色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「残念だけど、勝てないよアンタたちは」
■勝ちを確信した声■
■それに呼応するように、実況解説の声響く■
「――15対10で盤上がリード!! さすがの猛火&大盾!! 攻守の要である二人が、試合の流れを掴んでいく!!」
「ミリアム選手の猛攻が止まらんでござるな! 次々と敵陣に切り込んでは、灼熱によって選手を排除していく! 異常な光景でござるよコレは!!」
解説の声はマサルにも届き、その顔をしかめさせた。
試合はマサル達の劣勢で、このままでは敗北はまぬがれない。
「な? 分かっただろ勝ち目ないって? 僕ほどじゃないけど、ミリアムの強さは弱小ルーキーチームでどうなるもんじゃない。そろそろ諦めたほうがいいなぁ~」
「……」
マサルの動きを牽制し続けているスタークは、余裕の笑みで挑発する。
いまだにゴールできずにいるマサル・チームの主攻。
それはつまり、ジャスミン以外にロクな得点源が存在しないことを意味していた。
「僕は決してアンタを通さない。そしてミリアムが敵チームを蹂躙していく。これでTHE ENDだ!」
「……はぁ」
■マサルはため息を吐く■
■そして、だるそうに肩を落とした■
「ははは! うんざりしてるね~。勝ち目がない戦いを頑張るの辛いんだろう! 気持ちは分か――」
「いやちがう」
「え?」
スタークの言葉をマサルは即座に否定。
その瞬間。
「うおらあああ!!」
「おれたちの底力みせてやらあああ!!」
「まだ試合は終わってないぜ!!」
■気合の叫びと共に、マサルの救援は現れた■
「なにィ!? こいつらッ。さっきの!?」
いつの間にか接近し、スタークに襲撃をしかける四人の選手。
その中にはジンとカメ朗の姿があった。両者ともに服はボロボロだが、その目に宿った闘志は萎えていない。
スタークはマサルに気を取られ、彼らの妨害に気づくのが遅れてしまった。ジンを舐めて、スルーしていたのも間違いだった。
「救援呼んだかっ。まったくっ。小癪な真似をしてくれる!」
手刀を放って、一番近いカメ朗を攻撃するスターク。
それを盾で防いだカメ朗は、衝撃に押されながらもマサルに向けて声を出す。
「クライス!! まかせた!!」
「!」
言葉は短く。
されでそれだけで、マサルはGOALへと急速発進する。
同時に、かけつけた四人はスタークの四方を囲むように陣を形成した。
「さあ! 選手交代だ!! こっからはカメ朗さまが相手だぜ!」
「さっきのように行くと思うなよ……!! スターク!!」
「やれやれ……有象無象のモブが、調子に乗るなよ?」
スタークの威圧感は半端ではなく、今にも彼らは逃げ出してしまいそうになる。
そう一人をのぞいて。
「ははー!! この1000年に一度の天才カメ朗様がッ!! 調子に乗ったテメェをぶちのめす!! これはそういう流れだ!!」
「なにいってんのアンタ?」
「はは! どうやら理解できていないみたいだな! このおれ! 異世界より舞い降りしイケメンさまの! 隠されし力を!」
調子にのりまくってるカメ朗は、スタークの威圧感にも負けずに意思のこもった声上げる。
ミリアムによって敗走した後だというのに、そんなことは3歩あるいて忘れてしまったと言わんばかり。
「はは……おいおい」
「……ある意味、大した奴だっ」
その能天気な態度によって、仲間たちの士気が結果的に上昇した。
これによって、スタークに対する防衛は強度を増す。
仲間たちの気持ちを支えることになったカメ朗は、そんなことも知らずににやりと笑う。
「ああもう……さっさとどけよ!」
「どかしてみろよ! できるものならなァ!! ふはは!!」
「なんだその自信っ。くそ、予定が狂うなぁ」
交戦を開始するスタークVS四人のブロッカー。
マサルはその間にゴールへと走り、敵の壁の間をすり抜けて、難なく式の柱へと到達した。
「ご、ゴール!! クライス選手!! なんという走り! これで点数は15対13!」
「うおっ。アレをかわすとは……! スターク選手を止めたのがまじでナイスでござる!」
ゴールしたマサルは止まらず、次のゴール地点へと向かう。
「いや」
マサルは考える。
試合が始まる前から、考えてはいたのだ。
この試合における脅威に対し、どう立ち向かっていくべきかを。
すぐに面倒くさくなって考えるのを中断したりしていた、が。
「……」
■現在マサルを縛る制限■
■それは■
●■▲
「うおー。すごいなぁ。迫力あるなぁ」
「ふふ。なかなかの名試合だな。クライス君たち……頑張ってるじゃないか」
スローラ村の集会所にて。
多くの村人が一室に集い、大きなモニターに映された映像を見ている。
それは、現在行われているクライスたちの試合映像だ。一部地域のみだがテレビ放送中。
「うおおおー 村のもんたちが頑張ってるのは、テンションあがるなぁー!!」
「だなぁ。ジャスミンやクライスさんたち……楽しんでるといいなぁ」
穏やかな笑みを浮かべ、マサル達を見守っているサメ男。
それは他の村人も同じで、スローラ村は現在ちょっとしたオマツリ状態だった。
ジャスミンがノリノリで村の仲間たちに勧めたこともあって、かなりの人数がこの一戦を見届けている。
「儀攻戦の試合か……なんともなつかしい、不思議な感覚だぁ」
「おれも昔熱心にやってたな、はは」
複数のチャンネルで同時並行に流れていく試合映像。
色々な局面を、チャンネルを変えることによって見ることができ、現在はマサルが敵陣に切り込む場面を映している。
「ふむ?」
「どうしたんだい村長?」
「いやなに。クライス君の走りが……妙に鈍く感じるな」
「ええー? あんなに速いのに???」
村長が感じた違和感。
それは、単純な速度の低下などではなく。
「はてさて……なにを気にしているのかな?」
●■▲
「アンタたちをだよ」
■うんざり顔でつぶやくマサル■
■彼がずっと気にしていたのは、つまりはそういうこと■
「避けたいよな。やっぱり」
ローカル放送とはいえ、あまりに目立ちすぎるとロクなことにならない予感があった。
なので走りは鈍く、ある程度走力を抑えながらの試合。
こんな試合に全力を出すなどありえない。
「めんどうだし」
そう面倒だ。
それだけだ。
それだけのはずなのに。
「……」
■このままでは試合に勝てない■
■広がる点差を聞いて、それは確信している■
(ボールで入れれば1点・直接ゴールすれば3点)
ルールを反芻するマサル。
ボールでゴールするのと、直接ゴールするのには点数差がある。
そして、ボールで三回ゴールに入れるのと、直接ゴール一回は同じ意味を持つ。さらに、上記の回数ゴールした式の柱はもう得点が入らない。
(つまり)
つまり、ボールでゴールを二回入れた後に、一回直接GOALするのが最も点数を入れられる流れということ。
現在のマサル達の不利な流れも、そのゴールの方法の差違によるものである。
「やはり今回の試合! 得点源はミリアム選手の独壇場といえるでしょう!」
「そうでござるな! なにせ彼女は、選手を次々と排除していく、掟破りの灼熱の使い手でござる! ブロッカー自体を壊されたら、どんな攻撃でも通るでござるよ!」
実況解説の言葉通り、ミリアムは敵選手を確実に戦闘不能にする火力がある。
その結果……。
●■▲
「ああ……なんということだ・絶望だ」
悲嘆にあふれた声をもらす一人の少女。
彼女は、目前に広がる光景を見て胸を痛めていた。
「ぐ、ああ……」
「つ、つよすぎる……!! 灼熱……」
ゴール前の地面に倒れ伏した、数名の選手たち。
彼らは残った者たちで、この数倍の選手が規格外の炎に焼かれて消滅した。
そう。恐るべき得点源である彼女の手によって。
「なんという脆さ……弱い。これでは足りない・もっとよこせ。私を……さらに……!!」
ぶつぶつと呟きながら、ゴールにボールを放り投げていくミリアム。それを阻む選手がいないため、難なくポイントを重ねていく。
その目は血走っており、とても正気とは思えない狂気が宿っていた。
「クライス……。そうクライスだ。あの男……ならば。どこにいる? クライス。私の獲物ッ」
銀髪の美しさを陰らせるような、鬼気迫る表情を彼女は見せている。
それは今にも壊れそうなほど病的で、どこか危うさも感じさせた。実際彼女は、ここ最近ろくな休みもとらずに鍛錬を続け、この試合に挑んでいる。
彼女の視界は、疲れと精神不安定により・ぐちゃぐちゃに歪む。
「どこだッ!! どこにいるッ!! クライス!!」
彼女が探し求めるのは、前の混沌戦……その終局で見た男。
やる気のなさそうな顔。覇気が感じられない雰囲気・どう見てもナマケモノ。ミリアムと相対してもなお、無気力でいた人物。
なのに自身と並ぶ強者。
【なんだ……? この男は】
なぜか・目が離せなかった。
それからずっと、頭の片隅にはクライスという謎の男の存在があった。
ミリアムはどうしてなのか分からなかったが、試合で戦えればきっと理由も分かると思う。
「……はやくッ! はやくッ! はやくッ!! こいッ!!」
ゴール地点を通過し、彼女は次なるゴールへと向かう。
その足は焦りと共に動き、どこまでも重々しく地面を踏む。
「クライスッッ!!」
彼女の肢体は試合経過による汗をまとい、瑞々しくきらめいているが、それと反比例するように燃えさかる業火。
味方ですら近寄りがたい雰囲気を発しながら、目的の獲物を探すために駆動する眼球。
「――呼んだか?」
「は?」
■それは突然だった■
■世間話でもするかのような気軽さで、クライスが彼女に声をかける■
「は……ははっ」
■本来ならば、色々と考えるだろう展開■
■しかし、今のミリアムは■
「見つけたぞォォッ!! クライスッ!!」
「うお」
血走った眼で見てくる敵の姿に、マサルは若干気圧されてしまう。
そのまま彼は背を向け、ミリアムから逃走することを選択する。
当然、それを許すわけもなく。
「逃がすか!!」
恐るべき勢いで火炎を放つミリアム。
その猛火は、まともに触れれば並みの就職者を消滅させる威力。
魔導に対する耐性……魔導力が低い者ではなおさらだろう。
(やばい、か?)
魔導力が低いマサルは、内心結構あせっていた。
(おいおい。制限されてこれか)
強力な魔導や魔導具などは、試合の際にナーフされることがある……そんな話を思いだしながら、地面すらも焼き抉る猛火を回避する。
触れていないのにまるで焼かれたような錯覚が起きる、それほどの高火力。
試合において反則とされるギリギリではと、カメ朗などは言っていた。
「はぁ」
「ハハハ!! 待て待て!! 逃がさんぞ!! ハハはハ!!」
「ハイテンション」
なまけものと狂人の追いかけっこ。それは木々の中へと続く。
速度で優れているのは、比べようもなくマサルの方。
それは多くが認めるところだろう。
「……」
「ハハハは!!」
ならばこそ。
木々が比較的に多いエリアに入った時点で、気づくべきだった。
「――いまだ」
■マサルの合図と同時■
■彼の両側にある木から、二人の選手が飛び出した■
「ッ!?」
二人の内、一人はフジ丸。
両者共に大きな盾を持っている。
「邪魔だァ!! 焼き消えろ!!」
マサルへの到達を邪魔する者たち。
ミリアムは当然、二人を排除するために灼熱の魔導を発動した。
「なめるなよ!!」
「そんな簡単にやられるかァ!!」
放たれた灼熱を、二つの盾が壁となって防ぐ。
今まで数多の選手を葬ってきた、反則級の火炎攻撃。
だが。
「!」
「うはは!! どうだ!!」
「言っただろ……そんな簡単にやられるかっ。これは集団競技だ!!」
二人の盾が、なんとか炎をしのぎ続けている。両者の体には汗が浮かび、決して楽な防衛ではない。少しでも気を抜けば崩れる均衡。
しかし、その強い意志によって支えられた膝が折れることもなかった。
ミリアムはそのことに動揺し、さらに火力を強めていく。
「ばかなッ!! なぜッ!? 私の炎が雑兵ごときに!!」
「……」
ミリアムの叫びを聞きながら、マサルは彼女の隙を見つけた気がした。
なぜ、彼女の炎が防がれるのか?
簡単な話だと彼は思う。
(二人は弱くない、そして……お前自身の問題)
ミリアムは気づいていなかった。
己の放っている灼熱の威力が、かなり低下していることに。
(試合中に消耗するのは当然、そして)
マサルを追いかけた際に、あまりに灼熱魔導を連発しすぎた。冷静さを欠いたゆえの、ムダな消耗行動……そのせいで現在の状況はあった。
ミリアムの攻撃はフジ丸たちにブロックされ、マサルのところまでは届かない。それがさらに彼女の焦りを加速させ、灼熱の勢いを強めていく。
「このぉ!! 私の興味はクライスにある!! どけええええッ!! 有象無象!! 私は強くッ!! さらに強くならなければ……ならないんだッッ!!」
■大きな咆哮■
「そうか・なら行くよ」
■それに呼応するように、無職の勇士は動き出した■
「なッ」
ミリアムの眼前に迫る疾風のごときランナー。
すでに灼熱は持続時間をすぎ、彼の身をおびやかすことはない。
ミリアムによる魔導攻撃が尽きる時を狙った、一瞬の突撃作戦。
「クライ――ッ」
■するどい衝撃が、ミリアムの顔面から体全体へと突き抜けた■
「ぐ、はァッ!?」
叩きこまれた超速の拳・観戦者に気取られないための瞬間的な超加速攻撃。
ふっとんだミリアムは倒れ伏し、その意識は奪われた。
その顔から広がるひび割れは、すさまじいダメージを受けたことを示し・あと十数秒で彼女は消滅するだろう。
「……」
試合続行不可能になった敵選手、ミリアムの目元にはクマが出来ている。
それを後目に見ながら、マサルはそっとささやくように言った。
「有休とれよ」
■突き放すような、気遣うような■
■不思議な声色で彼は言った■
「……うおおッ。あの、ミリアムをッ」
「灼熱の勇士を……倒したー!!」
フジ丸たちがよろこびを露わにし、ほぼ同時にミリアムの肉体が装備ごと消滅する。
これによって、敵の主攻をひとつ撃破したことになった。
「……」
特に表情もなく、マサルは再びゴールに向けて走り出す。
「……クライス! 勝とうぜ! この試合!!」
そんなフジ丸の声を背に受けながら、走る。