色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】   作:幸福野郎

43 / 125
語られる混沌

「フフフ――ごきげんよう」

 

■赤い少女は・大きな乱れを纏い、笑顔を向ける■

 

 大きく丸い照明に照らされた、煉瓦の部屋で。

 三人はキルシュと対面。

 

「なっ、ななななあっ」

 

「……!」

 

 ヒナとサーシャは、その異様を目にして固まった。

 

「飲まれるな。二人共」

 

 彼女たちを叱咤するように言うクライス。

 

「クライス様っ」

 

「クライスさん……!」

 

 彼の背中を見つめる二人の視線が、ある一点に向けられる。

 

(美少女アニメのポスター)

 

 機械装甲を身にまとった、大変エッチな美少女の絵が描かれているポスターが、煉瓦の壁に貼り付けられている。

 その近くにも似たようなポスターが多数。

 

(フィギュア一杯……)

 

 壁際の棚の上には、ありとあらゆるフィギュアが置いてあった。

 ロボ・美少女・モンスター……雑多なそれらは、普段使っているサーシャ宅の部屋には、置けないほどの量にも思える。

 

(クリアケースに入っているのが、お気に入り?)

 

 他にも様々なオタグッズで埋め尽くされた部屋の有様。

 

「じろじろ見ないで」

 

「いや……そんなこと言ってもっ」

 

「雰囲気が……ネ。いかにも……って感じ……」

 

「くっ」

 

 女性陣の目は微妙に白い(ように思えるクライス。思い込みかもしれない)。

 彼はなんだか変に緊張する。

 

(スコップ使って・たどり着けるこの空間)

 

 魔導具の力により入ることが可能なこの場所を、クライスは自分好みに改造していた。

 基本的に静かな場所なので、そういったものが大事とも思う。

 

(心安らげる、安楽の地へと)

 

 趣味全開にし過ぎて少し隠したくなった彼だったが、まあ誰も招かないだろうと安心していて。

 成り行きでキルシュを捕えた。

 

(急遽。少女を一人ご招待)

 

【へえ、変わった趣味ね】

 

(何が悲しくて、敵に趣味を暴露せねばならんのか)

 

 片付ける時間もなかった為、そうなってしまったのだ。

 敵をぶち込むのがオタ部屋なんて、いまいち締まらない結果だ。

 まあ、ここは捕らえておくのに適した場所ではあるのだが。

 

(今回も)

 

 そして更に、サーシャたちに見られてしまった。

 

(さすがに、あの自室を自分色全開にするわけには行かないからなっ)

 

 もちろん、男の尊厳を漲らせるブックも大量に転がっているわけで。

 片付ける時間がなかったPART2。

 

「ドン引きですわ……クライスさん……わあ……強烈……!!」

 

「ちくしょうッ」 

 

 薄い本を、まじまじと見ているヒナの一言。

 それにクライスは走り出し、壁際に膝を抱えてうずくまった。

 

「ううう」

 

「ほああ……! こういうこと……したいん……でス? 変態……ですわね!」 

 

「お前が言うなっ」

 

 混じり合う好奇心と悲嘆の声。

 落ち込むクライスに、サーシャは後ろから声をかける。

 

「く、クライス……さんっ。落ち込まないでくださいっ。男の子はこういうの好きだって、分かってますから……き、気にしませんっ」

 

「サーシャちゃん」

 

 クライスを励ますサーシャの顔は赤い。そして薄い本をチラチラ見ている。

 

■なんだかんだで、立ち直ったクライス君■

 

「……それで、あの人は一体?」

 

「前の襲撃者。ってのは分かるよな」

 

「分かりますけど……うぅ。思い出したら震えがっ」

 

 まだ壁際に待機中のクライス君は、いじけながら説明を開始した。

 

■説明中だよ!■

■サーシャは小動物のように怯えて、クライスの服の端を掴んでいる■

 

「き、危険はないと? ほ、本当ですかっ?」

 

「多分な」

 

「多分ですかぁ……うぅ」

 

 元の位置に戻ってきたクライス。

 

(あの気持ち悪い【乱れ】は見えない)

 

 彼は目を凝らし、キルシュを見遣る。

 

(……)

 

■黒い、ゴスロリファッションの少女は■

■今は囚われた囚人でしかない姿■

 

「それはそうと……彼女をどうする気……ですの?」

 

「それなんだよなー」

 

 美味しそうにお茶を飲むヒナは、ちゃぶ台に着いてリラックスしている。

 完全に自宅のようなノリ。

 変わらずの図々しさだ。

 

「この場所の影響なのか、無害化されてるんだよなー」

 

「無害化……?」

 

 ヒナはキルシュに注目する。

 

「見えませんね……例のアレ……」

 

「まあ、やっぱりそうか」

 

「クライスさんには見えると……」

 

「普通はな。今は同じく見えない」

 

 クライスの目に、かつて見た忌まわしい乱れは見えなくなっていた。

 つまりそれは、乱れの気配が発せられていないということ。

 三人にそこまで変化がないのが、証拠でもある。

 

「……就職者Gって……」

 

「俺」

 

「おお……! そうなんです……カ!」

 

「言うなよ」

 

 頭を掻く彼は、続けてキルシュについて説明する。

 

「まー、とにかく。今は敵じゃない」

 

「懐柔したと……? さすが……」

 

「というかね。勝手に丸くなった」

 

 クライスは目を細める。

 その視線を受けたキルシュは、頬をわずかに染めた。

 

「そうなのよ。なんだか心が優しくなったの」

 

 キルシュは笑顔で言う。

 その言葉を信じるクライスではないが。

 

「自分で言うか」

 

「なによ。協力してあげようかと思ってるのに。ちゃんとお世話もしてくれる・しね」

 

「協力ねー」

 

「お世話……!? クライスさん……どういう意味で……すの!?」

 

 キルシュの言うお世話というワードに、ヒナは敏感に反応した。

 それを見たキルシュは何故か勝ち誇った顔。

 嫉妬でぐぬぬってるヒナを尻目に、彼は考える。

 

(――この女と複数回、対話を行った)

 

 キルシュを捕らえ、尋問を行おうとしたクライスであったが。

 

(意外に協力的な態度の敵)

 

 そのせいで、逆にどう対応するべきか迷ってしまった彼。

 

(もし、口を割らないようなら)

 

■なら?■

■いつか見たようなことを、やっていたかもしれない■

 

(……とにかく、強硬手段よりは平和的に)

 

 方針は固まり、大きな乱れとの交流は進んだ。

 クライスはキルシュの方まで歩いていき、顔と顔を近づける。

 

「……」

 

「――新しい情報が欲しいの? クライス」

 

 少女はその口を開いた。

 その甘い吐息が、クライスの顔に触れる。

 

「くれるのか」

 

「んー、どうしようかしらね。気分良いし、裏切ろうかしら」

 

「くれ」

 

「すごい直球」

 

 図々しいことこの上ない態度に、キルシュは感心・呆れ。

 無気力な目つきは見えていないが、なんとなく感じてはいる。

 それを想像すると・彼女は息が荒くなる。

 

「なら太陽の話をしましょうか」

 

「――太陽?」

 

■その場の空気が・淀むような錯覚■

 

「【混迷の太陽】。彼等は、様々な勇士たちを葬ってきた」

 

 悪辣王。

 その者達は、その王の手足のような存在だと語る。

 

「何人いるかって? 私にも分からない」

 

「面識は」

 

「あるわよ。二人ほどね」

 

 彼女は、己が知る太陽を伝える。

 

「その男は、とても趣味が悪い」

 

「お前みたいにか」

 

「うるさい。黙って聞きなさい」

 

 語られるのは眼帯の男。

 

「あれは、人をバラバラに」

 

 その嗜好。

 

「気を付けるべきよ。あの男に捕まったら・苦痛の底に引きずり込まれる」

 

「……名前は?」

 

【あらゆる苦痛を届けよう――このザントが】

 

■そしてもう一人■

 

「その女は、ひっそりと佇む」

 

「……」

 

「お利口ね」

 

 語られるのは、まだ見ぬ脅威。

 

「もしかしたら、既にお前の後ろにも」

 

「え」

 

「冗談よ・怯えないで」

 

【怯える間もなく――彼女(パニッシャ)は現れる】

 

「そう冗談ネ?」

 

「怖いだろ」

 

「怖いわよね。分からないモノは――ただ、一つだけ確かな情報があるのよ。パニッシャは過去に、異世界競技で活躍していたと聞くわ」

 

「なに」

 

 混沌戦か儀攻戦か。

 種類は分からないが、混沌の太陽の中に元選手がいたという情報。

 さらに驚くべき言葉がキルシュから続く。

 

「その時の彼女の成績はスターなんとか・ファイター級。ある一人の選手を除いて、儀攻戦で一度も敵を通さない……鉄壁を誇ったというわ」

 

「そんなやばいのいるのか」

 

 確かに鼓動を阻害した恐怖感。

 彼は間違いなく死を感じている。

 最強の力を持ってなお。

 己に匹敵するかもしれない・違うベクトルの最強を恐れる。

 

■赤い少女の言■

 

「最強と言っても隙はある」

「例えるなら」

「人の身で刃は防げない」

 

「分かりづらい」

 

■怠けものは突っ込んだ■

 

●■▲

 

「さて、情報は十分与えたわね」

 

「ああ」

 

「まあ、信用するかは別の話のようだけど」

 

「当然」

 

「ふふ、気に入らない態度。悲鳴を聞かせてほしいわね」

 

 そういうキルシュの言葉とは裏腹に、クライスは内心・雨降り中。

 なんか物騒な連中がいると聞いて、関わりたくないと心底思う。

 

「じゃあな。俺は行く」

 

「……」

 

 クライスのそっけない態度。

 つまらなそうなキルシュは。

 

「私のそばに転がっているノート、誰か拾ってみなさい」

 

 キルシュが突然そんなことを言う。

 それにクライスは固まり、ヒナは迅速にノートを回収した。

 

「これは……?」

 

 ヒナとサーシャがそれを開く。

 

「あっ」

 

 クライスは気付く。

 

「なになに……」

 

「あ、ちょっとっ。それはっ」

 

「おお……これは……」

 

「ポエム――漆黒の翼は――」

 

「ぎゃあああッ」

 

■女性陣に・深奥を覗かれ■

 

「良い悲鳴」

 

■キルシュはほくそ笑んだ■

■さて、帰還の時だ■

 

「あの人については後で聞くとして……リベンジですね!! クライス様!! 正直逃げたいです!! うぅ!」

 

「まー、負けてはいないが」

 

「それで……どうすると……? これからどんな刺激的な作戦で……?」

 

「そうだなー」

 

 地上に行く前に、今後の方針を定める。

 

「……あいつの攻撃、次は避けられそうだ」

 

「ほほう……! 見切りましたか……!」

 

「ぼちぼち」

 

 クライスは天井を睨み、先にいるモンスターを思い浮かべる。

 

「見てなって」

 

 いつも通りの気楽さで、手に持ったスコップを動かした。

 

●■▲

 

■山の頂上■

 

「――」

 

 大地に足を付け、彼らは戦場へと戻ってきた。

 さっきの攻撃は、まだ三人の網膜に焼き付いている。

 

「……」

 

 クライスが握りしめたスコップは、微動だにせず。

 

「あー」

 

 彼はただ目の前の敵を見る。

 その瞳には、予定外に対する混乱が映っていた。

 そう。それは。

 

「イレギュラーか」

 

「イレギュラーだな。脆く、弱い」

 

 モンスターはその巨体から煙を発し、消滅しようとしていた。

 その傍には一人の男が立っている。

 

「で?」

 

「「何者だ?」」

 

■怪物を狩った青いマントの男は、クライス達に鋭い視線を向ける■

■手に持った大きな剣が、凄まじい威圧感を持ち■

■ナイトとしての力は、今まで見た誰よりも強大だと思えた■

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。