炎に飲まれた。

 

「おあああああああああッ!?」

 

 真っ赤に染まっていく彼の世界、崩れ落ちていく体。

 

(まったく! 事前にかけておいた防御魔導が通じない!?)

 

 彼は魔導によって見えない鎧を纏っていたが、意味がなく。

 

(異常だ! この威力は! さっきの――灼熱の勇士スキルかッ。異世界競技のルールすら貫通する灼熱!!)

 

「が――」

 

 大きな疑問を抱えたまま、跡形もなく刺突の勇士は焼却された。

 

(最強……の就職者)

 

 その燃えカスの中に漂った想いは、彼が昔抱いて、今でも諦められない感情。

 

(それだけでは満足できなかった。更に上を目指さなくては……そのために、失ったものも多い)

 

 抱いた想いは、ミリアムにむけられる。

 

(彼女は辿り着くのか)

 

 溶けていくのは氷か・感情か。

 ドリーはそのまま、この異世界競技から脱落した。

 

「強者に分類される者ですら、この程度。【スターク】の言う通り、期待させてくれる選手はいないのか……フン」

 

■ミリアムはつまらなそうに鼻を鳴らす■

 

「勇士同士の戦い決着! 灼熱の勇士が、刺突の勇士を下したー!!」

 

 鳴りやまぬ歓声は、最高の盛り上がりを見せる。

 

「これはとんだ掘り出し物だ! 美しき勇士……! あの気品……! メディア映えもしそうだ!」

 

 他の地区から来たスカウトマンや。

 

「今のアングル、もっと格好良く撮れたのに!」

 

 ローカル放送のテレビ局員が、興奮気味に騒ぐ。

 

「今大会の大型ルーキー! いいね! しかも美人!」

 

「他の参加者にはぜひとも踏み台になってもらって……彼女の話題性を高めてもらわねば!」

 

「ほとんど踏み台にもならないだろう!ははは!」

 

「あのクライスとかどうだ? どっちもルーキー!」

 

「あいつはなぁ、正直しょぼそうっていうか。まあ、途中で脱落だろう」

 

 

 

「……っ」

 

サーシャは顔を歪ませ、歯ぎしりの音を響かせた。

 

●■▲

 

「くっそー……やばい……」

 

 バトル場にいくつか取り付けられたモニターで状況を見ていたマサルは、ミリアムの強さを思い知った。

 

「どうするかっ」

 

 確実に立ち塞がるであろうミリアムという壁を思い浮かべ、心底うんざりしてしまう彼。

 

「本当……くそ……次から次へと……」

 

「そろそろ仕掛けても構わねぇか? チビ!」

 

 何故なら背後には、【霧の勇士】が立っているのだから。

 森エリアに彼もいたのだ。

 

「はぁあ……」

 

 溜息を吐きながら、霧の勇士に顔を向けるマサル。

 彼の顔は心底めんどうくさい気持ちがあふれている。

 

「……まあ、丁度いいかもな」

 

「あア!?」

 

 余裕の態度を崩さないマサルに苛立つ霧の勇士は、まだ距離がある間合いを縮めた。

 それでもナマケモノの無気力感は変わらない。

 

「てめぇの前に立っているオレを、誰だか分かっているのか!!」

 

「だれ? 勇士だったっけ?」

 

 挑発するような口調でマサルは言う。

 

「どこまでもムカつかせやがる……ッ」

 

 ずんずんとマサルに接近する霧の勇士。

 

「――は?」

 

 その足が。

 

「それはこっちの言葉だよ。乱しに、乱しやがって……なあ?」

 

 マサルから放たれる静かな憤怒によって、ぴたりと止まった。

 霧の勇士は一瞬気圧されて、わずかに後退してしまう。

 

(なんだこの威圧感っ)

 

■まるで、おそろしい怪物と相対したかのようなプレッシャー■

 

「てめぇ一体……」

 

「どうでも良いだろ。結果は変わらない」

 

「フン。分かってんなオレが」

 

「勝つのは俺だよ・強者が残るんだから」

 

 きっぱりと断言した言葉は、どこまでも涼し気に。

 自信過剰でもなんでもなく、【無職】は当然のようにそれを確信していた。

 

「マサル選手ー!! あの霧の勇士と相対しているー!! これはどうなるかー!!」

 

 実況の言葉が追い付き、モニターにマサル達の姿が映る。

 

「おお、これは見ものだな」

 

「でもまあ、勇士でもないやつが敵うわけないさ」

 

 観客たちは少し盛り上がりを見せた。

 

「もしかしたら勇士かもしれないだろ?」

 

「だとしても、あのポンコツの無職の勇士だったら意味ないな」

 

「はは、言えてる!」

 

 男性二人組の会話を背で聞くサーシャは。

 

「……ぎりぎりぎりぎり」

 

「歯ぎしりが聞こえてくるわよっ!?」

 

 いままでジャスミンが見たことないような憤怒の表情で、サーシャは歯をならしまくっている。

 いまにも噴火しそうなそれに気づかぬ者たちは、好き勝手に無職の勇士をばかにする。

 

「あの臆病者の無職じゃなぁ! はははは!」

 

■相対する勇士二人は■

 

「くく……ザコが。このオレ、ゴン三郎に勝てるとでも思ってやがるか」

 

 マサルのステータスを確認しながら、ゴン三郎は笑った。

 

(どのステータスも千を超えてない……はっ!)

 

「……」

 

「オレは今まで、多数の【属性持ち】大会で優勝してきた……テレビに出たこともあるし……あの有名な就職者、スタッフ・ローガンからも称賛のコメントをだな……」

 

「――御託はいいから来いよ。びびってるのか?」

 

 冷たい挑発が淡々と放たれた。

 マサルの瞳は、どこまでも浅く。

 

「時間の無駄だ。面倒は省きたいんでね」

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