色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
【目に見えないから】
「大きな塔のある町で」
「何かに追われるように・彼は言った」
「家族みんなで旅に出よう」
【みんな勘違いしてしまう・何も変わらぬ世界だと】
「船に乗って旅に出よう」
「船の上で楽しくわいわい」
【乱れはなくならない】
「作物大量・海の上で農作さ」
「旅の途中で・潜んだ虫を肥え太らせて」
【人と人が重なる限り決して】
「わあ嬉しいと喜んだら」
【すれ違う想いは、亀裂を広げるのみ】
「育てた虫に・喰い殺された――」
●■▲
「……」
■守護者相手の儀攻戦とは、他の儀式場を得るための戦い■
「さて、開始だ」
■挑戦の申請をすることで・行うことが可能■
■ナゴミノ地区・儀式場【氷結の鎖】■
「……」
彼女の吐く息は白く、周囲の環境は季節を違えて、その場で戦う戦士達を凍えさせる。
だが、灼熱の勇士の意気は少しも萎えてはいなかった。
(敵は……)
銀髪の少女・ミリアム。
灼熱の勇士である彼女は警戒心を強めながら、特殊な霧によって視界が悪い【魔導場】を歩
く。
(魔導によって造られた、特殊な場所)
その姿はいつも通りの戦闘衣装で、瞳には強い闘志。
凛として立つ姿は美しい。
(儀式場は何処)
辺りを見回し、儀式場らしき影がないかを確認。
この試合場の特殊効果として、索敵魔導の効果がイマイチ発揮できないというのがあった。
(近くに……守護者はいないか)
◆守護者相手の儀攻戦ルールその一:人数制限◆
挑戦者側の人数は、基本的に儀式場を守護する者と同数まで。
ただし、そうでないルールも存在する。
(気は抜かん。たとえ、大したことない儀式場だとしても)
氷の大地を一歩一歩踏み締めていく彼女は、不意打ちを警戒している。
この環境では味方も燃やしかねないので、下手に魔導を乱発もできない。
(この魔導場。新しい経験を積むにはちょうど良い)
周囲の状況を予測、想像する。
儀式場の周囲で待機している可能性を、まず思い浮かべた。
◆儀攻戦ルールその二:勝利条件◆
挑戦者側の勝利条件は、敵の守護者を殲滅する。もしくは。
(儀式場を奪い取る――終点到達によって)
まだ見ぬ儀式場へ向けて、ミリアムの侵攻は進む。
その歩みは堂々としたものだ。
「――ほほ、見つけましたわ!」
「ッ!」
突然の声は、空気を裂く刃と共に。
氷の大地を削る音が接近する。
とっさに体を反転させるミリアム。
「ちッ」
ミリアムは地面を蹴り、前方から放たれた奇襲を回避した。
「ようやく……」
その顔は、笑みを浮かべている。
「ご機嫌どうかしら? 好戦的で下品な野獣さん」
霧の中に浮かぶ人影、襲撃者である彼女の正体。
それをミリアムは知っている。
(守護者:マリア・シードル。今回の戦における、敵)
■今回の儀攻戦において、【侵攻者】から儀式場を守る者■
■敵チームの主力級■
「アナタの味方は、随分とやられたようですわよ? フフ」
どこか嫌味っぽい声が、霧を伝ってミリアムに届く。
彼女の戦闘神経が、とても鋭く研ぎ澄まされていく。
「期待のルーキーと言うからどれほどかと思ってみれば、これではアナタの程度も知れますわね」
「フン」
ミリアムは鋭く目を細めた。
「焼却◆踏破◆踏破ッ」
先手必勝。
迷いなき猛炎が、霧を勢いよく飲み込んだ。
「そういう言葉は、私と戦ってから言うべきだな」
得意の炎系魔導によって、周囲の温度が一気に上がる。
氷の大地を溶かし、道を塞ぐ強敵を燃やし尽くす圧倒的火力。
発生した水蒸気が、彼女の覇道を彩る演出と化していく。
「では改めて――大したことありませんわね」
声はそれでも消えず。
「烈風◆踏破◆踏破!!」
「グっあッ!?」
空に向かって吹き飛ばされる、160cmほどの肉体。
風を受けてなびく銀髪を、美しく回転させながらミリアムは着地する。
(ぎしぎしと)
肉や骨が軋む音が、ミリアムの鼓膜を打つ。
今の一撃は、それなりのダメージを与えている。
(なんという、魔導力ッ)
目を凝らしても、大地に敵の姿を視認できない。それはすなわち、ステータス確認不可を意味していた。
どちらにせよ、ステータス確認能力が低いミリアムには関係ないが。
(しかし、魔導の性能を左右する魔導力、それが高いことは分かる)
自身以上の魔導力を感じる敵。
強敵であることに間違いなく、少し侮っていたことを自覚した。
「他愛ない。もう終わりにしましょう!」
響く声は高らかに、己の勝利を確信している様だ。
ミリアムはその声に警戒心を上げた。
(何か来る――ッ)
強力な一撃を察するのはミリアム。
受ければ、消滅・敗北を免れないほどの。
戦闘者としての勘にねじ込まれる、強力無比な魔導の予兆。
(どっちで――)
「【承認】」
敵の言葉が紡がれる。
「!!」
それが意味するのはただ一つ。
(ある条件を満たした就職者だけが使える、【特殊な・強力な魔導】ッ)
■その使い手は、魔導師の中でも一目置かれるという■
■切り札であるが故に隠している者も多く、実際に使える人数を正確には計れない■
■しかし、そう多くないことは確かだ■
「■斬風烈破(シュナイド)■!!」
■その名を融合魔導――魔導の極致■
「ッッ!!」
■巻き起こされたすさまじい烈風は・標的を捕らえ■
「チェックメイト」
■捕らえた獲物を切り刻むように・収束を開始する■
「灼熱の勇士、大したこともないですわ」
決着は着いたと、融合魔導の使い手は気を緩める。
結果を見ることも無く、マリアはその場から立ち去ろうとする。
期待していた部分もあったが、思った以上に手ごたえがないと思う。
新進気鋭の選手として、上位に君臨するであろう灼熱の勇士。その炎は脅威だが、当たらなければ意味はない。
(最近、儀式場を荒らしまわっている実力者という話でしたけど)
【もう滅茶苦茶可愛い!! ボク好み!! 結婚したいなー!! お前とは大違い――どふっ】
「イライラ」
彼女の頭を埋める、同じ守護者の男性。
その人物は、ミリアムに対して好意を抱いていた。
「【最強の盾】だからって、偉そうにっ。ロビーッ」
最強の盾。
マリアが口にした名前は、守護の会の頂点に君臨する存在。
【並ぶ盾は全部で十九】
【あまりに頑丈・強大】
【どんな矛も防ぎうる、守護者達】
「もうっ」
彼が想っていたミリアムも、すでに魔導によって消滅した。
いつもより力が入ってしまったのは、気のせいではないのだろう。
イライラしながら、マリアは足を進め。
「?」
異変に気付いた。
(なに? この光)
足元の氷によって反射される、赤い光。
「まさかッ」
勘付いた彼女は、急いで振り返る。
その視界に広がるのは。
「――太陽」
自然に口から出た言葉は、見たままの光景を抽出したもの。
「なんて輝きッ」
上空で輝くそれは、燃え盛る滅びの輝き。
それを発生させている少女は、銀の髪をゆらめかせている。
まるで女神のような神々しさを、全身から放っていた。
(――使う羽目になるとは)
輝きの中心で、灼熱の勇士は苦々しい表情。
(なるべく見せたくはなかったが、仕方ない――憎き乱れを焼き尽くす・誓いの灼熱)
彼女が身にまとう炎は、特殊な性質を持った必殺の技。増悪の具現。
クライスたちとの戦いでは、使う間もなくやられてしまった切り札。
(灼熱の勇士の魔導具・【エストルノージュ】)
【彼女が右手に持つ剣は、赤く輝く刃を持ち】
【平均的な長さのそれは、異常な焼却を起こす】
「なんなんですのっ。この悪寒ッ」
その異様を目にしたマリアは、身震いを起こしながら身構える。
「なら、もう一発ッ。今度こそおしまいですわ!!」
非常に冷静な対処。
先程使った融合魔法を放つ為、狙いを定めた。
今度はさっきよりも出力を上げて、確実に仕留める。
「がッ」
突如走る衝撃。
攻撃されたことに気付いたのは、消滅間際。
胸を抉った感触がそれを伝えた。
「うそ……。でしょう……?」
マリアの体から消滅の証:煙が発生し、なにが起こったのか曖昧なまま敗北しようとしている。
融合魔導を使う暇などなかった。
(見えたのは一筋の閃光……こんな奥の手を持っていたなんて……!! ……天才ルーキーと、はッ)
マリアを貫いた回避困難の超速攻撃。
それが己に向かってくる光景を回想しながら、彼女は消滅した。
■儀式場の一つ、氷結の鎖■
■そこで行われた儀攻戦は、ミリアムの活躍によって彩られていく■
「ミリアムの活路を開けー!!」
「うおおお!!」
ゴールポイント前で攻防を繰り広げる、両チームの選手たち。
攻める側の選手たち……ミリアムチームの者たちは少なく、防御側の鉄壁を崩せそうにない。
せいぜい揺らがせるぐらいが関の山。
「それで充分。――感謝するわ、皆」
■ミリアムの灼熱が、敵陣の防御を崩壊させていく■
■選手を恐るべき早さで消滅させていく、炎魔導の威力■
■その最強の矛こそが、このチームの核であった■
「GOAL。ね」
いつもより柔らかい表情で、柱に到達したミリアムは言った。
そんな彼女の様子を見て、チームメイト達は不思議な感慨を抱いている。
以前までの彼女には感じなかった、何かを感じていた。
「ミリアム……変わったよな」
「ああ。丸くなった……っていうのか? 前はなんか、凄い近寄りがたい奴だったけど」
「……そうだな。俺たちにも、試合中に声かけしてくれるようになったし。前は無関心って感じだったのに」
■銀髪をなびかせながら、次のゴールへと走っていくミリアム■
■彼女の背を見て、いつの間にかエースとしてのオーラを感じる仲間たち■
■スタークが不在の今、精神の変化も相まって彼女は女神的象徴と、そう言っても過言ではない存在になっていた■
「……さあ、ウチのエースを出来るだけ支えないとな!」
「おおよ! 今度は、あの【両翼】のチームにも負けないぜ!!」
■チームの意識が団結したミリアムたちは、さらに強力になり■
■ついに、試合は決着した■
「――待っていろ。クライス」
●■▲
■氷結の鎖、周辺地域・ミノムシ草原:夜■
(結果はギリギリ。だが、勝利だ)
空間が歪み、そこから姿を現す銀髪の少女。纏う服はぼろぼろ。
見えない魔導場の出入り口から出て来た彼女は、疲れた様子で草原を歩き出した。
(宿に戻って、体力を回復したら)
その頭は、既に次の行動をしっかりと定め始める。
トレーニングプランの変更や、クライスとの予定などの情報が頭を巡る。
「フン」
近くの町へと歩む彼女。
「ごオオオッ!!」
「?」
けたたましい唸り声と共に、草原の向こうからやってくる影。
それは人間のものではない。
「モンスターか」
遠目に見えるは、四足の獣たち。
「やれやれ……」
このままでは戦闘に突入しそうなので、準備を整えるミリアム。
戦ったことがあるモンスターなので、経験としては不満があった。
「!」
彼女の方に迫っていた、百を超えるであろうモンスターの群れ。
だが、変化は一瞬で起きた。
「あの光は」
それが、横合いから発生した大きな光に飲まれて、跡形もなく消え失せた。
「一体……」
「――【怪物殺し】、あれはそう言われる技さ」
「!?」
いつの間にやら、彼女の隣に立っている緑髪の男が一人。
軽薄そうにも聞こえたその声に、ミリアムは鋭く反応する。
「誰だッ!」
彼女はとっさに距離を取り、戦闘態勢に入った。
男はその反応に驚きの表情。
「おっとおっと! 勘違いしないでくれ! 危害を加える気はないんだ!」
困った様子で頬をかく男の格好は、服に大量の光り物が取り付けられている。
目に痛いようにも見えるそれに、ミリアムは少し覚えがあった。
「ボクはただ、可愛いお嬢さんとお話をしたいだけでっ。本当なんだっ」
「何者だ。名を名乗れ」
にこにこ笑顔でミリアムと対する彼は、邪気のない声で言う。
本当に彼女に危害を加える気はなく、隠し切れない好意が表れている。
「ロビン・クルーニー。【守りの大剣】という儀式場で、守護者をやっているよ。気軽にロビーと呼んでくれ!」
「……守りの大剣だとっ。それにその名前はッ」
「そうそう。この儀式場とはまるで格が違う難易度のね」
「……挑発か?」
「ははは、事実だよ」
笑顔を崩さないロビーから感じる圧は凄まじく、ミリアムは一歩退いてしまう。
彼が、あの有名な【火炎の射手】であるのなら、もしかしたらクライスに匹敵するかもしれない選手だ。
「きっと、貴女程度なら簡単に倒せるさ。美しきレディ」
「……!」
歯ぎしりするミリアムだが、言い返すことが出来ない。
(本当にこの男が――あの【幻想騎士】なのかッ)
ミリアムのステータス確認能力は高くないが、それでも強大な存在であることは分かる。
幻想騎士という有名選手の名前が、この男の名と一致する。
彼女と同じ灼熱の使い手として、今は亡きかの覇道の勇士には及ばないものの、次ぐ程度の知名度を誇る選手……そうミリアムは認識している。
「そう警戒しないで。これから暇なら食事でもどうだい」
「断る」
「あ、あまりにもそっけないな。……もしかして、すでに誰か気になる人でもいるのかな」
軽々しいロビーの言葉に、失笑を返そうとした彼女は。
(……何をバカな。あの男は、そういうのじゃないわ)
ある男の顔が浮かんだが、違うだろうと斬り捨てる。
確かにクライスに会いたい欲求が、日に日に強くなっているが。
その顔を思い浮かべる度に、胸がちくりと痛むような痛まないようなだが。
カレンダーに書かれた、次の共同トレーニングのメモ書きを見ると、そわそわする自分がいると認めたくない彼女だが。
「……はぁ、まあいいや、本来の目的は親友の迎えだしね」
「……」
「良ければ儀式場に挑戦しなよ、ミリアムちゃん。もっと強くなって、とびっきり強い仲間と一緒にね」
最後まで邪気のない態度で、ロビーは去っていった。
去る姿すらただものでない雰囲気を残していった彼に、ミリアムは己の克己心を燃やす。
心をきしませるプレッシャーを感じながらも、強くならなければと、強迫観念じみた想いを強めていく。
■そんな心中で、ぼんやりと浮かぶ人影があった■
(まるで届かないか)
悔しさに打ちのめされるミリアムは、闘志を燃やしながら。
(――師匠なら、どうだ)
最も関心のある男性のことを想った・思った。