色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
(傷一つない青いマントを翻す、大剣使い)
紫色に輝く大剣が、敵意を持って向けられる。
逆立った茶髪の男は、揺るがぬ強さを持って立っていた。
(ナイト?)
巨大亀の如きモンスターを屠ったことから、そう思うのはクライス。
(一人か)
男の他に人影はない。
ただその周囲に破壊跡があるのみ。
「何者だ?と、問うたがな。少年よ」
凛とした声が男の口から漏れ、クライスは身構える。
正義感の強さを感じさせるような声は、見た目通りの性格の証明か。
(シリアスな野郎)
影響されてしまいそうになる真剣さに、流石の怠慢男も引き締まる想い。
「ふ、ふ、まずはそっちから名乗るのが礼儀では。ふ」
「……」
思わず格好つけてしまったクライス。
目前のナイトは少し目を細めている。
(怒るかなっ。キレ芸キャラだったりしてっ)
基本的に、クライスはコミュ障気味な男なのであった。
なんか相手の顔が怒っているように見え、心臓が痛くなる。
「――それもそうか。失礼」
(お?)
キャラ崩壊するかと思った大剣使いは、クールに対応。
(こいつ――真性か?)
■かつてないほど、真面目キャラの気配■
「俺の名前は、【世界を変える漆黒のナイト】」
「なんやて?」
「世界を変える漆黒のナイト」
「なんやて?」
「世界を変える漆黒の――」
■以下、おおよそ50回以上の繰り返し■
「長いんで略称求む」
■そんなオチだろうと思ったよ■
「そんで、漆黒さん」
「そう略すか」
「アウト?」
「構わんよ。別に全然」
呼称は決まったようだ。
漆黒のナイトの顔は文句がありそうだが、クライスはそのままスルーした。
「モンスターを仕留めたのは」
「無論、俺だ。少年」
「……ナイトか。ナイトだけに」
クライスの言葉に、漆黒は頷きで返す。
その動きには、確固たる自信があった。今まで積み上げてきた重みがある。
「上級ナイト。更にそのトップと言えば分かるかな?」
「……ほう……やはり……」
漆黒の凛とした言葉。
その発言に反応したのはヒナ。
「もしや……あの有名な……!」
「知ってるのか。ヒナ」
「【守りの大剣】……」
◆ヒナの説明◆
◆クライスは面倒そうに・しかし、耳を傾けざるをえない◆
「ナゴミノ地区において、最強の守護者たちに守られた儀式場……の名前……!」
■イヤシノ地区よりも、強力な就職者を要するナゴミノ地区■
■そこで管理されている儀式場の中で、最も難攻不落と言われる場所の一つ■
■守りの大剣という■
「そうだ。それを管理しているのが、俺」
「……上級ナイトの……さらに上の存在……ッ」
「もしや少女よ。同輩かな?」
悠然と佇む漆黒ナイトは、ヒナに対して興味の視線を向ける。
彼女は委縮しながらも、返事をした。
「ええ……そうですわ」
「ははは! それはすまん! 獲物を横取りしてしまったようだ!」
「いえ……本命は別に……ありますので……」
「本命?」
漆黒が視線を曲げた先は、モンスターが消滅した地点。
「――儀式場か」
その先に広がっている空間。
クライスは漆黒ナイトの返答を待つ。
「気にするな。俺は興味ない」
あっさりと、バトル展開は回避された。
漆黒ナイトは朗らかな笑みを見せ、クライス達を安心させる。
「俺は迷惑なモンスターがいるというんで、来ただけだよ」
「ほっ」
「はは、露骨な安堵だな。まあ、ナイトとしての仕事はきっちりやりたくてね」
■そうだな。せっかくだし俺も行くか■
■最強のナイトはそう言った■
●■▲
「少し暗い」
「わわわ……!! これではどこからトラップの槍がくるか分かりませんッ。もしかしたら怪物に食われるかも……!? ううぅ、こ、こわすぎるッ」
「ああ、前までは照明がいくつか存在したようだが」
クライス達+漆黒パーティーは、それなりに広い洞窟内を進んで行く。
サーシャは怯えながら、クライスとぴったりくっ付いて歩いている。ヒナも怯えたふりをして、やたらとクライスとスキンシップを取っている。
美少女二人に密着されて、逆になんか心休まらない彼。
「明かり、助かる」
「いやいや」
漆黒ナイトの右掌で燃える魔導の炎が、真っ直ぐな道を照らす。
「魔導って便利なー」
「少年はどんな魔導が使えるんだ?」
「え、ええーと」
■自分の不得意分野の話題■
(問・この際の適切な回答)
クライスは返答を高速脳内回転で導く。
■漆黒さん「えー、魔導も使えないのー! 超だっさー!」■
「――魔導を超越している。とだけ、言っておこうか」
必死になって考えた返答がそれ。
変に格好つけた言い回しになってしまった。
「なるほど?」
何言ってんだコイツ的な反応。
言ったことを後悔しても遅いクライス、やけくそに話す。
「あまりに超越し過ぎて、逆に魔導が使えない的な」
「??」
「あまり真に受けない方が……です。適当なこと……言う時ありますわ……」
■そんなこんなで、儀式場に到着■
「あ、ありました! クライス様!」
「おお」
■広がった空間には・いつか見たような陣と像があった■
「重なった円陣……間違いなく儀式場だな」
「良いのか?」
「遠慮なく。どうぞどうぞ」
漆黒ナイトにうながされ、クライスは陣の中心まで歩き。
「……」
「だめだー」
気の抜けた声が出た。
「だめ……?」
「だめ。【力】を感じる」
「残念……でス……ネ。どうやら望みでは……なかった……?」
クライス・ヒナ・サーシャは、揃って肩を落とした。
それを見て、漆黒ナイトは少し疑問符を浮かべている。
普通なら、儀式場というのはメリットしかないお宝だ。ありがたき神の恩恵と言ってもいい。
「? 力は感じるのだろう?」
「感じる。弱いが」
クライスの発言に、さらに疑問を抱く漆黒のナイト。
だが、無職の勇士には特別な事情があった。
(力を感じる……つまりは無級でないということ)
クライス達が探しているのは、通常の力を感じない儀式場。
ある特定の勇士を進化させるであろう、その機能。
(わざわざ確認しないとならないのは、手間だな)
■クライスはしょんぼり■
「もしかして【無級】を求めているのか」
「そう」
「……ふむ」
なにやら考える漆黒ナイトは、数秒後に口を開いた。
その顔には、少し闘志のようなものが浮かんでいる。
「少し提案があるんだが、良いかね?」
●■▲
■そして下山■
「――魔剣・崩壊」
紫色の大剣は・その力と輝きを増していく。
(ステータスが)
剣を掲げる男の姿を、背後から見ているクライスは、そのステータスの高まりをはっきりと確認。
(あの魔剣とやらのスキル——【装備型】魔導具が持つアイテムスキル。かね)
うねり狂う紫の輝きが、漆黒の剣士を包み。
「なんて……! すさまじい……うねり……!」
天に届くほどの大きさまで広がっていく。
(来るか)
■クライスが力の解放を感じた瞬間■
「フンッ!!」
■放たれた巨大な斬撃は・平原の大地を切り裂いた■
■迫っていたモンスターの群れは、跡形もなく吹き飛んだ■
■はじけ飛ぶ土煙が世界を一変させた■
「凄い威力……ですわね……! わたくしでは到底不可能な……力による蹂躙ッ」
「こ、これがあの人の実力っ。しゅ、しゅごいですっ」
クライスの隣で息を呑むサーシャとヒナ。
大地を深く刻む、その力。
「……」
この世界におけるトップレベルの武力。
それを目の当たりにしたクライスは、何を思うのか。
(あれが、越えるべき壁)
光になって手元から消えていく大剣を、しっかりと目に焼き付けた。
「待っているぞ。少年たちの【挑戦】を――無級の儀式場でな」
■宣言するのは、クライスたちとの儀攻戦■
■漆黒のナイトが守る儀式場を奪うため、彼らに勝利しなくてはならない■
(少し。まずいか)
●■▲
■そして……■
「ただいま……」
「おー! 戻ってきたか! どうだった!」
夕暮れ時、ナイト支部に帰還したクライス達。
一人を除いて。
騒がしい彼がいなくて寂しさを……なんてことは特にない。
「へー、あの男に会ったのかっ」
「はい……横取りされました……。おのれ……あのヘンテコナイト……」
「はは、まあ相手はナイトのトップクラスだからな!」
最初のテーブルに着き、モンスター退治の話をジョークにする。
最初に来た時より、周囲のうるささは減ったように感じられた。
「漆黒のナイトと言えば、伝説の【A級連続狩り】で有名だ!」
「なんだそりゃ」
「A級モンスター数十体を、一人で全滅させたって話だぜ! モンスター狩りにおいては、間違いなく最強だろうな!」
クライス達の反対に座るジョークは、漆黒ナイトに関する情報を話す。
それを聞いただけでクライスはため息。モンスターを狩る技術で競ったら、まず勝ち目がないであろう強敵だ。
「ナゴミノ地区に行くってか……」
「予定ですけど」
「はは! あの儀式場に挑戦するとは! 勇気あるな!」
酒が入ったコップを傾けながら、ジョークは笑う。
なかなか機嫌がいいように見える。
「何人か挑んだ奴を知っているが、全員心が折られていたぜ」
「ほー」
「少なくとも、ルーキーが太刀打ちできる所じゃないが……」
話を聞くクライスは少し迷っていた。
未だに迷っている。
(どうするかー)
今回挑む敵は、今まで戦ってきた就職者・属性持ちの中でもトップの存在。
……最初に戦った、エレジークラスの怪物が相手ということになるだろう。
当然、あの時のような。
【あの女、全然本気じゃなかったな】
■あの時のような、手加減した状態の最強ではなく■
■全力でかかってくる雷神を想像するクライス■
(割に合わないかー?)
いつもの面倒クライス君になってしまう。
あの試合で見た、すさまじい雷撃の唸り声が頭に響く。
(とりあえず。偵察とか。ん?)
「……」
(サーシャちゃん)
クライスの右に座るサーシャの顔が、少し曇っている。
それに釣られて彼の気分も少しBLUE。
「どうした」
「ひゃ!? いえッ! なんでもっ!」
「いや、何かあるだろ」
「な、ないですっ。さあ、行きましょう! ナゴミノ地区へ!」
「早いぞ」
見るからにパニック状態の彼女を見て、クライスは疑問発生。
サーシャの雰囲気は、明らかに恐怖のような感情を帯びている。
(なんだ?)
サーシャにそのことを聞きたい気持ちはあるが、あまり詮索するとまずい雰囲気も感じた。
結局、保留することにした。
「――まあ、なんにしても。お前らは守護者相手の【儀攻戦】初めてだよな」
「ああ」
「敵のテリトリーで戦うんだ、存分に気を付けて行けよ!」
「気遣いどうも」
ジョークの言葉に頷き、クライスは方針を定めていく。
(他者の儀式場を奪う戦い――対守護者の儀攻戦。たしかルールは……体験センターで初めにやったスタンダードだったな)
■いつもと違う緊張感が、クライスを取り巻いていた■
■それはともかく、忘れ去られた人は■
「ロベルトどうなった?」
「あーえっと、ですね」
いきなり聞かれて困惑中のクライス。
「飛んで」
「飛んで?」
「……星になった」
「!?」
■噛ませ犬未満の男が、夜空で良い笑顔を輝かせているような■