色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「し、試合終了ー!! なんとなんと!! 長時間の激闘を制したのは……!!」
実況の声が選手たちの耳に響きわたる。
同時に試合終了を告げる鐘の音も鳴り、選手たちの動きが止まっていく。
彼らはただ、勝利したチームの名を聞くため、実況の声に耳をかたむけた。
「まだ結成から1年程度のルーキーチーム!! 【不屈の歩兵団】!! スターク選手率いる強豪チームを下し、見事大会優勝です!!」
■その言葉が引き金となり■
■勝利チームの選手たちが、一斉に歓声を上げた■
「うおおおお!! やったぁああああ!!」
「あのスタークのチームに!! 勝ったんだぁ!!」
「うそみたいだ!! まじかよー!!」
ある選手は笑い、ある選手は泣き、それぞれの喜びを表現していく。
全力で戦った選手たちは、勝利という美酒に酔い、自分たちを勝利に導いたエース二人の姿を思い浮かべた。
「ジャスミンさん!! やりましたね!!」
「……ええ! あたしたちの勝ち!! やっぱりこういうの……気持ちいい!! やったー!!」
エースの一人であるジャスミンの下に集まって、彼女を称賛する選手たち。
胴上げでもしようものなら、ノータイムでふっとばされるため、そんなことはしないのであった。
だが、口々に彼女への感謝を伝えていく。
「勝利の女神!! チームの太陽!!」
「CUTE! BEAUTIFUL!! PERFECT!!」
「う、うれしいけど。ちょっと褒めすぎ……なんか照れるわね」
勝利に沸く選手たち。
しかし、その逆の者たちも当然いる。
「負けた……のか。相手はまちがいなく格下だったのに……。こっちは伝統の強豪チーム、なんだぞッ」
「……いや。悔しいが強かったよ。それに」
敗北した選手たちが、ジャスミンたちの様子をうかがっている。
その目には、どこかうらやましいと思う感情が混ざっていた。
「エースの道を切り開こうと、あっちは必死だった。……おれたちは、スタークにもミリアムにも、大きな壁を感じていた」
「……だな。気持ちで負けてた。チームの勢いで、決定的に勝てなかった」
それぞれに思うところはあれど、敗北した選手たちはジャスミンたちを称える。
素直に負けたという気持ちを抱えながら、彼らはまた一歩成長していく。
●■▲
「うおおおお!! やりおったああああ!! あいつらァ!!」
「みんなよく頑張った!! 村の誇りだ!!」
「ああ本当……。村長として鼻が高いよ。はは」
■各地で巻き起こる歓声■
■ルーキーチームが、強力なプロチームに勝利するという事態に、驚きや称賛の声が上がった■
「うわあああ!! 本当に勝っちゃった!! さすがー!!」
「……【ネット】の【掲示板】も大盛り上がり……! これはニュースになるねっ。エレジーっ」
「うんうん!! その端末貸して!! あたしもめっちゃ連投コメントするー!!」
■クライスにとっては苦いことに、やはりそれなりの注目度になってしまった一戦■
「クライスさま……っ」
■彼が惹かれる少女もまた、試合の終わりを見届けて感嘆の声をもらした■
●■▲
「クライスうぅ!! やったなぁ!! オイ!!」
「最高だったぜ!! お前の活躍!!」
「……」
■終点近くにて■
■クライスの体は宙に舞う■
「おれたちのヒーローを祝福だー!!」
「うおおおお!!」
「……」
■胴上げされているクライス■
■めちゃくちゃしかめっ面■
(なんで、こうなるの)
勢いに押されて、クライスはこんなことになってしまった。
やるならジャスミンだけにしてくれと思ったが、コミュ障ゆえに断るタイミングを逃した。
「あのスターク相手に……!! 本当にやばいなっ。おい!」
「まったく……。大したやつだ」
「まあ。おれの潜在能力には及ばないがな!!」
胴上げしている者たちの中には、カメ朗やフジ丸、ジンもいる。
特にカメ朗とジンはボロボロで、今にも倒れそうな様子であった。
それを見たクライスは、なんともいえない気持ちになる。
「……」
まあいっかと思い。
もうすこしだけ、胴上げに付き合うことにした。
●■▲
「……ばか、な。僕が。完璧に負けた」
スタークはうずくまって震えていた。
今まで、彼は自分より明らかに格上の選手と戦うのを無意識に避けていた。
なので、クライスの圧倒的な実力にショックを受けている。
「ば、化け物……!! ひぃいッ」
完全に心折れたスタークは、クライスへの認識を改める。
その力は、世界トップクラスに比肩するものであると。
「最強の一角……!! 星にも手が届くというのか……!!」
●■▲
「つかれた」
ぼそりとつぶやいた一言は、今のクライスの心情を的確に表している。
あれほどさわがしい試合を終え、彼は精神HPが削られまくっていた。
ほぼ初対面といっても過言ではないチームメイト、なれない連携による試合運び、自分のプレイにやたらとのしかかる期待の重さ……なにもかもが疲労を加速させ、もう今日は立ち上がれないようなありさま。
(一日何回行動してるんだ……はぁ)
一日最大二回行動が限界といっても過言ではないヒキニート予備軍が、いきなり頑張った結果がコレ。
サーシャ宅のソファーに沈んだ体は動かず、もう一歩もそこから身動きしたくない。
あとはもう、ぐーたら生活が待っているのみだ。
「はぁー」
盛大なため息と共に、試合で共に戦ったチームメイトのことを思い出す。
いまごろ、祝勝会で楽しく飲んでいるころだろうな……と、ぼんやりと思ったりしている。
当然、クライスはそういうの苦手なので断った。
【ぐッ、足がぁ……っ。試合の反動で……ッ】
【!?】
【おいどうした! クライス大丈夫かっ!?】
【いや。むり。祝勝会いけない】
かなり無理やりな大根芝居をしたが、空気を読んだフジ丸のフォローもあって、なんとか面倒なイベントをスルーできたのだ。
そこらへんがフジ丸とカメ朗との違いだよなぁ。というのが、クライスの意見。
【なに? だらしないわねー。これだからナマケモノは。それじゃあサーシャに連絡しとくから……】
【ジャスミンさん! オレと連絡先交換しませんか!?】
【まてよ!! おれが先だ!!】
【え、ええ? ちょ、ちょっと……そんなに一斉に近づかないで!!】
ジャスミンが男性陣にナンパまがいのことをされ、彼らを勢いよくぶっとばすというトラブルもあった。
クライスから見てもジャスミンはキレイな女性だと思うし、そうしたくなる気持ちは分かるが、あの女の凶暴性を甘くみるなと彼は言いたい。
……そういえば、彼女と連絡先を交換したことをクライスは思い出す。
【あのスタークに勝つなんて中々やるわね……。すこしは見直したわ。まだ完全に信用はしていないけど】
【そいつはどうも】
【それに、あんたの走り……興味あるわね。どう? あたしと連絡先交換しない?】
【は?】
なんでそうなるのかとクライスは疑問だったが、なにか選手としての情報収集の手段なのかもしれない。
断るとふっとばされそうだったので、しぶしぶ交換には応じた。
「まあ、なんにしても」
面倒な試合は終わり、クライスはイベントの莫大な優勝賞金を手に入れることができた。
一応山分け形式ではあったが、活躍しまくったクライスの取り分はかなり多い。
これだけで一生働かないで暮らせる……とは思えないが、彼は疲れきっているのでそう思い込んでいる。
「まじつかれた……あぁー」
●■▲
「うおおお!! 飲め飲め!! 金はいくらでもある!! カメ朗さんのおごりだー!!」
「うそつけー!! おまえそれ、前も同じこと言ってただろうがー!!」
「ぎゃはは!! まさかあんな強いチームに……スタークとミリアムに勝てるなんてなっ!!」
「おれたちがイヤシノ地区最強だ!! うおおおー!!」
ゼニゼニタウンの一角にある居酒屋。
そこを貸し切りにし、カメ朗は祝勝会のための準備を整えていた。
負けたときのことなど考えてはおらず、実際に勝てたのだから、クライスと共に戦った彼らのテンションはMAXだ。
夜の街に歓喜の祝杯が響きわたる。
「……」
そんな中で、ジョッキを片手にテンションが低い男がいた。
彼は今日の試合を反芻し、何度もため息をついては顔をしかめている。
「どうしたのよ? 変にテンション低いわねジン。お腹でも痛いの?」
「……そんなんじゃない。ただ、すこしな……」
意気消沈していたジンに、隣に座るジャスミンが話しかける。彼女の服装は黒の縦セーターで、無地のTシャツに着替えたジンと合わせて、かなりの試合後オフ感があった。
そんなジャスミンにメロメロな視線を送る者もいたが、彼女はそんなことよりジンの容態が気になっている。
「……そんなに心配しなくて大丈夫だ。ただ、試合で活躍できなくてショック……ってだけのことだからな」
「なによそれ。そんなことで悩んでたの?」
「そんなことって言われてもなぁ……なあ、お前から見てオレは選手として強いか、弱いか?」
「まあ、正直言うと弱いわね。チームのドべ争いしてもおかしくないわ」
「グッ……! 本当に直球だなお前!!」
「まわりくどく言うの苦手なのよ。それに……あたしがそんなことって言ったのは、ジンが活躍してないっていうことに対してよ」
「?」
「充分活躍してたじゃない。あのスターク相手に食らいつくなんて、なかなかできることじゃないわよ!」
ジンの背中を右手で叩きながら、ジャスミンは豪快にそう言った。
彼女から触るのはセーフなのか、ジンにある程度は心を許しているのか、男性拒否は発動してない様子だ。
「……そう、かな。……あんなやつ相手になにもできないようじゃ、オレの目指す【覇道の勇士】に勝つなんて無理だしな……だからがんばった……けど、思った以上にダメだった」
「あーもう!! ぶつぶつぶつぶつ、うるさいわね! いまは祝勝会なんだから!! 素直に勝利のよろこびを味わいなさい!!」
「うおっ」
ジャスミンは試合の時のように明るく、ジンを太陽のように照らしている。
あまりに直球で素直なその態度は、荒々しくもあるものの、暗く落ちこんでいる男を勇気づけるには充分だったようだ。
「……フン。そうだな。こんなのオレらしくないッ」
「そうそう! その調子よ!! ファイト!!」
すこしだけ気分が改善された様子のジン。
彼は、ジョッキに入った酒……ではなく炭酸飲料を一気飲みし、無理やりにでも己の覇気を鼓舞する。
「まだだ……!! まだオレは……!!」
「その意気よ!! どんどん飲んで騒いで! 試合の余韻にひたるの!」
「うおお! そこでおれは活躍したわけよ! 絶対絶命の状況の中、みんなをはげまし! スターク相手にもひるまず! 必死にクライスの走行ルートを確保した! なぜなら……!」
「本当にミリアムはこわかったぜっ。あの炎……! 目の前で見ると、さらに威力がやばくて! しかし、三人で協力して撃破したわけよ! やっぱクライスの走りはやばいわっ。プロでも十分に通用するLEVEL! ふるえたね!」
■それぞれの気持ちを発散し、戦い抜いた選手たちは勝利の美酒に酔う■
■一方、試合のMVPであるナマケモノは……■
●■▲
「ああ~。そこそこ~」
「ふふ。ここですね、わかりました。クライスさま」
ソファの上で膝枕。
プラス耳かき。
現在のクライスの状況を簡潔にのべると、そういうことになるのだ。
「ああ~、サーシャちゃん耳かき天才? もうなにこれ天国?」
「そんな天才だなんて……。天才はクライスさまです! 今回の試合すごかったです! ハラハラしました! 心臓とまりそうなぐらい!」
「いやいや。サーシャちゃんのサポートあったからなぁ。勝つの当然。最高マネージャー」
「いえいえっ。私なんてっ。たいしたことできなくてっ。すみません!」
耳かきをするサーシャは、もうしわけなさそうに謝罪する。
彼女の言葉を聞いているクライスは、すこし顔をしかめた。純粋に、なんでそんなことを言うのか疑問なのだ。
彼はサーシャの目のあたりを見て、言う。
「すごかった。いろいろ」
「え?」
「チームのみんなサポートしたり、敵チームのデータ管理したり……。裏方としてすごい、活躍してた」
「そ、そうでしょうか?」
「そうだ。すごい」
純粋なほめ言葉に、サーシャはその顔を赤くして応えた。
敬愛している人物からの言葉だからか、それとも元々そういう気質なのか、分かりやすいほど真っ赤に染まった彼女の顔。
それを見たクライスは素直にかわいいと思う。
「……その目の下のクマ。寝不足だろ?」
「え、え?」
「気づいてなかったのか」
クライスはずっと、サーシャのクマが気になっていた。
彼女は試合前の準備で、様々な雑用をおこなっていたのだ。せわしなく動いていたのを覚えているクライス。
まちがいなくサーシャは、影の立役者といえるだろう。
「もっと、えらそうにしていい。と、俺は思うよ」
「……い、いえそんな。や、やったことは選手のサポートだけですし……」
「だから? 俺より頑張ってたよ。絶対」
「そ、そんなまさかっ。クライスさまよりなんて! ありえません!」
「いやいや。絶対俺より上」
なにやらおかしな謙遜合戦のようなものが始まり、クライスとサーシャはお互いのことを称讃しあう。
「はぁ……はぁ……。ううぅ、強情ですねクライスさまっ」
「そっちこそ。いつになく強気だ」
「は、はいっ。すいませんすいませんっ」
「いや。いいよ」
顔を赤らめてプルプル震えるサーシャが愛おしく、クライスは笑う。
彼女はどこまでもかわいらしく、ずっと一緒にいたいほどに安心すると彼思う。
……本当に、すこしだけ頑張ってみて良かったかもしれない。
「……」
「クライスさま?」
「……」
「寝てしまったんですか……?」
寝息を立てるクライスを見て、サーシャはすこし残念そうな顔になる。
しかし、試合で活躍した彼には、ゆっくり休んでいてほしいとも思った。
「……」
クライスが静かに寝ていることを確認し、サーシャはぽつりと言った。
「……ちゃんと見ていましたよ。本当に物語の勇士みたいで……格好よかったです」
だれに聞かせるでもないその言葉は、夜の静けさの中へ溶けていった。
●■▲
「【ドキドキ! ワクワク! ハラハラ!! ライバル皆殺し!! バトルロイヤル!!】は、これにて閉幕となります!!」
夜闇に閉幕の合図が響いた。
「サポートマンって何者なんだ!?」
「ルーキー!? それとも……」
「全部あいつのサポートが凄かったのか……がっかり」
「それでもかなりの実力者ではあるんじゃ……ないかな。アハハ」
数々の戦士たちが闘い・散っていった大会も、遂に終わりの時を迎える。
「では——優勝したクライス選手……の代理のサポートマン選手!!」
魔導を解除した戦闘エリア内(直径200メートルほど)の中央に置かれた壇上に、体調不良で欠席のクライスの代理・サポートマンがいた。彼の周囲にはカメ朗やジンなどの、大会に出場した選手たち。
チームメンバーとして一緒に戦っていた彼が、クライス直々に代理として任命された。
エリアを囲む観客席には集った観客達が。
「……」
「ははは、お見事だ! ワシもこの大会を開いた甲斐があったよ!」
小柄なサポートマンの前に立っている男は、紺色スーツ姿の主催者。
少し禿げている中年男性。
(あれがゼニゼニタウン……いや、イヤシノ地区一の大金持ち……高そうな靴はいてんなぁ)
(ゴールド・ロイヤル!)
(悪い噂も聞くが……)
(ただのやっかみか……それとも)
■観客たちは、ゴールド・ロイヤルの登場にざわめく■
「うんうん! 実に見ごたえのある戦いで、どの選手も素晴らしかった! ははははは!」
「……」
「キミのサポートも素晴らしかったよ! いやはや! ……まあ、もっとも。あれが本当にキミの成果なら……だが?」
見透かしたような笑みで、サポートマンを見るゴールド。
「……」
サポートマンは大した反応も示さず、沈黙を貫く。
「はは! すまんすまん! 冗談だ!」
「……」
「お詫びと言ってはなんだが……面白いものをお見せしようか!」
「?」
ゴールド・ロイヤルが指を鳴らした。
「特別サプライズゲストだ!!」
「おいアレ! 上!」
「!? アレは!」
観客たちの視線が、上空にある物体へと向いた。
「魔道飛行艇!!」
大きな六枚の羽を広げた鋼鉄の巨大物体が、会場の上空に出現。
飛行艇全体に走った淡く光る線が、魔導力を漲らせている。
「何か落ちてくるぞ!?」
「!?」
その飛行艇から落下する、複数の影。
「人!?」
【人影】は、どんどんとその輪郭を強めていき、やがて——。
「――はせ参じました。ゴールド殿」
壇を囲むように、複数人が芝生の上に着地した。
「ふむ……よく来てくれた!!」
現れた者達を歓迎するように、ゴールドは両腕を広げる。
「【スターライト・ファイター】諸君!!」
【その者達は、夜闇に輝く特別な星】
「ハイ、この度はお招きくださり光栄です」
集団のリーダー格の女性は、黒の長髪を風に揺らしていた。
体にぴったりと張り付くような赤いスーツを身にまとい、その美しい肢体を強調するかのような姿。
「【ポーラ】!」
ゴールドにポーラと呼ばれた女性は、軽く頭を下げた。
「おいおい、俺のことも忘れないでくれよ」
気障な声が二人の間に割り込んだ。
「スミス! 相変わらず、調子にのってるな!」
「いきなりご挨拶だな……調子にのってるのは否定しないがね」
オールバックの金髪男の名は、スミスと言うらしい。
「あの人は! 元、凄腕ソルジャーのスミスさん!!」
「【ゼノ】さんと肩を並べていたって話、本当かよ!」
■観客たちの反応は大きい■
「やはりみんなのスターとなれば、少し調子にのるぐらいでないとな!」
「少し?」
スミスの発言に、首をかしげるのはゴールド。
「……」
「おっと! すまないなサポートマン、キミをないがしろにして」
周囲に降り立った6人のスターライト・ファイター。
彼らはファイター協会に認定された、優れたファイター達。
「へえ、あれが優勝者かぁ」
「飛行艇内のモニターで見てたが……面白い展開だったな」
ポーラ達以外にも、一癖も二癖もありそうな者はいる。
「ミリアム……」
中には。
「――」
ここにはいない敗者たちに関心を向ける者も。
しかし観客は……完全に、彼等へと注目が向いていた。
「うおおおおお!! すごい! テレビで何回も見るぞ!」
「ポーラとスミスって言えば、【ファイティング・サン】での有名選手じゃ!?」
「さ、サインを!」
「写真ッ写真ッ」
「う、美しい! ポーラ様!」
「夢みたいっ、嘘ッ!! 本当!?」
「はは! 盛り上がっているな……どうだいサポートマン。キミも、あのスターたちを間近で見れて……」
「……」
大した反応も示さないサポートマン。
纏った白い外衣に動きなし。
(興味なしか。ファイターなら、ある筈だが)
ゴールドは目を細め、サポートマンのステータスを探る。
(隠されている。【ネーム】欄さえも)
塗り潰されたステータスは、何の情報も読み取ることが出来ない。
(フリーのファイター……ですらないか?)
ファイターの証明書は持っていなかったなと、ゴールドは記憶を探る。
(くく……一体なにものなのやら?)
これはこれで楽しそうだと、にやけ始めた彼。
「――このトロフィーをキミに授けよう!」
優勝者に手渡される報酬。
金色に輝くトロフィーの天辺には、【銀色の蛇】が取り付けられている。
(かつてこの地に儀式場を生み出したと言われる、銀の蛇……)
■閉会式は終わり・波乱に満ちた大会は終わりを告げた■
「ただ来ただけでは面白くない……だろ?」
■その狭間で、天に輝く星たちによる戦いが行われたりしたが■
「……」
■それはまた別の話で■
「――クライスさん。約束通り、報酬は山分けでね。でね」
戦いには興味を示さず、会場内の通路を歩く少年。
彼は白い外衣を脱ぎ捨て、会場から静かに姿を消した。
●■▲
■別の話で・閉会式から弾かれた怠惰男は現在……■
「――」
不思議な空間を漂っていた。
「――?」
とても静かで、ゆったりとした場所。
(どこだここ)
己の現状がうまく理解できないので。
(俺は……)
記憶を探ってみても、いまいち思考が定まらず。
(だるい)
ひたすらに湧く感情は、いつも通りであった。
(なーんか、すごく怠い)
全身を襲う脱力感というか、魂に根付いた鎖と言うか。
(ずるずると落ちていく感覚は・ある種の快楽すらあるなぁ)
積み上げたものを放棄して、ひたすらに怠惰を貪る。
(ああ~たまらん)
至福のような時の中で、涎を垂らしそうになるマサル。
(――垂らす口もないがな)
今の彼は、夢の中だけの存在になっていた。
(俺は、サポートマンに託した)
彼の現在位置は夢の世界。
なのかもしれない。
(まあ、目的は達成できた)
彼は満足気。
(サポートマンとは大会前に、すでに手を組んでいる)
事前に同盟を結んだ相手に優勝現場をゆずり、己に対する注目をある程度減らす策。
さらにサポートマンの情報操作により、あんまり自分が目立たないように仕向けた。
(サーシャちゃんには悪いな……それでも俺の実力に気付くやつもいるだろうが)
【魔導具】は使わずに乗り越えることが出来た。……正確には違うが。
(無職の勇士であることは、ばれていない筈)
ぎりぎり感はそれなりにあったが、なんとかマサルは目標達成。
(……後は、【惰眠】するだけか……長かった——)
重かった肩の荷がなくなっていく思いが、彼の胸中で渦巻く。
【ゼニゼニタウンに着いて】
【変な女に絡まれて】
【大会に出場して】
【いきなり乱れに巻き込まれて】
【いけすかない奴を倒して】
【熱血・根暗コンビに襲われて】
【最後の決戦に挑んで】
「……」
乗り越えた壁は低くはなかったが。
それでも圧倒的な力で達成できた。
(すごい力だよなぁ。まじでチートだ)
マサルに宿った能力は、まさしく彼が望んだものである。
(異世界行って……すごい力を手に入れて……困難を難なく乗り越える)
間違いなく、彼は喜びを感じている。
努力しないで・乱れを破壊できる力に。
(……)
(――だが、うんざりだ)
しかし、それはあくまで【力】に対するものだけで、戦い自体には心底面倒臭い想いを抱いていた。
(もうバトル展開はごめんだぞ。せいぜい許せて、スポーツ漫画的バトルまでだ……)
大会では楽勝で勝利したように見えたが、確実に乱れは彼を削っている。
少しバトル要素の強いルールだからかもしれない。
(俺が望んでいるのは……そう)
深い感傷の中で、上がるのではなく・沈んでいく彼は。
過去に見た日常系アニメの数々を思い浮かべた。
日常のようで……日常とはちがう、退屈さを感じる時もある、だからこそ魅力的な世界。
【――】
(こういうのだよな――――日常アニメ最高)