色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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望むもの

「し、試合終了ー!! なんとなんと!! 長時間の激闘を制したのは……!!」

 

 実況の声が選手たちの耳に響きわたる。

 同時に試合終了を告げる鐘の音も鳴り、選手たちの動きが止まっていく。

 彼らはただ、勝利したチームの名を聞くため、実況の声に耳をかたむけた。

 

「まだ結成から1年程度のルーキーチーム!! 【不屈の歩兵団】!! スターク選手率いる強豪チームを下し、見事大会優勝です!!」

 

■その言葉が引き金となり■

■勝利チームの選手たちが、一斉に歓声を上げた■

 

「うおおおお!! やったぁああああ!!」

 

「あのスタークのチームに!! 勝ったんだぁ!!」

 

「うそみたいだ!! まじかよー!!」

 

 ある選手は笑い、ある選手は泣き、それぞれの喜びを表現していく。

 全力で戦った選手たちは、勝利という美酒に酔い、自分たちを勝利に導いたエース二人の姿を思い浮かべた。

 

「ジャスミンさん!! やりましたね!!」

 

「……ええ! あたしたちの勝ち!! やっぱりこういうの……気持ちいい!! やったー!!」

 

 エースの一人であるジャスミンの下に集まって、彼女を称賛する選手たち。

 胴上げでもしようものなら、ノータイムでふっとばされるため、そんなことはしないのであった。

 だが、口々に彼女への感謝を伝えていく。

 

「勝利の女神!! チームの太陽!!」

 

「CUTE! BEAUTIFUL!! PERFECT!!」

 

「う、うれしいけど。ちょっと褒めすぎ……なんか照れるわね」

 

 勝利に沸く選手たち。

 しかし、その逆の者たちも当然いる。

 

「負けた……のか。相手はまちがいなく格下だったのに……。こっちは伝統の強豪チーム、なんだぞッ」

 

「……いや。悔しいが強かったよ。それに」

 

 敗北した選手たちが、ジャスミンたちの様子をうかがっている。

 その目には、どこかうらやましいと思う感情が混ざっていた。

 

「エースの道を切り開こうと、あっちは必死だった。……おれたちは、スタークにもミリアムにも、大きな壁を感じていた」

 

「……だな。気持ちで負けてた。チームの勢いで、決定的に勝てなかった」

 

 それぞれに思うところはあれど、敗北した選手たちはジャスミンたちを称える。

 素直に負けたという気持ちを抱えながら、彼らはまた一歩成長していく。

 

●■▲

 

「うおおおお!! やりおったああああ!! あいつらァ!!」

 

「みんなよく頑張った!! 村の誇りだ!!」

 

「ああ本当……。村長として鼻が高いよ。はは」

 

■各地で巻き起こる歓声■

■ルーキーチームが、強力なプロチームに勝利するという事態に、驚きや称賛の声が上がった■

 

「うわあああ!! 本当に勝っちゃった!! さすがー!!」

 

「……【ネット】の【掲示板】も大盛り上がり……! これはニュースになるねっ。エレジーっ」

 

「うんうん!! その端末貸して!! あたしもめっちゃ連投コメントするー!!」

 

■クライスにとっては苦いことに、やはりそれなりの注目度になってしまった一戦■

 

「クライスさま……っ」

 

■彼が惹かれる少女もまた、試合の終わりを見届けて感嘆の声をもらした■

 

●■▲

 

「クライスうぅ!! やったなぁ!! オイ!!」

 

「最高だったぜ!! お前の活躍!!」

 

「……」

 

■終点近くにて■

■クライスの体は宙に舞う■

 

「おれたちのヒーローを祝福だー!!」

 

「うおおおお!!」

 

「……」

 

■胴上げされているクライス■

■めちゃくちゃしかめっ面■

 

(なんで、こうなるの)

 

 勢いに押されて、クライスはこんなことになってしまった。

 やるならジャスミンだけにしてくれと思ったが、コミュ障ゆえに断るタイミングを逃した。

 

「あのスターク相手に……!! 本当にやばいなっ。おい!」

 

「まったく……。大したやつだ」

 

「まあ。おれの潜在能力には及ばないがな!!」

 

 胴上げしている者たちの中には、カメ朗やフジ丸、ジンもいる。

 特にカメ朗とジンはボロボロで、今にも倒れそうな様子であった。

 それを見たクライスは、なんともいえない気持ちになる。

 

「……」

 

 まあいっかと思い。

 もうすこしだけ、胴上げに付き合うことにした。

 

●■▲

 

「……ばか、な。僕が。完璧に負けた」

 

 スタークはうずくまって震えていた。

 今まで、彼は自分より明らかに格上の選手と戦うのを無意識に避けていた。

 なので、クライスの圧倒的な実力にショックを受けている。

 

「ば、化け物……!! ひぃいッ」

 

 完全に心折れたスタークは、クライスへの認識を改める。

 その力は、世界トップクラスに比肩するものであると。

 

「最強の一角……!! 星にも手が届くというのか……!!」

 

●■▲

 

「つかれた」

 

 ぼそりとつぶやいた一言は、今のクライスの心情を的確に表している。

 あれほどさわがしい試合を終え、彼は精神HPが削られまくっていた。

 ほぼ初対面といっても過言ではないチームメイト、なれない連携による試合運び、自分のプレイにやたらとのしかかる期待の重さ……なにもかもが疲労を加速させ、もう今日は立ち上がれないようなありさま。

 

(一日何回行動してるんだ……はぁ)

 

 一日最大二回行動が限界といっても過言ではないヒキニート予備軍が、いきなり頑張った結果がコレ。

 サーシャ宅のソファーに沈んだ体は動かず、もう一歩もそこから身動きしたくない。

 あとはもう、ぐーたら生活が待っているのみだ。

 

「はぁー」

 

 盛大なため息と共に、試合で共に戦ったチームメイトのことを思い出す。

 いまごろ、祝勝会で楽しく飲んでいるころだろうな……と、ぼんやりと思ったりしている。

 当然、クライスはそういうの苦手なので断った。

 

【ぐッ、足がぁ……っ。試合の反動で……ッ】

 

【!?】

 

【おいどうした! クライス大丈夫かっ!?】

 

【いや。むり。祝勝会いけない】

 

 かなり無理やりな大根芝居をしたが、空気を読んだフジ丸のフォローもあって、なんとか面倒なイベントをスルーできたのだ。

 そこらへんがフジ丸とカメ朗との違いだよなぁ。というのが、クライスの意見。

 

【なに? だらしないわねー。これだからナマケモノは。それじゃあサーシャに連絡しとくから……】

 

【ジャスミンさん! オレと連絡先交換しませんか!?】

 

【まてよ!! おれが先だ!!】

 

【え、ええ? ちょ、ちょっと……そんなに一斉に近づかないで!!】

 

 ジャスミンが男性陣にナンパまがいのことをされ、彼らを勢いよくぶっとばすというトラブルもあった。

 クライスから見てもジャスミンはキレイな女性だと思うし、そうしたくなる気持ちは分かるが、あの女の凶暴性を甘くみるなと彼は言いたい。

 ……そういえば、彼女と連絡先を交換したことをクライスは思い出す。

 

【あのスタークに勝つなんて中々やるわね……。すこしは見直したわ。まだ完全に信用はしていないけど】

 

【そいつはどうも】

 

【それに、あんたの走り……興味あるわね。どう? あたしと連絡先交換しない?】

 

【は?】

 

 なんでそうなるのかとクライスは疑問だったが、なにか選手としての情報収集の手段なのかもしれない。

 断るとふっとばされそうだったので、しぶしぶ交換には応じた。

 

「まあ、なんにしても」

 

 面倒な試合は終わり、クライスはイベントの莫大な優勝賞金を手に入れることができた。

 一応山分け形式ではあったが、活躍しまくったクライスの取り分はかなり多い。

 これだけで一生働かないで暮らせる……とは思えないが、彼は疲れきっているのでそう思い込んでいる。

 

「まじつかれた……あぁー」

 

●■▲

 

「うおおお!! 飲め飲め!! 金はいくらでもある!! カメ朗さんのおごりだー!!」

 

「うそつけー!! おまえそれ、前も同じこと言ってただろうがー!!」

 

「ぎゃはは!! まさかあんな強いチームに……スタークとミリアムに勝てるなんてなっ!!」

 

「おれたちがイヤシノ地区最強だ!! うおおおー!!」

 

 ゼニゼニタウンの一角にある居酒屋。

 そこを貸し切りにし、カメ朗は祝勝会のための準備を整えていた。

 負けたときのことなど考えてはおらず、実際に勝てたのだから、クライスと共に戦った彼らのテンションはMAXだ。

 夜の街に歓喜の祝杯が響きわたる。

 

「……」

 

 そんな中で、ジョッキを片手にテンションが低い男がいた。

 彼は今日の試合を反芻し、何度もため息をついては顔をしかめている。

 

「どうしたのよ? 変にテンション低いわねジン。お腹でも痛いの?」

 

「……そんなんじゃない。ただ、すこしな……」

 

 意気消沈していたジンに、隣に座るジャスミンが話しかける。彼女の服装は黒の縦セーターで、無地のTシャツに着替えたジンと合わせて、かなりの試合後オフ感があった。

 そんなジャスミンにメロメロな視線を送る者もいたが、彼女はそんなことよりジンの容態が気になっている。

 

「……そんなに心配しなくて大丈夫だ。ただ、試合で活躍できなくてショック……ってだけのことだからな」

 

「なによそれ。そんなことで悩んでたの?」

 

「そんなことって言われてもなぁ……なあ、お前から見てオレは選手として強いか、弱いか?」

 

「まあ、正直言うと弱いわね。チームのドべ争いしてもおかしくないわ」

 

「グッ……! 本当に直球だなお前!!」

 

「まわりくどく言うの苦手なのよ。それに……あたしがそんなことって言ったのは、ジンが活躍してないっていうことに対してよ」

 

「?」

 

「充分活躍してたじゃない。あのスターク相手に食らいつくなんて、なかなかできることじゃないわよ!」

 

 ジンの背中を右手で叩きながら、ジャスミンは豪快にそう言った。

 彼女から触るのはセーフなのか、ジンにある程度は心を許しているのか、男性拒否は発動してない様子だ。

 

「……そう、かな。……あんなやつ相手になにもできないようじゃ、オレの目指す【覇道の勇士】に勝つなんて無理だしな……だからがんばった……けど、思った以上にダメだった」

 

「あーもう!! ぶつぶつぶつぶつ、うるさいわね! いまは祝勝会なんだから!! 素直に勝利のよろこびを味わいなさい!!」

 

「うおっ」

 

 ジャスミンは試合の時のように明るく、ジンを太陽のように照らしている。

 あまりに直球で素直なその態度は、荒々しくもあるものの、暗く落ちこんでいる男を勇気づけるには充分だったようだ。

 

「……フン。そうだな。こんなのオレらしくないッ」

 

「そうそう! その調子よ!! ファイト!!」

 

 すこしだけ気分が改善された様子のジン。

 彼は、ジョッキに入った酒……ではなく炭酸飲料を一気飲みし、無理やりにでも己の覇気を鼓舞する。

 

「まだだ……!! まだオレは……!!」

 

「その意気よ!! どんどん飲んで騒いで! 試合の余韻にひたるの!」

 

「うおお! そこでおれは活躍したわけよ! 絶対絶命の状況の中、みんなをはげまし! スターク相手にもひるまず! 必死にクライスの走行ルートを確保した! なぜなら……!」

 

「本当にミリアムはこわかったぜっ。あの炎……! 目の前で見ると、さらに威力がやばくて! しかし、三人で協力して撃破したわけよ! やっぱクライスの走りはやばいわっ。プロでも十分に通用するLEVEL! ふるえたね!」

 

■それぞれの気持ちを発散し、戦い抜いた選手たちは勝利の美酒に酔う■

■一方、試合のMVPであるナマケモノは……■

 

●■▲

 

「ああ~。そこそこ~」

 

「ふふ。ここですね、わかりました。クライスさま」

 

 ソファの上で膝枕。

 プラス耳かき。

 現在のクライスの状況を簡潔にのべると、そういうことになるのだ。

 

「ああ~、サーシャちゃん耳かき天才? もうなにこれ天国?」

 

「そんな天才だなんて……。天才はクライスさまです! 今回の試合すごかったです! ハラハラしました! 心臓とまりそうなぐらい!」

 

「いやいや。サーシャちゃんのサポートあったからなぁ。勝つの当然。最高マネージャー」

 

「いえいえっ。私なんてっ。たいしたことできなくてっ。すみません!」

 

 耳かきをするサーシャは、もうしわけなさそうに謝罪する。

彼女の言葉を聞いているクライスは、すこし顔をしかめた。純粋に、なんでそんなことを言うのか疑問なのだ。

 彼はサーシャの目のあたりを見て、言う。

 

「すごかった。いろいろ」

 

「え?」

 

「チームのみんなサポートしたり、敵チームのデータ管理したり……。裏方としてすごい、活躍してた」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「そうだ。すごい」

 

 純粋なほめ言葉に、サーシャはその顔を赤くして応えた。

 敬愛している人物からの言葉だからか、それとも元々そういう気質なのか、分かりやすいほど真っ赤に染まった彼女の顔。

 それを見たクライスは素直にかわいいと思う。

 

「……その目の下のクマ。寝不足だろ?」

 

「え、え?」

 

「気づいてなかったのか」

 

 クライスはずっと、サーシャのクマが気になっていた。

 彼女は試合前の準備で、様々な雑用をおこなっていたのだ。せわしなく動いていたのを覚えているクライス。

 まちがいなくサーシャは、影の立役者といえるだろう。

 

「もっと、えらそうにしていい。と、俺は思うよ」

 

「……い、いえそんな。や、やったことは選手のサポートだけですし……」

 

「だから? 俺より頑張ってたよ。絶対」

 

「そ、そんなまさかっ。クライスさまよりなんて! ありえません!」

 

「いやいや。絶対俺より上」

 

 なにやらおかしな謙遜合戦のようなものが始まり、クライスとサーシャはお互いのことを称讃しあう。

 

「はぁ……はぁ……。ううぅ、強情ですねクライスさまっ」

 

「そっちこそ。いつになく強気だ」

 

「は、はいっ。すいませんすいませんっ」

 

「いや。いいよ」

 

 顔を赤らめてプルプル震えるサーシャが愛おしく、クライスは笑う。

 彼女はどこまでもかわいらしく、ずっと一緒にいたいほどに安心すると彼思う。

 ……本当に、すこしだけ頑張ってみて良かったかもしれない。

 

「……」

 

「クライスさま?」

 

「……」

 

「寝てしまったんですか……?」

 

 寝息を立てるクライスを見て、サーシャはすこし残念そうな顔になる。

 しかし、試合で活躍した彼には、ゆっくり休んでいてほしいとも思った。

 

「……」

 

 クライスが静かに寝ていることを確認し、サーシャはぽつりと言った。

 

「……ちゃんと見ていましたよ。本当に物語の勇士みたいで……格好よかったです」

 

 だれに聞かせるでもないその言葉は、夜の静けさの中へ溶けていった。

 

●■▲

 

「【ドキドキ! ワクワク! ハラハラ!! ライバル皆殺し!! バトルロイヤル!!】は、これにて閉幕となります!!」

 

 夜闇に閉幕の合図が響いた。

 

「サポートマンって何者なんだ!?」

「ルーキー!? それとも……」

 

「全部あいつのサポートが凄かったのか……がっかり」

 

「それでもかなりの実力者ではあるんじゃ……ないかな。アハハ」

 

 数々の戦士たちが闘い・散っていった大会も、遂に終わりの時を迎える。

 

「では——優勝したクライス選手……の代理のサポートマン選手!!」

 

 魔導を解除した戦闘エリア内(直径200メートルほど)の中央に置かれた壇上に、体調不良で欠席のクライスの代理・サポートマンがいた。彼の周囲にはカメ朗やジンなどの、大会に出場した選手たち。

 チームメンバーとして一緒に戦っていた彼が、クライス直々に代理として任命された。

 エリアを囲む観客席には集った観客達が。

 

「……」

 

「ははは、お見事だ! ワシもこの大会を開いた甲斐があったよ!」

 

 小柄なサポートマンの前に立っている男は、紺色スーツ姿の主催者。

 少し禿げている中年男性。

 

(あれがゼニゼニタウン……いや、イヤシノ地区一の大金持ち……高そうな靴はいてんなぁ)

 

(ゴールド・ロイヤル!)

 

(悪い噂も聞くが……)

 

(ただのやっかみか……それとも)

 

■観客たちは、ゴールド・ロイヤルの登場にざわめく■

 

「うんうん! 実に見ごたえのある戦いで、どの選手も素晴らしかった! ははははは!」

 

「……」

 

「キミのサポートも素晴らしかったよ! いやはや! ……まあ、もっとも。あれが本当にキミの成果なら……だが?」

 

 見透かしたような笑みで、サポートマンを見るゴールド。

 

「……」

 

 サポートマンは大した反応も示さず、沈黙を貫く。

 

「はは! すまんすまん! 冗談だ!」

 

「……」

 

「お詫びと言ってはなんだが……面白いものをお見せしようか!」

 

「?」

 

 ゴールド・ロイヤルが指を鳴らした。

 

「特別サプライズゲストだ!!」

 

「おいアレ! 上!」 

「!? アレは!」

 

 観客たちの視線が、上空にある物体へと向いた。

 

「魔道飛行艇!!」

 

 大きな六枚の羽を広げた鋼鉄の巨大物体が、会場の上空に出現。

 飛行艇全体に走った淡く光る線が、魔導力を漲らせている。

 

「何か落ちてくるぞ!?」

 

「!?」

 

 その飛行艇から落下する、複数の影。

 

「人!?」

 

 【人影】は、どんどんとその輪郭を強めていき、やがて——。

 

「――はせ参じました。ゴールド殿」

 

 壇を囲むように、複数人が芝生の上に着地した。

 

「ふむ……よく来てくれた!!」

 

 現れた者達を歓迎するように、ゴールドは両腕を広げる。

 

「【スターライト・ファイター】諸君!!」

 

【その者達は、夜闇に輝く特別な星】

 

「ハイ、この度はお招きくださり光栄です」

 

 集団のリーダー格の女性は、黒の長髪を風に揺らしていた。

 体にぴったりと張り付くような赤いスーツを身にまとい、その美しい肢体を強調するかのような姿。

 

「【ポーラ】!」

 

 ゴールドにポーラと呼ばれた女性は、軽く頭を下げた。

 

「おいおい、俺のことも忘れないでくれよ」

 

 気障な声が二人の間に割り込んだ。

 

「スミス! 相変わらず、調子にのってるな!」

 

「いきなりご挨拶だな……調子にのってるのは否定しないがね」

 

 オールバックの金髪男の名は、スミスと言うらしい。

 

「あの人は! 元、凄腕ソルジャーのスミスさん!!」

 

「【ゼノ】さんと肩を並べていたって話、本当かよ!」

 

■観客たちの反応は大きい■

 

「やはりみんなのスターとなれば、少し調子にのるぐらいでないとな!」

 

「少し?」

 

 スミスの発言に、首をかしげるのはゴールド。

 

「……」

 

「おっと! すまないなサポートマン、キミをないがしろにして」

 

 周囲に降り立った6人のスターライト・ファイター。

 彼らはファイター協会に認定された、優れたファイター達。

 

「へえ、あれが優勝者かぁ」

 

「飛行艇内のモニターで見てたが……面白い展開だったな」

 

 ポーラ達以外にも、一癖も二癖もありそうな者はいる。

 

「ミリアム……」

 

 中には。

 

「――」

 

 ここにはいない敗者たちに関心を向ける者も。

 しかし観客は……完全に、彼等へと注目が向いていた。

 

「うおおおおお!! すごい! テレビで何回も見るぞ!」

 

「ポーラとスミスって言えば、【ファイティング・サン】での有名選手じゃ!?」

 

「さ、サインを!」

 

「写真ッ写真ッ」

 

「う、美しい! ポーラ様!」

 

「夢みたいっ、嘘ッ!! 本当!?」

 

「はは! 盛り上がっているな……どうだいサポートマン。キミも、あのスターたちを間近で見れて……」

 

「……」

 

 大した反応も示さないサポートマン。

 纏った白い外衣に動きなし。

 

(興味なしか。ファイターなら、ある筈だが)

 

 ゴールドは目を細め、サポートマンのステータスを探る。

 

(隠されている。【ネーム】欄さえも)

 

 塗り潰されたステータスは、何の情報も読み取ることが出来ない。

 

(フリーのファイター……ですらないか?)

 

 ファイターの証明書は持っていなかったなと、ゴールドは記憶を探る。

 

(くく……一体なにものなのやら?)

 

 これはこれで楽しそうだと、にやけ始めた彼。

 

「――このトロフィーをキミに授けよう!」

 

 優勝者に手渡される報酬。

 金色に輝くトロフィーの天辺には、【銀色の蛇】が取り付けられている。

 

(かつてこの地に儀式場を生み出したと言われる、銀の蛇……)

 

■閉会式は終わり・波乱に満ちた大会は終わりを告げた■

 

「ただ来ただけでは面白くない……だろ?」

 

■その狭間で、天に輝く星たちによる戦いが行われたりしたが■

 

「……」

 

■それはまた別の話で■

 

「――クライスさん。約束通り、報酬は山分けでね。でね」

 

 戦いには興味を示さず、会場内の通路を歩く少年。

 彼は白い外衣を脱ぎ捨て、会場から静かに姿を消した。

 

●■▲

 

■別の話で・閉会式から弾かれた怠惰男は現在……■

 

「――」

 

 不思議な空間を漂っていた。

 

「――?」

 

 とても静かで、ゆったりとした場所。

 

(どこだここ)

 

 己の現状がうまく理解できないので。

 

(俺は……)

 

 記憶を探ってみても、いまいち思考が定まらず。

 

(だるい)

 

 ひたすらに湧く感情は、いつも通りであった。

 

(なーんか、すごく怠い)

 

 全身を襲う脱力感というか、魂に根付いた鎖と言うか。

 

(ずるずると落ちていく感覚は・ある種の快楽すらあるなぁ)

 

 積み上げたものを放棄して、ひたすらに怠惰を貪る。

 

(ああ~たまらん)

 

 至福のような時の中で、涎を垂らしそうになるマサル。

 

(――垂らす口もないがな)

 

 今の彼は、夢の中だけの存在になっていた。

 

(俺は、サポートマンに託した)

 

 彼の現在位置は夢の世界。

 なのかもしれない。

 

(まあ、目的は達成できた)

 

 彼は満足気。

 

(サポートマンとは大会前に、すでに手を組んでいる)

 

 事前に同盟を結んだ相手に優勝現場をゆずり、己に対する注目をある程度減らす策。

 さらにサポートマンの情報操作により、あんまり自分が目立たないように仕向けた。

 

(サーシャちゃんには悪いな……それでも俺の実力に気付くやつもいるだろうが)

 

 【魔導具】は使わずに乗り越えることが出来た。……正確には違うが。

 

(無職の勇士であることは、ばれていない筈)

 

 ぎりぎり感はそれなりにあったが、なんとかマサルは目標達成。

 

(……後は、【惰眠】するだけか……長かった——)

 

 重かった肩の荷がなくなっていく思いが、彼の胸中で渦巻く。

 

【ゼニゼニタウンに着いて】

 

【変な女に絡まれて】

 

【大会に出場して】

 

【いきなり乱れに巻き込まれて】

 

【いけすかない奴を倒して】

 

【熱血・根暗コンビに襲われて】

 

【最後の決戦に挑んで】

 

「……」

 

 乗り越えた壁は低くはなかったが。

 それでも圧倒的な力で達成できた。

 

(すごい力だよなぁ。まじでチートだ)

 

 マサルに宿った能力は、まさしく彼が望んだものである。

 

(異世界行って……すごい力を手に入れて……困難を難なく乗り越える)

 

 間違いなく、彼は喜びを感じている。

 努力しないで・乱れを破壊できる力に。

 

(……)

 

(――だが、うんざりだ)

 

 しかし、それはあくまで【力】に対するものだけで、戦い自体には心底面倒臭い想いを抱いていた。

 

(もうバトル展開はごめんだぞ。せいぜい許せて、スポーツ漫画的バトルまでだ……)

 

 大会では楽勝で勝利したように見えたが、確実に乱れは彼を削っている。

 少しバトル要素の強いルールだからかもしれない。

 

(俺が望んでいるのは……そう)

 

 深い感傷の中で、上がるのではなく・沈んでいく彼は。

 過去に見た日常系アニメの数々を思い浮かべた。

 日常のようで……日常とはちがう、退屈さを感じる時もある、だからこそ魅力的な世界。

 

【――】

 

(こういうのだよな――――日常アニメ最高)

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