色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「ついに来たな、この時が」
「ククク……」
「ふはははは!」
【計画は順調に】
●■▲
■ある日曜日・朝7時ごろ■
パジャマのボタンがいくつか外れただらしない姿で、ナマケモノは来客を迎えた。
おとずれたのはサーシャ。彼女の尻尾が、左右にせわしなく動いている。
「今日の用事?」
「どうでしょうか? 急になにか予定あったりとか……」
自室でごろごろしていたら、そんなことをサーシャに聞かれたクライス。
彼女は不安そうな表情で、彼はそれを少し不思議に思った。
(予定……)
己の脳内計画を探り、検索結果を伝えようとする。
(朝8時・今週のジャンパーの読み残しを読破)
検索中……。
(朝9時・ある筋から入手した同人をたしなむ)
検索中……。
(……)
検索。
(朝10時・寝る……ヒマだ)
いつものごとく。
彼はヒキニート生活。
「ヒマだな」
「良かった! いつも通りですね! フフ、さすがは無職の勇士さまです! 伝説通りのナマケモノっぷり!」
「うん。なんか照れるな」
■サーシャが部屋から出て■
■クライスは、彼女が最後に言った言葉を回想■
【それはそれとして部屋が汚すぎます! ちゃんと掃除するように!】
朝食として早めに食ったパンの袋を、ゴミ箱に投げ。
口の中に残ったジャムの味をしっかりと味わってから、彼は行動を開始する。
「うーんと」
部屋を寝転がりながら移動するクライスは、ベッドの下に姿を消した。
もはや床と一体化している。
「……」
そして再び姿を現す。
まともに移動する気はさらさらないようだ。
「報告書」
彼の右手には、複数枚の紙がにぎられていた。
それはサポートマンから送られてきたもので、面倒くさいが目を通す。
「おおー、儀式場の情報たんまりー」
なまけている彼の代わりに情報収集を頼んだ男に、感謝の念を送る。
直接は面倒なので言わないが。そんなことすら体力使いたくない。
「多い……」
そこに記された儀式場の数は、かなりの量だった。
多すぎてうんざりしてしまい、早くも気力が折れかけている。
「現在2」
■クライスが保有している儀式場は、山と金■
「あと何回」
あと何回、儀式場を使用すれば目的の怠惰にたどり着くのか。
先の見えない暗闇のような状態に、ない気力がさらに減っていく。
「フム」
彼はそのことを考え、心曇らせた。
ので、いつものごとく消極思考。
(別に、大勇士ならなくてもよくね)
目的を放棄しだすナマケモノ。
(十分、金はあるし)
彼の思考は怠惰に引き寄せられ、収束する。
やはり大きな壁を前にすると、それをなかなか超えられない。
人になんで?と聞かれても、そういう心の流れだからとしか答えられないだろう。
(いちいち遠出するの面倒、だし)
大それた目的など、まるで似合わない男。
主人公的な目標など、途中で放棄しても構わないのではと。
心の中で自分の分身がさわいでいる。
(もう、あきらめてもいいんじゃない?)
村でだらだらしている方が、似合ってはいるのだろう。
(これ以上頑張ると、バトル展開になりそうだし)
■そう思うとよぎる影■
【クライスさま】
「……はああぁーあ」
大きなため息をともない、床にほほをくっつける。
「もう勘弁」
このまま溶けて、いっそのこと家と同化してしまいたいとも思う。
アイスクリームになる自身を想像した。
手足がぴくりとも動かない。
「そうすれば・真の自宅警備員」
などと、アホみたいなことを考えてみても。
「サーシャ」
愛しい少女の顔が、脳裏にちらついてしまうので。
「保留」
とりあえず決断を先延ばしにする、優柔不断男。
いつも通りである。
(今日は楽しもう)
●■▲
■着替え中■
「よし」
よれよれのTシャツ(半袖)とジーパン(長ズボン)を着込み、部屋の左にかけてある丸鏡で身だしなみを確認。
とはいっても、面倒なのでファッションなど適当ではあるのだが。
(にごった眼だ)
己の無気力な瞳によって、外出する気力を削がれそうになる貴重な体験をした後、自室を後にする。
ドアを開くのすら億劫になるような気分の中……。
「お」
「あら」
出たところで、ボサボサ髪のジャスミンとばったり。
少し不機嫌そうな表情で、両手には黒インクらしきものが付着している。
(寝起き。目の下にクマ)
赤色のネグリジェをまとった彼女は、寝ぼけ眼でクライスを見ている。
いつもとは違う一面に、少しだけだが見とれる部分がなくもない。と、クライス。
「おはよう」
「……おはよ。外出? めずらしいわね」
目をこすりながら挨拶を返す、ジャスミンの声のトーンは低い。
若干、ふらついているようにも見えたので、クライスは少し身構える。
「寝不足?」
「まあね……。少し……やっきになりすぎたわ……。あぁ……もう」
「ふーん」
現在の彼女には獣耳が生えている。
魔導で隠したりできるとかなんとか、説明を聞いた気がするが、そんなことはクライス忘れがち。
「かわいい」
「え」
自然とクライスの口から出た言葉。
(やべ、罵倒されるか?)
彼はさらに身構え。
「うわ」
露骨に引いたような顔で、ジャスミンは去っていった。
冷静ながらもするどい一言。
「うわって」
少しショックを受けた風。
廊下でポツン。
【Gさまに言われるならねー。うれしいんだけどー。はぁ……夢小説の続き書こうかなぁ……】
「俺だよ」
思わずカミングアウトしそうになったが、こらえたのだった。
どうせ鼻で笑われるし。
全然信じてもらえる気がしない。
■一階に下りる■
玄関でサーシャに声をかけられた。
クライスはそれを聞いて、少しいやされる。
「あれ、お出かけですか?」
「ああ」
靴箱から白いスニーカーを取り、履いているクライス。
サーシャは洗濯物の山を抱え、運んでいる途中のようだ。
「ちょっと散歩」
「ふふ、そうですか。いってらっしゃい」
「ん」
履き終わり、玄関扉のドアノブ(レバー)を右手で掴んだ。
さっきよりも外に出る時の面倒な気分が消え、心が軽くなっているのは気のせいではないのだろう。
「いってきます」
●■▲
■スローラ村・新しい日常■
「今日は曇天」
家の前で空を見遣れば。
今日はどうにも微妙な空模様。
だが、不思議と陰鬱な気持ちとかにはならない。
「いくか」
大して気にした様子も見せずに、彼は足を。
(右か左か)
■左に向く足・草むらに挟まれた道■
「♪」
途中でサメ男に会ったりしながら、少し肌寒い村を散歩中。
足取りはゆっくりだが、意外と気分は悪くなく、いままで感じたことのないような心の動き。
【クライスさま。今日は……】
(何かを言いたそうにしていたなー。サーシャちゃん)
そのなにかの見当はついている。
あえてなにも聞かず、彼はそのままの気持ちで外出を楽しんでいた。
たまになら……というか、この村なら外に出るのも悪くないとは思う。前の世界では考えられないことだ。
(ま、いつも通り過ごすさ)
【今朝見た、新聞の内容が頭によぎる】
「いまは」
この平穏を存分に楽しもうと、クライスは歩む。
儀式場のことなどもすべて気にしないで、思い切りだらけるのだ。
「そう平穏」
「あぶない……!」
「がっ」
左の草むらから飛び出た二人に、平穏は踏みつぶされた。
(そう来ると思ってました)
分かっていたさ。
とでも言うかのように、クライスは苦笑い。
己の平穏壊した下手人たちを見る。
「トラ太とヒナか」
「わー! クライス君! ごめん!」
「クライスさん……! また村を徘徊しているんデす……?」
「人をゾンビみたいにいうな。弁明を聞こう」
■ヒナたちの弁明中だよ!■
「角」
「鹿」
「なるほど――カブトムシ」
■ヒナたちは、特別なカブトムシを探しているらしい■
(前に言っていた、輝けるカブトムシを探すと)
記憶を探ったクライスは、以前トラ太から聞いた話を思い出す。
よく見れば彼は、すごい勢いで両目を輝かせている。まさしくロマンを追い求める者の目だ。
「トラ太は分かるが、なんでヒナまで」
二人共、虫取り網とかごを持っていた。
ヒナの方は、トラ太とは対照的にどんよりとにごった目をしている。
「それは……」
ヒナは言いにくそうに視線をそらす。
それだけで感づく自分がいやになるのは、保護者目線のクライスさん。
「借金だな」
「……さて?」
ごまかす彼女。
口笛を吹きながら、視線を思い切りクライスから外す。
「俺の目をよく見ろよ」
「いやっ……乱暴は止めてっ。そんな……大胆な……!! 変質者……!!」
「ああ! クライス君が女の子をいじめてる!」
ヒナは問い詰めるクライスから逃れようとするが、両手をがっちりと掴まれる。彼は彼女を絶対に逃がさない構え。
見つめ合う二人(ロマンス0)。
トラ太は少しだけだが顔赤い。
「この前、金を貸したよね」
■またしてもヒナは助けを求めた■
【うう……このままじゃわたくし、売られちゃいます(チラッ)】
【……】
■なんだかんだで貸してしまうクライス■
「えっと……それはぁ……ですねぇ……」
「またギャンブルに使ったのかっ」
「……てへっ」
「この野郎」
反省の色がないヒナをどうしてやろうか、クライスは考えをめぐらせる。
おしおき……なんてしたら普通によろこびそうな変態だから困る。
とにかくなにかしら反省させたい。
「逃がさんぞ……お前、カブトムシを売る気だろ?」
「ぎく……!! そうだとしたら……!?」
「トラ太、なぜ手を組む」
なぜか臨戦態勢のトラ太に、クライスは問う。
「え?」
「こいつは裏切るぞ」
「ははは、分かってるよ! 陰キャアウトローだもんヒナちゃん」
「なに」
問いを笑いながら流すトラ太少年。
ヒナは彼の発言を聞いて、若干しぶい顔になった。
「おいらとヒナちゃんはライバルなんだ! どっちが先にカブトムシを見つけるかって!」
「ライバル」
「そうなんです……! 決してひねたクライスさんが想像しているような、どろどろの人間模様なんて……! ありませんわ……! フふ……!」
どうやら、彼等は共闘しているわけではないようで。
「おいら燃えてるんだ! 長年カブトムシを追いかけて来た者として、負けられない!」
「です……! わたくし……! 必ず勝ってみせますわ……!! 娯楽という夢のために……!!」
「……」
「次はどこに行こうか! ヒナちゃん!!」
「王道の樹木公園を……!」
意気投合している風の二人は、クライスが来た道を逆走していった。
その姿は少年のようであり、ヒナに対してはお前それで良いのか?と真面目に言いたくなる。
彼女の目的がアレなせいで、素直に応援できないのは当然の流れだった。
「ま、いいか」
楽しそうなんで良しとしたクライス。
(ただしヒナは後で説教)
●■▲
■更に道を進み■
(村の南を散歩するかな)
非常にマイペースな歩調で、彼は穏やかな村を歩き続ける。
トラ太たちと会ったことで気分は少し上向き、されど無気力感は変わらない。
逆に歩くSPEEDが遅くなっているかもしれない。
(川)
そうしている内に、道を阻む小川が見えて来た。
「きれいだなー」
静かに流れる透き通った川には、複数の魚がならんで泳いでいる光景が見える。
それを自然と目で追いながら、先へ進むための道を探す。
「橋は」
辺りを見回し、視線で木々や茂みを通り過ぎ、少し古ぼけた木の橋を見つける。
ちょっともろそうなのが気になるが、
「ふう」
少し休憩がてら、橋の途中で座りこんだ。
体の下でぎしりと音が鳴る。
「……」
ぼーっとくもり空を見ている彼の頭は。
(今日の昼めしなにかな)
取るに足りないことを考えていた。
(ああ)
そんなことを考えている自分が、どうにもおかしくなって。
「はは」
少しかわいた笑いを浮かべる。
どうにも気力が抜けたものだった。
「――なにを笑っている」
「お?」
凛とした女性の声が鼓膜を響かせる。
ふいにかけられた声は、聞き覚えがあった。
最初に戦った時よりも、心の余裕があるように感じるものだ。
「ミリアム」
質素な白いシャツを着た人物。
するどい目つきでクライスを見る、威圧的なオーラを持った人影。
彼女がまとう銀色の輝きは、その美しさを強めている。
「少し久しいか」
「そうか?」
銀髪の少女が、橋の向こうに立っていた。
その身から発するオーラは健在で、見るからにただものではない。
立ち振るまいから、威圧感を感じさせる麗人だ。
その場の気温が少し上がったように、クライスは思った。
(相変わらず真面目)
この村ではめずらしいシリアスな波動に、クライスは感心。
(こいつなら、ドタバタコメディで乱すことはないだろう)
■そう思ったが……■
「なにか用か? ミリアム」
「私と戦え」
「えー」
一気に彼の顔がしょぼくれ。
(こいつはバトル展開で乱してくるっ)
ミリアムが事あるごとに勝負を仕掛けてくる、バトル狂であることを再確認した。
こちらの事情もおかまいなしに、つっかかってくるのは前と同じ。
新たな村の住人は、またしてもやっかいな奴ということだ。
「おちつけ」
「私は落ち着いている……。正々堂々、戦おうといっているのだ。私の目的のためにっ」
ギラギラした瞳で、戦闘意欲を見せるミリアム。
闘争心高めと聞くとクライスはジャスミンを思い出すが、彼女とはまた方向性が違う気がした。
ぶっちゃけ怖い。
「よせ。やめて」
平穏を壊される恐怖で、クライス氏ピンチ。
「うおおおおおお!! 銀髪ゥッ!! ここにいたかァ!!」
「む、うるさいのが来たな」
突然の暑苦しい声に、ミリアムはクライスに背を向け走り去る。
また別の迷惑な新入りが、彼女を追いかけているようだ。
「待てい!! 逃がさんぞ!! 尋常に勝負!! だッ!!」
「なんと図々しい。少しは人の気持ちを考えろという――また会いましょうクライス」
つっこみどころ満載のコメントを残し、ミリアムはなごり惜しそうにクライスの下から去る。
その瞳は、必ずクライスに会いにいく・家凸してでもという気迫に満ちている。
「……次会う時までに、連絡先を用意しておいて」
そんなことを最後に言って、銀髪の麗人は姿を消した。
それを追いかける熱血男は、すごい勢いで橋を渡り、去っていった。
「にっ」
クライスとすれ違う際に、ゴウトはスマイルを見せていた。
「……」
彼は、その笑みの意味を思いながら。
「楽しみにしとくよ」
そうつぶやいて、立ち上がって。
「もう少し、堪能しとくかね」
【計画はもうすぐだ】
「……」
村を歩く内に、過ぎる想いは複数回。
何度見ても、この場所の穏やかさは新鮮に感じられた。