色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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赤き乱れ

「あああ、もう夕方かー。……今日なにやったっけ?」 

 

 気の抜けた声を発するナマケモノは、樹木公園のベンチで横になっていた。

 もうなにもする気力がなく、いつも通りにナマけている。

 彼のそばには、通りかかった村長が置いてくれた缶ジュースがあった。

 

【はは。なんだか、アナタに差し入れするのが楽しくなってきたよ】

 

【感謝】

 

【いいよ。ボクとしても、こんなに村でリラックスしてくれるのはうれしいからね……ふふ】

 

■村長は赤いスポーツウェアを着て、少し息を切らしていた■

■どうやらジョギング途中だったようだ■

 

【体を動かすのは気持ちいいよ。アナタも一緒にどうかな?】

 

【遠慮しときます】

 

【はは。そういうと思った】

 

■いつものように穏やかな、村長との会話■

■去っていく彼女の背中を見ながら、心がゆったりとしていることに安堵した■

 

「今日も今日とて穏やかにー」

 

 舞い落ちる木の葉を目で追いながら、彼は村の空気に浸る。

 こんな時間が、なにより大切なのかもしれない。

 この異世界に来てから、そう思うことばかりだ。

 

「一日の終わり……」

 

 夕焼けに照らされながらの睡眠は、とても心地よく。

 ただ漫然とすぎる時の中にいた。

 

「今日の夕飯なにかな~」

 

■そう、つぶやいた■

■ただ穏やかに■

 

●■▲

 

■帰路■

 

「……」

 

 田んぼ地帯を抜け、サーシャ宅に繋がる、草むらに囲まれた道を行くクライス。

 人の姿はなく、ただそこにあるのは静かな・大切な雰囲気だ。

 

「あー、ヒナのやつ……」

 

【ゼニゼニタウンで一稼ぎしてきます……ふふ……。あとで……なにか買ってあげましょう……か?】

 

「借金しても知らん」

 

 いや、もうすでにしている可能性も十分にある。

 なんでこんなに心配しなくてはならないのかと、若干うんざりしてる。

 俺はお父さんかと。

 

「……」

 

 一歩一歩歩いていく、その道。

 人によっては退屈すぎるものかも、しれない。

 

(踏みしめていく日々)

 

 視界の端で揺れる草や、何度も嗅いだ土の匂い。

 

(お、カブトムシ)

  

 目の前を横切るカブトムシを、自然と目で追った。

 

(普通のだな。トラ太の望みではない)

 

 そんな日常の何気ない一コマ。

 

(歩んでいく日常)

 

 夕焼けで滲んでいく光景の中で、クライスは。

 

(今、この時ある)

 

 大事な何かを噛みしめた。

 

【いつか見たような——】

 

●■▲

 

「あっ、帰ってきましたね。クライス様」

 

 サーシャ宅リビング。

 敬愛する勇士の帰還に、尻尾を揺らしながら立ち上がるサーシャ。

 ソファーに寝転がるジャスミンが、少し眠そうな目をこすって立つ。

 

「あたしが出る?」

 

「大丈夫っ」

 

 サーシャは明るいステップを踏みながら、自身の敬愛する者を迎える。

 彼女の尻尾はすごい勢いで振られ、その好意のほどがうかがえた。

 

(まあまあ、そんなに嬉しそうに)

 

 ジャスミンは、居間から出ていく親友の背中を見送った。

 扉の丸い窓ガラス越しでも、彼女のうきうきとした心の動きは感じ取れた。

 彼女としては複雑な気持ちもあるが、最近は意外とサーシャの気持ちを肯定できるようになっていた。

 

「今、開けます!」

 

 サーシャの手がドアを開け、クライスの一日は終わった。

 しかし、ドアの先に立っていたのは彼ではない。

 

「――おはよう。こんにちは。こんばんは」

 

●■▲

 

 村の南西、スローラ草原にて。

 盗賊たちは……。

 

「ううぐ……」

 

 散乱した武器の破片が飛び散った赤と混ざり、盗賊たちの敗北を彩る。

 倒れた彼らは動けない。

 

「な、なんだ一体……やつらッ」

 

■いまだかつて、感じたことのないような痛み■

■それを与えた異質なる者たちは、次の標的の下に向かった■

 

●■▲

 

■それでは――役を変えよう■

 

「え?」

 

 サーシャの眼前にいるのは少女。

 とてつもなくおぞましい気配を発する、怪物。

 

「しけた村ね――壊してしまいたくなる」

 

■赤い衣を纏った・乱れがそこに■

 

●■▲

 

■クライスの目に、不可解な歪みが見えた■

 

「……ぐ、おッ!?」

 

 サーシャ宅までもう少しというところで、立ち眩みのようなものを起こす。

 頭を鈍器で殴られたかのような、いびつな衝撃が走った。

 

(なんだっ、この感覚はっ)

 

 なんとか体勢を整え、ぶれる視界を元に戻した。

 

「くそ、なにが……?」

 

 頭を振り、両足を再び動かそうと前に――。

 

【×××うざいよな】

【あいつぶっ殺したいぜ】

【ねえ、あの人ってさあ……】

 

「うッ!?」

 

【あのクソ上司!!】

【まったく! あの野郎!】

【裏切りやがった!! 信じてたのに!!】

 

(声が・耳障りな・乱れが)

 

 マサルの脳内で連鎖する声の嵐。

 

(脳を・乱・こわしていく)

 

 それは彼にとって、あらゆる苦痛を上乗せして、一気にぶつけられる程の苦しみ。

 

(あああ・耳で・後ろで・前で)

 

 到底耐えられる筈はなく、頭を掻き毟りながら絶叫する。

 

(さわぐな・さわぐな・やめてくれ)

 

【クソが嫌だ断る辞めたい許せない駄目だ出来ない無理だ無茶だ理不尽だ不条理だ死にたい殺したい自殺陰口嫉妬裏切り罵り罵倒失敗敗北・乱れが――絶え間なく】

 

「アああアッ!?」

 

●■▲

 

■その頃、村人たちは■

 

「な、なんだよ!? こいつらー!?」

 

■コマイヌ区・砂利道にて■

 

 カメ朗は必死に走っていた。

 裸足で、背後から迫る者達から逃げている。

 それらは、彼が遭遇したことのない異質を持っていた。

 

「も、モンスター!? 見たこともない……っていうか気色悪いぞ! なんか!?」

 

「――」

 

 無言でカメ朗を追いかけているモンスター(?)は、異様に生々しい外見を持っていた。

 世界の外から来たかのような、禍々しい外見は恐怖を想起させる。

 

「気持ち悪い! 血管浮いてる!?」

 

 簡単に言えば、皮を剥がれた人間。

 透けた肉の影響で、鼓動を刻む心臓(?)がよく見える。

 

「うわあああああ!! おれこういうの苦手なんだってー!!」

 

●■▲

 

■中央区・集会所近く■

 

「く! 私の秘密兵器がまるで通じない!?」

 

 焦るジャックは、迫りくる異質なモンスター達から逃げようとする。

 あまり体力には自信がないが、とにかくまともに相手をするわけにはいかない。

 手に持った大きな改造水鉄砲を手放して、逃走を開始する。

 

「こ、こんな状況……いやしかしまだっ」

 

●■▲

 

■スローラ村に悲鳴が広がる■

 

「こっちだ! 早く!!」

 

「そ、そんな!?」

 

「モンスターが村に来るなんて!?」

 

「というか、あれはモンスターなのか!?」

 

■誰もかれもが逃げるしかない■

■ただただ無力で■

 

「――みんな、ボクの後ろに下がって」

 

■というわけもなく■

 

「すぐ片付けるから・ね」

 

 殲滅は一瞬だった。

 その戦乙女の拳は、嵐のごとき暴威をともなって連続駆動し、迫りくるモンスター十数体を殴り飛ばす。

 その一撃を受けた異質な怪物たちは、なすすべなく消滅していった。

 

「……ふぅ、久しぶりだなぁ。これを装着して戦うの」

 

■彼女の拳を覆うのは■

■漆黒に染まりし手甲・怪物殺しの破壊神■

 

「そ、村長! ああ……!」

 

「た、たすかったぁ……っ」

 

「お、俺たちどうすればッ。村長っ」

 

 土煙の中に立つ戦乙女に、助けを求める者たち。

 村人たちがすがるのは、このスローラ村の村長だ。

 彼女は黒いシャツと、スリットの入った白いロングスカートを身にまとい、いつもとは違う感情を顔に映す。

 それは怒りと呼ばれる感情で間違いない。だが、村人たちを安心させるために穏やかさで即座に塗りつぶす。

 

「……とにかく、戦えない村人を守らないと。ここはまかせるね」

 

「はい。村長。お気をつけて」

 

「うん。アナタもね」

 

■村長は、そばに立つ屈強な男性に避難誘導をまかせると■

■この異常の原因をすべて排除すべく、鬼気迫る勢いで走り出した■

■夕焼けは、さらに陰りを増していく■

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