色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
「――あなたの為ならば」
■少女の言葉は、万民の心を打ったという■
「私たちは心よりこの世界を愛しています」
その瞳に偽りなく、純粋な心は真髄に染み渡る。
「どうか悲しまないでください」
■そんな言葉を残して、旅立っていく乙女の姿■
「彼女たちが迷わず帰ってこれるように、ここに誓いの塔を建てよう」
■遠い遠い昔の物語■
■悪辣王に散らされた、命たちの物語■
●■▲
「――悪辣王が支配する【和音世界】に旅立った、【勇者】のお話……どうでしたか!」
「……」
機嫌を直したロリンから、昔話を(半強制的)に聞かされたクライス。
その顔は、あくびをする3秒前と言える類。
(どうでも良過ぎる)
あまり真面目には聞いていなかった模様。
面倒くさがりの彼が、耳を傾ける方がおかしな話かもしれない。
「勇者は悪辣王と相打ちになって、命を落としたといいます」
「へえ、二丁目の田中さんがなー」
「あー、話聞いてませんねッ!? このやろーッ」
「いやいや、続けてちょうだい」
■過去話聞くのも正直面倒くさい、それが無職の勇士■
■そんなの聞くぐらいなら、好きな女性キャラのASMRでも聞いて寝る■
「悪辣王は封印され、世界には平和が訪れたと言いますっ」
「ほー、ようやくお菓子戦争が終結したか」
「やっぱり聞いてませんねっ!? ひどいっ」
「そんな、まさか」
■青空を眺めながら、空返事は返された■
「もうっ、知りませんからねっ。ぷんぷん!」
「まあまあ、そんなにプンプンしないで」
「ぷんぷんぷん!」
勢いよく駆け出すロリンは、明らかにすねてしまっている。
なんだかサーシャを彷彿とさせるすね方だ。
(まいった、どうする)
■クライスは目を閉じ、ロリン対策を練る■
■疲労状態で頭回らず、断念した■
「今度は絶対に怒りましたっ! このーっ」
「非売品の特性飴いるか?」
「ほしいですっ! くださいっ!!」
地面を削る勢いで反転するロリン。
その反応の鋭さは、カブトムシを斬った時と遜色ない。
(ちょろい)
■二度目の懐柔に成功!■
「わー、しんひゃんなあじれす~」
「特別に無料で良いぞ」
ロリンは満面の笑顔。
クライスはそれを見て、普通に嬉しい気持ちになった。
彼女の笑顔は悪くない。いや、決して変な意味ではない。
「おいしかったぁ……どうやって入手したんです!?」
「まあ、大人の伝手ってやつ」
見栄を張る大人げない大人。
ただ偶然手に入れたとは、口が裂けても言わないかもしれない。
「大人?ってほどですか?」
「なぬ」
「……渡された資料では、十代後半でしたけど」
■少女の赤い瞳が、マサルの秘密を暴こうとする■
■背伸びする彼女の顔が、クライスの顔に接近した■
「な、なんだよ」
「いえ、すいません。若々しいですね! ――実際の年齢の割に」
■ぞっと■
■マサルの背筋に寒気が走った■
「ッ」
■顔を離そうとするも、少女の小さい両手によって阻まれる■
■そして、彼女の瞳がより大きく見えるようになった■
■どこにそんな力があるのか、両手に加えられた力は強く・狂気的な引力■
「……」
■赤い瞳が・精神を飲み込むような、そんな異色感を感じる■
■鼻をくすぐるような・脳を揺さぶるような妖しい香りは、彼女から発せられるものか■
■まるで唇同士が触れ合うような、それほどの近さで見つめ合い――■
「あ・ハ。顔がこわばってますよー。雇い主様」
「っ」
「……いい匂い。しますね」
■妖しげな笑みを浮かべながら■
■少女はそっと、顔をクライスから離した■
「ちょっと~。何その反応!? 傷つくなぁ~。まるで人を化け物か何かみたいに、警戒した目で見ちゃって!」
「あ、いや。これは」
「わたしほど無害で純真な! CUTEな存在もいないというのにッ!!」
はぐらかすようなロリンの言葉。
彼女の視線は、少女とは思えないほど鋭く、聡明な雰囲気を持っていた。
「しかし、観察して分かりましたが……顔だけは格好いいです! 雇い主様!」
「うん? うん?」
「それはそうと話を戻して。どうやって入手したんですアメ? 偶然?」
「信じられてないっ」
「だって、怪しいんだもん」
ロリンはまるでいたずらっ子のように、笑顔でクライスをおちょくる。
無邪気な感じのするその態度は、裏表がないように見えた。
彼女に対する彼の天秤が・不安定に揺れ動く。
「――サイン会ですか!? よく突発的に開くんですよ! ゼロさん!」
「ああ。やってたな」
「あはは。目に浮かぶなぁ。ゼロさんのナルシストな笑み。まあ、あの人嫌いじゃないですけど!」
「へえ」
ロリンは、自身の組織における上位の存在に対しても、まるで気後れなく語っている。
彼女はそういう人柄なのだと、なんとなくだが掴むことが出来た。
そしてゼロ。
(あいつサイン会好きなのかー。見た目通りだな)
■そこで、ジャスミンとの会話を回想する■
【あんたも開いてみたら?】
【え、いやだ】
(緊張で上手くサインできない。だろうと推測できる)
サイン会に来るファンたちの期待の視線・ああ止めてくれ失望しないでくれ・そんなワイルドな人間じゃないんだよ・噛んでも失望しないで、流暢に喋れないんだよ俺は・ああもうお腹痛いぞこん畜生。
色紙を舞う字は、不器用なダンスを踊っている。
「ああサインと言えば……雇い主様に貰う約束してましたねぇ~」
「……そうだっけ?」
「そうですよぉー。忘れようたって、そうは行きません! きっちり返済してもらいますから!」
「ええー」
強めの圧を飛ばしてくるロリンに、クライスは嫌そうな顔を見せる。
前までなら喜んで書いていたが、今の彼女に対する印象は変わっていた。
だが、ロリンのその笑顔を見て。
(八重歯)
可愛いという素直な感想が浮かぶ。
(まさか、この娘も獣系ヒロイン?)
サーシャが言っていたことを思い出す。
【尻尾などは魔導で隠すことが出来るんです】
(モフモフ)
クライスの手つきがくねくねうねうね。
その挙動は明らかに変態的だ。
(もっふモフモフ)
そして忍び寄る。
「えッ!?」
己に忍び寄る脅威に気付いた少女は、後退。
彼女にしては珍しく、ガチで動揺しているように見えなくもない。
「な、なんですかっ」
「モフモフッ。モフッ」
「あわわわ」
どう見ても正気を失っている風のクライスは、恐怖の対象でしかない。
ロリンは一歩ずつ後退していくが、その度に彼は距離を無くしてくる。
「だ、だめです!」
■対峙する少女と変質者■
■顔を赤らめたロリンは、拒否の姿勢■
「モフモフは愛する男性との行為!! 許しませんッ!!」
「健気な抵抗でゲスなァッ」
キャラ崩壊しながらにじり寄るクライスの脳内で、激しい戦いが繰り広げられていた。
思考A「いかんでしょう。常識的に思考して」
思考B「そうかね?」
思考C「本当にそうか?」
思考D「固定概念に囚われているだけでは?」
思考E「真理とはその先にあるのでは?」
■戦いにすらなっていない■
(そうこれは、ニューゲートを開く鍵――)
言い訳だけは達者な男。
周囲の人たちが変な人を見る目を向けても、今の彼には眼中にない。
(踏み出せっ)
普通は踏み出してはいけない。
子犬のように震えるロリンに狙い定め、ありはしないモフモフに手を伸ばす。
「もふもふッ」
「きゃああああああっ!?」
■クライスは、既に正気を失っている■
「――正気に戻れッ!!」
「!?」
■響く声は、正義の鉄槌■
■ヒーローは遅れてやってくる■
「もっふうううううッ」
凄まじい勢いで飛んできた魔導弾丸に、吹き飛ばされるクライス氏。
もう周囲の人たちは、完全に無視することに決めている。
「あ、あなたはっ」
「もう大丈夫よ! 安心して! ロリンちゃん!!」
■ロリンを庇うように立つのは■
■猪突猛進トラブル製造機・ジャスミン■
「仲間の恥は、あたしがケリをつける!!」
彼女は桃色の長髪を煌めかせ、倒れた変質者を睨む。
薄桃色のコートと白いロングスカートを身にまとい、クライス絶対許さない系ヒロインが町の治安を守るのだ。
「もっふぅうううッ」
「なんて気迫……! 本当に最低ねっ。なんかいつにも増してヤバいしッ」
「あわわわ。やはり美少女って罪なんですね~」
火花を散らす野獣と美女。
守られている当人は、やはりなんだかふざけている。
「おい、なんだアレっ」
「関わるな。あっち行こうぜ」
周囲の奇異の視線もなんのその。
3人のコントは続く。
「ちょ、ちょっと」
あまりの熱気に割って入れない警備員。
せっかく明日は休日で、ようやく連勤が明けるところだというに、こいつらふざけんなと思ってしまう。
「もふもふ」
「来なさいッ!! 今日こそ引導渡してやるわ!!」
「わわわわ。わたしを巡ってこんな争いがっ。困りますよぉ~。えへ♪」
■今、決戦の火蓋が切って落とされた■
「ジャスミンー、何遊んでるの?」
■瞬間に、新たなモフモフ登場■
「――」
■背後の彼女に、目標変更するクライス■
「モフ」
「え、ひゃああああああッ!?」
■一人の少女の犠牲によって、事態は収まった■
「ふああああっ」
「もふもふもふ」
■サーシャモフモフTIME■
■十分ほど続き■
「――俺はなにを」
■光を取り戻したナマケモノ■
「反省してます」
「本当ですか?」
「本当です」
クライスは、石抱き状態で反省を促されていた。
さすがに今回のはやりすぎた、そう思ってはいるのだが。
(どっから持ってきた、この拷問器具)
足に食い込む十露盤板が、クライスの猛省と疑問を誘う。
普通に辛くて涙目である。
「どうしましょうかー? 裁判長」
「フン、怪しいものね! 口だけならなんとでも言えるわ!!」
「では、追加してやりましょうか! いえーい!」
「そうね。三倍で」
(ぎゃあああああああ)
■叫びを上げるナマケモノ■
■彼はどう見ても楽しんでいるロリンに、悪魔のオーラを感じた■
「なんだよ、あれっ」
「しっ、見ちゃいけないぜ!」
奇異の視線は強まっていく。
クライスは己の暴走を後悔した。
「……もう知らん」
警備員は諦めた。