色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「はい注目―。これより儀攻戦をはじめまーす」
■気の抜けた少女の声が、多くの村人の頭に響いた■
■混乱している彼らに構わず、彼女は話を進めていく■
「ルールは説明しなくていいわよね? 大人気なんだし。とりあえず……式の柱はこっちで用意したわ。全部の柱を解放して、半月広場にある景品を儀攻戦の制限時間内にGET。すればそっちの勝ち」
■淡々と・どこか気だるげにキルシュは言う■
「そっちが勝ったら・大人しく村から出ていってあげる。――負けたら全部壊す」
■だが。彼女はどこまでいっても乱れだった■
「じゃあ・せいぜい頑張ることね」
●■▲
「くそ! なんだったんださっきのは!?」
「分からねぇ! このおれ、カメ朗さまの頭脳をもってしても!」
「……とにかく、全部の柱を解放するしかないか。そうしないと、村の外に出ることすらできない。……もし負けたら、敵がどんな手段に出るかも分からないしな」
■カメ朗とフジ丸■
■彼らは、コマイヌ区の空き地でモンスターたちと抗戦していた■
「あー、村の周囲も半月広場も、結界で立ち入り禁止ってか。本当にそれで結界が解除されんのかよ! あんなやつらの言うこと真に受けて!」
「そう信じるしかないだろ! 実際に、式の柱を一つ解放したら結界は揺らいだ!」
「ぬぬぬ……! なんなんだよこの状況は! なぜか限定魔導は使えるようになってるし! 本当に儀攻戦のようじゃないか!」
「そのおかげで柱とゴールの位置も分かるがなっ。……カメ朗! くるぞ!!」
「!!」
異形モンスター四体が、カメ朗たちに攻撃をしかけてくる。
それを彼らは、儀攻戦でおなじみの大きい盾を用いて、正面から完全に防ぎ切った。
そこそこの衝撃が二人の体を貫くが、決して対応できないレベルではない。
「うおっ。……こいつら、数だけはなかなかのもんじゃないかよ! だがぁ! このカメ朗さまの敵ではないぃ!!」
■カメ朗の盾が、モンスターを弾き飛ばす■
「うおっしゃああ!! この調子でゴールだ!!」
■彼の目には、しっかりと式の柱らしき物体が見えている■
■その周囲では、他の村人たちも戦っていた■
「くそっ。どっちかというと、攻めるより守るほうが得意なんだがなっ。【守衛】ってやつは!」
「ははは! 職業なんて関係ないぜ! 圧倒的な才能がおれにはある!!」
就職者としての職業・守りが得意な【守衛】である二人は、いまいち実力を発揮できずに攻めあぐねていた。
こうなってくると、火力を持った選手がどうしても必要になってくる。
「しかし、ここは間違いなくゴールできる……!」
■ある不安を抱えながら、フジ丸は言った■
●■▲
「おおぉ。こりゃあ~。やっかいやっかい」
■草むらの中に立つ、式の柱■
■サメ男を主力としたチームが、それを攻略している■
「なんだこいつ!? 新種か!?」
「サメ男さん! 大丈夫か!?」
サメ男が蹴散らしたザコモンスターよりも体格のいい、あきらかに新種のモンスターが、彼らの前に立ちふさがる。
それは強力な拳を放ち、サメ男に攻撃をしかけるのだった。
「なんのっ」
正面から拳を受け止めるサメ男。
少し後ずさりしたが、彼のパワーは決してモンスターに負けていない。
しかし、それとは逆に発生する感情。
「むぅ。これは……」
■サメ男は顔をしかめ、ある不安を抱いた■
●■▲
「このままでは……! まずいッ」
■各地で奮闘する村人たち■
■彼らは、なんとか戦えてはいた■
■が■
「なんなんだ……この! いやな気配はッ」
■彼らの精神を蝕む、正体不明ななにかがあった■
■それによって、パフォーマンスが刻一刻と低下していく■
「それに……! この状況は……!!」
■さらに■
■彼らの不安を強める要素があった■
「【数】が多すぎる……!!」
■村にある式の柱・その総数【30以上】■
■あきらかに、現在の村の戦力では制限時間内に間に合わない■
「クライス……!!」
「クライスさんッ」
■村人の頭をよぎる存在■
■しかし、彼はいまだに現れない■
「フ・ふふ。待ち遠しいわね」
■この混沌を生んだキルシュは、大きな鎌を持ち■
■その刃を、磔にされた少女……ジャスミンの首筋に当てた■
「負けたら処刑・その首を飾り・さらしてあげル」
●■▲
■無職の勇士は?■
「あああ、あッッ」
不安と焦燥が広がる村の一角。
彼もまた、乱れの気配に蝕まれていた。誰よりもそれに呑まれ、苦痛を強く感じている。
(頭が――割れる――あ)
マサルは頭を抱えながら、地面にうずくまっている。
(ぐちゃぐちゃだ――何もかも――)
不安感・焦燥感・絶望感・孤独感・空虚感……あらゆる負の感情が脳内を占拠し、彼の精神を壊していく。
まるで抗えない。
立てない・動くことができない。吐き気がする。
【どこにある?・どこにあった?・そんなものが?】
【なにもなかった・すべてなくなった】
(寒い――苦しい――現実――)
忘れかけていた何かが・一気に流れ込み。
(どうしようもない――混沌――)
マサルはただ震え、涙を流し、苦悶に飲まれるしかなく。
(これなら――もう)
【あいつは無能だあれが気に入らないだから嫌いどうしてそうなる上司に逆らうな注意して歩け邪魔だあのクソ死んだ目で本当にどうしようもない会社辞めようかなどろどろとした人間関係ぎすぎすストレス息苦しい何もかも――うんざりだ】
(目を閉じて――耳を塞いで――引きこもろう――)
世界は閉じ。
心は折れて。
彼は人生を放棄した。
「――」
「――ア?」
寒くて寒くて、どうしようもなかった彼の体が。
「……クライス様」
不思議な温かさに包まれていく。
いつも通りのやさしさで。
日常と変わらぬ穏やかさで。
だからこそ、それはマサルの心を支える力だった。
(これは……ああ――これは――)
頭に渦巻いていた気持ちの悪い感情が解け、あったはずの平穏の欠片を取り戻す。
どうしていいか分からない不安の中、変わらない言葉で未来を示してくれるかのように。
ただ、それだけでよかった。
「……」
彼の表情に、安らぎが戻った。
「――大丈夫ですよ」
ぼんやりと、誰かに抱きしめられている感覚。どこまでも優しい抱擁。
息苦しさが消えていく。
その目に光が満ちて。
(君か――そうか――君なのか……サーシャ――)
安らぎの光に包まれながら、涙の意味が変わっていく。
寒さはもうない。
ただひたすらに、彼女がいてくれることに安堵していた。