色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「ゼニゼニタウンへ?」
「はい……ナイトの報酬をもらいに……でス」
朝方、クライスの元を訪れたヒナ。
というより、彼女は気づけばいつの間にか家にいる。年中不法侵入者だ。
もはやストーカーというレベルですらない、強制同居人。
カメ朗にそのことを話したら、最初の内はうらやましいとか言われたが、どんどん同情されてしまう始末。
クライスは諦めた。
「報酬の受け取りも兼ねて……デートを……。ナイトのみんなに……公認彼氏として広め……ルんでス。フフん……」
「ほーん」
「行く気なし……???」
「面倒」
自室にていつもの体勢でいるクライスは、既に気力が尽きていた。
一日三回行動なんてとても無理で、二回ですら奇跡。
もうこれ以上は、命の危機かもしれない。
なので、ヒナとごろごろ過ごしたい。
「はー、やる気でねー」
「……そう言わずにぃ。お願いしますわぁ……」
「あー」
一向に動く気配のない彼をユサユサするヒナは、さながら父親を説得しようとする娘か。
「あー、ゆさぶるな~」
「行きましょう……! 行こうよぉ……パパァ……!!」
「おあ~」
ゆさぶりは高まっていき、クライスの休息を邪魔しまくる。
甘えてくるヒナに応えてあげたい気持ちと、怠惰の鎖が拮抗中。
(く)
■数分後、敗北■
「わかった」
「……やったぁ。……パパ大好き……」
ヒナの懇願に屈したクライスさんは、しぶしぶ立ち上がった。
彼女に対して甘いところがあるのは、否定できないかもしれない。
「はー」
「いざ出発です……!」
「おー」
■身支度を整え■
「サーシャちゃん」
「はい」
「も、行くの?」
「は、はい! 遊びに行くんですよね? お供します! 今日は仕事も休みですし!」
(デートかこれ?)
■美女二人とのお出かけ■
■クライスのテンションが、少し上がった■
■これで、行く場所がゼニゼニタウンでなければ、もっと良かったのにと思う■
「ま……いいです……ヨ。最後に勝つのは……わたくしですか……ラ」
「ま、負けません。ふん! ふん!」
■ジャスミンは部屋にこもって作業中だよ!【創作意欲湧いてきた!!】■
「行くか」
■三人はゼニゼニタウンへと旅立った!■
●■▲
「到着」
■足を踏み入れたのは・再びの遊興場■
■前と変わらぬ活気は、良くも悪くもといったところだ■
「よし、まずはナイト協会の支部だな」
町の南にあるアーチを潜り、三人は騒がしい町内を耳で感じる。
朝のゼニゼニタウンも混沌を含んでいる。人々の悲喜がそこには渦巻く。
クライスのテンションが下がった。
「場所は、守護の会支部の近く……ですね……」
ヒナの服装はいつも通りの外衣姿。
なんとも陰気な雰囲気を漂わせているが、いつものことなのでクライスは気にしない。
ただ、彼女的にこの町の雰囲気はどうなのかとは気になった。
「中央か」
かくいうクライスは、ノーマルなTシャツにジーパン。
いつものダラダラした感じでGO AHEAD。
(念のため、サングラスと帽子で変装を)
服を選ぶ気ない男。
あまりに地味な格好は、しかしヒナとサーシャにある種の安心感を与えている。
これでこそ無職の勇士だと。
「せっかくなので、楽しんで行きましょう。……とは言っても、この町は物騒な感じがして少し怖いかも……うぅ。ガラの悪い人に絡まれたらどうしようっ」
「フふ……。まあ……最後に勝つのは……わたくしです……!」
「むむっ」
サーシャの格好は、白いシャツと黒いロンスカ。
どことなく、落ち着いた雰囲気を出すスタイルだ。
彼女を見ていると癒されるクライスは、ゼニゼニタウンの喧騒から目を逸らし、サーシャのなるべく近くに位置取りする。
「ははは!! やべー!! 気持ちわるいっ」
「朝から飲みすぎー!! おっと!」
「のわ」
細い通りを歩いていると、前から来た酔っ払いの二人組とぶつかるクライス。
「おははは! わりぃな!!」
「いや」
街の通りは、なかなか窮屈感を感じる場所になっている。
この賑わいが、逆に彼にとっては苦手なものだ。
とはいっても、今はヒナとサーシャがいるからか、それなりに楽しくも感じていた。
「やっぱり人多い」
「に、苦手ですか? クライス様」
「まーな」
少しだけ不満気なクライスは、ゆったりとした歩き。
ではあるが、リラックスしているようにも見える歩み。
「ヒナ」
クライスは、先導するヒナに声をかけた。
「はい……クライスさん。道順は……」
「まっすぐ行って突き当りの【魔導ショップ】を右に曲がって」
「先に【就職者サービス】の建物があるので、そこを左」
「大通りに出て、左側に……」
「おやぁ?」
「あ」
左に曲がろうとしたところで、ジグザグ屋根の大きな建物(就職者サービスの施設)から出て来た女性とばったり。
彼女に見覚えがあるクライス。
(こ、この女)
それは因縁(笑)の相手。
赤い髪で漆黒スーツ(スカート)。
サーシャとヒナにも劣らない、美女である。
(俺の斧を奪ったッ)
都合よく記憶を改ざんするクライス。
ジンが聞いたら、普通に切れそうな内容。どう考えても彼女の対応は正しかったのだが、変な方向に記憶違いしていた。
「はい、どこかでお会いした人ー。お助け就職者のマリーですー」
「ゆるさん」
「? なんで敵意?」
不思議そうに首をかしげるマリー。
サーシャとヒナは、もっと不思議そうな顔だ。
「斧」
「斧? ですか?」
「ふ、忘れたか」
やれやれクライスさんは、微妙にいらっとする表情。
ヒナとサーシャを置き去りに、(クライスの脳内で)話は進む。
(それはそうと、すごい大き……)
彼の視線は、眼下のマリーの山へ。
(……)
無意識に視線が引きよせられていた。
男性ならば仕方のない現象と言えるかもしれない、でもない。
同性のヒナとサーシャですらチラチラ見ている。
「ちょっとっ……なんですか……その……。見るならわたくしのに……! わたくしだけでは不満ですか……! けだもの……!」
「く、クライスさまっ」
「おっと、大胆ですねー。そんなに見られると恥ずかしいですよ」
「はっ」
胸を隠すマリーの仕草で、クライスは我に返る。
「就職者サービスのご利用はいつでもー」
「……」
「魔導具は、壊れたら取り返しのつかない場合もありますからねぇ。フフフ」
■マリーはそう言って去った■
(なんかこわいッ)
マリーと別れ、大通りを歩くクライスは下を向く。
その顔は青ざめていた。
なんだかサーシャとヒナの態度が、冷たいような気がするからだ。
「大丈夫ですよクライス様。変な気を起こさなければ」
「そうそう……変な気を起こさなければ……ですわ……。ふふ……フ……」
脅しのような二人の言葉に、クライスは心底震えるのだった。
彼女たちは、少しすねているようにも見える。
■それはともかく■
「着いた」
「はい……」
三人の眼前に、大きな丸い屋根の建物が。
中から騒がしい雰囲気が伝わってくる。
「ここがナイト協会の支部」
「でス……」
「見たことは何回もありますけど、入るのは初めてです!」
■建物の前面には、怪物に槍を突き刺す戦士の絵が描かれている■
■窓ガラスからは、中で動く人たちの姿が見える■
(窓ガラス)
■入口前の屋根下を通り、両開きの黒い扉に近付くクライス■
「よし」
丸いドアノブを掴み、力を入れた彼は。
「おらああああ!!」
「吹き飛べぼけえええええ!!」
(そうなんです、いつも)
浮遊感はゆっくりと体に浸透。開いた扉から遠ざかる視界。
何かが彼の体に直撃し、衝撃で後ろへバイバイ。
その中で、割れた窓ガラスが目に映った。
(こうなるんです)
■吹き飛ばされたクライスの運命や如何に?■
●■▲
「……」
「いやー、すまねぇな! 兄ちゃん!」
「……いえ」
■一階フロア両端にある階段を上がり、建物内・二階:談話スペース■
机が並ぶ室内で、話を楽しむ人たちの中。
さらにテンション下がったクライスは、ぽつんとした風に座っていた。
「ヒナの友達だってな! はははは!!」
「てか、どっかで見たことある気がするな!! あんた!!」
机を挟んでクライス達の対面のソファに座る、ガラの悪い男二人。
「ジョークさん……ロベルトさん……」
もう一つのソファにはクライス達。
金モヒカンの男がジョーク、緑リーゼントの男がロベルトというらしい。どちらも開いたジャケットを上に着ている。
「で、報酬の受け取りかい」
「はい……もう少し時間かかりそうですね……」
ソファから立ち上がったヒナは、近くの柵から下のフロアを覗く。
「おいい! 予定が詰まってるんだ!! 報酬早くよこせ!!」
「うるせえ!! 十分急いでるわ!! ぼけ!!」
「ああんッ! やんのかあああ!!」
下のフロアにあるカウンター前には、行列が出来ていた。
チンピラVSチンピラみたいな光景が連鎖していて、クライスはそっちの方に目を向ける気が起きない。
「あの箱」
「クライスさん……興味あります……のね?」
ヒナの隣に立つクライスは、受付前に立つ男が持つ赤い箱に注目。
手のひらサイズで、禍々しい模様が刻まれている。
「あの箱は……モンスターの魂を封じている魔導具……」
「ほー」
「名前は【ぶん捕り箱……!】」
「ぶん捕り箱」
「はい……あれで、狩りの対象撃破の証明を行う……」
■それから、少し歓談■
「んでよー、そこで俺がぐいっと一発かましたわけ!」
「違うだろうがッ!! そこでオレの一撃が入ったんだッ」
「「やんのかテメェええええ!!」」
(何回目?)
目の前でコントのように繰り返されるやり取りに、疲れてきたクライス。
腰かけたソファにヒナの姿はない。
サーシャは周囲の物騒な雰囲気のせいで、生まれたての小鹿のようになっている。
(早く戻って)
さっさとこの騒がしい空間から離脱したいと、そわそわする彼だが。
「お待たせしました……フふ」
■戻ってきた彼女■
「新しい仕事を貰ってきました……! これでクライスさん、ニート脱却……!!」
「なんですと」
「うれしいです……?」
「ぞくぞくだ。悪い意味で」
■新たな乱れの予感に、クライスはため息■
「簡単に説明するとですね……」
【ゼニゼニタウンの北に位置する山】
【そこで登山者を襲うモンスターあり】
【条件フリーで討伐求】
「フリー?」
「討伐形式の一つ……誰でも挑戦可って意味です……」
「ほほう」
【既に多数のナイトが向かった】
【しかし】
「帰って来るものなし……! 上級クラスのナイトで……すらでス」
「ほほう」
■いやだ。行きたくない■
■……■
■もう帰って寝るで■
■そう思うナマケモノ■
「儀式場……」
「!」
「興味あります……? わよね……?」
ヒナの口から出た言葉に、クライスは反応してしまう。
さらに続く行動も無意識なものだ。
(しまった)
そして、隣に座るサーシャの顔をちらりと確認してしまった。
(なにかを期待するような・そんな顔)
■結局、いつも通り■
■クライスは、しぶしぶ同行することに決めた■
「そうかい。行くのか! なら俺も!!」
ロベルトが勢いよく立ち上がり、そんなことを言い出す。
「なぜに」
「出来るだけ多い方がいいだろ!! ははは!!」
「……」
「――見てな。【上級ナイト】に匹敵する俺の実力をな」
■自信満々に言うロベルト■
(噛ませ犬の波動を感じる)
ジンと同種の気配を察知したクライスは、何気に失礼な予想を立てた。
それは最早、直感と言ってもいいような、天才的インスピレーションのようななにかだ。
ロベルトの発言からはフラグの気配しかしない。
そう例えるのなら。
(小説で言えば・500文字以内に退場しそう)