色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「くくくのく、ここが新たな儀式場かいッ」
「そうみたいでっせっ、へっへへ」
■複数の屈強な男達が、大きな山を眺める■
■そう、かつてクライスが訪れたワーク山■
「じゃあ、さっさと奪い取るとしようかい」
「へへへ、何分で侵攻できますかね?」
「まあ、15分ってところか……」
■異世界競技・儀攻戦の始まり■
■これに勝利することで、儀式場を奪える■
■今、クライスが所有する儀式場が狙われていた■
「いくぜぇ!!」
「うおおおしゃああ!!」
■どうするクライス!?■
「ぎゃああああ!!」
「ぐあああああ!!」
■数分後、洞窟内で男達は倒れ伏す■
「おい、【ここ】で戦いを挑むのは悪手だろう。侵攻者ども」
「まったくです。逃げ場所がないでしょうに」
■洞窟の通路を塞ぐように立つ二人の守護者■
■クライスに雇われた彼等は、侵攻者たちを見事に撃退した■
「(くそぉ、予想以上に強いじゃねぇかっ。お遊びのつもりだったのに)」
■ただしそれは、一人の侵攻者を除いてではあるが■
「しっかーし、【密偵】であるおれにかかればこんなものよ」
彼は守護者たちを通りぬけ、奥にある儀式場の核【終点】へと向かう。
たとえ守護者に勝てずとも、そこに着けば彼等の勝利なのだ。
逆に、制限時間内にたどり着かせないことが、守護者側の勝利条件となる。
(ここかッ、この先に)
■気配を消し、洞窟の天井に張り付きながら、見据える空間■
■そこは、かつてマサルがA級モンスターと戦った場所■
(あの道の先にッ)
■その空間の奥■
■狭い通路の前に少女は立つ■
「……」
「(あの小娘が少し邪魔だな。排除するか)」
■非常に機敏な動きで、天井を這いながら進む彼■
■少女にある程度近付いたところで、行動に移る■
(【猛毒の牙】)
■凶暴な牙を少女に向け、とびかかった■
「が?」
■急に視界が制御不能になり、彼は地面に落ちる■
■真っ二つになった体には気づかない■
「???」
「すごい。蜘蛛さんですね、そういう種族ですか?」
■少女はいつの間にか刀を持ち■
■その得物で侵攻者を切り伏せた■
(何が起きたああああァ!?)
■何も分からないまま消滅するクモ男■
■少女は刀を収め、いたずらな笑みを浮かべる■
「ごめんなさい。大人げなかったですねー」
■小悪魔のような雰囲気をまとった、女剣士■
■守護者、ロリン・ネイドス■
■本日の仕事はこれで終わり■
●■▲
「ロリン、交替だ。お疲れさま」
「はい、休憩に入ります~。差し入れ感謝感激です!」
■守護者業の休憩時間■
■少女は、緊張感を解いてリラックスモードに入った■
「ふうう……」
大きく息を吐き、ワンピース姿のロリンは仕事の疲れを出した。
(何もないと言うのも、思いの他疲れますねぇ)
ワーク山・洞窟内を歩く彼女は、守護者としての仕事を行っている最中。
(ですがこれも大事な仕事。守護者としての使命!)
守護者として胸を張り、洞窟の外に出ようとして。
「……」
出入口で、自分を覗き見ている変質者を見た。
「わあ……」
ロリンの、一歩引いた右足。
(こわい……)
少し震える体を抑えながら、変質者に問いかけた。
「あのクライスさん……」
「はっ」
ロリンの問いに我に返った男は、己の行動を振り返る。
自分の頬を叩きながら、自問自答モードに入ったようだ。
「な、なにをやっているんだっ。俺はっ、これが亡霊の影響かッ」
「……」
「はぁはぁ」
「……」
息を乱しながら、意味不明なことを呟く男に対して、取るべき行動は。
「通報しよう」
「待って」
■不審者扱いだよ! やったねマサル君!■
■Q・イケメンなら許される?■
■A・いや許されないだろう■
「許しますよー。反省しているのなら、ですけど?」
「してるよ。本当に」
洞窟内で正座している反省変質者。
問い詰めるロリンの視線は冷たい。
「この通り」
「……」
「……」
なんとも悪い空気が、クライスを襲う。
彼は目の前の少女がこわい。ぶっちゃけもっと純真な娘だと思っていたが、違うっぽい。
このまでは逮捕かもしれない。
「……だめですよ。こんなことしたら!」
「反省。クライス反省」
「めっ! です!」
頭を軽く小突かれるクライス。
(ご褒美かもしれない)
恍惚の表情のような微妙な顔、発生。
さっきから自分のテンションがおかしいことに気づき、さらに猛省するまでの時間残り4分。
「それにしても、ワーク山になぜ?」
「キノコ狩り」
「キノコ……」
「ついでに儀式場の様子も見ようかなって……」
クライスは洞窟内を見渡し、奥に目を遣った。
「結構、侵攻者は来てるのか?」
「いいえ。そんなには来てませんね。十数人程度です」
「【無級】だからな……この儀式場。狙う奴は少ないか」
無級とは。
解放してもパワーアップが行われない儀式場のこと。最下級の儀式場。
(無駄な儀式場故、手放す奴は多い)
わざわざ金を払ってまで、維持する必要もないような場所。
なので、儀攻戦に勝利して儀式場を奪う……そんな面倒なことをやる者もいない。
(だが、俺は維持する)
クライスにはそういった決意があった。
(理由は簡単)
そしてある種の確信がある。
(無級こそが、無職の勇士の力を解放する場所だからだ。俺のステータスに起きた変化……通常なら起こらないらしい)
ということは。
(無級は、無職の勇士・もしくは、特定の勇士を大勇士にする?)
■頭の中で、平穏生活に通ずる道を形成していく■
「可能性はあるよな……」
「なんのことです? 気になりますねぇ」
まだまだ分からないことはあるが、手探りで探っていくしかないだろうとクライス。
(無級にも何らかの効果があるだろうと、保持してるやつもいるが……当分の間は大丈夫かな)
■とりあえずまだ猶予はあると思うことにする■
■これが、自身の怠惰ゆえの逃避行動でないことを祈った■
「この調子だと、【等級宣伝】の効果はあったみたいだな」
「そうですねー。良かった、良かった」
等級宣伝とは。
守護の会による儀式場関係のサービス。
(己が保有する儀式場のランクを、他の就職者に伝えるサービス)
そうすることで、自身の儀式場が狙う価値もないことを知らせるのだ。
(保有できる儀式場には限りがあるし、わざわざランク低いの狙う強者はいない。懸念があるとすれば、俺と同じ変化が起きた就職者か……)
クライスのようにステータス変化が起きた就職者が、大勇士を目指して勝負を仕掛けるかもと。
(まあ。中級以下って宣伝しといたし……大丈夫かな?)
不安はあるが、無駄に悩んでも仕方なし。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
「お任せを! ……むむむ」
「ん?」
去ろうとするクライスのことを、上目遣いで見るロリン。
「どうした。飴でも欲しいのか?」
「い、いえっ。なんでもかんでも」
「……?」
何かを言いたそうに、モジモジしているロリンの様子に。
(もしや)
「俺のサインが欲しいとか」
(はは、なんて……)
「どうしてわかったのっ。すごーいっ。さすがですっ」
「うそ。まじ」
適当に言った予測が当たっていたことに、クライスは戦慄。
(おおおお。俺の時代来たー?)
思わずフィーバータイムに突入しそうになるマサル君は、飛び上がりたくなる気持ちを必死に抑えた。
「まいったな……ペンを持っていない。ふふ。まいったな」
いきなり波に乗り始める。
とてつもなくサーファーである。
(今日の波は一段と高い)
あの遠い青空にまで届きそうな、凄まじいハイジャンプ。
を、心の中で行う。
(うほおい)
■クライス有頂天!!■
「クライスさんを大会で見て……なんて格好いいんだろうって……。心掴まれちゃいました!」
「はは、そうか。はは」
「今でなくていいので、いつか村にサインを貰いにいっても良いですか!?」
「ノープロブレム」
満面の笑みはどこまでも輝く。
さっきまでの変質者ムーブは忘れたようだ。
●■▲
■クライスの気分は最高だ!■
「ふんふんふーん」
鼻歌を歌いながらご機嫌で登山を行っている男が一人。
「今日は良い天気だなー」
ずんずんと進む足取りは木の葉の様に軽やかで、迫る困難なんのその。
「キノコ~♪ は~♪」
目当てのものを見つける為、木々を通り抜けどんどん進んでいく。
「♪」
「あ」
クマに囲まれていた。
いつの間にか。
「ばたん」
いきなり倒れるクライス氏。
「ドキドキ」
どきどきしながらクマ集団の出方を伺う、最強系主人公マサル。
昔、テレビで見た気がする対処法……逆効果であることに気づかない。
(つい反射的にッ)
クマたちの出方を伺う。
(どきどきどき)
■クライスの運命や如何に■
●■▲
「……」
「でさー、そいつが言うのよ! そのやり方は間違ってるって!」
「そうなんですか。大変だ」
「だろだろ! 話分かる人間だわー! お前!」
「……」
クライスはクマと一緒に酒を飲んでいた。
(なんで?)
木のコップを持ちながら、呆然中。
「この前、木を引っ掻いていたらさー。爪が欠けちゃって」
「気を付けろよー。時々、めっちゃ固い木あるよな!」
「あるあるー!」
山の洞窟内で、クマに囲まれながら酒を一飲み。
(こわっ)
ランタンの光がクマに恐怖を+する。
びくびくしながら、彼は恐怖の一時を過ごした。
■……そして別れの時■
「あばよ兄弟! また会おうぜ!」
「風邪ひくなよ!」
「達者でな!」
熊たちに見送られながら、ワーク山を後にする。
もう絶対会いたくないと思いまくったクライスであった。
●■▲
「……」
背負ったものを下ろすのは、まだ早いと帰路を歩き。
めちゃくちゃ疲れたことで、若干後悔気分が強まっている。
「おや……戻ってきたね」
夕刻に集会所に辿り着いた。
出入口の自動ドアが開き、ジャックが彼を出迎える。
「なんだこれ」
「いや本当。なんですか背中のそれっ」
大きく膨らんだ緑の袋を背負ったクライスが、悟りを開いた表情で立っていた。
■キノコを無事渡し■
■家へと帰還する■
●■▲
「うーん……勇士様……小さい……」
段ボールハウスから聞こえる寝言。
それは当然のごとくスルーし、クライス帰宅。
「ただいま……」
「あ、おかえりなさいクライス様。遅かったですね……あれ?」
「キノコだよ。これ。山のクマさんにもらった」
「??」
自宅前の花壇に水をやっていたサーシャは、さっぱり状況が分からない。
■サーシャ宅の居間・夜■
■山で起きたことを、サーシャとジャスミンに話すクライス■
「不思議な話ですね」
「こわい話じゃない?」
「それで、今日の夕飯はそのキノコなの。大丈夫でしょうね? まさか怪しげな効果とかあるんじゃ……!! この変態……!!」
サーシャ宅に集ったお馴染みの三人。
「お前は毎回いるな」
「サーシャが心配だもの。当分の間は泊まるわよ!」
「警戒されすぎだろう……」
キッチンから聞こえる食材を切る音を耳にしながら、クライスとジャスミンはテーブルに着き、向かい合って座っていた。
ジャスミンの服装は、寒くなってきたため少し厚着になっている。
「じー」
「凝視やめい」
「じー」
「くっ」
「はぁ……分かってるわよ」
「え?」
ジャスミンは警戒の視線を緩め、ため息を吐いた。
「これでも少しは認めたのよ。あんたのこと」
「……」
「大会の時にサーシャを助けてくれたりとか……みんなにも色々話を聞いて。……その、すこし強く疑いすぎたかなって。思ったり……」
少し肩の力を抜いた風のジャスミンが、言う。
もうしわけなさそうな表情を見せる彼女に、クライスは新鮮だと思った。いつもそうなら普通に可愛いと思えるのにとも少し思ったが、それはそれで気持ち悪いかもしれんと、ぶっとばされそうなことを考える。
「まあでも、完全に信用したわけではないから……妙な真似したら評価は逆戻りよ!」
「はいはい」
微笑を漏らし合うクライスとジャスミン。
最初のころにあった険悪な空気が、今はそれなりに改善されているように思える。
(なんだかんだで馴染んできてるな……)
彼は笑みを深め、夕飯の匂いを嗅ぎ取った。
「いい匂いね! テンション上がってきた!」
「本当だな……」
■平穏な一時■
●■▲
「あーッ!?」
「どうした!?」
「あの美味しそうな……じゃなくて、いい奴な人間に渡したキノコ……」
ワーク山のクマ洞窟内で、クマは気付く。
「人間が食ったら危険なやつが混ざってた! いっけねー!」
「あーやっちまったな、お前」
「「許してクマー!!」」