色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
嵐のような心が静まって。
(静かな水面に立つ)
その静かさは俺の心を投影したもの。
(さっきまでの五月蠅さが嘘のようだ)
おとずれた癒しの光によって、鬱陶しいノイズは消えてくれた。
(本当に……尊い光だった)
感謝の想いを強く抱き、同時にある想いも強まる。
(……行かないと。早く)
まだ休んでいたいが、いつまでも安寧に浸っているわけには行かない。
(――この先の安寧を手にするため)
俺は戦うんだ。
●■▲
「……」
「クライス様っ!?」
「聞こえてるよ、サーシャちゃん」
クライスは覚醒し、意識を急速に整える。
気だるい感じは残っているが、いつも通りといえばいつも通りだ。
(君の声は、本当に心地よく響くな)
肉体に力を入れ、精神に活を入れた。
「!!」
顔を上げるクライスの動きに応じて、サーシャは両腕を離す。
彼女は少し顔を赤くして、どこか申しわけなさそうな様子だ。
「……はは、悪い」
「ッ」
「心配かけた」
クライスは彼女の顔を直視し、心を激しく痛めた。
サーシャの顔は青ざめていて、今にも倒れそうな雰囲気すらある。
「く、クライス様ッ、ジャスミンがッ! そ、それにさっきの様子はッ!?」
軽くパニックを起こしながら、涙を流して必死に語るサーシャ。
クライスは心中で、強い情動が渦巻くのを感じる。
彼女にこんな顔をさせた、乱れに対するものであることは明白だ。
(恐いんだろう、悲しいんだろう、わけがわからないんだろう)
くしゃくしゃの表情を見た彼は、痛む心を何とか抑えた。
「――安心してくれ」
そしてはっきりと、サーシャに告げた。
「ま、なんとかするよ」
どこまでも無気力な宣言は、これ以上ない力強さを秘めて――。
●■▲
■恐慌の村■
■カメ朗たちは、ゴールを果たしたものの、多くのモンスターに取り囲まれてしまった■
「あああ! くそー!? ちょっと疲れてきたかなー!?」
■カメ朗は敵の攻撃で体勢をくずしてしまう■
「おわぁ!?」
モンスターたちは、たたみかけるようにカメ朗へと攻撃をしかける。
薄汚れた鋭い歯をカチカチと鳴らしながら、カメ朗を――そうとする。
■どんな風に?■
■それはもう・それはもう■
■まともじゃないわね。ご愁傷■
「うわあああッ!!?」
悲鳴は・絶望にしか届かない――。
「わけはない」
爆音が連続発生し、群がる絶望を一掃した。
「え、えッ?」
カメ朗の前方で地面が吹き飛び、モンスター達が砕け散っていく。
巻き起こる土の噴水は、非日常な光景を演出する。
なにかすごい勢いの砲弾が、飛んできたかのような錯覚。
「なにごとぉおおおおおおッ!?」
意味不明な展開に、カメ朗は大声で突っ込んだ。
いつの間にか調子は戻っている。
■それを行った当人は・すでにその場から移動■
■迅速かつ冷静に、村に広がる脅威を消していく■
●■▲
「数が多すぎるっ。このままじゃあ、いずれ追いつめられて詰む!」
村人たちの集団がモンスター群に囲まれ、それでも必死に抗っていた。
しかし彼らの装備は貧弱で、戦える者の中に強者は一人もいなく、数秒ごとに状況は悪化していく。
「あぁ。ちくしょう! なんだってこんなことに!?」
「見てるだけで気分が悪くなる……!! なんなんだ! このモンスター共はぁ!?」
混乱・恐慌・焦燥。
今まで見せたことのないような表情や声色で叫ぶ村人たち。
この世界のルールでは【起こりえない負の要素】が、現在発生していた。
「うあァあ!?」
「も、もうだめだー!!」
生々しい死が近づいているのを感じ、その場にいる者達は絶望の表情に変わる。
数秒後には、彼らは互いに罵り合うことになるだろう。すでに、周囲の者を犠牲にする算段をつけている者もいる。
この事態を生み出した元凶の思惑通りに、人々は醜さを表に出そうとしていた。
「あ、あァあああ!?」
人々は叫ぶ。
それは物語のヒーローには届かない。
「――【9】」
変化は突然。
すさまじい疾風によって、モンスター群は一気になぎ払われる。
「!?」
「あ、あなたは!?」
■疾風を起こした人影一つ■
■村人たちは、出現した救い主に驚愕し■
「だ、誰だ!?」
■何者かを問う■
「無職です」
■ヒーローには届かないが■
■ただの無職には届いた叫び■
「……」
クライスはモンスターたちを全滅させ、ぽつぽつと木が生えた周囲に緊張した視線を走らせた。
魔導力消費なし&回数制限なしの限定魔導・索敵の力によって、式の柱の位置は分かっている。
(順調に柱は解放できてる。大したブロッカーはいない。スターク未満ばっか)
■クライスはただひたすらに、走り続ける■
「見つけた」
モンスターの流れの終着点。
そこには、空き家となった家が建ち並ぶ区画があった。
人気のない空き家の群れ、その一つの屋根上に黒くて四角い板のような……式の柱が置いてあるのが見える。
キルシュが言っていたゴールだ。
「……」
そこへ向かって走るクライス。
しかし、その前に【異形】の人型怪物が立ちはだかる。
「!」
それは、村に大量発生したモンスターよりも二回りは大きく、はるかに力強い気配を放っていた。
これこそがキルシュの用意した、ゴールの門番にして切り札。
グロテスクな外見は他のモンスターと変わらず。あらゆる者を殲滅せんと怪物は駆動した。
「どけよ」
■首をへし折る音が響き■
■怪物は背中から倒れ、クライスはそれを置き去りに走り抜ける■
■門番は一瞬で排除された■
「……これで9つ目」
式の柱の解放を完了させ、クライスは屋根の上から着地する。
念のため村人たちを近くから退避させたが、彼の下へと走ってくる影があった。
「おーい! クラ……!??」
走ってきた誰かはクライスを見て驚愕し、一旦呼吸を整えた。
●■▲
■半月広場■
■その中央に、多数の鎖によって鉄柱に固定された少女の姿■
「あ、あああ……」
磔にされた少女・ジャスミンは、無力にあえいでいる。その目は光を失っていた。
もう彼女は抵抗する意思を奪われている。
空は陰りを見せ始めた。
「――あら?」
上半身だけの・支配者の少女・キルシュは疑問を抱く。
「これ・何?」
己が支配する場の【状態】について。
「……」
■索敵の魔導によって、状況を知る■
(――揺らいでいる・いえ、整えられている)
感覚で分かる異常。村に配置した乱れが、次々と消えていく不快。
何者かが、恐るべき速さでフィールドを支配していく。
(次から次へと混沌が・平らに)
絶叫と悲運で満ちるはずの場所が、蹂躙される。
(気に入らない)
歯をきしませ・破壊者を憎むキルシュ。
「マルコ」
「なんすか? まだバトル中っすよ」
背後から呼ばれた大男は、左頬から流血しながら応じた。多少は息が上がっているようだ。
彼は面倒くさそうに頭をかく。
「もう終わってるじゃない」
「うぐう……」
「ウうあ……」
キルシュの言葉通り、マルコと戦っていた二人は地に伏せている。すでに戦闘不能に陥っていた。
マルコは鼻を鳴らしながら、彼らを見て、その■意を膨張させていく。
「相手を仕留めるまでがバトルだ。そうだろ」
足元に転がる二人に殺気を向けながら、彼はとどめを刺そうと動く。
その顔は邪悪な笑みを強めていく。
「もっと歯ごたえのある相手がいるかも・ねェ」
「なんだと?」
「すごい勢いで場を乱しているやつがいるようなのよ。……もしかしたら、【あいつら】かも」
「へえ……この村はやっぱり、情報通りやっかいなやつが多いんだな」
マルコはふりかえり、キルシュの顔を見た。
「そいつって……あんな感じの奴ですかい?」
彼の視界に一人の男が立っている。
「……」
広場に現れた男は、無言でキルシュたちに近付いてくる。
彼がここに入ってきたということは、すべての結界が解除されたということ。
「何者?」
キルシュとマルコは、大して動揺した様子も見せずに男を観察。
「こりゃあ……」
「なんて……」
その乱入者は。
「――ウホ」
ゴリラだった。
「……この近くに、動物園なんてあったか?」
マルコは意味が分からない。頭をひねっても答えは出ず。
キルシュも同様に疑問符を頭上に浮かべた。
「ないわよ」
キルシュも意味が分からないのだ。
とりあえず殺そうかとは考えている。
「ウホッホ……!」
ゴリラは自信満々に近づいてくる。
その足取りは少し遅くも感じた。
「意味わからんが……」
マルコはキルシュを背に、乱入者と相対した。
肩を鳴らしながら、珍妙なゴリラを排除しようと殺気を向ける。
「ウホウッ」
獣は足を止め、その目を先へと向けた。
「その視線……この娘を取り返しに来たのかしら? 景品だものね、当然かしら」
先には、キルシュの背後にいるジャスミンの姿が。
「フフ。だめよ……この女はわたしの美しい髪を傷つけた。すぐに処刑するわ」
赤き少女はそう言うと。
「とはいえ……ちゃんと結界は解除してここに来たのよね……う~ん――まあいいわ、殺す」
少女の殺気が強まった。
「出でよ――我が武具」
右の掌からドス黒い光を発して。
「――」
とても大きな鎌を出現させた。
「これから、この村人の首を刈り取るわ」
「……ウホッ」
「止めたかったら、マルコを早く倒すのね。ゴリラさん――一分あげる」
刃をジャスミンに向けて、ゴリラを煽るキルシュ。
マルコは挑発的な笑みを浮かべ、拳を構えた。
「そういうこったな。獣野郎。【復活】できるとは思うなよ?」
「……」
ゴリラの前に立ちふさがるのは、ゴウトとジンを撃破した怪物。
その肉体の強さは見るだけで分かり、一般的な就職者を軽く凌駕している。
「ただし、オレは並みじゃないぜ。強靭な【種族】の差を見せてやる」
■対峙する怪物同士■
「うう……」
「良かったわね。ゴリラが助けに来てくれるなんて。うらやましい」
薄く笑いながら、うめくジャスミンに語りかける少女。
ジャスミンは聞こえていないのか、ただうつろな目でひとり言をつぶやく。
「誰なのかしら? 知ってる?」
「……たすけて。だれか……たすけて……やだよぉ……」
返答はせず、幼子のような声で助けを求めるジャスミン。
その姿は痛々しく、いつものような太陽の輝きを失っている。
「フフ」
その反応に笑う少女は。
「死になさい」
十数秒でジャスミンを処刑すべく動く。
彼女に約束を守る気など微塵もない。
■闇夜に散る魂は・三つの音を鳴らす■
「ぎゃああああ!?」
キルシュの鎌が止まる。
マルコの絶叫が響いたからだ。
「なっ」
続いて、魔道具を砕かれる音。
いつの間にか、彼女の持っている鎌が壊されていた。
「――ウホ」
キルシュの武器を砕いたのは、ゴリラの左拳。
あまりに早い接近・異常な光景。
「お前ッ!?」
「ウホホ(吹き飛べ・乱れ)」
彼は残った右拳で、赤き乱れを殴り飛ばした。
■鳴り響く轟音は・反撃の合図■
「――あん、たは?」
「……」
ゴリラに抱きかかえられているジャスミンは、夢でも見てるかと思った。
正体不明の存在が、自分を助けてくれたのだから。
(なんでゴリラ……? 意味わからない……わよ)
しかし彼(?)の瞳は、あることを彼女に伝えてくる。
「みんなは守る――任せろウホ」
■そんな意思がそこにはあった■
(まるで)
勇気づけるような言葉が実際に発せられたものかはともかく、ジャスミンは安堵した。
そこにいるのは、異世界から来たヒーローのような存在感を持つ者。
彼女の冷えきった心が、穏やかな温かさにつつまれていく。
(物語の主人公みたいね……外見以外……)
■どこか遠い光景を幻視しながら、彼女の視界は途切れた■
「……」
「ウホ」
意識を失ったジャスミンを抱えながら、遠くに飛んだ乱れを警戒するゴリラ。
「……あーあ、なんなの?」
広場周囲の草むらから起き上がった少女は、ダメージを受けていないように見える。
「まさか、マルコがやられるなんて……こんなしけた村に、怪物がいたものね」
刃が砕けた鎌をにぎりながら、キルシュは浮かんでいた。
彼女は、すでに消滅した部下を見て溜息。
出現したゴリラこそが、おそらくほとんどの柱を解除して、モンスターたちを葬った原因だと直感する。
「もしかして。外部からきた【ソルジャー】?」
「……」
「それにしたって来るの早いわ。楽しめない。仕込みはしてあるけど」
探るように問いかけるキルシュに、ゴリラは無言を返す。
「本来【わたしたち】にルールは無用なの競技者さん。殺し合いこそが本望ではあるのだけれど……」
あざ笑いながら語るキルシュは、敵への警戒を強める。
的確にモンスターを排除した彼の力を、脅威に思っているのだ。
(なんとなく分かる。あのモンスターの気持ち悪い気配は)
■クライスはここに来る前を回想■
【おーい! クラ……!?? ……クライスさん、か? だよな、そのゴリラスーツ】
【ウホ】
【ごほん……とにかく助かった! そのスーツ動きやすくていいだろう!】
【ウホ】
■村の凄腕発明家ジャック■
■彼の助けを借り、自身の正体を隠すスーツを生み出した■
■乱れに対する隠ぺいとして、念のための措置■
「まあでもそう。この遊びはわたしの完全敗北ってこと……」
「……」
「【不公平】ね。これ」
忌々しそうに吐き捨てる彼女。
しかし、クライスはそれ以上に怒っていた。
(あの時以上の苛立ち・だな)
ゼニゼニタウンの大会で、サーシャが不当な扱いを受けた時。
クライスは怒りを抱いた。
己の世界が無遠慮に汚されるような、そんな理不尽・不条理に対する灼熱すら凌駕する感情だ。
そして今、あの時以上に安寧が壊されようとしている。
(サーシャは俺の癒しだ・トラ太は元気なガキだ・ヒナはギャンブル狂いのバカ・ジャスミンは太陽のような暴力女、ふざけんな・ジャックは意外と頼りになるメガネ・ジンはヘタレかませ犬・カメ朗うざい・フジ丸は普通にいいやつ・サメの人こわい・村長はもふもふカワイイ――)
あらためて自分の心に向き合うと、クライスはあらゆる想いがあふれてきた。
村での日々が駆け巡る。
否が応でも、普段は萎えまくっている気力が湧き上がってきた。
(俺の平穏を壊すな)
一歩踏み出す彼の足。
基本的にやる気のない男でも、やらねばならない時というのはある。
この異世界に来て手に入れた、得難いものを失いたくないのなら――。
「すごい威圧感……。まあ【戦い・殺す者】の気配ではないけれど。やっぱり、どちらかというと【競技者】ね」
「……」
「大した速力を持っているようだけれど……普通の攻撃は通じないのよ。わたし」
キルシュは未だ余裕を崩さない。その殺気がふくれ上がった。
「さて、どうしてやろうかしら?」
殺意はクライスに向けられた。
「ウホっ」
彼は即座に行動を開始し。
左腕にジャスミンを抱えて。
「――」
その右の掌から青い光が。
「! それはっ」
「ウホホ」
「――魔導具ッ!?」
キルシュの目に映ったのは。
「なにそれっ」
古ぼけたスコップだった。
「――ウホ」
スコップが・地面に突き立てられる。
「?」
キルシュは疑問の視線で応え。
「な」
場の変化に気付いた。
(大きな・穴)
彼女の真下に、どこまでも黒い大穴が生まれて。
「!?」
一瞬の虚を突かれたキルシュは、クライスに左腕を掴まれる。
「ウホ」
彼はそのまま飛び上がり。
「なにをッ!? このッ。はなしな――」
空中で、つかんだ腕を勢いよく振り回して。
「まさかッ」
「ウホホッ(倒せないなら)」
大穴に向けて・キルシュを投げ飛ばした。
(こうするまでだ・しばらく寝ていろ)
■キルシュは見誤っていた■
■無職の勇士の力を■
■この村における、超級の守護神である彼を■
■マルコとキルシュ、強力な乱れ二人すらものともしない最強■
(空が)
彼女から急速に離れていく夜空。下へと引っ張られる体。
(落ちていく――ッッ)
勢いに飲まれた彼女はどうすることもできず、やがて漆黒につつまれた。
その瞬間、この異世界競技の勝利者が決定した。
「GAME SETだ」
■いつも通り・淡々と■
■彼は勝利宣言を行った■