色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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混沌戦、終幕

■森エリアの右・岩石エリア■

 

 多数の岩が地面から突き出た、岩石エリアの一角で。

 

「さすがはわたくしの勇士様……ああ……素敵……」

 

 エリアに配置されたモニターを見て、恍惚の表情を浮かべる少女。

 

「あのような【ゴミ】に……負ける訳はない……」

 

 両手を顔に当て、瞳に映るのは輝き過ぎているマサルの姿。どこまでも狂気をはらんだ愛は増幅し、すでに危険な域にまで達していた。

 

「ああ……ああ……」

 

完全に美化されている彼女の中の勇士像。

 

「最高……ですっ」

 

 

 

「おおう……こ、腰が痛い……」

 

「くそぉ……強すぎんぜっ」

 

 興奮するヒナの足元には、参加者数名が転がっている。

 

「でもまだ……証明には至らない……!」

 

 そちらにはまるで関心を向けず、彼女の全関心は、虚構の向こうに存在する彼へと。

 

「わたくしと戦って……頑張って……張り切って……」

 

 ヒナの瞳には危うい光が黒く暗く残酷に広がっていく。

 

「めちゃくちゃに……蹂躙して……ッ」

 

 狂気・凶器とも言える愛情を抱いて、ただひたすらにその時を待つ。

 己の身をすべて捧げても構わないと思えるほど、彼女の想いは強かった。

 

「出来た暁には……わたくしを……隅から隅まで……!」

 

 なので望む。

 愛しい者との戦いの時を。

 

「あなたなら出来る筈……できないとおかしい……!」

 

■そうであってほしいと■

■ただひたすらに酔う■

 

「なので全力で――仕留めに行きますね? クライスさん……!」

 

 漆黒の外衣を纏った暗殺者は、マサルを排除するべく動き出した。

 

●■▲

 

■森エリアの北・氷雪エリア■

 

「……」

 

 氷の大地に挟まれた、細長いコンクリートの地面に立てられたモニター前。

 

「……ほう」

 

 マサルによる瞬殺劇を見たミリアムは、興味深そうに眼を鋭く細めた。

 

「何者だ? この男」

 

 その瞳に興味を宿し、じっとモニターを睨んでいる。

 

(あのゴン三郎を一撃で葬るとは……奴は「マッスルムキムキグランプリ!!」などで好成績を残している、バトルを生業としている就職者……「ファイター」としてはそれなりの実力者)

 

 ミリアムが興味を示すことは、彼女を知ってる者ならばどういう意味か分かるだろう。

 クライスという存在を、自分に近しい強者として認めたのだ。

 

(一撃……凄まじい速度の大砲が)

 

 当然、ゴン三郎を葬った一撃も見えている。

 

(……攻撃力三千はあるか?)

 

 相手の力量を即座に把握し、口元を歪めるミリアム。

 ヒナとは違う意味で・狂気に囚われたその心。

 

(まさかこんな弱小地区の大会で、これほどの相手に会えるとは……)

 

 彼女にとって、強者の出現は喜ぶべきことである。

 

(高め合える・修行相手……)

 

■己をさらに燃え上がらせる薪として、クライスへと関心を向ける■

 

「向かうか……」

 

 氷の大地に再び戻り、その足はクライスの元へと向かう。

 

●■▲

 

■森エリア■

 

「どうする……かな……」

 

 予想以上に楽勝で勝ってしまい、マサルは途方に暮れていた。

 

「クライス選手! 本当に期待のルーキーですね!」

 

「まあー、確かにあのゴン三郎を倒したのは、認めざるをえないでござるな」

 

(認めないでくれ。大したことないよ。俺はっ)

 

 案の定余計な注目を浴びてしまい、彼はどうにもならない状況に陥っていた。

 

(ある程度は覚悟していたが……俺は歓声が欲しくて出場したわけじゃない)

 

 自分がこの大会に出場した目的を振り返る。

 

(報酬の為……その為なら、多少注目されるのは我慢するつもりだった……)

 

 そこそこの強敵は出てくると予想して、そこそこの苦戦をしつつ、そこそこの注目を浴びるだけで終わらせるつもりであった。

 なのに。

 

(なんでぇえええええ)

 

 次々に現れる強敵たち。まともに倒すと不味い壁。

 

(壁・かべ、高いよ、ちょっと。もっと屈んで)

 

 マサルは悲痛な声をか細く上げる。

 地面に蹲りながらうめき声を上げる姿は、とても情けない。

 

(ああ、あああっ)

 

 本来イヤシノ地区は、他の地区に比べて【弱小】だった。

 

【平均的な就職者のレベルが低い場所】

 

 そこで開かれる大会なら、そこまで高いレベルの就職者は集まらない……と、マサル君は思っていたが。

 

(やはり儀式場かッ)

 

 優勝報酬の中に、就職者なら誰もが求める儀式場があったのだ。

 それは、十分な動機になるもの。

 

(しかし……儀式場を報酬としている大会は他にもあるし……こっちの儀式場は【ランク】が低い)

 

 そう、同じ儀式場でもランクが存在した。

 

(聖級・上級・中級……)

 

 今回の報酬は、その中でも下から二番目に位置する下級。

 

(それなら大したやつは来ないかなーなんて思ったのが、俺の過ちだ)

 

 蓋を開けてみれば、期待のルーキーやら勇士やら……。

 

(なので俺は考えたのです)

 

 それらをスルーしてやり過ごす方法を、マサルは考えた。

 森エリアの茂みの中で必死に。

 

(草が体に当たっていてぇ……妙にチクチクすんなぁ)

 

 ちくちくとした痛みの中で、編み出した策は!

 

(名付けて漁夫の利作戦)

 

 まんまだった。

 特にひねりもなかった。

 

(ここに隠れて――機を伺い――どさくさに紛れて仕留める――)

 

 彼が考える機会とは、ミリアムに対する他参加者の協力プレイ。

 

(あれほどの実力者相手なら、手を組んで撃破しようとする奴等はいる筈)

 

 他参加者にこっそり混ざり、強敵であるミリアムを手を組む形で倒す。

 これならば、マサル自身の実力が高く評価されるのを防げる筈と。

 

(手を組もうと考える程度の奴等なら……普通に倒しても問題はない筈。だ)

 

 かなりの希望的観測が入っているが、とにかく彼はこの作戦で行くと決めた。

 

(もしミリアムVS他参加者集団の形になったら、実況も反応し、モニターにも映されるだろう)

 

 そうすれば居場所を知ることができ、駆け付けることも不可能ではないというのが考え。

 

(まだ氷雪エリアか? ならばモニターがあり、そのエリアに近い位置で待機を、それに他のエリアに行くには、このエリアを通る必要がある。もしかしたら普通に発見できるかも。その場合は……)

 

■構築されるマサルの策■

 

(完璧な策、穴はない)

 

「はいそれでは、また参加者の位置を知らせます! モニターに注目!」

 

「え?」

 

■マサルの体、また光る■

 

「こっちにいるぞ!」

 

「間違いない! クライスとかいう大型ルーキーだ!」

 

「みんなで力を合わせてやるぜ。おー!!」

 

「ええ?」

 

(ぎゃああああああ)

 

 いきなり崩れた策。

 マサルは己も狙われる可能性がすっぽ抜けていた。

 

(なんでだッ。俺の計画は完璧だった筈ぅ)

 

 慌てて茂みから飛び出し、必死の逃走を開始するマサル。

 

「見つけた!」

 

「大型ルーキー! 発見!」

 

「戦え! 逃げるな!」

 

「無茶言うなぁふざけんなぁ」

 

 背後からの声。

 大きく涙を流しながら、夜闇を疾走する間抜けな策士。

 別に頭が良いわけではないのに、気取った結果である。

 

(策士マサルゥ。思いつけよ。何かっ)

 

 それでも脆い幻想にしがみつこうとするマサルは、頭を急速回転させ。

 

「待て。決着を早めるんじゃない。ここは共闘しようじゃないかぁ」

 

 追っ手たちに振り返り、がむしゃらに言った。

 

「なにィ!?」

 

「共闘だとぉ!?」

 

 一時停止する追っ手たち。

 

「そうそう。あのミリアムを倒す為にっ」

「……」

「……」

 

(食いつくか。食いついてくれ)

 

 物騒な魔導具を持って自分を倒そうとする彼等を見て、面倒な予感をびしびしと感じる。

 

(頼む。ぜ)

 

 切実な想いを込めて、マサルは祈った。

 

「あんなせこい手で勝とうとする奴を信用できるか!」

 

「そうだ! 不意打ちする気!?」

 

「漁夫の利を狙ってるんだろ!?」

 

(なんでだぁ)

 

 まるで提案は受け入れられず、近くに立った照明塔によって、ぎらりと光る男達の武器。

 

「おれのファイターとしての勘が告げている! お前は信用できん!」

 

「ここで確実に仕留める!」

 

 ぞろぞろとマサルを仕留めようとする参加者……その数20以上。

 

(多いッ卑怯な)

 

 今にも彼等は、魔導を大型ルーキーに放とうとしている。

 

「ひ、卑怯だぞ。正々堂々戦えぇ」

 

「問答無用! いくぞみんな!」

 

「おう!」

 

「く、くそおおおおぉ」

 

 覚悟を決めて立ち向かおうとするマサル――。

 

「そこまでだぜッ。卑怯者どもッ。」

 

 無駄に暑苦しい声が夜空に響いた。

 

「こ、この声は!?」

 

 声の主を探そうと視線を彷徨わせる者達。

 マサルは混乱中。

 

「あ、あそこだー!?」

 

 追っ手の一人が指差した先は、夜を照らす照明塔の天辺。

 

「ふッ!! ようやく気付いたかよッ!!」

 

 そこに立っているのは、全開のジャケットを着た筋肉質な男。

 

「オレが相手をしてやるぜ!! スポーツマンの風上にも置けないやつらめ!! とうッ!!」

 

「……」

「……」

 

 数分経過して、梯子から下りてきた男。

 

「ふぅ! ちょっと疲れた」

 

 既に汗を掻いている乱入者。

 

「さーて! 暴れるぜ……ぜぇぜぇ……すまんタンマ!」

 

 思い切り息を乱している、今にも倒れそうな熱血漢。

 

「なんやねん。お前」

 

 思わず口に出た言葉は、隣に立つマサルのもの。

 

●■▲

 

 マサルは熱血漢が苦手だった。

 

(うるさいし、鬱陶しいし)

 

 主人公が熱血漢だった場合、そのアニメの視聴を控える程度には苦手意識を持っていた。

 

(そうアレは忘れもしない……)

 

 ある夏に放送予定だった、美少女ハーレム日常アニメ。

 

【俺の背中についてこいッ!! 学園ハーレム開幕伝ッ!!】

 

 とかいうタイトルの、人気ライトノベル原作アニメである。

 二クール放送で、ハーレム要員の美少女たちが好みだった為に見ようとしたマサル。

 ただし、放送前のネット評判があまりよくないこと。それが気がかりだった。

 

【なあに、真贋は己の目で確かめるさ……!】

 

 といった感じで、ニヒルなアニオタ気取りのマサル氏は視聴を開始。

 

【おお……】

 

 漂う雰囲気・日常の静寂とわずかな喧騒の融合。

 

【これだ……】

 

 まだオープニングではあるが、それはマサルの心を激しく動かした。

 

【マイ・ベスト・アニメッ】

 

 誰にも譲れない、人生におけるただ一つのアニメ――彼は其れをそう呼称していたのだ。

 要するに、めちゃくちゃ好みである。

 

【最後の全員集合も鮮やかに……!】

 

 爽やかな、静かな、始まりの終わり。

 

【完全序章(パーフェクト・オープニング)ッ】

 

 静かに、マサルの頬を涙が流れた。

 

【熱血ッ!! 青春ッ!! 俺の背中についてこいッ!!!】

 

【え】

 

 本編最初の台詞の熱気によって、涙は蒸発して消え失せた。

 それから繰り返される、無駄に暑苦しい台詞のオンパレード。

 放送前の評判低下の原因が分かったマサル君。

 

【CVの破壊力……ッ】

 

 簡単に言うとすごくうるさい。アニメになって声がつくと異常にうざい。

 

【なんでバトルしてんの……】

 

 日常アニメの筈が、血みどろの殺し合いに発展してしまったことも含め。

 マサルはリモコンに手を伸ばす。

 

(なんかやたらと努力を心棒しているイメージなんだよね。爽やかな俺には合わないっていうかさぁ)

 

【うおおおおお!! この両腕燃え尽きるまでぇ!!】

 

【うぜっ】

 

 ぽちっと押したリモコンのボタンは、うんざりを込めて。

 

(ぶっちゃけ努力嫌いなんで)

 

 まったく主人公に共感できないというか、なんというか。

 

(それに人生に熱意あります的な態度もちょっと……)

 

 なにかに対する熱意とは無縁の人生を送ってきた彼にとって、見ていて苦々しい(否定はしないが)存在が熱血漢であった。

 

(だが……)

 

「おオオオおおおお!! 熱血青春最高!!」

 

「……」

 

 現在彼が肩を並べているのは、その熱血漢が現実になったような存在。

 

「く! 怯むな!」

 

「あんな脳みそが筋肉っぽい奴に! 負けるか!」

 

 多数でマサル達を攻める参加者達は、魔導による連携などを行って、彼等を追い詰めようとする。

 

「筋肉を甘く見るなァ!! 愚か者どもがぁ!!」

 

「うああああ!?」

 

 周囲の木々をなぎ倒すほどの暴風力で・敵を吹き飛ばしていく熱血漢。

 

(おお! こいつ普通に強いな!!)

 

 感心したようにマサルも戦っているが、明らかに手を抜いていて、完全に熱血の陰に隠れている。

 

(この野郎……何者だ?)

 

 大会出場前にある程度の情報収集は行っていたが、熱血漢の情報のようなものはなかった。

 

(そこまで実力があるというわけではない……わけではなく)

 

 単に今まで活躍していなかっただけかと、思い至る。

 

(ルーキーなのか? それで……)

 

「おおおおおおおッ!!」

 

「つ、強いッ!!」

 

「なんなんだよォッ!?」

 

 ルーキーとは思えない強さで、次々と参加者達を葬っていく熱血男。

 

(ステータスが……魔導力以外、千を超えている)

 

 ルーキーでこれは高い方と考え、マサルは思案。

 

(どうするか……? 今の内に背後から……)

 

 脅威として早めに倒すことも考えた。

 

(別に手を組んで戦おうとは言っていないしな……)

 

「おおおおおお!!熱血青春熱血!!」

 

「……」

 

「許せん!! 男なら!! こそこそせずに正面から来いッ!!」

 

 しかし、マサルは。

 

「……やめとくか」

 

 振り上げた拳を収め、とりあえずは一緒に戦うことにした。

 

(ふーむ、不思議だな)

 

 自分でもなぜそうしたのか、よく分からないが。

 

「さっさと片付けるか!」

 

 熱血漢との共闘の形で、マサルは戦場へと向かった。

 

■見■

 

「踏破◆烈風!!」

 

 風を起こす魔導を用い、マサル達を攻撃する参加者たち。

 

「ぬるいわァ!!」

 

 それに気合いの叫びで対抗する熱血漢。

 彼は上に来ていたジャケットを脱ぎ捨て、筋肉全開で疾風の一撃に立ち向かう。

 

「ふんぬぬぬッ!!」

 

 胸板に衝突する風の槍。

 

「バカが! 肉体の力だけで!!」

 

 その行為を嘲笑う、魔導を放った眼鏡の男。

 

「バカはッ!! 貴様だァッ!」

 

 熱血バカは、膨れ上がった胸筋でそれをはじき返した。

 

「ええええ!?」

 

(滅茶苦茶かよ……この男。俺も大概だが)

 

 若干引きながらも、マサルは他の参加者を始末していく。

 ゴウトの肉体を覆うものを見て、その力の元に思い至った。

 

(これはアレだな。肉体強化)

 

 魔導の中には、己の肉体を強化するものもある。

 

(奴の体を覆う赤い光のようなものが証拠)

 

「筋肉!! 胸筋!! 腹筋! !背筋!! 最高オオオォッ!!」

 

 凄まじくフィーバー中の筋肉バカ。

 

「やっぱりうざいな……」

 

 うんざりした顔で共に戦うマサル氏。

 その無駄に暑苦しいオーラによって、逆にデバフをかけられたような気持ちになってしまう。

 

「筋肉ゥゥゥ!! 熱血パワーッ!!」

 

 暑苦しい弾丸が、さきほど魔導を放った男に向かっていく。

 その手に嵌めたメリケンサック……特殊武器によって、攻撃は強化されている。

 

「ぐおおお!?」

 

 咄嗟に魔導を放とうとする眼鏡の男だが、間に合わない。

 

(高い速力による移動・完全に制御できているか……)

 

「おらァッ!!」

 

 右腕を振りかぶり、凄まじい上腕二頭筋から繰り出された拳は暑苦しい突風を生み出す。

 それがまともに敵へとクリーンヒット。

 

「ぎゃああああああ!! なんて威力なんだー!?」

 

 眼鏡男は吹き飛び、かけた眼鏡はレンズが割れた。

 アホみたいな吹っ飛び方ではあるが、その威力は本物に間違いない。

 

「次つぎィ!! かかってこいや!!」

 

「この野郎!! 調子に乗るんじゃねぇ!!」

 

「なにが熱血だよ! ふざけやがって!!」

 

 どんなに頑張っても、筋肉の前では意味をなさないッ!

 あらゆる手段が熱血パワーに弾かれるッ!!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!! 青春の果てまでッッ!!」

 

 気合いの声は大地を揺らし、木々をざわめかせ、天まで轟く入魂となったッ!!

 

「覇ァッ!!」

 

 凄まじい勢いで放たれた咆哮が、戦いの終わりを告げ。

 

「……うざすぎるっ」

 

 うんざりしながら、マサルはその様子を見ていたのだった。

 

■それから少し経ち■

 

「さあ! 戦おうぜ!!」

 

「いや、断る」

 

「なにィ!?」

 

 全ての敵を撃破し、向かい合う二人。

 

「助太刀は感謝するけど、戦うのは好きじゃないんで……バトル展開はよそでやってくれよ」

 

「なにをぉ! 腑抜けたことを! 闘争こそが男の本能だろうがァッ!!」

 

「知らんがな」

 

 熱血男の身長はマサルより一回り大きく、異様な暑苦しい威圧感を伝えてくる。

 ますます気力がなくなっていき、マサルは全力逃走しようかなとか考えた。

 

「くっそおおおおおッ!!お前はなかなかのマッスルを持ってると思っていたと言うのにッ」

 

「マッスル……?(俺のステータスのことか……)」

 

 己のステータスを確認し、マサルは納得。

 

「とにかく……俺は逃げさせて――」

 

「――見つけましたヨ」

 

「おう!?」

 

 突然の声に反応し、咄嗟に身をかがめたマサル。

 背後から彼の頭をかすめる刃。

 

「曲者っ」

 

「であえ! であえ!」

 

 なぜかマサルは熱血漢と意気投合し、時代劇ごっこを繰り広げた。

 

「……なにを仲良く……いちゃいちゃと……羨ましい……!」

 

 がりがりと両手で顔を掻く、フードの人物。

 ヒナ。

 右手に、地面に刺さった大剣を持った。

 

「すまん。つい」

 

「やってみたくなって……」

 

 彼女に向けて頭を下げるマサル&熱血漢。

 二人並んで仲良く……というわけではないが、妙に漫才コンビのような雰囲気を持っていた。

 

「漫才好きです……?」

 

「そういうわけでは……」

 

「ないなぁ!! ははは!!」

 

 割と意気投合しているマサル達。

 マサル本人の好みはともかく、熱血漢との息が合っていた。

 

「……まあ、いいです……」

 

 ヒナは静かに、暗く呟き。

 

「――どちらも仕留めれば……」

 

 おぞましい程の殺気を発した。

 

「来るかッ!!」

 

「……!」

 

 それに反応して、二手に分かれるマサル達。

 

(面倒なのが二人も……ッ)

 

 謎の熱血漢とヒナ。

 倒れてない木の陰に隠れて、マサルは新たな戦闘へと突入する。

 

「これはっ! 面白い状況になって来ましたっ!」

 

「三人ともルーキーでござるな!」

 

 歓声が上がる観客席。

 集まっていくマサル達に対する注目。

 

■勇士の一人を葬ったルーキー■

 

「面倒くさ……」

 

 無気力系勇士にして、今大会が初の【ファイター系大会(バトルを主とする大会)】の男。

 未だ実力の底は見せず、策略を練りながら優勝を目指すハイエナ。

 

■熱血・根性!! 暑苦しきルーキー■

 

「おおおお!! 迫る壁が高いほど!! 燃えるってもんよ!!」

 

 天に向かって吠える一匹の狼! 赤髪の男!

 筋肉ムキムキ・肉体派!! 頼りとするは己の拳のみ!!

 

「ゴウト選手! 凄まじい気合いです!!」

 

「実力も確かでござる。果たしてクライス選手に対抗できるか?」

 

 熱血男・ゴウトは、熱気を放ちながら先に進み続ける!!

 

■暗く・静かに・暗殺者は刃を振るう■

 

「……フふ。まずは熱血漢から……」

 

 背に負った二つの刃は・既に何人もの参加者を葬ってきた。

 

「こちらの選手……ヒナ選手は、今まで目立った活躍はありませんが……」

 

「隠れてコソコソしていた可能性もあり。個人的には何かありそうな気が!」

 

「そんなの、誰でもそう思ってるよ。お前だけじゃないから」

 

「なんで!?」

 

■暗殺者は獲物を狩るべく動き出す■

 

「そんなもん付き合ってられるかよっ」

 

 やる気のない男・マサルは当然の如く二人から距離を取ろうとする。

 

(二人でいちゃついてろ)

 

 隠れた木から走り出し、逃走開始。木々の間を走り抜ける。

 

「特別ルール発動! えい!」

 

「ほ?」

 

 地鳴りが響き、場に変化が起きた。

 

「な、なにごと」

 

 マサルの前方に現れたのは、大きな大きな高い壁。

 

「その壁は三人の周囲を囲んでいます! もしそこから外に出れば、その時点で失格!」

 

(おのれええ。どこまでも俺の邪魔おおお)

 

 発狂しそうになるマサル君は涙目。

 異世界競技の厳しさを味わっている真っ最中。

 

「他の二者を撃破した者のみ、出ることを許します! ファイト!」

 

「いやだぁああああ」

 

 なんてこったと頭を抱え、迫る乱れに対処する必要が出て来たマサル。

 

(どうするッ。マサルゥ)

 

 とにかく落ち着こうと足を止めた。

 

「――」

 

【走る乱れ】

 

「ッ」

 

 髪が散った。

 

「――おや……さすが……」

 

 接近を許したのは彼女か・マサルか。

 

「くッおおッ」

 

 空気が裂かれる音が心臓に響き、急いで殺気から離れる彼の足。

 

(どこからっ、現れやがったっ)

 

 横からの斬撃。

 

(木の陰からッ?)

 

 注意は払っていたが、ヒナの気配に気付けなかった。

 

「熱血漢……は、やっぱり後に……!」

 

 彼女は双剣を握り、マサルを仕留めに来た様子。

 

「勘弁して……」

 

 木を背に、マサルさんは頭を急回転させる。

 

(あの女の対処法は……)

 

 ヒナに関する情報を急いで引き出す。

 

【俺と同じルーキー】

【割と……いやかなりギャンブル好きで、遊びを好む】

【巨乳】

【柔らかかった】

【素晴らしかった】

 

(って、こんな情報じゃない)

 

 マサルの脳裏に浮かんだのは、どうでも良い情報ばかり。

 つまり。

 

(ノーデータ。隠された実力っ)

 

 実力未知数のルーキー。

 

「……ステータスは全て千超えっ」

 

 恐るべきステータスにうんざりマサル。

 

(ああああ。どうするッ)

 

 乱れのすさまじさに、ぐるぐると回る思考。

 美しき暗殺者とでもいうのか、ヒナの気配は洗練されていて、とても素人のマサルに看破できるものではなかった。

 

「どこですかね……」

 

 逃した獲物を見つける為に彷徨い歩く、暗殺者ヒナ。

 

(どうすっかな……)

 

 敵の力量が分からない以上、どのぐらいが【適切】なのかすら量れない。

 

「くそが……」

 

 マサルは延々と策略を練りながら、彼女の出方を伺うのだが。

 

「あの野郎……隙がないんだよな……」

 

 それなりに、他人を探る目には自信があった彼。

 その目から見えるヒナは、難攻不落、鉄壁最強。

 狂気的な気配とは裏腹に、とても手堅く敵を始末しようとする、どっかの暴走列車とは大違いな女性。

 

「どこから攻めれば……」

 

 普通に攻めるべきか否か。

 

(相手の能力次第では、ちょっと不味いか……)

 

 緊迫感が漂う彼等の戦場。

 

【びきびきと――】

 

「やかましいな……まったくっ」

 

 頭を振り、何もかもを一回リセットするマサル。

 

(――楽しいことを考えよう)

 

 代わりに頭に浮かんだのは、ここで金を手に入れた後の生活。

 

(金が手に入ったら……とにかくグウ・タラしたいなぁ)

 

 怠惰・怠慢・自堕落。

 彼の頭を埋めるのは、ひたすらにその希望(ゆめ)だけだ。

 

(ああ……なんで俺の人生ってやつは……ちくしょう)

 

 陰りが見える夢の中で、彼は強く思う。

 

(怠惰、怠慢、自堕落大いに結構。努力だとか、根性だとか、熱意だとか、そういったのは意識高い系同士でご勝手にやっててくれ)

 

 彼が望んでいるものは、あるいは日常アニメにあるような光景なのかもしれない。

 

(そうさ。俺は)

 

 もう一度・あの場所に行くために。

 

(その為の――)

 

「おおおおお!! 見つけたぞォ!! 暗黒女ァ!!」

 

「……」

 

「あいつも来やがったかっ……しかし、これは」

 

 チャンスかもしれない。と、マサルは考える。

 

「あいつらで潰し合ってくれればっ」

 

 己の負担が減るかもしれないなどと、甘い考えを持った所為で。

 

「はい注目! クライス選手の居場所をお教えしますよ! ヒナ選手の右方向、木の陰に隠れています!」

 

(ふざけんなよおおお)

 

「……にやり」

 

「にやりッ!!」

 

 ヒナとゴウトはあくどい笑みを浮かべ、マサルの方へと飛んでいった。

 

「ちっくしょうぉお」

 

 前のめりに体勢を崩しながら、必死に駆け出すマサルさん。

 背後の木々が吹き飛ぶ音がしまくる。

 

「ははっはっ!! やっぱりお前からはマッスルパワーを感じるッ!!! 戦うならお前だァッ!!」

 

 せっかち一直線のゴウトは迷わずマサルを狙う。

 

「……逃がさない!」

 

 暗殺者も同様。

 速さ的にはゴウトの方がリードしていて、土煙を上げながら疾走中の熱血弾丸。

 

「逃げるなよッ!! 青春から逃げるなッ!!」

 

「……」

 

 暑苦しい状態を維持しながら、赤い光を纏って突進してくるゴウト。

 

「オレとの正面勝負!! 尋常に受けて立てよッ!!」

 

 肉体強化によって保たれる筋肉は、生半可な攻撃では崩せない。

 

(ステータスを【上げれば】、行ける)

 

 それでもマサルには確信があった。

 

(奴の肉体(シールド)をぶっ壊せる)

 

 己のステータスならば、あの男を打倒しうると。

 

(だが、それをやれば……)

 

 間違いなく更なる注目が彼を襲う。

 

(それは避けたい――奴は強すぎる壁だ。【時間】だ)

 

■マサルの目つきがするどく光り、今後の流れを推測する■

■活路を開くための・思考が加速していく■

 

(なので、こうしよう)

 

 マサルは後ろを振り返り。

 木々をなぎ倒しながら進む、マッチョな弾丸を目視。

 

(【隙間】は出来た。くらえよ熱血漢)

 

■マサルの指が動き、その攻撃は始動した■

 

「ショット」

 

 マサルの手元から放たれた弾丸は、一直線にゴウトの腹へ。

 あまりに勢いよく進んでいたマッチョ弾丸は、回避するのも困難であった。その目が危機感で見開かれたころには、既に手遅れの範囲。

 

【この銃使えるな】 

 

■マサルが見つけた、【隠蔽されし切り札】が牙をむく■

 

「なにィッ!?」

 

 ゴウトは焦る。

■彼の強化された肉体ならば、防げる■

 筈。

 

「ごああああッ!?」

 

 叫びと共に吹き飛ぶゴウト。

 高く、天に向かって打ち上げられた。

 

■防げず、致命の一撃■

 

(魔導のインターバル)

 

 魔導発動後に起きる、次の魔導発動までの空白期間。

 

(そこを狙えば、守りは脆い)

 

 さっきの戦いで、マサルはゴウトの魔導効果消滅場面を見て、インターバルを把握した。

 

(俺の勝ちだ)

 

「油断……しすぎ」

 

 マサルの背後で煌めく刃と、聞こえはしない言葉。

 彼が勝利を確信する時を狙っていた。

 

■完全なる隠密攻撃■

■それが、彼女・【疾風の勇士】としての力である■

 

 双剣は持っていない。

 

(必殺――圏内。負け……)

 

 姿を【認識できない】暗殺者は、静かに速やかに刃を首へと下ろした。

 

「いや、俺の勝ちだ」

 

「ッ!?」

 

 双剣ではない【刃】の破砕音と共に、ヒナの肉体に必殺の一撃が叩き込まれた。

 いつのまにかマサルの手に握られた、ハンドガンのような武器によって。

 

「そん……な……!」

 

 地面を転がり、倒れ伏すヒナ。

 

「なん、て……」

 

 体から煙を発しながら、彼女は消滅の時を迎える。

 

「……」

 

 その口を不気味に歪ませながら、消えていく狂人。

 

(お前は姿を消すことが出来る)

 

 マサルはヒナの能力をそう分析した。

 

(宿屋に忍び込んだ事実や、あまりの気配のなさからの推測)

 

 更に。

 

(おそらくお前の魔導具……あの双剣はブラフで、本来の魔導具があり、それの効果だろうか?)

 

 カジノに行った際、ヒナは双剣をわざわざ店に預けていた。

 そこから、マサルは本来の魔導具があるのではという可能性を浮かべ。

 

(ならばどう対処するか?)

 

■至った答えは■

 

(速力を上げる、だけ)

 

 それは単純明快。

 異常な速力によって体感時間を伸ばしまくり、近距離からの不意打ちに対応した。

 さらに隠し持っていた競技専用武器を、素人でも外さない近距離からぶち込む。

 マサルの異常なステータスは、異常を可能にする。

 

「見事です……無職の勇士様……ッ!!」

 

 その異常な姿を見たヒナは、心底嬉しそうに恍惚の表情を浮かべた。

 彼女の体には、赤いヒビ割れ……異世界競技におけるダメージの証が広がり、数秒後に消滅することを予感させる。

 

「大好き……ッ!! 愛してる……ッッ!! ああぁ……あああああぁ!! やはりやはり……理想通りのッッッ……幻想のような……ッッ!!!!」

 

 視点の定まらない両目・よだれが止まらない口を晒す狂気の少女。

 身悶えながら愛の絶叫を響かせ続け――やがて、消滅した。

 

「ふう、疲れた」

 

■両選手を撃破したマサル氏■

■地面に座り込んでひと休憩■

 

「……眠い」

 

 既に寝転がりたい気分になっているが、【混沌戦】はまだ終わっていない。

 残りの苦労を思うとうんざりするマサルは、今だけ少し気を抜こうと考えるのだった。

 だが、そんな彼の怠慢極まる願いを非情にも打ち砕く事態が進行している。

 

「なにっ」

 

 背後に迫る悪寒を感じ、マサルはそちらへと顔を向けた。

 すると、視界に入ってくるのは半透明で大きな壁が迫って来る様子。まるで空間自体が動いているような圧迫感を感じる。

 一体何事かと思った彼は、記憶の片隅にあった情報を失念していたことに気づいたのだった。

 

■マサルの忘れていた混沌戦のルール■

■一定時間経つと、試合場が狭まっていくという罠■

 

「しまったぁっ」

 

 よりによってそれを忘れるかという感じだが、それを忘れるのがマサルという男。

 現在の試合場は魔導場と呼ばれる特殊空間であり、広さを変化させるシステムも存在していた。

 フィールドの収縮速度はランダムで決まる。

 そして現在の収縮速度は最高速、フィールドの端にいる選手はまず逃げられずに【外】へと弾き出されることになり、敗北してしまうこと確実。

 マサルはまさしくその位置にいた。壁に追いつかれたらエンドである。

 

「なんて姑息なっ」

 

 ほぼ自身の怠惰が原因で敗退しようとしているマサル。

 急いで立ち上がり、逃走をいやいやながら開始した。だが今のままでは逃げ切れない。流石の彼でもそう思える窮地。

 これで敗退するのはアレな感じがあるし、【全力】に近い力を出せば凌げそうと思うマサル。

 なので。

 

「……やるか」

 

 地面に向けて拳を叩きつけるマサルの一手。

 彼は以前のように土煙を発生させ、一時的に監視の目をごまかすことに成功する。やはり力は極力隠しておきたいのだ。

 そして、自身の持つ全力の【一歩手前】までその力を解放した——。

 

「スキル――発動」

 

■発動される力■

■選手を監視する目すら捉えられない、【世界最速】に等しい能力■

 

「だるい」

 

■黄金の閃光に近しいそれは、魔導場の収縮すらも置き去りにその場から走り去った■

 

●■▲

 

■氷雪エリア■

 

 マサル達の戦い終結の同時刻。

 

「強かったぞ? 中々」

 

「ぐお……お」

 

 優勝候補の一人、ライトメルキッサ。

 丈夫な胸筋を晒しながら、彼は倒れて【戦闘不能】。

 

「……」

 

 その横に倒れているのは、スーツ姿の少年。

 

「お前たち二人とも、全ステータスが千超え……私でなければな」

 

 二人の強者を葬った優勝候補は、銀髪を揺らしながら、氷の大地に立つ。

 

「さて……向かうとしよう」

 

 その足は、己に匹敵するであろう強者の元へ。

 

(頼むぞ、クライスとやら……)

 

 闘志を漲らせ、ミリアムは傷一つない道を歩む。

 

■その氷上で・二人の怪物は激突する■

■……と思われたが■

 

●■▲

 

「ふぅ」

 

■マサルはため息を吐いた■

■その理由は明白■

 

「――さあ、いよいよ始まります!! 【盤上の護衛団】VS【不屈の歩兵団】!! 両チームの激突!! 多くが見守る一戦ですッ!!」

 

■高らかに響く実況の声■

■それが意味することは一つ■

 

「まさか……こんなことになるとは……っ」

 

「なーに辛気臭い顔してんだよ!! このカメ朗さんにまかせとけ!! ははは!!」

 

「お前は調子のりすぎー!! でもまあ、オレたち仲間の絆パワーなら、余裕で勝てるって! ははは!」

 

「はぁ」

 

 周囲のうるさい……【チームメイト】の声によって、さらにげんなりしていくマサル。

 しかし、そんな風にテンション下がっている暇もなく、面倒くさい事態はどんどん進行していく。

 

「ついに試合開始!! 激戦の火蓋が切って落とされましたー!!」

 

■その実況の声と共に■

■マサル達は決戦場へと足を踏み入れた■

 

「へえ」

 

 彼らの目の前に広がるのは、澄み切った草原とまぶしい日差し。

 どこまでも広大な大地の上には、清々しさを感じる青空が在った。

 マサルにしては珍しく、素直にその光景をいいものだと思える。どこまでも地味な服装で立つ自分を、塗りかえてくれそうで。

 しかし。

 

「混沌戦勝者、クライス選手の所属する……結成一年目のルーキーチーム不屈の歩兵団か!! 同じく勝者、ミリアム選手が属する盤上の護衛団かッ!! この儀攻戦の行方はッ!! 神にも分からないッッ!!!」

 

■あの混沌戦からすでに一週間が経過し■

■最終決戦の競技……約200名のチーム同士の儀攻戦がSTARTした■

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