色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
【上がって来るのだ! このステージに!】
最強のナイトに言われた、言葉。
それが頭の中で反響。
したのだが。
「なんか。面倒」
早くも目的意識が揺らぐナマケモノ。
いつも通りであった。
■いつもの如く、ほのぼのした秋の日■
「なんだよー。今週のジャンパー微妙ー」
ごろごろしながら朝の読書時間中。
自室に入ってくる外の光が、彼の顔を淡く照らす。
少し眩しく感じたが、それも良いかとクライス。
「はー」
両手に持ったジャンパーは、表紙が新連載のもの。
その重みが心地いいかもしれない……なんて思ったりしてるが、どうにもイマイチ楽しみ切れない。
「これは打ち切りコース」
編集者気取りのマサル君。
その心は宙ぶらりんで、拡散していってる泡のようだ。
(儀式場どうすっかなー)
ぼんやりとしている目標はあるが、どうにもぼんやりから先に進まない。
(どうすっかなー)
なのでいつも通り、彼は怠惰に沈むのであった。
寝てから考えるか。
そんな風に思った。
(ああー、面倒なんじゃー)
「――うん?」
なにやら乱れの気配を察知した。
背筋がざわっとなる。
「なに?」
部屋右の窓ガラスが、勢いよく砕け散った。
「ほああッ」
心臓が跳ね上がりそうになる彼は、緊急ローリングで破片を回避。
ただちに状況把握しようとする。
「!?」
急いで状況を確認すべく、視線を窓の方に向けると。
(こいつはっ)
■強烈な威圧感を放つ、飛行生物■
■その光沢はまさしく■
「カブトムシッ」
■まさしくカブトムシ■
■素早く飛び回る■
(輝いてやがるっ)
思わず目をそらしてしまいそうになるほど、神々しい輝きを放つカブトムシ。
元の世界では見たことのないキラキラっぷり。
「こいつはやばいっ」
クライスは立ち上がり、中腰の姿勢で警戒する。
黄金のカブトムシとか絶対強い。
彼の中の少年ハートが、そう警告を発している。
「ッ」
横にずれた敵の動きに。
(ステータス上昇!)
咄嗟に動かした左腕で対処する。
■轟音が家に響く■
●■▲
「今の音なに!? ちょっと!!」
驚いたジャスミンが、慌てて自室から出て来た。
彼女は、ゆったりした白いブラウスを着ている。
「クライス!?」
ジャスミンの目の前に、頭から血を流すクライスが座り込んでいる。
彼女は動揺し、彼の体を支えるように動く。
「ジャスミン……ッ。うッ」
「どうしたのよ! しっかりしなさい!」
「へへ……ヘマしちまった、ぜ」
ニヒルに笑うクライスは、明らかに格好つけていた。
「大丈夫そうね。それじゃあ」
「まってくれっ」
「なによ。あんたのギャグに付き合っている暇ないわ」
「ギャグじゃなし……。今のは……最大の脅威でした……!」
「! ヒナ! ……あんたまた不法侵入? いい加減にしときなさいよ」
いつの間にかクライスの隣に現れたヒナは、彼に心配そうな目を向けている。
ヒナしか勝たん、クライスは調子よくそう思った。
「おいたわしい……! クライスさん……! うう……!」
「ヒナ……お前っ」
「そんな無様の頂点のような……ゴミクズ的姿に……!」
「おい」
■クライス君は少し怒った■
「それで? 誰にやられたのよ。一応対処しておかないとね」
「カブト虫」
「ふざけないの。もう」
「本当ですよ……! わたくし見てましたもの……!」
ヒナはクライスの言葉が真実であると訴える。
その体はどういうわけか震えていた。が、瞳の輝きが強まっている。
「は? ヒナまで何よ」
「あれはまさしく……! 追い求めた……!」
「さっぱりね。なんなのよ」
「――あれは見果てぬ夢さ」
「!」
「!?」
いきなり聞こえてきた声。
三人が声の主に注目する。
「ずっと追いかけていた。ね」
「トラ太! あんたも不法侵入!」
トラ太が壁に寄り掛かり、神妙な顔つきで立っていた。
虫取り網とかごを装備して、やたらと渋い雰囲気を演出。
ジャスミンが少し怒ったことで、びくりと反応した。
「こ、事の始まりは、ある少年の――」
「おやつ食べていく? トラ太」
「あ! うん! ジャスミンちゃん!」
■おやつタイムに突入■
■もぐもぐ■
「事の始まりはね! もぐもぐ!」
「ちゃんと食べてから話しなさいな。ゆっくり聞いてあげるから」
「もぐもぐ」
居間のテーブルに着いたクライス達。
落ち着きないトラ太と、その面倒を見るジャスミン……を見て、何故か新鮮な感じがしたクライス。
「クッキーうま、うま」
テーブル中央に置かれた大皿から、クッキーを摘まむトラ太。
ヒナも負けじとそれを喰らっている。
お前は少し遠慮しろとクライス内心ツッコミ。
「トラ太のお気に入りよね。それ」
「うん! メルヘンマーチのクッキー大好き!」
喜ぶ彼は、話をするのを忘れている模様。
「食べ終わったら説明してもらおう。奴について」
「フフフ、分かってるよ――モグ」
■おやつタイム終了■
■トラ太はきりりと顔を引き締める■
「事の始まりは、ある少年の願いだったという」
再びシリアスな顔になった少年。
その語りに、ジャスミンはちゃんと耳を傾けている。
「ほー」
「その願いがなにかって?」
「はいはい。なんなの」
無意味にトラ太は立ち上がり、勿体つけながら部屋の中を歩き出す。
「一言で言えば、誰も持ちえない栄光――」
クライス君(クッキーうまっ)
■無駄に部屋を歩き回りながら、話は真剣に続く■
■ジャスミン「少し落ち着きなさい」■
「誰よりもレアなカブトを欲しがった少年は……」
クライスさん(うーん、この紅茶はいまいちっ)
「来る日も来る日も、広大な森へと足を運んだという」
テーブル周りをぐるぐる回るトラ太。
ヒナはそれをなんとなく目で追いかける。
(疲れないのかな)
割とクッキーを気に入ったクライスは、一応説明を真面目に聞いていた。
それはそれとして、おやつの方に集中しているのだが。
「しかし! ある時! 悲劇がっ!」
「うおっ」
いきなり声を大きくするトラ太に、びくりと反応してしまう一同。
「なんやかんやあって彼は瀕死の状態に」
「急展開すぎない?」
「死の間際、少年はその手を伸ばした」
「重いよ」
「すると、あら不思議」
「既に不思議」
【少年の手中に、光り輝くカブトムシが!】
「なんですと」
「それは果たして、少年の強い想いが生み出した存在なのか……」
若干涙声になりながら、トラ太は語り終わる。
クライスの感想としては、クッキーうまいと言うしかない。
ヒナはめっちゃ食ってる。ちゃんと話聞いてたんかコイツ?と、クライスは思った。
●■▲
■さて、戦争だ■
■カブトムシとの死闘!■
「で、なんで俺まで」
虫取りセットを装備したクライスが、家の前で愚痴る。
何故か夏の思い出作りすることになった。
「そんな危険生物放置できないでしょう。あんたが逃がしたんだから、責任取るのよ」
「無茶な。被害者ですぞっ」
「あんたのステータスは飾りなの? ……なんだかんだ言っても、認めてはいるのだから」
ヒナ・ジャスミン・トラ太も、同様の装備でその場に立っていた。
ちょっとしたチーム結成に、トラ太の目はメラメラと燃える闘志を発した。
クライスとしては、スルーして家の中で待機していたい。眠い。さっきの怪我別に大したことないし。
「決戦の時かな」
「ですね……!」
ヒナとトラ太はそれ+、麦わら帽子を被っている。
■晴天の下、彼等の戦いは始まった!■
「行くよ――」
「了解、隊長――」
(あー、だるいんじゃー)
●■▲
「カブト虫ィ?」
「うん! 見てないかなぁ」
「見てない! すまんな! トラ太!」
無駄に暑苦しい声を上げるゴウトから、情報を得ようとするトラ太たち。
ミリアムも共にいて、どうやら一緒にトレーニング中のようだ。
「もし見つけたら知らせるぜ!! じゃ! ランニングの途中なんでな!!」
「私も見ていないな。悪いが、他を当たってくれ。クラ……し、師匠」
「そうか。弟子よ」
ゴウトと同じくランニングしていたミリアムは、健康的な汗を流しながらクライスに言う。
白のスポーツウェアに包まれた彼女の肉体は洗練され、ある種の美しさを感じさせる。
意識せずとも美人だと強く思わせる。
……その内、アイドル系とかで勧誘されてもおかしくないとクライス。
「師匠」
「おわっ」
そんなミリアムが、いきなりクライスに急接近する。
いきなりのことに動揺する彼。
「ど、どうしたっ」
「……今度はいつトレーニングに付き合ってくれる? 当然二人きりで、誰もいないところで……いいわよね?」
「あ、ああ」
クライスの耳元でそんなことを言うミリアム。さらに彼の首に両腕を回し、逃げられないようにしている。
正直、クライスは色々とそれどころではない心境なのだが、彼女の師匠を名乗るからにはきっちりと付き合う必要があるかもと思うし、なんとかしっかり返答する。
「ま、また今度な」
「そう。それならいいの」
ミリアムはクライスから離れる。
二人の絡みを見たヒナは強烈に反応。
「な……なにを……こそこそ……! いかがわしい雰囲気を……出しているん……ですか?」
「単なる個人的な相談だ。他意はない」
「むむむ……!! 新たなライバル……!?」
■そして、全速力で道の向こうに消えていくゴウトとミリアム■
■ヒナが妙に嫉妬の炎を燃やしている■
■それはともかく、さらに進もう■
「ほう? カブト虫ですか……」
「うん。ジャック君」
「…………興味深いですね。お話を伺いましょう」
集会所の周りで掃き掃除しているジャックに会った、カブト虫捜索隊。
ジャックはクライス達の装備を見て、何かを察した。
「輝くカブトとは……」
「見てない?」
「……ええ、残念ですが。はい」
「そっかー。もし見つけたら連絡ちょうだい!」
有力な情報は得られず、彼らは肩を落とした。
ジャックは申し訳なさからか、顔を伏せる。
「次はどこに行こうかなぁ……」
「……何か手掛かりがないものかしら、ね。本当に」
「ジャスミンちゃん?」
やはり捜索は困難な様子。
そんな一行を見て、ジャックは少し思案した後に声をかける。
「そうだ、君たち。ちょっと用事を頼まれてくれないかな?」
「?」
●■▲
■樹木公園■
■現在、人の姿は少ない■
■探索隊はジャックの頼み事を受け、ある場所へと向かう■
「ジャックの奴、人に用事を押し付けて……」
「ほんとそれな」
樹木公園内を横切り、探索隊は目的地へと歩く。
「でも! おかげで閃いたよ! カブトムシ対策!!」
「それが神社で神頼みって、不確実すぎる」
【このお菓子を、彼女に届けてくれないか】
■ジャックの頼みは、品物を届けること■
「ヤマト出身の巫女さんに、ね」
「とっても可愛いんだよ! ないすばでぃーってカメ朗くんが言ってた!」
「ほほう」
微妙に顔がにやけているクライス。
カメ朗の性格はともかく、綺麗な女性を見る目だけは信用しても良いと思っている。
どんな巫女さんなのか、もう既にワクワクが止まらない。
「まーた、下心丸出しで。あんたサーシャに愛想つかされるわよ」
「失礼な。ただ期待しただけだ。それに、彼女はそんなに器が狭くないンだ」
「そうやって勝手に幻想抱いてると——」
「うあああああああああッ!!」
「!!」
「ッ!?」
突如森に響いた悲鳴。
「今の声、まさか」
「あっちよ! 急いで!」
探索隊は急いで声のした方へと向かう。
聞こえた声は、彼らの聞き覚えのあるものだった。
「!」
そこで彼らが見たものは。
「こ、これはっ。な、なんて無残」
「ひどい! これがこの世の光景なの!?」
「うわぁ!? あんまりだ!」
「みじめ……! 勇士にあるまじき……!! カス……!!」
■見るに堪えない、敗者の姿がそこにあった■
■黄金の鎧は砕かれ、自慢の戦斧も同様のありさま■
「なんてこった。勇士なのに」
「ジンくん!! 何があったの! そんなダサい!」
そう。
戦斧の勇士であるジン、その人のボロ雑巾のような姿。
「油断した……なんて言わない」
か細い声でジンは言う。
なんか皆のリアクションが酷い気がするけど、気のせいだと思うことにしてる。
「しっかりしろっ。どうやったらそんな格好悪い姿にっ」
「カブト……ムシ……」
「なんだってっ。カブト虫にっ。ただのカブト虫にやられたっていうのかっ。勇士ジンっ」
「ただのじゃないから。光ってたからね」
言葉では説明できない有様のジンは、既に消滅寸前だった。
トラ太は顔を伏せ、静かに黙祷を開始する。
お前判断早すぎだろと思わなくもないジン。
「くそ――なんでオレはッ」
最後に無念が溢れる言葉を残し、ジンは消滅してしまう。
「ジンが負けるなんて」
「割とありそうよね。なんだか」
意外と冷静なクライス達であった。
●■▲
■小さな社があり、頑丈そうな岩が点在する敷地内■
■その中で色香を放つ、一輪の花■
「ふん♪ ふん♪ ふーん♪」
鼻歌を歌いながら、黒長髪:巫女服の少女は落ち葉を箒で纏めている。
舞うような動きは、彼女の美しさを彩る上質な幻想のようにも思えた。
周囲から自分がどう見られる存在なのか・それをきっちり認識したような振る舞いだ。
「今日も神社は~♪ 厳かに~♪」
集まった落ち葉をにっこりと眺めながら、少女は言葉を紡いだ。
「焼却ゥッ!!」
掌から発生した火力マックスファイヤーが、葉を全て焼き尽くす。
いきなりテンション爆上げに、さっきまでの雰囲気がぶち壊し。
「ああッ!? 焼き過ぎてしまいましたッ!!」
彼女はやってしまったと嘆き、足元に置いてある芋を見る。
美味しそうな色合いで、見ているだけで食欲がそそられる。
これを食べようとしていたようだ。
「なんたる失敗……せっかくサメ男さんに貰ったのにっ。……んん?」
両手で頭を抱える巫女さんは、神社を訪れる人の気配を察知した。
さっきまでの能天気な表情が切り替わり、鋭い目つきを一瞬垣間見せる。そこに在るのは二面性。光と闇のコントラスト。
いつの間にか、彼女の纏う雰囲気が一変している。
「あら、誰でしょうか~?」
周囲の木々が揺れる。
彼女の・血のように・禍々しい赤い瞳が、不気味に輝いた。