色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「きゃああああ!! ゼロ様!」
「最強の盾!! 最強の守護者!!」
「ゼロ!! ゼロ!!」
(やかましい)
心底嫌そうな顔で、目前の人ごみを眺めているクライス。
そのプレッシャーは間違いなく苦手だ。
ここに来たことを少し後悔している。
(守りの大剣とか言ってたな)
女性ファンたちが口にした単語は、最強の儀式場を示していた。
これから彼が挑むかもしれない場所であるから、嫌でも反応してしまう。
(あいつが? シックなナイトの仲間? どっちだ?)
「はははは!! よせよせ!!」
見るからにキザ男な金髪美形。
ゼロと呼称された人物は、やれやれ風な満面の笑みを浮かべている。
調子に乗りまくっている。
「ちょちょいとっ」
「きゃあ! なんて早い!」
「目にもとまらぬサイン力なのだわ!」
迷いない動きでサインを行っていく、手慣れた人気者。
「あらよっと!!」
「きゃああ!! 逆立ちッ!!」
「芸術的ッ!!」
強大な壁からは歓声が沸き、クライスは自然に耳を塞いだ。
そしてため息を一つ。
「ほほいっと!!」
「きゃああ!! そんなことまで!!」
「エレガント!!」
■壁が崩壊するまで約30分■
■その間、クライスはずっとしぶい顔だった■
「……」
クライス君は棒立ちで、その瞬間を見届けた。
ようやく少し静けさが戻ってきて、しかしまだ騒いでいる女性ファン多し。
「やっとか」
解散していく人の群れと、後に残った最強の盾。
そして、なんでこんなに無駄な待ち時間を使わないといけないのだと、イライラしているナマケモノ。
「ふう、今日もモテすぎて辛いな」
いい汗かいたぜとばかりに、金髪の彼は額をぬぐった。
「うん?」
ゼロとクライスの目が合う。
クライスはさっと目を逸らす。
「やれやれ。困った坊やだ」
まったく仕方ない奴だという視線を送って来やがるゼロ。
(いらっときた)
しぶい顔の怠け者。
そんなことも知らずに、ゼロは手招きする。
「おやおや、サイン色紙を忘れてしまうとは」
「すいません」
「困った子犬君だ。まあいいさ。一応、こっちで用意してある」
「……」
何故か、サインを貰う為にテーブル前に立つクライス。
周囲にはまだ女性ファンが何人かいて、ゼロにラブ視線を送っていた。
クライス少し緊張。
「ほほほいっと」
「へえ」
実に優雅なサイン筆記を、マジックペンで行う。
「ふふふ、見惚れたかな?」
「いや、別に」
「照れなくても良いのにな」
(照れてない……なんか以前のジンを思い出すな。こいつ)
ナルシスト全開で色紙を渡してくるゼロから、それを受け取る。
「どうも。それと」
「うん?」
「守りの大剣の守護者って、聞いたんですけど」
クライスは唐突に切り出した。
なんで聞いたのかは、自分でも良く分からない。
「……ほう」
鋭い視線がゼロから。
「もしかして、挑戦者か」
「……」
凄まじい威圧感が襲う中、クライスはしっかりと目を凝らした。
彼のステータス確認能力は高くないが、見える時は多少見える。
のだが。
(ステータスが見えない……ステータス確認力高い奴がうらやましいな)
能力値の部分が読み取れない現象に、彼は覚えがある。
(ミリアムと同様。……スキルか? 単に、俺の確認能力不足かもしれないが)
■ステータスは、特殊なスキルや魔導で隠蔽可能■
■それはクライスも例外ではなく■
「クライス――って言うのか。子犬君」
「ええ、まあ」
ゼロの目には、クライスのステータス画面が見えている。
どこまで見えているかは、状況によるが……。
(だが、本名は分からない)
何故なら、設定された名前がクライスになっているため。
■名前の設定は、就職者になる際に行われる■
■一度設定されたそれは、簡単には変えられない■
「クライス、クライスね」
「っ」
呟くゼロの声は、記憶を探る色を纏っている。
それによって、クライスの緊張感がUP。
「どこかで聞いたような……」
「!」
「うーん」
(どこ情報だ)
己の名前に覚えがあるという事実に、少なからずの動揺。
まさか、最強クラスの選手が知っているなどとは。
(どこまで知られている)
■勇士であることは知らないだろうが■
■能力の詳細を、ある程度知っているのではという不安■
(なんで戦う前提で考えている)
自身の思考に更に動揺。
いつの間にか、目前の守護者を脅威として考えている。
それはつまり、挑む気があるということだ。
(らしくない)
■そう思いながらも、クライスは警戒を強めている■
「やっぱり知らないな。はは」
「ほっ」
露骨に安堵のクライス君。
なんにしても、自身の能力などを知られるのは避けたいところだ。
(以前の大会、【ドキドキ! ワクワク! ハラハラ!! ライバル皆殺し!! バトルロイヤル!!】は、イヤシノ地区だけならそれなりに有名)
かつての大会で、彼はプチ有名人とギリギリ言えないかもしれない程度の存在にはなった。
ていうか、サポートマンのサポートがなければ、あのスタークを抜き去った選手として余計な注目をされていただろう。と、クライス談。
【顔隠すのめんどいな】
【自由に隠せるルールなら、大会の時に隠せたのですが……】
【だな】
■そんな話をサーシャとしたのを、思い出した■
(まあ、とにかく)
内心安心しているクライスは、さっさとこのナルシスト金髪から距離を取ろうとする。
これ以上関わると、面倒なことになりそうな気配しかない。
「まあ、儀式場に挑戦したいと言うのならいつでも受けよう」
「しないですよ」
「そうか? ……はは、見た通りの根性なしとは」
「がちん」
直球なゼロの嫌味にナマケモノは反応。
「おっと! すまないな! つい、本当のことを」
「がちがちがちがち」
「はははは!」
嫌味全開のその態度は、クライスの怒りをドンドンと上昇させていく。
表情が加速度的にしぶさを増していく。
(我慢。我慢。面倒事はごめんだ)
ぷるぷる震える彼の顔は、気持ち悪いほどに引きつっている。
ヒナが見ていたら気持ち悪いと、直球に言っていたかもしれない。
「それじゃあ」
「ああ。そのサイン、ありがたく受け取るんだな」
最後まで嫌味な態度を崩さずに、テーブル等の道具を片付けて、ゼロは颯爽と去っていった。
ちゃんと優雅さを感じるのが、またクライスをイライラさせた。
■去る時に■
「――お嬢様。お呼びですか」
「良く来た。片付け頼むよ」
「はっ」
ゼロが道具の片付けの為に呼んだ、黒服の執事集団。
てきぱきとした動きは、その練度が伺える。
「……」
彼らの動きを見ながら、クライスは確信した。
その発言を聞き逃さなかった。
(どっちかと思ったが。お嬢様って言ったな今)
■ゼロと呼ばれた人物は、どうやら女性のようだ■
■彼女は不敵に笑って、仁王立ちしている■
「フフフ。少し不満は残ったが、まあ良いさ」
妖しく笑うその唇はとても美しく、男女構わず魅了する。中性的な美形。
なるほど、女性ファンが多くても不思議はない。
そう思わせるほどの美女だった。
「さあ、馬になれ!」
「了解です! お嬢様ー!!」
「ひひん!!」
彼女の純白のスーツに身を包んだ姿は、どことなく女性的な雰囲気を感じさせ。
気品ある動きは、周囲の視線によって形成されたがのごとき優雅さを魅せている。
「では、もう会うこともないだろう――子犬君」
■彼女は馬(?)にまたがり■
■後ろで束ねた長い金の髪を靡かせ■
■最強の盾・その一角は通りの向こうへと消えた■
「かわいくても。性格がなー」
なんだかとても勿体ないような気分になりながら、クライスは本来の目的を思い出す。
■彼の目の前には、威圧感を放つ建造物■
「【聖なる塔】」
■その表面は淡い光を放ち、神々しさを増す■
■微塵も揺るがぬような強靭な気配■
■世界各地に存在する銀色の柱■
「でかいな」
強大な人的壁が消えた道を進み、少し錆が見える大きな格子門へ。
なんか無駄に疲れた気がする。
「よっと」
両手で押し開き、ぎいいと鳴る門を抜ける。
「へえ」
白と黄土の煉瓦で固められた地に、足を着けた彼。
柵の内側には更なる柵があり、その周囲には警備員や一般人らしき人たちが。
(写真を撮ってる女性に、きっちりした制服を着ているおっさん……多種多様な興味の形・すなわち世界の根幹である証明)
クライスもまた、聖なる塔へと近づいていく。
足取りがぎしぎしと鳴っている・そんな幻想音。
「……」
金色の柵の前まで来て、立ち止まる。
(ここまでが限界ライン)
これ以上は近付くこと出来ず、ただ眺めるしかない。
(……)
■クライスの目に映るそれは■
(不思議だ)
■なんとも言えない気持ちを抱かせた■
(そもそも。なんで来ようと思ったのか)
己の行動に疑問を感じた彼は。
「あー!」
「へ?」
背後から聞こえた少女の声に、振り向いた。
とても甘いような・とても不気味なような、そんな声色。
「おお」
そこに立っていたのは、紫の髪を生やした少女。
人懐っこいような笑みを浮かべて、彼女はぺこりとお辞儀をした。
「お久しぶりです。雇い主様!!」
「ロリンちゃん」
クライスが管理するワーク山の儀式場。
その場所を守護する守護者である、ドレスの妖精:ロリン・ネイドス。
いつものように笑顔で朗らかに接するその姿勢は、メイドのようでもあるかもしれない。
「ナゴミノ地区でお会いするとは、珍しいこともありますね! ふふふ」
「おー、少し幸運があって。いや不運か?」
「? よくわかりませんけど、嬉しいです! 感激です! こんな所で、敬愛する雇い主様に会えるなんて!」
「HAHAHA。そうかい、そうかい」
愛い奴、愛い奴と、ロリンの頭を撫でようと無意識に手を伸ばす。
なんだかんだで可愛いとはすごい思ってるので、誘惑に弱い。
「聖なる塔に興味があるんですか~?」
残像が見えそうな速度でそれをかわすロリン。
「……」
「あ、もしかして歴史探索に?」
あまりに素早い動きに、クライスは僅かにショックを受けなくもない。
それはそれとして、ちゃんと素直に回避してくれるロリンに感謝はする。
「飴ちゃん食うかい」
「え、はい! 大好きです!!」
「え、俺が?」
「アメが」
どうにも変質者の対応に手慣れている風のロリンちゃんは、礼儀正しく返事をする。
クライスはさっきからの無意識な言動に、自分でも恐怖していた。
■正気に戻ったクライスは、冷静に話をする■
「それで、歴史ってなんぞ」
「わたし、歴史について調べるのが好きなんです! 今はナゴミノ地区の歴史にハマっています!」
「ほー」
目を輝かせるロリン。
何故か、トラ太に見たロマンの輝きを感じる。
「この聖なる塔は、時を重ねた建造物。ロマンあふれる過去の神秘!」
「へー」
心底どうでも良さそうなクライス君。
当然彼は、歴史になんの興味もないのである。
そんなことより、家でいかにだらけるかを考えた方が得というものだ。
■ナマケモノの頭は、ぐうたら生活で埋まっている模様■
「むむ。その反応っ」
ロリンは顔をしかめる。
クライスの反応に、苦々しい顔をしながらすねた。
「興味ないんですね。分かってますっ。どうせっ」
「おっと」
「わたしの友達もっ。そんな感じですっ! 興味ないんです!」
涙声になりながらロリンは顔をそむける。
ダッと駆け出して、クライスから離れていく少女の姿。
「おーい、飴は?」
クライスの左手には、青い紙に包まれた飴玉。
■少女は反転し、それを俊敏な動きで手に取った■
「飴おいひぃれす」
■そして再び駆け出した■
(飴玉で機嫌直せそうだな)
■ロリンを懐柔するのに払った代償:飴玉三個■