色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

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自宅の守護者

「うーん。むにゃむにゃ。勇士様のエッチ……」

 

 季節は秋になろうかというところ。

 すでに紅葉がちらほらと見られ、穏やかさを取り戻した村を彩る。

 

「ソルジャー……の人」 

 

「はい」

 

 騒動が過ぎ、村は平穏につつまれていた。

 そんな時、ある訪問者がクライスの下に現れる。

 

●■▲

 

「俺は寝るでー。んあ? 誰だ?」

 

 ある日の昼・サーシャ宅前。

 自宅警備員としての役割を果たしている無職の勇士である男。

 

(真面目な黒スーツを着込んだ少女が、訪れたとさ)

 

 インターフォンに対応してしぶしぶ客を迎えたクライス。

 また面倒なことになりそうだと、青い空を仰いだ。気分になった。

 

(手帳……ソルジャーの証)

 

 顔立ちが整った黒短髪(顎ほど)少女は、右手に持った白い手帳をクライスに見せつける。表紙には剣のマークが。

 

「私はソルジャー・イヤシノ部隊所属、メリー・ハットと申します」

 

(イヤシノ地区を守るソルジャーね。部隊は地区毎に分かれているって話だった)

 

 この前にも村を訪れたソルジャーたち。

 乱れたちの襲撃もあって、彼らがそのまま警備についてくれたのは、クライスとしてもうれしいことだった。

 彼らによって、あの異質なモンスターの排除も完璧に済んだ。

 

(事態に対する説明と、安全が確認されるまでの警備だとか)

 

 おかげで大分気楽だったクライスだが。

 

(どうせならもっと早くなー)

 

 かけつけるのが遅いなとも思うのであった。

 もしソルジャーがいれば、あの程度の乱れたちなら普通に対処できただろう。

 キルシュとマルコすら、ソルジャーの中の精鋭なら十分対処可能だった。

 

(ゴリラ無双してしまったじゃないかー)

 

 あのゴリラスーツ(?)は、サーシャ宅に保管してある。

 装備型魔導具なので、別に自分で持っていてもいいのだが、装備数には上限がある。

 

「それで、用件は」

 

「……この村を襲ったモンスター」

 

「!」

 

「それに対処したという、就職者Gについてです」

 

【ゴリラさ!どう見てもゴリラだった!】

 

【野生の波動を感じたぜ!!】

 

「話を聞くと、どうやらゴリラだったようですが……」

 

【ゴリラ】

 

「ゴリラ……」

 

【まあ、ゴリラかもな。ははは】

 

「ゴリラってなんですかッ!!?」

 

「びくっ」

 

「私をおちょくっているんです!? もう!!」

 

 いきなり取り乱すメリーに、びくっとしてしまうクライス氏。

 かわいいけれど流石にちょっとうるさいかなぁ、とか思ってしまう。

 

「はぁはぁ、すいませんっ。最近、疲れが溜まってまして……」

 

「い、いえ」

 

「こほん! とにかくっ」

 

 一旦、心を落ち着かせて、話をしようじゃないかと彼女仕切り直し。

 

「……どうやら、そのゴリラはジャック氏のスーツを盗んだようです」

 

【いつの間にかなくなってました。いやはや世界征服の夢……いえいえ、なんでもありません。ええ。フフ】

 

「なにか心当たりは?」

 

 緑の瞳で問い詰めるメリー。

 クライスは絶妙に目をそらし、プレッシャーから逃げようとする。若干、冷や汗をかいてきた。

 

「ないです。それ、動物園から逃げて来たって可能性もありますよね。HAHAHA」

 

 自然にしらばっくれる姿は、さすがと言える。

 伊達に、昼間たずねてくるセールスなどをかわし続けてはいないのだ。

 自宅を守護する者として、無駄に眼力を強めていく。

 

「そうですか」

 

 メリーは凛々しい目つきを崩さずに。

 

「……クライスさん。あなたはこの前のファイター系大会で、活躍したそうじゃないですか」

 

「それが何か」

 

 少しクライスの体が固まる。

 

「まあ、強力なサポートありました。から」

 

「ええ。サポートマンさんでしたね。相棒は」

 

「そうそう。あいつの芸術的なサポートでっ。なんとかっ」

 

「本当にそうだったんでしょうか」

 

「なんですと」

 

■疑いの目を向けられ、クライスはびびる■

■やはり現在ヒキニートに、こういうやりとりは荷が重かったようだ■

 

(まさか)

 

 疑いの視線を向けてくるメリーに、心臓がどくんと跳ねる。

 

(クールだマサル。心を冷凍するんだ)

 

「むうう……どうなんでしょうか実際」

 

「フリーズ。フリーズ。フリーズ」

 

「? 何か言いました?」

 

「気のせい」

 

 口笛を吹いて余裕アピールするなまけもの。

 ただ長時間(10分ほど)の会話によって、そろそろ限界がきそうだった。

 

「……ところで、クライスさんのご職業は。ファイターではないみたいですね」

 

「え、なにそれこわいな」

 

「職業は? 属性の方ではなく、実際の職業です」

 

「――自宅警備員」

 

 クライスは即答する。

 それが何か?という風な開き直った表情は、一切の隙も無い。

 

「自宅? 警備員?」

 

「そう」

 

「聞いたことのない職業ですが」

 

 明らかに混乱中の彼女だが、クライスは真剣そのもの。

 そのまま口が高速で駆動した。

 

「自宅の守護者――と言ったところかな」

 

 無駄にシリアスな口調で、自宅警備員について語り始めた。

 

「ごくりっ」

 

 その雰囲気に飲まれてしまった真面目系少女。

 クライスはここが攻め時と見た。

 

「自宅とは何か? まず、そこから話さなければならないだろう」

 

 マサルの哲学開始。

 

「自宅とは万人にとっての安息の地」

「周囲のプレッシャーから解放され、ありのままの自分でいられる」

「そこは正に人類の安息が眠る場所と言えるだろう」

「誰にもそれを否定すること出来ぬ」

「だろう?」

 

「えっ! は、はあ。そうですかね……」

 

 無職の勢いに押されて、思わず同意してしまうメリー。

 ここにジャスミンがいたら、クライスに白い目向けていた。

 

「そうだよ。そうなんだよ。そうに決まっている」

 

 やたらとえらそうな上から目線で、クライスは畳みかける。

 

「社会で働く人にとって自宅は聖なる建物……絶対の休憩所」

「つまり社会を支えている存在とも言える」

「そんな高尚な存在である自宅警備員に対してね。社会人としてね」

 

「はい。はいっ」

 

 いつの間にか床の上に正座させられているメリーは、巧みな話術によって丸めこまれ。

 

「分かったら。変な疑いを向けるのは止めたまえっ」

 

「はい! すいませんでした! 勉強不足でっ。うぅう」

 

 完全洗脳された。

 

■そうして■

 

「自宅警備員ってすごいんですね!」

 

「【なに言ってんの】」

 

■客は去り■

 

●■▲

 

「ふー、なんとかごまかせたな」

 

 冷や汗中のクライスは、去っていったメリーについて考える。

 

(あのモンスターと戦える戦力が欲しい、か)

 

 そんなことをソルジャー側は言っていた。

 あのモンスターと実際に接敵したから分かるが、確かに戦力は必要になってくるだろう。

 例えソルジャーのほうが数が多くて強いとしても、異物たちの放つ乱れの気配は、それをくつがえすほどの脅威性を秘めている。

 

(……だめだ)

 

 クライスは首をふり、その選択肢を否定する。

 ソルジャーとして戦う未来を。

 

(面倒――それに、あの強烈な乱れに対抗するなんて――)

 

●■▲

 

■数十分後の居間■

 

「あー」

 

「……」

 

「ああー」

 

「……」

 

 机に着いているのは、クライスと気の抜けた少女。

 その少女は、いつものようなさわがしい気配が失せていた。

 

「おーい、ジャスミン?」

 

「なによー」

 

 クライスの目の前に座る彼女は、心が完全に乖離していた。

 視点がどこにも定まっていない。

 

「呆けすぎ」

 

「言われたくないー。この社会のごみ~」

 

 視線は天井を向き、口は半開き。

 美少女に相応しくない面であった。

 

「まだ気にしてるのか」

 

「……」

 

「村のみんなを守れなかったこと」

 

「……別に」

 

 クライスは知っていた。

 この少女が、乱れに敗北して捕らえられ、村を襲う悪意と戦うことができなかったことを悔やんでいることを。

 自分が死にかけていたというのに、彼女は。

 

【うう……ぐ……。なんであたし……! 肝心な時に……! あんな悪いやつらにッ】

 

■偶然聞いてしまった涙声のそれが・クライスの頭から離れない■

 

(まあ、それはそれとして)

 

 無気力なジャスミンを見て、思うことがある彼。

 

(キャラ被ってる)

 

 クライスの心中で、ライバル心のようなものがゴーゴー燃え上がる。

 そのポジションは俺だと叫びたくなった。

 

(なんだ、この気持ち)

 

 同じナマケモノとして、負けるわけにはいかないとでも言うのか?

 変な敵対心によってジャスミンをにらむ。

 

「ねえ、クライス」

 

「! な、なんだっ」

 

「運命の出会いって信じる?」

 

「?」

 

 クライスは首をひねり、「なにいってんだ?こいつは」という顔を作った。

 この少女の行動がアレなのはいつものことだが、少し心配になってしまった。

 

「どうした。また変なキノコでも食ったか」

 

「あんたが食わせたんでしょうが」

 

 思い切りにらまれたクライス。

 こわくて小さくなった。

 

「そうじゃなくて……あたし、少しおかしいのよ」

 

「ようやく気付きましたか」

 

「ぶっ飛ばすわよ」

 

「部屋を壊すな」

 

 いつも通りなジャスミンの荒々しさに、クライスはなぜかほっとしてしまう。

 なんだかんだで、元気のない彼女を見ていると痛む心がある。

 

「そうじゃなくてね……なんだか胸がどきどきして」

 

 頬をほんのりと赤らめるジャスミンを見たクライス氏は、察した。

 

「ラブコメ?」

 

「は?」

 

 彼女が誰かに恋していることを。

 どうやら、気力がない理由は一つだけではないようだ。

 

(相手は)

 

「はぁあ、Gさま……」

 

(GORIRA……つまり俺。ゴリラガチ恋勢???)

 

 クライスは戦慄した。

 

(なんてことだ)

 

 彼女からの好意に対し。

 

(やったぜ)

 

 心の中でガッツポーズクライス!

 普通にうれしいのは当然であった。ジャスミンは性格さえ知らなければ、それはもう追っかけが発生するほどの美少女なのだから。

 彼自身も、時々不覚にも見とれてしまうことがあった。特に【笑顔】は。

 

(好みのタイプではないが)

 

 彼はジャスミンをまじまじと見て。

 

(可愛いし、普通にラッキー)

 

 調子に乗り始めたクライス君。

 

(もう少し探ってみるか……Gって、あの」

 

「そうよ! 村を守った英雄! G! 忘れられないわ……あの頼りになるまなざし。素敵!」

 

「ほう」

 

 どうやら当たりのようだと、男はほくそ笑む。

 いまならカメ朗の気持ちが少し分かるかもしれない。

 

「好きなのか」

 

「!?」

 

 急激に顔が赤く染まる彼女。

 それこそラブコメ漫画のような様に、クライスはちょっと可愛いなと思った。

 ジャスミンは顔を両手で隠す。

 

「な、なああにっ。いってるのッ」

 

(分かりやすい。単細胞。……でもまあ、長所にだってつながっているかそれは)

 

 クライス苦笑い。

 彼女が、キルシュからサーシャを守るために奮闘したという話を聞いている。

 まったく迷いなく、震える体で乱れに立ち向かったと。

 

「というか、あんたあの人について何か知ってるっ!?」

 

「んんん? まあーな」

 

 完全にどや顔の彼はウィンクをした。

 

「キモ」

 

「ガーン」

 

「……もしかして、あんたが、とか」

 

「!」

 

 いきなり核心に迫る。

 じっとクライスの顔を見てくるので、彼も少し顔が赤くなった。

 

「ないわね。ないない。どう見ても身長違うし」

 

■就職者Gとマサルの身長にはズレがあった■

 

(あのスーツ、便利だな)

 

 この異世界にきてから身長が縮んだ……というより、若返りしたという方が正しいか。十代後半になっていた謎現象。

 異世界特有のなにかなのかもしれないが、どんな体系でもあのゴリラスーツは使えそうだ。

 

(ま、うまく使うさ)

 

 彼の思考はいつも通りのマイペースだ。

 

「……しかし、お前的に見た目はどうなんだ」

 

 就職者Gの外見評価について聞いてみる。

 どう見ても美女とゴリラになってしまう、その絵面について。

 

「? 好きなら外見なんて気にしないわよ」

 

 不思議そうに真っすぐな瞳で、彼女は言った。

 

(すごいな。本気で言ってる)

 

 良くも悪くも真っすぐなジャスミンに、感心するクライスであった。

 

「ああGさま……。会いたいよぉ……会って……きゃー! 踏破◆踏破——」

 

「へ」

 

 放心状態のジャスミンから、無意識に魔導による補助攻撃が発動。

 すごい勢いの鉄拳が飛んできた。

 

「……」

 

「……あ。ごめんなさい。Gさま。じゃなくてクライス」

 

 椅子ごと飛ばされたクライス君は、気づく。

 

(さっきのはライバル心ではなく)

 

 乱れに対する警戒心。

 

(やはり危険だこの女っ)

 

 彼の日常は、乱れと共にあるようだ。

 まだ自分の世界に入っているジャスミンが花占いを始めた隙に、彼は自室へと避難するのであった。

 不覚にも可愛いと思ってしまった、過去の自分にGOOD BYE。

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