色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
【いやぁ……慣れれば可愛いもんだ~】
サメ男は、大カモメについてこう言及していた。
それを信じたことを後悔中のマサル氏。
【頭を撫でてやると、嬉しそうにクチバシをならしてなぁ】
(頭すんごいとんがってるっ。撫でたらまずいよ)
飛来する巨大生物を前にして、クライスは慌てる。
あんまり大したことないと聞いていたのに、こんなの詐欺だと彼嘆く。
(おかしい……ヒナの話ではっ)
【C級なの……です】
「どう見ても違うだろぉーっ」
見た目からして、大カモメはA級(平均的な就職者が単独撃破不可能)に近い脅威に思えた。
発するオーラは尋常ではなく、羽ばたく翼が風圧をぶつけてくる。
巨大な怪鳥は勢いよく彼らの方へと飛翔した。
恐ろしく鋭い爪を持った巨大な両足を、間一髪で躱す彼。
「あわっ!? あわわわッッ!?」
「サーシャちゃん」
「きゃっ!?」
彼は背後にいるサーシャを抱き締め、モンスターから距離を取る。
ヒナはいつの間にか姿を消していた。
「くそぉ、めちゃくちゃだ。こんなのっ」
脱兎のごとく駆けだす、サーシャを抱えたクライス。彼女のことはなんとしても守る気満々。
めちゃくちゃ恐怖で振動しているサーシャは、目が虚ろで歯はがちがちと鳴っている。
アカンわこれと彼は思った。
「あの鳥、ラスボスじゃないのかよ」
駆けながら背後を確認したクライスは、驚愕の光景を目にした。
「あ?」
上に向けた大カモメの口に集中していく、とんでもなく強力な光。
空気を振動させるかの如く、すさまじいオーラを放つそれ。
「おいおい、そんな大技を……」
どう見ても強力モンスターが放ちそうな技を、カモメが放とうとしていた。
その頭上に一つの影が出現した。
「させません……」
大カモメの無防備な頭に、大剣が迫る。
「がら空きです……あれ……?」
すかっと、大剣が頭を通り過ぎた。
手応えなし。
「なんと……! 物理的インビジブル……!?」
まるで手応えのない攻撃に、ヒナは驚きを隠せぬまま落下していく。
どう考えても当たっていたはずの攻撃が当たらない。
「うおおっ」
収束していく光を見ながら、クライスはスキルを発動する。
抱えるサーシャは気絶寸前。
(怠惰の分だけ・本気出す)
【空は青いなー。広いなー】
■今日一日の怠惰生活■
■のエネルギーを一気に変換!■
「ふおおおおっ」
カモメの口から放たれた強烈な閃光を、上げた速力によって回避成功。
後方で起きる大きな爆発!
「どんなカモメだよぉおおおおっ、あっぶないな」
「あわわわわ! 死ぬかと思いましたっ。あわわわ!! 死にたくないですー!! 助けてー!!」
「俺もだっ」
サーシャは未だに震えていて、戦えそうな状態ではない。
そもそも彼女は就職者ではあるが、戦闘向きではなかった。そのステータスは平均的な就職者以下である。
援護の能力は持っているので付いてきたが、恐怖と緊張でうまく使えない。
「どうするかね」
カモメの方を見ると、次の攻撃準備に入っているのが見えた。
大技ではなく連射可能のようだ。
「また今のか……」
クライスは後ろをちらりと振り返り、サーシャに言う。
「サーシャちゃん、ヒナと待機していてくれ」
「ええっ、わ、私もっ」
「戦えないだろう? その様じゃあ」
「うう……」
「任せてくれよ、なんとかなりそうだ」
「ほっほう……策ありです……? ふぅ……」
「おふうっ」
いきなり耳元で囁かれたクライスは、ヒナから咄嗟に離れる。
いつもの如く気配遮断を駆使する彼女を見て、彼はあることを考えた。
「それ、俺も使いたいな」
「つかえます……よ」
「へ」
「わたくしの……【勇士スキル】……」
■ヒナちゃんによる、説明開始■
「それ……本当に?」
「信じられません……か?」
「ごくり」
説明を受けながら、クライスは大カモメの動きを警戒。
敵の方も、クライス達の動きを伺っている様子。
「やってみれば……分かりますけど……」
「そ、そうだなっ」
「さあ……どうぞ……」
■ヒナは双剣を地面に突き刺し、クライスとしっかり向き合う■
「ごくり」
■彼はヒナに近付き■
「クライス様何を……ッ!?」
■その首筋に口づけを行った■
「……」
「あう……ぅ」
色っぽい声を出す美少女と、静かに口づけを行う怠惰男。
それを見ているサーシャは真っ赤な顔。
(うおおおッ――)
内心はまるで穏やかでない無職の勇士。
鼻息は荒く、頭がぼんやりぼやぼやしてきたマサルさんは、時間の感覚が飛んでいく。
「わわわッ」
眺めるサーシャの真っ赤に染まった顔など気にせず、彼は真剣に。
真剣に?
(そう真剣だ。輝くほどに)
きりりとシリアス顔になったクライスは、己の雑念を振り払う。
振り払う。
「あの……もう十分……」
「え、え?」
「痛いです……フふ」
ヒナの腰に両手を回し、がっしりと抱き締めたスタイルを維持している彼。
振り払えていなかった。
■名残惜しそうに離れる二人■
「よーし、一丁やりますか」
ヒナとサーシャを後方に下がらせ、クライスは片腕をぐるぐると回す。
「……」
■走り■
■気付かれずに大カモメの下へ■
大カモメに接近する彼は、その姿をまじまじと見る。
(割と格好いいかもしれない……)
マサルは日常アニメが好きである。
なので、バトルになりやすいファンタジー系アニメは比較的詳しくないのだが。
(羽の模様とか……炎みたいで中々……鋭い爪も、一種の剣のような研ぎ澄まされ方だ……)
「ほうほう」
格好良いものは格好いいので、おのずと視線が引き付けられるのであった。
そんなことしとる場合かと、ジャスミンがいたらしばかれていただろう。
「……」
鳴き声皆無で睨む(ように見える)カモメの威圧感を前にして、しかし彼はもう怯まない。
この程度のプレッシャーなど、【過去】にあった【壁】と比べれば大したこともないと。
「?」
ふと、一瞬だけマサルの頭を過ったのは。
高速で過ぎ去っていく景色と・大勢の活気ある声。
それが意味することすら分からずに、しかし彼は目の前の問題に集中する。
「まあ、相手じゃないか」
だるそうに怪物を見る、それ以上の怪物。
「見せてやるよ……無職の勇士の力」
■再び解放される、異質な力■
「邪悪滅殺槍(ジャスティス・グレイブ)」
その手元から現れたのは、赤く光る掃除機。
左手でハンドルをしっかりと持ちながら、そこにあるスイッチをオンにする。
「吸引開始」
横に伸びたノズルから吸引力が発生し、右手でホースを動かしてカモメに向ける。
「!」
大カモメの威圧感溢れる姿が剥がれ、掃除機に吸い込まれた。
(モンスターの中には、擬態と呼ばれるスキルを持つのがいるっていうしな)
ヒナの攻撃が当たらない事実と、先程の攻撃による衝撃がなかったことで、擬態を見抜いた。
(掃除機に付いた小さなモニターで、吸えるものは判別できる)
「それが……真の姿」
「ぶひひひ!?」
「鳴き声も擬態してる?」
擬態を剥ぎ取り、十メートルほどのカモメが現れた。
「弱そうだな……」
「ぶひひ!」
突進してくる大カモメ。
スピードは大したことない。なので。
「――仕留めるのは、わたくしの役でス……」
「ぶひっ!?」
いつの間にやら接近していたヒナの大剣が輝き。
「まかせた」
斬——。
「おお」
斬り捨てたモンスターの肉体から、いつかのような魂が発生した。
それは光の粒子となって、ヒナの懐に吸い込まれていく。
「討伐成功……です……。どうです……? わたくし……結構、有能……でしょう?」
●■▲
■……夕刻・スローラ草原■
「……討伐完了です……!」
「やるな。面倒なくていい」
大カモメの討伐が完了し、クライス達は帰路に着いた。
終わってみれば大した体力の消耗もなく……ということはなく、結構クライスは疲れている。
「はぁぁ……どうして。どうして」
「……」
「すいません……すいません……役立たずですいません……」
クライスの左隣で溜息を吐くサーシャは落ち込み気味。
ぶつぶつと呟きながらネガティブオーラを発している。
「気にしてるのか?」
「はい……自分から付いていくって言ったのに……。本当に申し訳ありません……はぁ」
申し訳なさそうにクライスを見る目は、弱弱しい。
今にも自殺してしまうのではないかという悲壮感に、彼は若干引いていた。
そんなに落ち込むことないだろうと、サーシャの能力値を見ながら思う。能力なくても根性で頑張って活躍しろなどという、スパルタ熱血系思考を彼は嫌っていた。
「……」
彼は少し考えて。
ゆっくりと口を開いた。
「これに懲りたら、もう危ないところに付いてくるのはやめるんだ」
「え……」
「そんなに泣きそうな顔して、辛そうな顔して……俺のことを案じる必要はない」
「うう……」
まだ体が震えてるサーシャ。
頑張ってここまで来たが、いざ本番となると一気に恐怖が襲ってきたのだろう。
「た、たしかに冷や汗出て、足が動かなくて、頭の中がわけわからない状態になりますけど……! でも……!」
それでも必死に声を絞り出して。
「いつか必ず……クライス様の役に立ってみせます!」
彼女は誓った。
クライスは複雑そうな表情で、そんなサーシャを見ている。
彼はなにかを言おうとして……やめた。
「ほほう……ライバルとしての素質は十分とみました……。その無職の勇士……リスペクト……」
「ま、負けません! 絶対に! 無職の勇士ファンのナンバー1は私でしゅ!」
再び火花を散らす二人。
なんかさっきも見たなこの光景と、クライスはあきれ顔になるのだった。
「……」
しかし、二人の様子をぼんやりと見ながら、ほっと胸をなでおろす。
ブラック職場でよく見たような対立や派閥抗争に比べれば、別にギスギス感もないようなものだ。
あれは本当に心臓に悪いものだったと、しみじみしながらクライス思う。
(まあ、こういうのなら良いか。無駄にドロドロしてないし)
確かに二人は対立しているが、どこか正々堂々したものであった。
青春スポーツものの一ページに見えなくもない。
(二人共、根が善人なのかもな。多分)
友情すらも感じられそうなサーシャとヒナの対決。
それを視界に収めながら、クライスは用事が終わったことで一息つくのだった。
風は穏やかに吹いていて、なんとなく心は落ち着きを取り戻していく。
この世界は今日もそれなりの平穏を保っていた。
●■▲
「――感謝します……クライスさん……」
「別に」
赤く染まり始めた空を背景にして、三人は村へと帰還する帰路を行く。時々出現するモンスターを蹴散らしながら(基本ヒナに任せる)、クライスはのんびりと歩いていた。
恨みがましい視線をヒナから感じなくもないが、面倒なのでスルーするー。
「……クライスさん……」
「手伝わないぞ」
「ちがいます……!」
見えない刃でモンスターを倒しながら、ヒナはクライスの絶対働きたくない姿勢に呆れる。しかし、同時に笑みを見せるのだった。
その笑みが、オタク特有のものに見えてしまうクライス。ねっとりとした好意を感じて、数センチほど彼女から距離を取った。
「……あのですね…………、今日のクライスさん……格好よかった……でス……」
「ほう」
「とても頼りになって……誰かを守る姿が……」
「ほう」
「本当に無気力そうで……なんというか自堕落で……のびのびしてて……」
「んん?」
顔を赤らめながら語るヒナと・若干にやけ面になっているクライスくん。サーシャは少し頬を膨らませている。
割と純粋な好意を向けられているため、彼としても悪い気分はしない様子であった。
「――ですガ……」
■その純粋な好意に、歪みが生じた■
「……」
■それをマサルは見逃さなかった■
「……まぁ……、それはそうと……これからも機会があれば……、つきあってくれると嬉しいです……ネ」
「え、面倒だしいやだ」
「えぇ……? そこは、今回の共闘で深まった絆で……快く承諾するところ……、では……?」
「面倒さが勝つ」
「……うぅ。クライスさんは……薄情……。鬼……!」
「むしろこっちを手伝って」
「うぅ……異世界競技のチームンバーになれとか……言いませんよね……???」
「それは……まあ可能性はある」
一瞬感じた歪みはすぐに消え、特にクライスはそれに触れることはなかった。そうするのが恐ろしかったのかもしれない。
いつも通りののんきな会話に戻り、いつも通りに彼は自堕落な自分をアピールしていた。
「……フふ」
「?」
「いえ……すいません……つい今日のことを思い返したら……。楽しい想い……があふれて……」
「楽しい、か」
ヒナは笑っている。
クライスはそれを見ている。
見ながら彼は考えている。
■さきほど生じた彼女の歪み■
■それがもし、未来の平穏を壊すものだったらと■
(その時は――)
●■▲
■……夕刻・サーシャ宅前■
「さて、ヒナはどうする?」
「報酬は……明日でも構いません……。それよりも……このままエンジョイしたい……ですネ」
「なら、今日は私の家に——―あ」
サーシャが言葉を続ける前に、家のドアが勢いよく開かれた。中から現れたのは怒っている風のジャスミン。彼女の視線がクライスへと向けられた。
殺気すらこもったそれを受けて、彼は少しびくっとなる。
蛇に睨まれた蛙以上に委縮するクライスは、さりげなくヒナの背後へとスライドアウトした。
「あんた、またサーシャを危険な目に遭わせて!」
「いや違うっ」
「なにが違うのよ! どうせサーシャを人気のないところまで連れ込んで、がらの悪い男たちを使って……このけだものッ! 見損なったわ! 試合で少し見直していたのに!!」
「漫画の読みすぎだっ」
とんでもなく飛躍した疑惑をかけるジャスミンに、うんざり顔を見せるクライス。
この少女は時々、妄想が過ぎる時あるなと思うのであった。
そんな彼の心中などお構いなしに、ジャスミンはヒートアップしていく。
「ゆるせないわー!! 最初からあんたは悪役風のオーラをまとっていると、思っていたのよ!! このあたしの、名探偵漫画の主人公にすら匹敵するかもしれない慧眼で! まるっとお見通しよ!」
「お、おう」
「ふ、ふふん、どうやら絶対的なオーラの前になにも言えないようね。あたしとの格の違いが、理解できたかしら! 今日のあたしは強いわよ! You Back! か、かかってきなさい!」
「今日のってなんだ」
いきなりテンションが上がった風の漫画脳の彼女に、クライスはついていけない。
完全に何かに酔ってる風の少女に対し、まるで接し方が分からないのはコミュ障関係ないのだろう。
この状態になったジャスミンは、村人のほとんどがてこずる恐るべき難敵だ。
止められるとしたらきっと……。
「違うよジャスミン。わたしが勝手に付いていったの……はぁ……」
「え?」
「まんまと足を引っ張って……ね。なにやってるんだろうわたし……」
「さ、サーシャ。なんでそんなに泣きそうなの?」
●■▲
ジャスミンに勘違いで怒られそうになったりしたが、事なきを得たクライス。
(まったく面倒な……NIGHTだ。寝るための時間なのに)
やれやれと、ジャスミンの対応に困り気味のクライス君。
(俺が海外から来たってだけで、そこまで目の敵にするとは)
人間関係とは面倒なもんだと、思う彼。
■乱れが・ぐちゃぐちゃと■
■過去の記憶を染めた■
(まあ。あの時に比べれば全然ましか——)
●■▲
■……夜・居間■
「それではヒナさんの任務完了を祝して……」
「「「カンパーイ!!」」」
グラスの音が居間内に響き、マサル達はヒナを祝う(名目で楽しむ)。
席に着いた、ジャスミンを加えた四人。
「美味しそう……感謝します……!」
「遠慮しないでね。ヒナさん」
「はい……」
いつの間にかそれなりに仲良くなった風の、ヒナとサーシャ。
同じものを好きな同士、やはり、それなりに息が合うところがあるのかもしれない。
「もぐもぐ」
そんな彼女たちに視線を送るのは、テーブル上の肉を右手にかぶりつきながら、不思議そうに見てるクライス。
(どっちも無職の勇士が好きだもんな。話が合う部分もあるのだろう。肉うま)
「うーん、相変わらずサーシャは料理うまいわ~。おいしすぎ!」
ジャスミンはグラスを片手に、サーシャ作のサラダを食している。
程よい塩気で彼女は満足。
「ヘルシー一番! あー、お嫁さんにするなら、やっぱりサーシャよねっ。もぐもぐっ」
ジャスミンは、トマトをフォークで突きながら顔をほころばせた。
「じゃんじゃん作りますよ! どんどん食べてください!」
「サーシャちゃんは料理も出来るのか~。すごいな」
「い、いえいえっ。そんないうほど大したことないですしっ。あんまり期待されると震えが……!! がくがくっ」
「おちついて」
多種多様なバランスの取れた料理、見た目も完璧。
サラリーマン時代はカップ麺で済ませることが多かったマサルは、ほんのりと感動したのであった。
「……はは」
人知れず、彼は笑う。
■そして十数分……■
「……ふう、食った食った」
満足げに腹を叩く無職のタヌキは、一足先に食事を終わらせた。
「むふふ……」
理由はこの後のお楽しみ。
【もう寝ますけど……その前に少しだけなら……。いいですよ……】
「ちらり」
「……」
ヒナの方に目を遣ると、まだ食事中。
(まだかな……。まだかな……。サービスタイム)
そわそわと落ち着かない彼の耳に、インターフォンの音が。
(くそ、サービスタイムの邪魔を)
「……客?」
「誰でしょう?」
「……俺が出るよ」
食事終わったマサルが、居間の受話器を手に取った。
「――こんばんわ」
「ヒ」
声の主はサメの人。
「――一緒に飲むかい?」
「ハイ。ヨロコンデ」
野菜を届けに来たサメ男によって、マサルのサービスタイムは終了したとさ。