色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「次はどこに行く?」
「そうだな~。うーん」
「お腹減りました……。ぺこぺこ……TIME……!」
「だりー」
完全に無視する探索隊。
マヤの策略は砕け散った。
■彼らの足が、鳥居を抜けたところで■
「……」
クライスは遠くにその気配を感じたので、少し立ち止まった。
「? クライスくん?」
「足を止めてどうしたのよ?」
衝突音が響き・探索隊を襲った。
「!?」
「うわああああ!?」
空気を裂いて現れたのは、輝くカブトムシ。
それが、超速で突進を仕掛けてきたのだ。
下手をすれば、今ので何人か消滅してもおかしくなかったが。
「いたいな」
それの突進を防いだのは、クライスの右腕。
とっさに振った彼の虫取り網は、先端がはじけ飛び、地面に落ちた。
「カブトムシ! 見つけた!」
少し嬉しそうな声のトラ太は、虫取り網をしっかり握った。
他のメンバーも、緊張を走らせながら、黄金の襲撃者へと注意を向ける。
「このッ! いきなり来るんじゃないわよ!」
ジャスミンはカブトムシに向けて突進する。
当然のごとき猪突猛進。
後先考えぬ直情的な攻撃は、暴風と化して敵を襲う。
「くッ! 速い!?」
彼女が魔導を発動しようと思った時には、狙いからずれていた。
カブトムシは突進を避け、ジャスミンの攻撃が届かないほどに高く飛ぶ。
「また俺か」
カブトムシは旋回して、クライスの背後から突進を仕掛ける。
それを後ろ目で見ている彼は。
(好かれてんのかね)
冗談を思いながら、勇士スキルを持続発動。
(これは)
そして、敵の動きをしっかりと捉えて。
「無理だな」
捕まえるのは諦め、倒すつもりで右拳を放った。
「ありゃ」
空振るクライスの拳。
カブトムシの速度は、彼ですら(本気を出さないと)手こずるLEVELのようだ。
(強化が足りないか)
カウンターのように放たれた、顔面に対する突進を左手で受ける。
手にびりりっとした痺れが走り、ため息を一つ吐いた。
「速すぎて追いきれないっ。なんてッ。悔しい!!」
「うわあ! すごいや!」
「これが……! 一攫千金ムシの力……!!」
クライス以外のメンバーは、そもそもついていけてなかった。
(どうするかね)
クライスも、あまりの速度に攻めあぐねていたのだった。
全力を解放すれば対処できる、その確信はある。
(しかし)
■心のどこかで、無職の勇士としての力を解放するのを、恐れていた■
■それは、村を襲撃してきた乱れの影響もあるのだろう■
「ああもう! イライラするわね!」
ジャスミンは叫び、カブトムシになんとか拳を当てようとして、空回るばかりの結果。
クライスとは別の意味での強者である彼女だが、力を発揮できる状況ではなさそうだ。
(よし)
それを見たクライスは。
「ジャスミン隊員っ。作戦Bッ」
あらかじめ決めていた作戦を実行に移す。
作戦B、その言葉を聞いた彼女は。
「! 了解ッ!」
ジャスミンは構え、突進をしかける直前のスタイルになる。
(この作戦は、敵が速すぎる場合に使う)
実行のタイミングに向けて、スキルを維持するクライス。
彼は瞳を光らせた。
カブトムシは、凄まじい閃光と見紛う動きを見せている。
(カブトムシの動きは)
■空で旋回する閃光■
■それは、ふいに動きを変えた■
■それと同時に■
「何故か、あんたしか狙ってないのよね!!」
クライスへと突進するカブトムシの動き、それを彼女は待っていた。
単調な突進を繰り返すカブトムシに向けて、ジャスミンはがむしゃらに突進。
「よっし!」
彼女のタックルがタイミングばっちりで、カブトムシに衝撃を与えた。
「っ!?」
■だが、敵の動きは止まらず■
■そのままクライスへと、突進を仕掛ける■
「やばっ」
■油断していたクライスは、対応が遅れた■
■その間に弾丸は迫り――■
「――いただき♪」
■金色の弾丸は・容赦なく切り裂かれた■
■守護の剣士が持つ、領域の刃によって■
「……ロリン」
「はいはいはい! 呼ばれて飛び出てロリンちゃん!! 優雅に推参!! ですよ!」
「なんでここに」
「ええ? なんでと申されましても、偶然と言いますか愛の力と言いますかぁ。雇い主様の危機を感じまして!」
突如現れたのは、クライスが雇った守護者であるロリン。
彼女はいつものドレス姿で、右手に刀を持って笑っている。
斬り捨てられて地面に落ちたカブトムシは、すでに消滅していた。
「……まあ助かった。サンキュー」
「いえいえ! なにやら虫の動きが鈍くなっていたようですので、楽勝っすよ~! ふふ」
「……」
ジャスミンの攻撃によって、カブトムシの動きが鈍っていた。
クライスが見た限り、確かにそれは事実だろう。
しかし。
(しかし、それでも充分な脅威だった)
■カブトムシが弱体化していたか・ロリンが強いのか■
■果たして?■
「ふ・ふ、【偶然】ここに来ただけですが……ワタシの力、目に焼き付けることに成功!」
「ああ」
「守護者の仕事以外でも、【試合】があったら有料で助っ人します! まだまだ若輩者の身の上ですが!」
力強く、クライスに向けて言うロリンの瞳。
熱気のようなものも宿っているが、それはまやかしに過ぎず。
クライスの事情を見透かしたような、抜け目のない狩人のごとき鋭さが光っていた。
少なくとも、クライスにはそう見えた。
■去っていくロリン■
■その後ろ姿を見ながら、クライスは思案■
(思った以上に。【使ってしまった】)
●■▲
■騒動は収まり■
■チームの皆は、ひとまず安堵する■
■が■
「消えちゃった……カブトムシ……」
「残念だったわね、トラ太。でも、これでとりあえずの脅威は防げたわ」
カブトムシは消滅し、後に残ったのは何もない。
ひと夏の幻であったかのように、黄金のロマンは溶けてしまった。
「悪いな」
「……ううん」
しかしトラ太は晴れやかな笑顔で、気にしないでという。
その瞳にあるロマンの光は消えていない。
「あのワクワクは嘘じゃない。きっと、形がなくても素晴らしいものなんだよ」
少年の瞳は、輝かしい活力に満ちていた。
(カブトムシよりまぶしい)
やはりどうにも苦々しい輝きに、クライスは目を逸らす。
自分はとっくに失ったものだからだ。
別に嫌いではないが。
(ロマンっていうのも、良いものかもな)
「神社からの退場料金!! しっかり払ってくださいよ!!」
クライス達に、走って現れた巫女は言った。
(お前は少し黙れ)
●■▲
■舞台裏の一場面■
「――倒されたか。カブト。ククク」
暗闇の中で不気味に笑う、男性の声。
「まあ、そういってやるな。奴ではアレが限界だろうよ……」
「恥さらしめ」
次々と上がる声は、不穏な気配を纏っている。
だが、その性質は同一のもの。
同一人物説浮上。
「しかしこうなると、あの計画が少し遅れるか」
「ああ、スローラ村侵攻作戦ッ」
謎の刺客たちによる恐るべき計画が、水面下で動き出そうとしていた。
「……ふう、なんてね」
急にやる気をなくす、謎の声。
というか、クライス達が良く知る人物。
「彼らには悪いことをしましたね。反省」
村の大人、意味深ジャック。
彼は、探索隊の討伐報告を聞いたばかりだった。
その顔には、罪悪感の色が表れている。
「まあ、といいますか」
「元凶は僕なんですけど。てへ」
黒幕男は、ジャスミンがぶん殴りそうな言葉を発した。
さっきの罪悪感の色が、一瞬で薄まってしまう。
(事の始まりは、トラ太の話だった)
実は既に輝くカブトムシを知っていた・研究者ジャック。
いつだったかの研究で、途中で終わっていたプランがあったことを思い出す。
(少し研究意欲が湧き、自身の手で生み出そうかなーとか)
はた迷惑な彼は、実際にそんな存在を作れてしまったのだ。
モンスターを独自で生み出すという、偶然と才能による成果を出してしまった。
(いやー、それで逃げられてしまうとはね)
黄金のモンスターは、何故か厳重に管理していたのに逃走。閉じ込めていた檻を空けるカードキーも、どこかに紛失。
困ったジャック。
そうしていたら、探索隊が彼の元を訪れた。
(回転する頭!)
ジャックは思考を巡らし、彼らの力を借りる(という名の利用)を思いつく。
「マヤに渡す荷物、あれにはカブトムシを引き付ける香水(基本、無臭)を振ってあった」
それをクライスに渡すことで、準備はOK。
「神社に行くまでの間に匂いは彼に強く染みつき、カブトムシが襲い掛かるだろう」
襲撃カブトを撃退させることで、負の研究成果を葬る計画。
クライス達の力を信用していたが故の策ではあるが、正直ちゃんと事情を説明しとくべきかなとか、後悔している部分もある。
それはそれとして、完璧に作戦がハマった快感に震えた。
「完璧だ。まったく」
「そうね。最後に気を抜かなければ、完璧よ」
「……え?」
自分の背後に誰かが立っていることを、ジャックは感じた。
見なくても分かる凄まじい圧に、彼は汗がめっちゃ流れていく。
「ジャスミン。どこまで聞いてた?」
「全部。考えていることをブツブツ言う癖、助かったわ。直さなくていいわよ」
急激に、逃走したくなったジャック。
もうそれすら出来ないと悟り、柔らかい笑みを見せる。
「ふ、正義の前に悪は滅びるか——」
「そういうのいいから。歯を食いしばりなさい」
■集会所からの悲鳴を聞いた人は、複数人いたようだ■
●???●
「ふんふ~ん♪」
夜の神社にて、たき火の前に座り込む巫女の姿があった。
照らし出された彼女の姿は、神秘的な麗人のようにも、闇の中に浮かぶ怪物のようにも見える。
あるいは両方とも真実なのか。
「――轟々と・燃える火種」
■血のような瞳に映る炎が■
■彼女の心中を覆い隠す■
「ああ、上手くいきましたぁ、ネ」
つぶやく彼女の脳裏には、今日の出来事が流れている。
黄金のカブトムシの襲来に、それに対するクライスの動き。ジャックの頼みを引き受け、神社を訪れた彼ら。
そうして再び、カブトムシが襲来し。
「それを助けるヒロイン登場、と」
その全てが、彼女の思い描いた筋道通りで。
まるでそれは、誰かがそうなるように仕組んだ結果のようだ。
「ア・は」
■燃えさかる火の中で揺らめく、一枚のカード■
■それを眺めながら・悪辣の巫女は、口が裂けるような笑みを形作った■