色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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乱れの準備

「はぁア……。意外としぶといわね。この村の住民」

 

■村の中のある広場にて■

■赤い衣をまとった少女が、薄暗くなってきた景色を見ている■

 

「この拉致った女はどうするんスか? 始末する?」

 

「ばかね。うまく利用するに決まっているでしょう? 準備しなさい」

 

「は~い」

 

 少女のそばにいる体格のいい男が、なにかが入った大きな袋を俵担ぎしている。

 袋は小刻みにゆれていて、たしかな命の鳴動を伝えてくるようだ。

 

「さて・さっさとフィールドを作成しないとネ。邪魔者が入らない内に」

 

 少女はステップを踏みながら、広場の中央にある黒い円柱を見遣る。

 それは元々あったものではない。

 彼女たちがこの村に持ちこんだ、異質な気配を放つ・しかしてどこかなじみのある物質。

 

「ふフ……。うまくいくかしらぁ?」

 

■邪悪な笑みをさらに強め■

■少女は、広場の石畳の上で軽快にステップを踏む■

 

「ああ――はやく・はやくめちゃくちゃにしたイ」

 

■狂気の渦が・ぐるぐると■

 

「させないよ。早急に出ていってくれ」

 

■破壊の拳が、少女に襲いかかる■

 

「うおっ!??」

 

 放たれた拳から少女を守るように、お付きの男……マルコがそれを受け止めた。

 同時に響くすさまじい衝撃音。

 マルコは顔をしかめ、少しだけ後退する。

 

「ぐ……ッ。なんつー重さッ。なんスかこの女!?」

 

「多分この村の長ね。強いわよ」

 

「分かってるつーの! 今の一撃だけでやばいって!!」

 

 村長の一撃は、敵に対する威圧には十分すぎる効果を発揮したようだ。

 マルコは冷や汗を流し、赤き少女は目を細めて警戒を強めている。

 村長は両者を力強い瞳で見据え、必殺の気迫をもって両拳を構えていた。

 

「……ふフ。【怪物殺し】が本業じゃなかったのかしら? こんなか弱い少女相手に本気出す?」

 

「面白い冗談だね。まるで手を抜く気にならないよ」

 

「――正解よ。それ」

 

■少女は口が裂けるかのように■

■邪悪な笑みを・深く・深く・強めた■

 

「強いだけじゃだめなのよネ。【わたしたち】ハ」

 

●■▲

 

■村人たちは、異質な怪物たちからなんとか逃げきれていた■

 

「うおお!! ちくしょー!! こわいんですけどー!!」

 

「うるさい! みんな怖いんだよ!」

 

■村の一角で、カメ朗とフジ丸がモンスター相手に奮闘している■

■彼らのように応戦している村人の存在が、モンスターたちを押しとどめていた■

 

「あー。これはちょっとまずいかぁ」

 

「さ、サメ男さん!! 後ろ!!」

 

「んん?」

 

 また違う一角では、サメ男が草むらの中心で奮闘。

 背後から迫るモンスター群を、裏拳一発で吹き飛ばしていた。

 

「あぁ。やっぱ、こりゃあなまっているなぁ。まずいまずい」

 

「お、おう。そうかい」

 

■村の強者たちは、【乱れ】を前に戦っている■

■その精神に、正体不明のなにかを響かせながら■

 

「――うん~? これは一体どういう了見でしょうかぁ?」

 

 村に一つだけ存在する神社の境内。

 そこでは、村の中でも比較的多くのモンスターが集っていた。その様は、まるでこの世の地獄のようでもあり、人によっては精神に異常をきたしかねない。

 だがしかし。

 

「思わず全部斬り捨ててしまいましたが、まさか【乱れ】ってやつでしょうかね」

 

■怪物はすべて斬り倒されていた■

■その中心に立つ、黒長髪の巫女によって■

 

「……まあなんにせよ、やることは決まっていますが」

 

■村人たちは負けていなかった■

■それぞれが助け合い、乱れに抗っている■

 

「そ、村長ならっ。大丈夫だ!!」

 

「そうだ! あの人ならっ。かつて【ファンブルナイト】に近い実力を持っていた、モンスター狩りのプロだ!!」

 

●■▲

 

■中央区・半月広場■

■一つの戦いが終わった■

 

「……うっ」

 

 色違いの石畳によって様々な月の形が描かれている、村の中央にあるこの広場で。

 どさりと倒れこむ影。

 

「――なかなかね。手こずったわ。本調子だったら、2人がかりでも負けていたかも」

 

「く……!」

 

 三日月模様の上に倒れ伏しているのは、この村の村長。

 村の侵入者を察知して、いち早く迎撃に向かったが敗北した。

 彼女はあまりの悔しさと情けなさに歯ぎしりし、普段からは想像できないほどに顔を歪めている。

 

「ボクは……! なんて……!! うぁ……!!」

 

 村長が着ている上着は背中部分が大きく裂かれ、血が滲んでいる。

 赤き少女とマルコもそれなりに怪我を負っていて、その激闘のほどがうかがえた。

 

「残念……お前はなにも守れず終わるわ」

 

「村人たちに……手を出さないで……! お願い……やめて……!!」

 

「却下よ。本当残念ね」

 

 村長を見下ろす少女は、赤い瞳と長髪を夕陽によって更に深く染めていた。

 この世界ではありえないような、異物の気配を持っている。

 

「全員、始末する予定だけど……まあ、少し楽しみましょうか?」

 

 身にまとう衣服も同じく赤・膝丈ほどのワンピース。

 胸元部分の薔薇が、特に真紅を彩る。

 

「――【処刑】は順番にね。最初は、あの女」

 

 悪辣な笑みを浮かべ・混沌を引き連れた少女は、村を支配した。

 

「でも、まだ邪魔はいるよう?」

 

 少女・キルシュの目が、広場の端に向かう。

 そこには新たな挑戦者。

 

「おおおおおおおお!! 許さんぞ!! 絶対に!!」

 

 暑苦しい声の持ち主が、キルシュに向かって突っこんでくる。

 

「お前が黒幕だな!! オレの勘が言っている!!」

 

「あら、結構好み」

 

 ゴウトの姿を見た彼女は、少しうれしそうに笑い。

 その殺意を彼に向けた。

 邪悪な笑みはいまだに健在。

 

「――笑う余裕があるのか」

 

「あ?」

 

 ばっさりと、胴体を二つに裂かれた少女。

 それは大きな戦斧によるものだ。

 戦斧を持った男性は、新入りである勇士ジン。昔からの村の住民ではないが、その両目にはたしかな怒りがあった。

 

「オレも少し怒っている。格好はつかないが、不意打ちで倒させてもらった」

 

 

 

「噛ませ犬っぽいわね。お前」

 

「な……!?」

 

 ジンは驚愕する。

 地面に転がった敵の胴体が、余裕綽々な態度で話しかけてきたからだ。

 

「服、やぶれた……お気に入りなのよ? これ」

 

 何事もなかったかのように、キルシュの上半身が浮かぶ。

 血も痛みもない。ダメージなど皆無で、その様にジンとゴウトは戦慄する。

 彼らがここに来る前に戦ってきたモンスターよりも、さらに異常な存在に思えた。

 

「化け物がッ。妖怪かなにかか!?」

 

「そうよ。噛ませ犬には不釣り合い。お前の相手は――」

 

「疾風◆踏破!!」

 

「!?」

 

 横合いからの拳によって、ジンは吹き飛ばされる。

 

「お、防いだか。それなりにやるザコだな」

 

「ッ。新手!」

 

 ジンを吹き飛ばしたアンダーシャツの大男は、どっしりと構えていた。

 その体格のよさから、パワーファイターであることは容易に想像できる。

 

「マルコ。お願い」

 

「へいへい。まあ、この程度のステータスなら楽勝」

 

 茶色い髪をかきながら、肩幅の広い威圧的な体格を見せつけ、マルコは戦闘態勢に入る。

 キルシュほどではないが、彼もまたモンスター以上の禍々しいなにかを放っていた。

 

「あっちの暑苦しいのも・ついでにね。わたしは少しやることがあるの」

 

 二対一でも負けないという彼女の言葉に、ジンはニヒルに笑って敵意をあらわにした。

 彼は前の試合以降、それなりの修業は積んできている。あの時よりは格段に強くなった。

 

「フン、舐められたものだ……!」

 

 彼は戦斧の柄を握り、マルコに攻撃を仕掛ける。

 ゴウトも同様に突進をしかけた。

 

「おおおおお!! 熱血ー!!」

 

■ぶつかり合う戦士たち■

■それを眺める赤き乱れは、冷酷な笑みを深めながら言う■

 

「さあ・始めましょうか。この島で大昔に生まれたと聞いた――儀攻戦とやらを」

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