色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
(乱れのせいで全力は出せなかったが・勝ちは勝ちだ)
■競技に勝利したクライス■
■とはいっても、まだやることは残っている■
(村内のモンスターはもう問題ない、が)
「クラ……ゴリラさん!」
「大丈夫かいー。ゴリラさん~」
「ウホ……」
さわぎが収まった後の半月広場。
謎のゴリラにかけ寄るのは、サーシャとサメ男。二人とも少し息が切れている。
「お怪我は!? ゴリラさん!」
「……問題ないウホよ」
クールに答えるゴリラ君。
変な口調になって戻らなくなったらどうしようと、クライスは若干心配になった。
「う、ぐ……」
「たまげたな……その力っ。一体何者だ……?」
「助けられた……すまない」
立ち上がったゴウト達は、ゴリラの戦いぶりに感嘆しているようだ。
彼らもかなり体力を消耗しているが、命に別状はない。
「本当に一体……誰なんだ? 君……」
金色の鎧を数か所砕かれている、ジンの問い。
彼は、少し申しわけなさそうな表情で、感謝を口にした後に問うた。
「もしかして……」
「――いや」
ジンの言葉、それをさえぎるようにゴリラは言った。
「俺は、ある組織に所属する就職者・【G】だ……ウホ」
「……」
「……」
「……」
無言のゴウト、村長、ジン。
(なんで無言っ)
もしかしたら、やってしまったかと焦るクライス。
(一応、正体は隠そうかと思って……)
【お、使えそ】
(このゴリラスーツ使ったが、結構怪しいか?)
現在彼が着ている着ぐるみのようなものは、ジャックが開発したもの。
なんとゴリラの鳴き声再生機能付きの、優れもの!
一応、制作依頼は出していたが、まさかここまでのものを作ってくれるとは……と、感心しているクライスは、自身の設定を後悔する。
(我ながら焦っていたのか? もっとましな方法があったような)
いまさら言っても後の祭り。
彼はこのキャラで行くしかない!
「就職者……! G……!! ごくり……!」
しかし幸運なことに、破れたエプロン着用の単純熱血男は緊張した様子で息を呑む。
その顔には強者に出会った緊張感があった。
(感謝。熱血バカ)
他の二人はともかく、ゴウトはごまかせそうであった。
「……ソルジャーか? いやしかし、ここまで強力なソルジャーとなると、【あいつら】しか」
ジンは疑問符を大量に発生させながら、ぶつぶつと呟く。
「なんにしても恩人だ。礼をさせてくれ」
少し顔色が悪い村長は、純粋な感謝の念を抱いた。
「いや……それは……!」
クライスが、遠くの異物を察知する。
(やはりまだ、残っていたか)
この場で彼だけが、村に接近する大勢の乱れを感じ取っていた。理由は彼自身にも分からない。
だが、助かるといえば助かる。
(仕込みがどうとか言ってたが)
おそらく、あの謎のモンスターの残りだろうと考える。
大した強さはないが、心を削られるような怪物の。
(面倒だな)
とは思いながらも、乱れを放置するわけにはいかないので。
「すまんが、用事が出来たウホ」
「用事?」
「ああ。サーシャちゃん、この娘を頼む」
「え、ええ! 了解です!」
抱き上げたジャスミンをサーシャに任せ、クライスは異物の存在する方角へと体を向ける。
怠惰スキルの【残量】もそんなに多くはないが、とにかく急いで向かうしかない。
「おい! なにか困りごとなら力に……!」
体力が尽きかけてそうなゴウトが、そんなことを言う。
「無茶言うなウホ。自分の状態くらい自覚するんだアホ」
「アホって言った? 今、アホって言ったよな?」
ゴウトのつっこみは無視して、みんなに背を向けたクライスは歩き出した。
「さらばだウホ――」
●■▲
「行ってしまった……Gか」
「世の中にはまだまだ高い壁がある!! 燃えるぜ!!」
「……」
ゴウト達が呼びとめる間もなく、ゴリラは去る。
本当に嵐のような存在で、村を救ったヒーローには違いないが、インパクトのあるゴリラだった。
「サーシャ……」
「! ジャスミン!」
「あの人は……」
サーシャに抱きかかえられたジャスミンもまた、彼を案じるのであった。
その顔は、少し赤くなっているようにも見える。
サーシャはそれで感づいたが、あえてなにも言わないでスルーした。
●■▲
■村の北・スローラ平原■
「――」
それは300以上の大群であった。
(多い)
クライスが村で撃破した数よりも多く、もし侵入を許していたら悲劇は免れなかったかもしれない。
正直、彼自身もかなり疲労が溜まっていて、それが不安要素ではあったのだが。
(……まあ)
しかし。
(もう・やられてるんだけど)
「――踏破◆踏破◆焼却」
乱れの軍団は、夜闇に灯った灼熱によって焼き払われていた。
轟々と燃える炎が異物を排除していく。
その様は幻想的ですらあった。
「ミリアム」
銀髪のポニテに、ラフな服装の少女。
平原に立ち、大量の乱れと対峙している少女は【灼熱の勇士】。
「なんでここに」
彼女の理由は分からないが。
「助かるけど」
村を守るために戦ってくれているのは、確かなようだ。
凛とした表情で戦うミリアムは、戦乙女のようにも思える。
(本気ゲージ【強化の元】を大分消費したからな。温存はしたい)
まだ他にも乱れが残っている可能性を考え、クライスの警戒は続いている。
(あいつらの正体は分からない。盗賊……ではないだろう。なんとなく)
彼は襲撃者たちの正体を考える。
(目視できる【乱れ】)
クライスの目には、モンスターから立ちのぼる紫色の淡い光が見えていた。
(俺以外には見えていないようだ)
自然にそうなった彼。
「……」
クライスは乱れを焼いていく大きな炎を見ながら、奇妙な感覚に陥る。
(あの時は脅威だったのに)
この瞬間、彼の瞳に映る炎は。
(けっこう綺麗だ)
平穏を守ろうとする、好ましいものに見えた。
(灼熱の勇士、か)
●■▲
「おっとおっと~。わたしを忘れてもらっては困りますよぉ~。雇い主さま!」
「おっ」
■平原で戦う、もう一つの影■
■そちらも見覚えのある少女だった■
「ロリン」
■彼女は、20以上のモンスターを切り伏せ■
■にこやかな笑みをクライスに向ける■
「そうです! 頼りになるなるロリンちゃん! 参・上!」
「よくわかったな。おれ」
「愛の力ですよぉ~。いやですねぇ」
「……」
ロリンはふざけた笑みを見せながら・背後から■そうとしてくるモンスターを、表情をわずかも変えずに斬り捨てた。
その動きは守護者と呼ぶにふさわしく、洗練された守りの技術。
軽やかに舞いながら、少女は怪物を駆逐していく。
「あー。数だけは多いですね~。もうっ。空気を読んでください!」
「……」
■ほほをふくらませながら、モンスターを狩っていくロリンの跳躍■
■どちらが怪物だ・と、クライスでなくとも思うだろう■
(油断できない)
人懐っこい笑顔と対照的に、ロリンがまとう雰囲気は底知れない。
どこまでいってもつかみどころがなく、年齢に似合わない不気味さを秘めていた。
彼女は刀をふるい、飄々とした態度のまま乱れの中で戦っている。
「あはは。お掃除しますので、しばしお待ちを――」
●■▲
「……完了だ」
全てのモンスターを焼き尽くしたミリアムは、静かに一言。
その表情にはまだ余裕があり、心なしかクライスと戦った時よりも覇気が感じられた。
「さて――お前なんだろう? クライス」
そして背後をふりかえり、傍観者に言葉を。
「ウホ?」
「……」
「ウホ」
「誰?」
■説明タイム■
「ほう。謎の組織に所属するG」
「ウホ!」
「ほう」
疑惑の視線を送る彼女の反応は、当然と言える。
すごいジロジロ見てくるので、クライスはだめだこれと思った。
さすがにゴリラ系就職者設定は無理があったのかも、と。
「ドキドキ」
「ジロジロ」
緊張のクライス。
「フン、まあ良い」
「ほっ」
露骨に安堵してしまうゴリライス。
ごまかせていない気がしなくもない。
「なんでここに? ウホ」
彼はミリアムの行動に対して、感謝と疑問を持っている。
ゴリラの姿ではあるが、真面目に彼女を胴上げしてもいいかなとか思ったりした。
「盗賊団だ……」
「?」
「最近噂の盗賊団を追って、この村まで来た」
彼女の話によれば、乱れを相手することになったのはたまたまらしい。
それでもクライスにとっては、いやだからこそなのか、恩を感じる相手に違いはなく。
「ソルジャーなのか?」
「違う。私怨だ。どうやら外れだったが……」
悔しそうに顔を歪めるミリアム。
その目には、確かな増悪の炎が巻き起こっている。
クライスが前から感じていた、彼女の狂気性。それに関係している話なのは間違いなかった。
「(私怨ね)だが助かった。礼を言うウホよミリアムさん。ウホ」
「必要はない。【乱れ】と戦うのは私の望みでもあるしな。……あと、無理してウホつけなくてもいいわよ」
そっけなく、クライスの感謝をスルー。
「……だがまあ、どうしてもというなら」
するかと思ったが、言葉は続き。
「なにウホ」
「宿を用意してくれ。しばらくの間、この村に留まる。できれば、この村に住むクライスという名前の男の家がいいな。ぜひともそこがいいな。頼みたいな」
「へ」
驚きのクライス。
なんかやたらと圧が強く、お願いされてしまった。
正直こわい気すらする。なんだろうこの寒気は?
(なんかまた面倒そうなことにっ。しかし、とにかく)
それ以降乱れの反応はなく、村を襲った騒動はひとまず終結した。
(謎は残る)
襲撃者たちの正体は分からず、不安感は消えていない。
(それでも・守れた)
この村を。
そこに生きる人々を、【乱れ】から遠ざけることは達成したクライス。
(……)
その充実感を不思議に思いながら、彼はその場所へと帰還する。
(サーシャちゃん)
ふと、自身を助けてくれた少女を想う。
(……ありがとう)
■そこに至るまでの足は、どこか重く■
■しかし、確かに在ってくれるものなのだから――■
「きっと言えるよな。あの言葉を」
●■▲
「おーい! クライスー!! 無事かー!!」
「どこにいたんだ!? やばいことになってたんだぞ! ヒヒン!」
「クライスさん……! お役に立てず……! 不覚……」
村の入口でクライス達を迎える村人たち。
夜に浮かぶ複数の人影。
「ああ。無事――」
「「「って、ゴリラだ!?」」」
「あ」
自身の姿を思い出したクライスは、また説明しないといけないのかとウンザリ。
また新たな設定が広まっていくのだった。
●■▲
■村の外れ・スローラ平原の高い崖上■
「――はい。消失しました」
夜風に髪を揺らしながら、駆け付けた少女は報告を行う。
右手にスマートフォン(?)のようなモノを持って、耳に当てている。
「はい。スローラ村の反応全て……」
左手には長方形の小さい端末(複数のボタンあり)。その画面からは、すでに光が消えた。
「誰でしょうかね……【悪辣王】の配下を倒したのは」
スローラ村を眼下に収めながら、謎の少女は世界の敵【悪辣王】の名を口にする。
(悪辣王……)
いずれ世界を恐怖に陥れると、信じられている存在。
その脅威を確かに迫る未来として感じる彼女は、世界中で現在起きている異変について考える。
(確かに……それらしき存在の活動は、世界中で報告されている)
最近増えてきた、異質なそれらの話。
そのどれもが、この世界で起きうる事象を無視したかのような、【残虐性】を秘めていた。
さらに厄介なことに、悪辣王の軍勢にはただ強いだけでは対処できない理由がある。
(そして、今回の一件……あの話は本当なの?)
着実に広がる不穏な気配に、彼女は身ぶるいした。
「【……それで、倒した賊の魂は?】」
スマフォから聞こえる男性の声。
「回収できました。確認済みです」
「【処理は後日か】」
「はい」
話は進み、スローラ村について。
「【村人への説明は頼んだ。それと】」
「どうやって撃退したか、探る。すでに候補者リストは作成済みです」
「【ああ。場合によっては勧誘しても良いかもな】」
「あれらと相対するには、適性が必要ですからね……」
マサルを襲う乱れは、まだ終わらないようだ。
彼の存在を、島の者たちも認知し始めてきた。
悪辣王とはまた違った、異質なる者として。
いずれくる【その時】・彼という異世界転移者が世界にどう影響を与えるのか……いまはまだ分からない。
(すさまじい勢いで【異物】は消えていった)
少女は、モンスターの反応が消えていった時のことを思い出す。
(あれが一人の手によって行われたことなら、どう考えても【異物】の場所を察知できるとしか思えない)
果たして、まだ見ぬ強者は敵か味方かと。
少女は思いめぐらせ、静かに目を閉じて思考を深めていく。
(どんな人ですかね)
●■▲
■こんな人だ■
「あーだりー」
村の集会所付近。
木の上で寝ているナマケモノ(ゴリラ)。
彼は、逃げてきた村人たちの会話に耳をかたむける。
「もうくるなよぉ……本当に生きた心地しないぜ。……謎のゴリラさんには感謝しかない」
「怖かったねモンスター! なにあれ! グロッ!!」
「鍋ひっくり返して、あわてて逃げてきたモー。途中でうわさのゴリラが助けてくれたモ~」
「おれが本気を出せばなぁ。封印された力が目覚めればっ。一発だったよ! まじで!」
「まだ言ってるのかカメ朗。お前……」
集会所には避難してきた村人たちが集い、クライスは念の為に見張りを行っていた。
そこでは食事の提供も行っていて、彼の鼻をいい匂いが刺激する。
少しお腹が空いていることに気づき、サーシャの手料理が恋しくなった。
「くそー、部屋で寝たいー」
無気力な訴えは、村の安全が確認されるまで続いた。
ナマケモノは今日もナマケモノで、しかしそれでも帰りたいところがあるのだから。
ああ、本当。自分らしくもなく少し頑張った気がする彼。
いまだ熱意を宿さない瞳で、自らが守った平穏をながめていた。
「……」
■食事の提供を手伝うサーシャの姿を見ながら■
■クライスは、少しだけ笑みをこぼした■