色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「おお……美味いなっ」
いつもと変わらない夕飯時。
四本足の木製椅子に腰かけ、とれたてキノコを使ったスープを飲むクライス。
「ふ、優雅」
スプーンから流し込まれるそれは、喉を通り、胃を満たし、心までも侵食していくかのようだ。
サーシャとジャスミンも、なごやかな笑みを浮かべながら食事を楽しんでいる。
やはりこういう一時こそが、彼の一番好きな時間なのかもしれなかった。
(あのクマ達、なかなかいいもんくれるじゃないか)
口元を綻ばせ、クライスはスープの隣にあるパンを……。
「あっ」
「あっ」
■その時、暖かな感触が伝わった■
(重なった手は、いやされるかのようにポカポカ)
まるで彼の心まで癒して溶かしていくかのような、素晴らしい心地。
クライスとサーシャの手が重なり、二人とも一時停止している。なんだこのラブコメはとか、思っても口には出さない。
「すまないっ」
「こ、こちらこそ」
サーシャと目が合い、慌てて視線を逸らす。
「……っ」
「……っ」
高鳴る心臓はロマンスの気配。
(俺はどうしてしまったんだ……っ)
クライスは己の心臓を押さえ、スプーンをテーブル上に落とした。
まるで自分が自分でないかのような感覚。
「はっ」
対面に座るサーシャも同様に、様子が変だった。
赤い顔で、彼を見つめている。
「……」
「……」
見つめ合う二人は、奈落の底に落下していく白鳥のよう。
(俺は……彼女の青い瞳に囚われてしまったっ)
目を離すことも出来ず、二人は自分たちだけの空間へと。
「なにイチャイチャしてるのよっ」
お邪魔虫が邪魔をする。
クライスは、ジャスミンに「またお前か」という風な視線を向ける。
「じゃ、ジャスミン!」
「人の目の前でまったく……っ」
サーシャの隣に座る彼女、ジャスミンは二人を見て、不満げな態度を強めた。
「い、いや。こ、これはっ」
「あたしも混ぜなさいよっ! ばか! さびしいじゃない!!」
「え?」
「え?」
ジャスミンの発言に、クライスとサーシャは驚く。
まるでイメージにないことを言うので、虚を突かれてずっこけそうになる両者。
「なにをいっている?」
「だから! あたしもそのバラ色空間に混ぜてって言ってんの! ばかー!」
「……」
クライスの思考は。「こいつ、こんなこと言うキャラだったか?」で埋まる。
「いや……」
そもそも「俺、こんな展開に容易く入るようなモテ男だったか?」。
(なにかがオカシイ、この異常の原因はっ)
原因究明の為に動き出すクライス。
(スープ)
0・1秒で見つかった。
(あのクマ野郎どもぉおおおお)
まさかの展開に、彼は頭を抱えるしかない。
自分が持ってきたキノコ原因とか、胃が痛くなるような事態だ。
「そ、それでサーシャ! クライスのことが好きなの!?」
「え、えええっ!?」
「さっきの反応はまさにそれでしょう! ね!」
いきなりスタートした恋バナ。
ジャスミンの顔は仄かに赤い。
「これは……」
息も妙に乱れているように見えるし、どう見ても普通ではない。
(ハイテンションになってしまう効果かッ)
しかしその割には、クライスは大してテンション上がっていないのだ。
「むしろ……っ」
彼にはむしろ。
「はあああ……悲しい……」
大きなため息を吐いて、机に突っ伏してしまうクライス。
「なんで俺は……いつもこんな風に乱れに襲われてしまうのだろう?」
涙を流しながら、めそめそと愚痴を吐き続ける。
自分でもよく分からない行動だ。
「あああ……やってらんねーなー」
顔を上げ、手元に置いてあるコップを口に運ぶ。
ただの水であるが、やたらと酒飲み的な雰囲気を出す。
「ごくごく……はぁああ……世知辛いぜ、世の中は……」
飲み干し、再び突っ伏す。
「アニメを見ようにも、村までは電波が届かないって言うしさー……はーあ、なんとかゼニゼニタウンでコミックとかは手に入ったけど……コンビニに仕入れてくれるよう希望はしたけどさぁ……」
どんどんと流れ出す負の言葉。
なんともみみっちい姿である。
ほとんどのグチが、オタクライフを十全に遅れないことに対するものであった。
「カメ朗の奴もさあ……エロ本レンタル100ペルって……。まったくさぁ……」
彼はいつもよりローテンション。
というか悲観に暮れている。
このまま動けなくなりそうな勢いで、悲壮感を放出しまくる。
「ああ~……怠惰の国に行きてー」
「あたしの好みはね!」
「前も聞いたよジャスミン」
「え、そうだっけ? あっはっは! まいったなあ!!」
「……クライス様」
テンション高いジャスミンと、逆のクライスを呆けた目で見ているサーシャ。
「ううう……俺なんて……!」
様々な効果は、多彩なキノコのせいである。
「クライス様」
「は?」
突如、クライスの左腕に押し付けられる感触。
「泣かないでください……」
「さ、サーシャちゃん」
柔らかいその感触は。
(シャツ越しに当たってるっ、ダブルマウンテンがっ)
■色々とやばい状況に、混乱中のクライス■
「な、なにを……」
「クライス様、私……」
「ごくり」
唾を飲むクライス君は、女性経験が少ない。いや皆無と言ってもいい。
そんな彼が、こんなに積極的に迫られたらこうなるのは必然。
(大きさは普通、だがしかしっ。ってなにを考えている俺ッ。そんな欲望に直球などこぞのカメじゃあるまいしっ)
童貞には強すぎる刺激に、眩暈がしそうになる男。
正直、このまま暴走するのだけは避けたいので、なんとか頑張っていた。
万が一にも間違いを起こしてはならない。
(落ちつけ。落ち着くんだっ)
「サーシャばっかりズルい!」
右腕からの不意打ちに、決壊する彼の平常心。
「なんッ」
柔らかいその感触は!
(貧ッ。圧倒的な貧ッ)
わりと失礼な評価を下すクライス。
「ジャスミンッ」
「ふふふ、そんなに動揺して……かわいい」
「ぐ、あっ」
両方から与えられる刺激に、クライスの意識は漂白寸前。
正直、どっかのカメのように純粋にはよろこべない状況であった。
なんとか自制心を保つので精一杯だ。
(しかもケモミミがッ。くそ、もふもふの誘惑っ)
よく見るとジャスミンにもケモミミが生えている。
クライスを襲うのはモフモフの誘惑も、である。
「なんのつもりだっ、二人共ッ」
「決まってるじゃない!」
「決まってますよね」
「うおお……!?」
両サイドから近付く顔。
「や、やめるんだ。いかんよ、それはッ」
慌てて二人を引き剥がそうとする彼だが。
「ぐっ」
思いの他、二人の怪力は強い。
「ふ、ふざけるな。俺の勇士スキルでっ」
勇士スキルを用い、ステータスを操作しようとする。
「屈しない。俺はッ」
桃のような香りが鼻に入った。
「……」
甘い吐息が。
「あああ。力が強すぎて。抵抗できないんだぜ」
早々に諦め、けしからん方向に行こうとするナマケモノ。
それはキノコのせいもあり。多分。
(しかたないじゃない。な、悪いのは俺じゃない。キノコさ)
己に対する言い訳は出来た!
(男だったら。甲斐性みせんかい)
やったぜマサル君!
(よし。レッツゴー)
踏み出す足に迷いはなく。
彼は新天地(ベッドシーン)へと駆けだした。
年齢制限なんて踏み越えろ!!
「……」
■そこで一瞬■
■正気に戻った時……二人は泣いちゃうかもなぁ……■
■そんなことを考えたクライス■
「――させるかッ」
誘惑を振り切り、男は走り出した。
「クライス様!」
「あんた!?」
向かう先は後方にある大きな窓。
「おおお」
カーテンを開き、窓を開け、闇に染まった外に向けて叫んだ。
「ヒナぁああ。来てくれッ」
「――お任せを……!」
どこで待機していたのか。
夜闇を裂き、現れたのは無職の勇士信者。
いきなり呼んでも即座に現れるのホラーだが、今は気にしていられないのだ。
なんかクライスが先日着ていたシャツを、彼女が右手に持ってる気がするが、気にしてはいられないのだ。
「俺を倒せ。止めるんだ。汚れた俺をッ」
「了解……!」
了解すんの早くね?
いつものクライスなら、そう言っていただろう。
「ダークサイドを討ち果たせーッ」
近所迷惑な叫びと共に。
「――アっ」
彼の股間に衝撃走る。
「……任務完了」
飛び立った暗殺者は、窓からクライス目掛けて蹴りを放ったのだ。
「ふ」
なにかが解放される感覚と共に、クライスは安堵の笑みを浮かべ。
「悪いな……重荷を背負わせて」
そのまま背中から倒れ、動かなくなった。
「安らかに……後は……」
男マサル。
最後の時。
「い、いやああああああ!?」
サーシャの叫びが夜の村に響いた。
夜闇はただ静かにゆれるのみ。
「ちょっとうるさいぞー。近所迷惑だー」
「あ、すいません。サメ男さん」
近くの家の窓から顔をのぞかせる、サメ男さん。
わりと冷静なサーシャは、ぺこりと頭を下げる。
さらにわりと彼女の動きはゆったりで、クライス放置気味。
●■▲
■それから時間経過……クライス・覚醒■
「……」
クライスが目を覚ましたのは、朝になってからだった。
「ここ、は」
ベッドの感触がある。
「俺の部屋か……」
彼の目には見知った天井。
「ふ……」
己の胸に宿る達成感を、クライスは確かに感じていた。
「勝ったな……」
勝ったのだ。
クライスは勝利したのだ。
「己自身に……」
辛く厳しい戦いだったが……その先にある安寧を手に入れた。
「起きるか……」
彼は余韻に浸りながら、体を起こそうとして。
「あれ」
起きない。
なにかが彼の体を重くし、ベッドに固定している。
あと、めちゃくちゃいい匂いがする。
「ていうか服着てない」
ていうか。ていうか。
「むにゃむにゃ……勇士様……大きい……」
似たような状態のヒナが彼のことをしっかりと抱きしめ——。
「うわあ、敗北してたあああああっ」
どう考えても事後シーン。なんでよりによって止めてくれた彼女が、とどめを刺しにきているんだ、うわああああ……という感じの叫びがクライスの口から発せられた。
自室で起きた悲鳴によって、サーシャとジャスミンが召喚。
結局ヒナと事後シーンなことはなかった。が、あらぬ誤解を受けて、クライスのゴールデンに更なるダメージが加わったとさ。
「先生。俺の尊厳は治りますか?」
「無理かもしれないな。覚悟はしてくれ」
その日、彼は診療所の枕を濡らした。