色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「いらっしゃいませー」
スローラ村西コマイヌ区・朝の【コンビニナイン】。
「……」
自動ドアを開けて入ってきたのは、黒Tシャツの男。
「……」
彼はお目当ての物を入手する為、ここにやってきた。
入口左にある棚に向かい。
「見つけた——今週の週刊少年ジャンパー……!」
彼は主人公っぽい剣を持った少年が表紙の、漫画雑誌を手に取った。
王道長期連載作品から邪道短期連載作品まで、あらゆるジャンルが詰まった雑誌だ。
少年の幻想が具現化したと言っても、過言ではないかもしれない。
「ふふふ、お目当てのものは見つかったようだな……」
「ああ、わざわざゼニゼニタウンに行かなくてすむ……」
「よろこんでもらえて何よりだ!」
漫画雑誌を手に取った、現在無職(二つの意味で)なクライス君と、黄緑のエプロンを着たコンビニ店員・馬のウマ太郎。
「こっちじゃあんまり需要ないかと思ったが……わりと買っていく人多くて驚いたぞ! ヒヒン!」
「少年漫画は男の夢だろ……? 当然だ……」
クライスは目を輝かせ、レジへと足を向けた。
「こちら一点で」
少し気の抜けたようなレジ打ち・カバのカバ美から商品袋を受け取り、意気揚々とコンビニを後にした。
「ふぅ、今日は動いたな……もう寝るか?」
■ナマケモノのHPゲージは常に赤い■
●■▲
「良い天気」
コンビニ前にて。
青空の下、背伸びをするナマケモノ。
「今日はどうグウ・タラするかなー」
相変わらず彼は無気力無職。
人生に込める熱意など欠片も存在しないと言わんばかりに、怠惰を満喫していた。
日差しを浴びながら、頭に残る疲労という負債を少しずつ解消していく。
「は~今日も俺は絶好調~。でもないー」
だらだらとした彼の一日が、新しく始まろうと——。
「うおおおおおおおおおおッ!! 遅れる遅れるッ!!」
したところで、コンビニ前方の大きな道から土煙を上げて。
「面接!! に!!」
大きな声を上げて。
「来ましたあああああああああああッ!!」
「なに」
熱血漢が前を通り過ぎ、コンビニへと突入した。
「おっと、自動ドア」
いや、突入する前に一時停止してから。
熱血漢の姿は店内に消える。
「なに」
クライスは少しだけうんざりした。
まさか大会で敵対したゴウトが、新しい村人として住むことになるとはと。
熱血漢オーラによって、なんだかリラックス気分を害された感あり。
●■▲
「はああ」
少しため息を吐きながら、帰宅途中のクライス君。
「また変なやつが村に来たな……」
クロネコ区にある、田んぼに挟まれた道でトボトボと歩く。
遠くの方で子供のはしゃぐ声が聞こえ、それは数秒後に周囲の静寂さに溶けていった。
「頼むから余計なトラブル持ってくるなよ……夏なのに……余計に暑苦しいっ」
なんとなくだが、それも望み薄だろうなと思う。
きっと、今あるような静けさが壊されてしまうのだろう。
クライスは微妙に恐怖していた。
「くそぉ……当分の間、引きこもろう」
引きこもりは最強の防御力を持つ人種である。
あらゆるストレスから守護される……かは、分からない。ジャスミンのような人種にとってはストレスだろうと思う。
「とりあえず、ジャンパーをゆっくり自室で読んで……飲み物は」
気を取り直して、彼は今後の自堕落ライフを構築。
(サーシャちゃんが仕事から戻ってきたら、モフモフしてもらおう)
完全に社会不適合者である。
そうですけどなにか?といわんばかりの態度がまた、それに拍車をかけていた。
もうすでに頭の中はモフモフでいっぱいだ。
(――それと、儀式場の調査も進めないとな。はぁ、めんどい)
●■▲
■……サーシャ宅・帰還■
「ふうぅ……」
自室のベッドに横になり、雑誌を広げるクライス。
(いい時間。真理のTIME)
何気にエアコンがあるので快適だ。
ニートであることを楽しむには、それなりの設備が必要なのではないか?
そんなことを哲学的に考えるクライスは、もう今日はこれ以上動きたくなくなっていた。
「おいおいおい。打ち切られそうじゃないかっ」
お気に入りの(日常系)漫画が打ち切りの危機にあることで、軽くショックを受ける。
あんまり評判はよろしくないかもしれない、そんな危機感はあった。
「なんてこったい。毎週アンケート出してるのに」
一人の力なんて無力なものだと涙。
「うう、頼むでホンマ」
一縷の望みを懸け、クライスはアンケートを出し続ける。
そういうところだけマメなのは、もはやお約束なのかもしれない。
「お、流石王道バトルは人気あるなぁ。掲載順位高っ」
基本的に漫画もゲームもアニメも日常系が好きな彼だが、王道バトルなども楽しめるのは少年心故か。
ゆっくりとした動きでページをめくっていく。
「これこれこれだよなー。やっぱり武器は格好良くないとー」
相変わらずの低いテンションだが、しっかり楽しんではいる。
「ははは」
「じー」
「は」
「……」
「じー」
「ジャスミン」
「なによ」
ドアの隙間からクライスをうかがう視線。
「こわい」
「そう」
「……」
「……」
(そうじゃないだろおおっ)
■……ジャスミンが部屋に入ってきた■
■変わらず、クライスに対して警戒を続けている■
「ふーん、あんたの読んでるそれ……ジャンパーよね」
「だが。なにか」
「別に……なんでもっ。ないわよフン」
何故か部屋に入ってきて、床に正座しているジャスミンの姿。
男性恐怖症はどうしたんだとか、聞きたくなってしまう状況。
(気まずい)
当然、読むのに集中できないクライス。
一応かわいいとは思っている女性が同じ部屋にいると、やはり男なので緊張してしまうところがあった。
また吹っ飛ばされるのではという恐怖の方が強いが。
「……ジャンパー好きなのか?」
「!」
ジャスミンはびくりと反応する。
「……あんたはどうなのよ」
「普通に好きだ」
「へえ……ほう……」
(へえほうってなんだよっ)
心の中で突っ込むクライス氏。
正直コミュ障なので、なかなか話題を切り出せない。
ジャスミンの方も妙に大人しい。
(しかし、よく見ると……)
ちらりと見ながら、クライスは率直な感想を抱く。
(本当にかわいいな)
フード付きのシャツと、半ズボン姿の彼女。
特に着飾っているというわけでもないが、美少女感は十分にある。
彼女が明るくチームを引っ張っている姿を見るだけで、ある種の美しさを感じたこともあった。
この性格さえ知らなければ、クライスもアイドルを応援するような気持ちになれたかもしれない。
「ジャスミンの仕事って……」
「前も言ったでしょう? ファイターよ」
「そのわりには、この前の大会に出なかったんだな」
「……あんたには関係ないでしょう」
そっけない態度で、ジャスミンは手元のジャンパーに目を落とす。
(やっぱ好きなんじゃん)
読み終わった雑誌を彼女に貸したクライスは、ベッドに顔を沈める。
■彼女の手の先が、少量のインクで黒くなっているのが見える■
■少し察するクライス君は空気を読める子■
「……好きな漫画なんだ?」
彼はふいに質問してみた。
「辻斬りサムライ・剣丸くん」
「王道だな。コミカル系の」
「悪い?」
「いいや。看板漫画の一つじゃないか。俺も読んでる」
「ほほう~。なかなかくわしそうね……」
少し食いつくジャスミン。
「語れる?」
その瞳がぎらりと光る。
「ある程度は」
そこから、二人の漫画談義が始まる!
「やっぱり、主人公の必殺技よ!」
「いやいや! 敵の技!」
「あの展開は読めなかったわっ」
「まったくだ。まさかアイツが……」
「あの作者は構図が神よ! ネットでも評判だし! 週刊漫画のクオリティではないわね!」
「俺的には――」
「あ、ジュースこぼした」
「わっ! 雑誌にかかる!」
■白熱のトークは数十分間続き■
「はあ……はあ……!」
「ふう……ふう……!」
汗を流しながら息を切らして、床に倒れる二人。
「やるじゃないっ、少し見直したわ」
「お前こそっ」
「ここまで語れるのは……なかなかいないわっ。この村屈指と言っても、過言ではないわね!」
「ふふふ」
なぜか青春の一ページのように、友情を深め合っている。
「暑いわねー。まったく、熱くなりすぎた……!」
「窓、開けるか」
クライスは立ち上がり、部屋の窓を全開にした。
「うーん、涼しい」
「……」
窓からはサメ男の家が見える。
「おっ、サメ男さん」
彼の視界に、台車を引くサメ男の姿。
「台車、野菜一杯載ってるな」
「ときどき、自分の畑で採れた野菜を配ったりしてるのよ。……いい人よね」
「なんでも屋っぽいな」
「実際そうね。色んな頼みごと引き受けるし。あたしも助けられる時あるわ」
「ほー」
ぼんやりと彼の様子を見るクライス。
やはりみんなに好かれているようで、怖がっているのが悪い気がしてきた。
「いい人。だよな?」
恐る恐るジャスミンに聞いてみる。
「……ええ」
「その間なに?」
●■▲
「――さあ、【灼円】VS【水神】の試合は、さらにヒートアップ!! どちらのチームが儀攻戦を制するか!?」
■リビングにあるテレビが、ある儀攻戦の試合を映し出す■
■それを、テーブルに着いて見ているジャスミンとクライス■
「強いのか? このチーム」
「ええ。どちらのチームも、プロの中でトップクラスなのは間違いないわ! 熱い!!」
「ふーん」
ジャスミンは試合に夢中で、クライスは対照的に冷めた目線で見ていた。前回の試合を終えても、やはりそこまで興味はないようだ。
クライスはちょっと眠そうな目で、適当にお菓子を食べている。
ただ、それなりに儀攻戦というものを知りたいとは思っていた。
「すごい派手」
「よね! 目が退屈しないわ!! さすがトップクラスの戦い!!」
ハイテンションで感想を口にするジャスミンの目には、様々な魔導がぶつかり合う激しい試合模様が在った。
赤と青が混ざり合い・黄色と緑が弾けて消える。
これこそが異世界競技・そう呼ぶにふさわしい光景。
「ほー」
「いけー!! そこよ!! ガンガン攻めないと!! 突進突進!!」
試合模様に比例してボルテージが上がりまくるジャスミンと、あまり変わらないテンションで一応それなりに見入っているクライス。
クライスの方に関していえば、試合内容よりもジャスミンの楽しそうな姿が印象的であった。
(無邪気というか、なんというか)
目を輝かせている少女の熱気のようなものが、ダイレクトに伝わってくる。
彼女のそういう部分は、普段生活している時や試合の時に見ることがあったが、いつもより堂々と楽しんでいるようにも見える。
「……」
「あ。得点チャンスよ!! きたこれ!!」
「ああ」
■画面の中で、全身鎧を着た選手数人が、式の柱へと接近していく■
■それを止めるための敵選手見当たらず、【水神】側の得点となりそうだ■
(動きが洗練されている。気がする)
■水神の選手たちは、いかにも重装歩兵な鈍重な動き■
■しかし、鋭い動きでゴールへと接近していく■
「あ」
■クライスの視界に・灼熱の線が走った■
■同時、鎧が砕け・重装兵たちが一斉に倒れる■
■その全員に、赤く燃えさかる矢が刺さっていた■
「今のは」
「……さすがね。【幻惑の灼円】の【幻想騎士】! あの防御を刺し貫くなんて!!」
「幻想騎士???」
「灼円のリーダーよ! 有名選手……ってアンタが知ってるわけないか。最強の守護者でもある、異世界競技のトッププレイヤーってやつね!」
「へえ」
「うぅ~。戦ってみたいわねー!!」
ジャスミンの闘争心が燃え上がっているところを見るに、すごい強力な選手であることは分かったクライス。
しかし、倒れた選手たちの近くにその姿はなく、基本的に飛び道具で戦うタイプなのだろうと思われた。
どこか遠くの狙撃POINTにいるのかなとか、彼は少し考える。
(鎧を砕く・炎の矢を。遠くからとは脅威)
自分でもあんな簡単には鎧を壊せないだろう、そんな異常な威力の炎攻撃を見て、クライスは銀髪の少女を思い出した。
今は一体なにをやっているのかなとか、ぼんやり思う。
「――試合終了ー!! 激闘を制したのは!! 結成から今年で3年目の強豪チーム!! 幻惑の灼円ー!!」
■実況の声が響き■
■クライスは勝敗に興味がないようで、つまらなそうにあくびをした■
「――ニュースです。イヤシノ地区で、有害な天然ガスが――立入禁止区域に――」
■儀攻戦が終わり、自室に戻る直前■
■ふと目に入ったニュースが、どうしてか彼の頭に残った■
●■▲
■それから少し時は経ち■
「……邪魔したわね! クライス!」
「ほんとそれな」
時刻は昼時。
思いの他話が弾んだ二人は、いい雰囲気を保っていた。
少しだけ・しかし着実に距離が縮まっている。それは気のせいではないのだろう。
「さーてと、今日も頑張らないと! ファイト!!」
意気揚々と立ち上がったジャスミンは、どうやらサーシャの部屋に戻るようだ。
その元気さは、クライスにとってまぶしくも感じるものであった。
(少しは距離が縮まったのかね)
クライスはそんなことを思い。
(乱れも起きず、穏やかに終わるなんて)
安堵した。
「あっ」
「えっ」
つるっと滑るジャスミンの裸足。
(ジュース——)
数時間前にクライスがジュースをこぼし、ピカピカに磨いた床によって、彼女はバランスを失ってしまう。
「!」
咄嗟に動いたクライスは、その両腕を——。
「……」
「危ないっ」
しっかりと両腕で彼女を受け止めたクライス。
背中から抱きしめる形。
(だがっ、ジャスミンは男性恐怖症的な何かっ)
この先の展開が読めてしまう。
(しっかりと胸の感触が——ラッキーなんとやらッ。うれしくないがッ)
右手から伝わるそれに、彼は硬直して。
「……ちょっと放して」
「え、あ、ああ」
思ったより静かな対応。
「すまん」
「……」
両腕を離し、ジャスミンは背を向けたまま動かない。
(あれ)
クライスは警戒しながら、身構え。
(俺は許されるのか?)
「――このド変態があああああああああッ!!」
わけはなかった。
「ぐうぶッ?」
叩き込まれる高速の連打。
顔を真っ赤にして涙目になりながら、彼女は猛攻突進止まりはしない。
「くたばれ! 倒れろ!」
「ごぶっ」
「最低! 変態! 無神経! 土下座しろおおおおおおお!!」
■すさまじいジャスミンの拳■
■それに、クライスはやはりと思った■
(ああ何で)
鉄拳の嵐の中で彼は悔しそう。
(いっつもこうなるんですのおおォッ)
縮まった距離が一気に戻っていく気がした。
●■▲
■……少し経過・夕方■
「おーい、クライスー! この前借りたコミック返しに来たぞー!」
カメ朗がサーシャ宅前で大声を上げる。
「ん?」
彼の目が、家右側の陰から覗く人の手を捉えた。
「クライス」
歩いて家の側面に接近するカメ朗。
「……」
壁にもたれかかるように座り、男はしょんぼりとしていた。
まるで覇気がない……のはいつも通り。
「ど、どうした」
「追い出された。今夜泊めてくれ」
「それは断る。野郎を泊める趣味はねェな」
■サーシャの説得で家に帰還■
■やはりサーシャちゃんしか勝たんとは、クライスの談■
●■▲
「だから! あの漫画のすごいところは! 世界観と設定の緻密さであって、ストーリーはそんなでもないのよ!」
「ふ、分かってないな。それは素人の意見だ」
それからも、時々ジャスミンとクライスの漫画談義が繰り広げられる。
なんだかんだで、彼等の距離はまじで縮まったようだ。
【この前はやり過ぎたわ。おわびも込めて、プレゼント】
(まあ、少しずつ)
彼の自室には、ちょんまげのサムライキャラの絵が描かれたマットが置かれている。
こんな対応、前の彼女なら絶対にありえなかっただろう。
(仲良くなれたらいい。かな?)
■後日談■
■Gペンを持ったクライスは、自室でジャスミンと共同作業■
■漫画を描いている彼女から、手伝ってほしいといわれて、めずらしく気力がすこしだけあったので承諾■
「違う!! そのトーンじゃない!!」
「へっ」
「ああもう! べた塗り過ぎ!!」
「はっ」
「もう!! だめ!! アウト!!」
「わああああっ」
ジャスミンの持ち込み原稿アシスタントを、一時務めたクライス氏。
自信喪失で部屋に引きこもる。