色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
村の南にある草むら(バッタが多い)に、無職の勇士は横たわっていた。
「あー」
気の抜けた声が青空に木霊するかのように。
空気中に溶けていった。
「あーあー」
クライス氏は絶賛休憩中。
(大会から半月)
ゼニゼニタウンでの戦いの疲れを癒すため、ぼけっと空を見上げて、緩い坂道で寝転がっていた。
鼻孔をくすぐる草の匂いに、少し癒されながら。
「空は青いなー。大きいな~」
ストレスから解放され、何もかも脱ぎ捨てた鳥は空へと羽ばたく。
サポートマンの尽力のおかげか、あの大会の有名税に悩まされることはなかった。
しかし、報酬の一つであった儀式場は【ハズレ】。そのおかげで、ある仮設を立てられはしたが。そのことについて、クライスは別に大勇士を目指してないしどうでもいい。と、無関心を装っていた。
「本当に脱ごうかな」
クライスの脳裏に変態が浮かぶ。
なぜかそんな気分になってしまった。
別にそんな趣味はないはずなのだが。
「きょろきょろ」
迅速に周囲を確認。
「誰も見てないな……」
邪悪な笑みを浮かべ、マサルは禁断へと踏み出した。
「ふおお」
勢いよく立ち上がり、紺色のジーパンに手を掛ける。
(頭おかしくなったのか? 俺……)
なにかが彼を突き動かし、遂に——。
「そんな趣味が……ドン引きでス」
「ほおおおっ?」
いつの間にやら背後に暗殺者。いつも通りのフード姿。
クライスのリアクションは目玉が飛び出るレベル。
「おまえッ」
「脱がないのです……?」
ヒナの視線は、彼の下半身を凝視して。
「脱ぐかよォ。フェイントだから。ただ立ちションしようとしてただけっ」
「ほう。あなたは用を足す際に、あんな奇声を……」
「ばっちりッ」
顔を赤くしながら、クライスさんは言い訳を構築。
「違う。これは。ちゃうんや」
「なにが……?」
「えーっとっ」
しかし上手い言い訳も浮かばず、しどろもどろになってしまった。
「まあ……それはそうと……」
「勘違いしないでくれよッ。サーシャちゃんには言わないで」
「……サーシャ」
クライスが口にした言葉に、ぴくりと反応するヒナ。
「サーシャ……サーシャ……!」
「ど、どうしたっ」
「あの女がそんなに……!」
体をぷるぷるさせるヒナさん。
「許せない……!」
背負った双剣に手を伸ばして、抜いた。
「うおおっ」
「ふん……ふん……ふん……!」
両手で大剣を握りながら、地面に何度も突き刺すヒナ。
「なにやってんの?」
「ストレス解消……です!」
「そうか」
繰り返し地面を掘り続ける彼女の動きを、クライスは静かに見守っていた。
■……■
「……ふう」
「満足?」
「しました……! 一応……」
「一応」
いい汗掻いた風のヒナ。
冷や汗中のクライス君。
「……クライスさんは、もふもふ好きですか……?」
「え? もふもふ?」
「ええ……」
「まあ、好きかなぁ」
「ふふ……取り消せませんよ……! 言質とりました……!!」
なんのこっちゃと、クライスが訝しんでいると。
「お?」
ヒナが来ている腰丈ほどの黒い外衣の下から、尻尾のようなものが出ている。
「そ、その尻尾はっ」
「その通り……実はわたくしも……!」
それは間違いなく、もふもふしてそうな尻尾であった(灰色風)。
柔らかそうな毛並みに、クライスは目を引き付けられる。
「モフモフ族か……ごくりっ」
「もふもふ……してみます……?」
「!?」
彼女の提案に驚いてしまった。
まさかそんな、そんなこと言われたら遠慮なくモフってしまうというのに。
「くっ、だが俺にはサーシャちゃんが」
「フフ……あと10秒以内に決めて……ください」
「うお、あ。だが、俺はッ」
速攻で尻尾に飛びつくクライス。
「あん……! もう少し……優しくっ」
「もふもふもうもふもふぅ」
勢いよくモフモフする彼の顔は、幸福に包まれていた。
「……クライスさん。わたくし……この村に住みたいと思います……!」
「もふぅっ」
「あなたが無職の勇士であることが分かった以上……いえ、それを更に確信する為……に」
「もっふもっふ」
会話が繰り広げられているが、第三者には意味が分からない。
「今は野宿していますが……いつか必ず……!」
「もっふ?」
「ふふ……クライスさんは、大会のお金で……家を建てるんですよね……?」
「もふ」
●■▲
■……それからすこし経ち■
「これは」
「ふふ……恥ずかしい……っ」
「……」
二人は草むらから離れ、サーシャ宅へと。
ヒナの家に案内すると言われ、クライスは少しワクワクしていた。のだが。
「ダンボールハウス……か」
「丸二日で……完成です……。初めてでは……ないですがネ……」
何故かサーシャ家の横に、小さなダンボールハウス(三角屋根)が建っていた。その部分だけ草が綺麗に刈り取られている。
しかも、ヒナの家は割と頑丈そうな雰囲気を醸し出していた。
何人かの村人にも手伝ってもらい、完成したと彼女は語る。
「……ここに住んでんの?」
「はい……」
いつの間にかヒナがお隣さんになっている事実に、クライスは頭を悩ませた。
しかもこんな貧相な場所に住んでいるとは、少し同情心のようなものが湧いてきてしまう。
……自業自得だろうとも思う。
■……それから数分■
「それで……お金を稼ぎたいんです……」
「はぁ」
「クライスさんにも手伝ってほしくて……」
「はぁ?」
ハウス内には、ちゃぶ台や寝袋が置かれている。
中央に置かれているちゃぶ台に胡坐座りで着き、湯呑みを片手にヒナの相談を聞く。
彼女の方はクライスを自分の家に招けて、かなりうれしそうにそわそわしていた。
「なんで俺がっ」
「……ちゃんと報酬は山分け……ですよ……」
「報酬って言ってもなぁ」
すでにクライスの懐は温まり過ぎていた。
大会で得た金銀財宝などはかなりの量で、当分はグウ・タラできる。
(こんな楽勝で富を手に出来るなんて)
己の能力に戦慄してしまうクライス。
(また金に困ったらファイター系の大会で稼げば良いかな……?)
少なくとも戦闘面においては、彼とまともに戦えるレベルなどそうそういないだろう。
この世界におけるトップ層にいるのは確実だ。
(バトル自体はいやだ・が)
ファイターとしての適性があるのは、誤魔化せないことであった。
「……お手伝い……駄目ですか?」
「うっ」
「うるうる……でス……。悲しい……でス」
「ううッ」
紫の瞳を潤ませて、クライスに懇願の意思を伝えるヒナ。
(か、かわいい……)
フードから覗く彼女の顔はとても可愛らしく、男の心中を的確にかき乱すものであった。
(お、落ち着けマサル。これは罠だっ)
深呼吸によって、乱された心を鎧で包もうとする。
(そんな色仕掛けに惑わされる俺じゃないぜ。ヒナさんよぉ)
「ああ……少し暑いです……」
外衣の前を開き、豊満な胸元をクライスに見せつける。
「……」
鎧に罅が入った。
「これから任務に向かうとすると……更に脱いでしまうかも……」
「――話を聞こうか」
鎧は粉々に砕け散った。
特別エロ男子というわけでもないが、普通に美少女は好きな健全オタク系男子である。
そんな彼が、ヒナというすさまじい美少女の誘惑に耐えられるわけもなく、完全に女性の武器によって敗北した。
■それから……数分後!■
「【ナイト】?」
「ええ……」
完全にくつろぎムードになったクライスは、横に寝転がってヒナの話を聞く。
家の外でジャスミンの声が聞こえた気がしたが、気のせいかもしれないと気にも留めない。
ヒナは無駄に騒がしいタイプでないので、静かな空間で美少女と二人きりというシチュエーションを楽しむ。
実は陰キャ同士相性が良いのかもしれない。そんなことを彼思う。
「そう呼ばれる、就職者の職があるんでス……モンスター狩りを主体としたネ……」
「危険なモンスターを討伐ってこと」
「そうなります……ネ……」
「めんどくさい。却下」
「ええ……そんな……ひどい……」
クライスは話に面倒くささを感じ、即座にヒナの提案を却下した。いくら美少女の頼みでも、そんなホイホイとトラブルに首をつっこむような、色ボケ野郎ではないのだと心の中で誇っている。
さっきの色仕掛けに引っかかったことは、都合よく記憶から消えているようだ。
無駄に格好つけている彼は、話は終わりだとばかりに家から出ていく……ことはなく、なんかグウタラし始めた。
どうやら割とこの場所を気に入った様子。
「うう……そんな、今まで一緒にやってきた仲ですのに……。薄情です……とても冷たい、非人間……」
「元は敵」
「喧嘩すれば、みんな友達……昨日の敵は今日の友……ライバル味方の少年漫画的展開でス……!」
「ライバルっていうほど苦戦なし」
「……!!」
あまりに淡々とした拒否に、ヒナは涙をこらえるような表情になる。そんな姿を見ても彼はスルー。勝手にライバル展開希望されても……と、冷たい対応。
そのまま近くにある本を拾い上げ、クライスは読書モードに突入した。
(ずいぶんと古臭い本……だな)
表紙に掃除機のようなものを持った人物が描かれた本。何度も読んだのであろうそれは、ぼろぼろで年季を感じさせる。
ヒナは数分間頭を抱えたあと、クライスがその本を読んでいることに気づく。
「おっと……その本……」
「?」
「お目が高い……! その高貴なる光を放ちし名作中の名作……! 【無職なる者・航海記】を……夢中になって読むとは……!」
「夢中にはなってない」
「照れずとも……いいのですよ……! 我が故郷のみで出版されてる……誇り高き作品……ですからネ……! フひひ……!」
「話聞け」
なにやら気色悪い笑みを浮かべ始めたヒナ。若干クライスは引いた。
どうやらこの本は彼女のお気に入りの様子で、面倒くさいオタクの如くそわそわ中。
クライスの感想が気になるようだ。
「ど、どうでしょうか……。個人的には……ぁ、いや全人類的にはぁ……、超絶的な名作だと自負している……んでスがッ」
「……」
「なにか言ってくださいまス……か?」
「ふむ」
クライスは一通り読み終わると、静かに本を閉じて目も閉じた。やたらとじらすように彼は黙る。
クイズ番組の司会かよと、ヒナは内心つっこみを入れた。
「……なかなか、だな」
「な、なかなか……でス?」
「なかなか」
「……」
なんとも返答に困る感想をつげられた。
多分、途中まで感想を考えていたが、あまり良いものが思い浮かばなかったのだろう。
なげやり気味なその答えに、ヒナはしぶい表情を見せる。
「ううぅ……もっとこう、オタク的な……長文感想はないん……でス……」
「すまん」
「むむぅ……。まあ……、適当に的外れな批判されるよりは……いいです……かネ……?」
「こわっ。なんか顔こわい」
ヒナは歯ぎしりの音を響かせながら、鬼神のような気迫こもった表情をマサルに向けていた。
なにやら彼女の地雷をスレスレで回避したようだ。
「すみません……わたくし、どうも……その作品のこととなると……気難しくて……!」
「オタクだもんな。分かる」
「……まあ、そうですね……フふ……。あまり趣味は合いそうに……ないですケど」
オタクに分類される人種同士、なにやらシンパシーを感じている二人。やはりそれなりに気が合うのかもしれなかった。
だがしかし、それでも齟齬が発生するかもしれないのが人間というもの。
「さびしいこというな。同士だろ?」
「どうでしょうか……。クライスさんはぁ……なんというかぁ……美少女系? ……にしか興味がなさそうな……」
「おいおい。見くびりだ」
「そうです……かァ?」
「俺のタイプはオールラウンダー」
「……!」
クライスは少し誇りをもって、自身のオタクとしてのタイプを告げた。
オールラウンダータイプのオタク。
それは、最も困難な業を背負った生物なのかもしれない。
「つまり……マイナーな作品ばかり見て……メジャーなのは絶対みないぜ的な……、なんちゃってファッションオタク……ではないと?」
「当然」
「……すごい自信を感じます……どうやらハッタリでは……ないようです……!」
「ふっ」
胸を張るクライス。
実際に彼は、あらゆる創作物を楽しんできた武士であった。
漫画・アニメ・ゲームなどなど……、ジャパニーズのオタク文化はマサルを沼にひきずりこんだ。
良くも悪くもであるが。
「しかし……ゲーマーとしては、わたくしの方が上です……! えっへん……」
「まさか、ゲーム特化型ッ」
ヒナは娯楽を愛する。
それはギャンブルのみにとどまらず、テレビゲームなども対象だ。
どや顔の彼女は、懐から横長の物体を取り出すのだった。
「そ、そのゲーム機は……?」
「今では販売されていない……超非売品……! コレクターたちの中で……とても高い価値を誇る……! 携帯ゲーム機……デス!」
ドンという効果音が聞こえてきそうなほど高らかに、ゲーム機の説明を行うヒナ。
そこでクライスは一つだけ問うた。
「どうやって買った、それ」
「え……」
「高い価値なんだろ、それ」
「……」
その質問にヒナは固まる。
顔を汗が流れ、視線は泳ぎまくっている。クライスの目から逃れようとしているのは明白。
どう考えても彼女の地雷を踏んだ。
「そ、それは……その……。ゲーマーとして……どうしても欲しくて……! そんな目はやめて……!」
「理由は聞いていない。手段だ手段」
「……うぅ。ゆるしてください……。いじめるのは……やめて……」
「だめだ。話せ」
ヒナの冷や汗は加速し、クライスはその様を冷めた目で見ている。その鋭さは尋常ではない。
あまりの威圧感に息が乱れた彼女は、とうとう大きく息を吐いて観念した。
「超金利で……お金を……借りまして……。てへ……」
「てへじゃない」
「すみません……」
「金なくなるの自業自得、だろ」
「うぅう……」
ヒナの金欠理由が判明し、手伝う気力はますます萎えていく。
いくらなんでもあほ過ぎると呆れる彼だが、記憶の片隅に似たような体験がフラッシュバックしそうになった。ので、急いでそれを片隅へとシュート。
やはり同じ人種として、散財(二次元に対して)をやっちまったことがあるのかもしれない。
「はー。仕方のないやつ」
「……」
「それでも勇士? 恥ずかしくないんか?」
「……ごめんなさい……」
ここぞとばかりに自分を棚上げ批判するクライス君は、現在ヒモニートである。
だがそんなの関係ねぇと言わんばかりの圧力で、マウントを取れるこの機会を存分に楽しむのだ。
「これはだめだな。手伝えないよ、残念。出直せ」
「ごっはぁ……! そ、そんなご無体な……!」
「……」
頭を抱えて悩み始めるヒナを、静かに見ているクライス。
彼女は時折、「どうにか……誘導できない……でしょうか……」とかなんとか、腹黒そうなことをつぶやいている。どうやら、まだ助力を諦めてはいないようだ。
「そこまで助けがほしいのか。他力本願」
「……だ、だって……せっかく……クライスさんとの共同作業チャンス……でもありますし……」
「!」
クライスと共に何かをやる。それ自体にも価値を感じているのだと、彼女は寂しそうな顔で言う。
言葉を聞いた当人は若干しぶい顔になった。
(誰かとなにかをやる……か。一緒に遊びたい……的な?)
一瞬だけ。
マサルの脳裏をかすめる感情があった。
「……」
「? ……クライスさん……?」
「よし。手伝うか」
「!!」
なにを想ったか怠け者。
自身の発言を撤回し、ヒナの用事を手伝うと気だるげに言った。
それを聞いた彼女は一気に明るい表情になる。
「そんな……本当に……?」
「暇つぶしだ」
「……どういう風の吹き回し……かは分かりませんが……。……うれしい」
頬を赤らめながら感謝するヒナと、若干気恥ずかしそうに顔をそむけるクライスの姿。
なにやらほんのりとした雰囲気が場を包む。
それによって、クライスはそれなりに癒されていた。
(なんか。いいな)
彼はなんとなくで笑った。
なんとなくでも笑えるぐらい、今の状態はリラックスしている。
それがヒナを手伝うと決めた理由でもある。
(落ち着く感じだ)
彼女といると気分は割とおだやかだった。
サーシャにも通じるものがあるかもしれない、そんな雰囲気を感じている。
それは、この村自体からも感じ――。
「では……心変わりしない内に……行きましょうか……ネ」
「いや待って」
「は……?」
「もう少し、寝させて」
「……」
クライスは無気力な声で、外出するための準備時間がほしいと告げる。
基本ひきこもりの人間にとって、外に出るという行為は莫大なエネルギーを消費する。
ゆえに精神統一(だらける)時間は必要なのだ……と、言い訳じみたことを言う。
「はー。だるい」
「……はぁ」
あまりに気の抜けたクライスの声に、ヒナの方も力が抜けてしまった。
まだ時間は昼頃であり、なんだか眠気を誘うような気温ではある。
彼女は背中から力を抜き、そのまま床の上へと寝転がった。
「……」
「……」
床に寝転がる二人の、静かな呼吸音だけが部屋に響いていく。
遠くで鳥の鳴き声が聞こえてくるような、そうでもないような。
穏やかな昼の時間がそこにあった。
「……なあ」
「……? なんでしょうか……クライスさん……?」
「いや、なんでも」
何かを言おうとしてクライスは止めた。
わざわざ言うことではないと思ったからだ。
一回深く呼吸して、彼は心中を静かに閉じた。
(めんどうくさいし、いう必要ないな)
今はただ、だらけていたい。
心中に芽生えた気持ちなど、わざわざ伝える必要もない。
いつか伝える時もあるだろうか――。
「クライスさん……」
「なんだ」
「ふふ……呼んだだけ……でス」
「そうか」
ヒナとクライスは、なにをするでもなく、時の流れのまま過ごす。
そんな中で、ヒナは穏やかな笑みを浮かべた。
その笑みの意味は、明かすことはないかもしれない。
それでも、ただ今のこの時をゆっくりと楽しむ。
●■▲
広い草原に出たクライス達。
村の西にある、スローラ草原だ。
「で。今回の獲物は」
「大きな鳥……です……。」
何処かから不思議な甘い香りが漂い、クライスは少し辺りを見回した。
「【大カモメ】——」
クライスの左隣で歩くサーシャが言う。なぜかちゃっかりついてきていた。
彼としてはとてもうれしいことではある……のかもしれない。
「……詳しいですネ」
クライスの右隣で歩くヒナは、対抗心を込めた瞳で彼女を見遣った。
どう考えてもライバル視している。
二人の様子を珍しいなとクライスは傍観。めんどうなので放置だ。
「スローラ村でも、何回か被害がありましたから……」
サーシャは爽やかなイメージの白ワンピを着て、ヒナと同様の心を纏いながら彼女を見る。
あいかわらずかわいいぜと、クライスはのんきに考えていた。
状況だけ見れば彼はハーレムに近い男かもしれない。
しかし。
(火花が散っている気がする……)
気のせいではなく、実際に散っているのだ。
クライスに対する気持ちなら負けはしないと、二人の美少女が互いを威嚇しているよう。
サーシャがいるのはそれが理由だ。
【わ、私も行きますっ】
■ヒナの話を聞いて、サーシャは慌ててそう言った■
「ま、負けませんよっ。わ、わたしのほうが上ですっ」
「ふふ……! なかなかの強者……と見ました……ヨ」
共に無職の勇士ファン。
同じものを愛する者同士でも、いさかいが起きてしまうこともある。
それを悲しいなとクライス思う。
なぜ人は仲良くできないのだろうか、と哲学的な気分でいた。
「……受けて立ちましょう!」
「あ、あわわ。すごい気迫ッ」
二人は譲れない想いを懸けて、全力でクライスをサポートする。
どちらも彼のことを大切に想いすぎていた。
逆に、なんかクライスは蚊帳の外。
(俺を間に挟んで火花を散らさないでっ)
少しげんなりクライス君。
実際にハーレム展開に遭遇すると、疲れるなと思った。
創作物としてみると良く見えても、現実としてみると微妙なのはあるあるかもしれない。
「では……クイズの時間です……ヨ」
「の、のぞむところです! ふん! ふん!」
「ふふ……無職の勇士さまについて……どちらの知識が上か……!」
「いざ勝負です! ふん!」
いきなり始まる、サーシャとヒナによるクイズバトル。飛び散る火花によって、クライスは火傷しそうになったので後退した。
二人とも本来の目的忘れてないかと彼は心配だ。
「第一問……今日の……勇士さまのパンツの色は……?」
「えっ!?」
「え?」
第一問からとてつもなく難易度が高い。
しかも、たとえサーシャがそれを知っていたとしても、言うことがためらわれる問題だ。
ヒナは完全に勝ちにきていた。
というか答え知られているの恥ずかしいと、クライスは若干思った。
「え、えっと、それは、ごにょごにょ……」
「んんん……? 声が小さくて聞こえません……ですネ」
「……」
反則だろうそれはとツッコミを入れたくなったが、面倒なので放置するクライス。
やたらと勝ち誇っているヒナと、顔を真っ赤にしながらモジモジしているサーシャの姿を眺め、本来の目的忘れてないかこいつらと思った。
「やっぱり疲れるな」
外出するといつもこれだと、彼は両肩を落とす。
やはり自分はリア充にはなれないと確信し、しかし今の事態はあんまり外出関係ないかもと思い直した。
自分の周囲には面倒なやつが多い、その事実に気づく。
「それでは……第二問……!」
「ふん! ふん! ふん!」
「……」
まったく進まない旅路に呆れながら、クライスは空に輝く太陽を仰いでため息を吐いた。
今日もなんか大変そうだと思い、家で寝たいとほんのりと後悔した。
●■▲
■……草原中心域に到着する一行■
■あれからもサーシャたちの小競り合いは続き、クライスは無駄に疲労した■
「ここにいるのか。その大カモメってやつは」
「みたいです……少し待ってください……呼び出す方法を……」
ごそごそと懐を探っているヒナ。その隣ではサーシャが緊張し、モンスターの影に怯えている様子だ。
どうやら今になって怖くなってきたようで、じわりじわりと彼女は後退する。
(池があるな)
カエルが乗った草が浮かぶ、少し濁った池。そこに視線を向けたクライスは、事前にヒナから伝えられた情報を思い出す。
(この池の近くで、大カモメの目撃情報が多いとか)
クライスは身構えて出現の時を待つ。
サーシャはそのかなり後ろで震えていた。いつの間にかそこまで下がっていた。少しクライスはびっくりした。
「……サーシャちゃん」
「は、はいっ。なんでげしょうかぁ?」
「大丈夫か? 体震えてるけど……口調も変」
背後で待機するサーシャは、不審者全開で今にも倒れそうな状態だ。
ヒナへのライバル意識から付いてきたが、どう考えても無謀な行いだった。
あまりに弱弱しく震えているので、彼は思わず抱きしめそうになってしまう。セクハラでジャスミンに〇されると震える。
「大丈夫ですぅ! もうこんな感じの恐怖なんてッ。平気なサーシャ! へっちゃらサーシャ!」
「……」
「どっからでもかかってこい!って、やつですよぉっ。ふんふんふん!!」
■サーシャはそう言うが……■
(一歩ずつ後退している……!)
言葉とは裏腹に、サーシャは少しずつ後ろに下がっていった。
まるで子犬のように彼女は震えまくる。
その足が止まることはない。
「はっ! 私何を!」
「無意識かいー」
今日のクライスのツッコミはキレが良い。
どうでもいいことではあるが。
「で、でも本番になったらちゃんとしますんで!! ……ううぅ……こわいよぉ……。食べられたくないよぉ。やだぁあ」
「はぁ……ヒナ。そろそろ……」
サーシャの震えは加速度的に大きくなり、地震のようなそれにクライスの方が不安MAX。
あまりにビビりすぎではあるが、彼女の力を考えると仕方ないことなのかもしれない。
なにかあった時は自分が守ればいいと切り替え、前方にいるヒナの方を見遣る。
「【遍く世界の王たちよ】・【全てを壊す邪心よ】・【全てに感謝を】」
「……」
土に奇妙な陣を描いて、ぶつぶつと言っているヒナの異様な姿。それを見て反応に困る。
(なにやってんのアレ? モンスター王でも呼び出す気なの?)
疑問に思う彼の視界には、地面に映る大きな影。
(なんだ……)
■そのまま視線を上に向ける■
「へ?」
空を見上げればあら不思議。
禍々しい両翼を持った体長三十メートルほどの【カモメ】が、ぐんぐんと接近して、鋭い牙を光らせて、赤く獰猛な瞳を——。
「ラスボスかな?」
どう見てもステータスがカンストしてそうな大型モンスターが、クライスの視界を埋めたのだった。